「不自由なことはあるかもしれないけど、
その経験は幸福ともいえる」

その他、編集者からよく言われているような仕事の注意点、今後の運勢の波など彼女が読み取った基本的な私のデータを説明した後、「質問があればどうぞ」と聞かれる。家と父の状況を話し、姉妹はいるものの私が一人で見ていること、仕事は生活のために必須だが、前のようにはできない現状を説明し、展望を求めた。すると先生は私の両方の脈をとり、関係する家族の顔を思い浮かべるように言う。一生懸命平常心で思い浮かべてみる。

かなり長い間そうしていた後、先生が慈愛のまなざしで言った。「今のあなたのやり方はとてもいいです。あなたには福があり、今それを増やしている。不自由なことはあるかもしれないけど、その経験は幸福だともいえる」と。

実は自分でもそういう見地になっていた。そもそも父親とは昔から気があわず、当初はピック病の症状からも腹立たしいことも多かった。しかも一人で背負い込むことになった怒りも強かった。が、「おでこ事件」のあと、割り切ってプロと話し、介護保険で工夫するうちに日々が回り、父親の状況も落ち着いてきた。

結局、私の場合は嫌がる父親を施設に入所させるより、このほうが気楽だと気が付いた。万が一介護を放棄し、自由な時間があってもまったく楽しくないし、あとで嫌な気持ちになるだろう。ある程度正面から向きあう今の状況は自分のためであり、将来後悔せずに済むのは、幸いなことだ。そんな心境になっていたのである。

もちろん、それはあくまでもうちのケースの成り行きで、介護にはそれぞれの事情や状況にあわせた方法があるし、介護する側が身体を壊すようなやり方は避けたほうがいい。それに先生の言葉は、家族の忠孝の強い論理の国の方の意見といったらそれまでだ。ただ、あれだけ私の状況を正確に読み取った先生が、介護に必死だった1年と、こうしてリフレッシュの旅に来た「今の私」を肯定してくれた。それがとてもうれしかった。

 

「今の方法でいい」と思えただけでやすらぐ

その他、家族の話を聞き、仕事と家のことで頭がいっぱいの私は、満足していた。しかし先生はさらにある図を描いた。それが冒頭の話なのだが、相談する気もなく、本当に思い浮かべてもいなかったのに、ある人との関係性を、私にだけわかる図で先生は描いた。なんでそれがわかるのか。脈からどう読み取ったのかは謎だが確かに彼女は「知って」いた。そして思ってもみなかった未來の因縁を語る。混乱したが、その未来への宿題がどうなるのか。興味深い。

40分ぐらいたっただろうか、先生は言った。「最後に仕事のアドバイスがあります。認知症の父親のことと社会問題をあわせて書くべきです」。実はすでに書いているし今後も書くつもりでいる。どういうことだろう。

最後のアドバイスの、先生のメモ。 台湾では、認知症の高齢者のことを失智老人ということを知る。 七葉先生は仏教や医学を20年ほど学び、時々チベットの洞窟で瞑想など修行をしていたとか。台湾だけでなく、蘇州や日本でも鑑定を行っているそう。私が見てもらった時は、30分通訳なしで2500元(約1万円弱)、日本語の通訳をつける場合は3000元(約1万2000円弱)だった 写真提供/田中亜紀子

「本当にすごいですね」と友人からいってもらうと、「私がすごいのではありません。脈にすべて現れるので、私はそれを読むだけです」。そして、宿命は3割ほどで、あとの7割の運命はいろんな要素でかわると説明された。別れ際に「あなたには福がついています」ともう一度いってくれ、言葉一つであっても、とても心強くなった。

おいしいものもたくさん食べてリフレッシュできただけではなく、介護に向きあい試行錯誤している自分を肯定してもらえるような言葉ももらえた台湾旅行。この原稿を書くため、先生のメモを見返していたら、何年も先の成婚運まで書いてあった……(もうそれは結構ですが)。

現在の私は夫も子供もいないし、仕事は不安定。しかも認知症の父親との、身動きがとりにくい日々の中にいる。未来に何がおこるかはわからない。でも、今踏み出している一歩は、正しいと肯定してもらった方角に確かに向いている。これほど心が安らぐことがあるだろうか。

*本文中の値段は2019年8月初旬の情報です。

忙しい時に旅に出ることで罪悪感を覚える人もいるかもしれない。しかし誰かに頼らずに一人だけで背負うことは自分を追い詰めることにもなる。誰かの助けを借りられるまでになったタイミングでの旅や、セラピーのような占いが、田中さんをリフレッシュさせた。人によっては場所も内容も違うだろうが、そういうことがなによりも大切なのだ Photo by iStock