損をするのは年金だけではない。道路やダムといった社会資本や、医療・介護などの公共サービス全般から得られる「受益」と、そのサービスを供給するのに必要な税金・保険料などの「負担」を世代別に比較する「世代会計」という分析法を用いれば、世代間における格差がくっきり浮かび上がる。一橋大学の小黒一正准教授が指摘する。
「各種のデータをもとに推計したところ、60歳以上の世代は生涯を通じて3962万円、50代では989万円の『受益超過』となるのに対し、40代では172万円、30代では833万円、20代では1107万円、20歳未満からこれから生まれる子を含めた世代では8309万円も『支払い超過』、つまり損をするのです。この数字は'08年時点のものですが、今後、財政赤字が増えれば負担はさらに重くなります」
わけても悲惨なのは、'76年前後に生まれた、現在35歳以下の世代だろう。日本がバブル経済に沸いた頃、彼らはまだ10代で、その恩恵に与ることはできなかった。大学卒業時は就職氷河期の真っ只中で、希望する企業にも入れなかった。厳しい競争を勝ち抜き、ようやく職に就いたとしても、未来はバラ色とはいえない。明治大学の加藤久和教授が嘆息する。
「私の試算では、会社に入った時点での給料を100とすると、1935年生まれの人なら35歳までに300を超え、退職する頃には600、つまり入社時の6倍まで給料は上がった。しかし'75年生まれの人は、35歳でも200程度、つまり倍にしか上がっていない。それより下の世代は、もっと厳しい状況になるでしょう。彼らは、これから給料が上がるという期待を持てないまま働かなければならないのです」
給料が上がらなければ、結婚にも踏み切れない。国勢調査によれば、30~34歳での未婚率は1985年時点で男性28・2%、女性で10・4%だったのに対し、2010年では男性47・3%、女性は34・5%までハネ上がっている。
さらに若い世代になると、「結婚どころか恋愛さえままならない」と言うのは1975年生まれの飯田泰之駒沢大学准教授だ。
「今の学生は学費の足しにするため、学業の合間を縫って隙間なくアルバイトをしています。そんな生活が忙しすぎるせいか、25歳時点で女性の3割、男性の2割近くが処女・童貞であるという推計もあります」
借金を返すだけの人生
賃金も上がらず、恋愛をする暇もない。そして少子化はますます進むことになる。
それなのに、現在約3000万人いる高齢者を支えるための重い負担がのしかかる。今の若者はかわいそうすぎるのだ。
少子化が進む中、いざ生まれてきても、子供たちの負担は今よりさらに重くなる。秋田大学の島澤諭准教授がこんな一例を示す。
「私の試算した世代会計では、'06年以降に生まれた子供たちは、約1億2000万円もの『負担超過』になる。つまり、彼らは生まれた時点で〝借金地獄〟に陥っているのです。