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48歳で離婚し、一人暮らしで「ほぼ酒しか口にしない生活」に転落した元専業主婦を待ち受けていた結末

プシュ。小気味いい音を鳴らして、冷えた液体を喉に流し込む。安くて手軽。気づくと、もう数本空けている。わかっちゃいるけどやめられない。

じきに、酒量が増えたことに気づく。酔い方もひどい。そういえば最近、お酒のことばかり考えているような……。こうなってしまったら危ない。自分の意思では止められないアルコール依存症。その底なし沼から生還を果たすには、何が必要なのか。

根岸康雄さんの新刊『だから、お酒をやめました。』には、お酒を飲むすべての人が知っておくべき「アルコール依存症のリアル」が描かれています。その実態とは?

前編記事『理想的な家庭の「専業主婦」がお酒を飲まないと家事ができない「キッチンドランカー」になってしまったワケ』より続く。

48歳での離婚

飲酒が習慣になって7年ほど経ち、アルコールがないと、にっちもさっちもいかない状態になっている。このままではいけない、何とかしなければと涼子は考えはじめた。

離婚という文字が脳裏で現実味を帯びるのは40代後半である。家庭内離婚という言葉もよく聞く。冷え切った夫婦は珍しくない。3食昼寝付きだし、このままの暮らしを維持すれば金銭的には困らない。あとは自分の好きなことをやればいいじゃないか。離婚は娘たちの将来に悪影響を及ぼす。あえて事を荒立てることはないという考え方もある。夫の姉にも「涼子さん、子どものことを考えてあげて」と言われたが、長女は21歳、次女は19歳、ともに大学生になった。もう食事の用意をする必要もなくなった。

ある日、涼子は娘たちに家を出ることを告げる。「ママ、本当に離婚するの?家を出て行くの?」と言う娘に、「あなたたちも、自分の人生を歩いていきなさい」。酔っぱらっていたが、はっきりした口調でそう答えた覚えがある。

Photo by gettyimages

「ママは大丈夫なの?」不安そうに問いかける娘に、「私は……、何でもやれる人間だから」。この時期、涼子は自分自身に数えきれないほど、そう言い聞かせている。「私の娘なんだから、あなたたちは自分の人生をきちんと生きていける」。涼子は娘にそう告げながら、自分自身も鼓舞していた。

これからの人生を私らしく生きよう。

「裕福な家に生まれたキミは、好き勝手に遊んでいるけど、金のない家に育った僕は一生懸命、働いてきた」。会話がない夫婦だったが、夫のその言葉は覚えている。

 

結局、私と結婚したのは、私の実家のお金が目当てだったのかしら。財産分与されたお金はもうタクシー代に全部消えたわ。

夫は妻をわかろうとはしない。妻も夫をわかろうとする努力が失せている。離婚するにしても、アルコール依存症だとか不仲な家庭だとか噂を立てられたくなかった。町内会の会長を引き受け、1年間その役割を果たすと、涼子は家を出る準備をはじめる。

住み慣れた東京郊外の私鉄沿線のマイホームをあとにしたのは、48歳の夏であった。家を出る当日、「送るよ」と喜朗もこれが最後と思ったのか、珍しく涼子に声をかけ、二人は最寄り駅まで歩いた。

「元気でやりなよ」「酒は控えろよ」なんてことも夫は一切口に出さず、黙々と歩き、駅の改札口で別れた。

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