日本の製造業が「復活」するためには、「円安」はどこまで進めばいいか? 驚きの試算結果
円安が進み、輸入物価が上昇していることから、「悪い円安」論が台頭している。工場の海外移転が進んだ日本では円安のメリットが発揮されにくく、デメリットの方が目立ちやすい。だが、為替が安くなれば、日本の賃金も相対的に安くなるので、工場を国内に戻すという選択肢が出てくる。日本の製造業が復活する為替水準はどの程度なのだろうか。
「悪い円安」の本当の意味
為替の上下にはメリットとデメリットがあるので、本来、「悪い円安」という概念は存在しない。ごく簡単に言ってしまうと、為替が安くなると輸出企業の収益が拡大する一方、輸入企業の収益は悪化する。輸入企業がコストの増加分を価格に転嫁すれば、今度は消費者が負担を負う。
昭和の時代には輸出が活発だったので、為替が安くなれば製造業の収益が拡大し、賃金も上昇した。円安で輸入品の価格が上がるのは今と同じだが、賃上げの効果の方が大きかったので、円安をデメリットに感じる人は少なかった。
ところが1990年代以降、日本の製造業は高付加価値製品へのシフトに失敗し、新興国とコスト競争せざるを得なくなった。その結果、人件費が高い日本での生産を諦め、多くの企業が東南アジアや中国など人件費の安い地域に生産拠点を移した。一連の海外移転によって日本からの輸出が減り、円安のメリットが発揮されにくくなったことは、前回の記事で指摘した通りだ。
一方で円安が進めば、輸入品の価格が上がるので消費者の支出は増える。賃金が上がらず、物価が高騰するので消費者にとってはデメリットを感じやすい。鈴木俊一財務大臣が現状について「悪い円安」と表現したのはこうした理由からである。今回の円安は日米の金融政策の違いに起因しており、日銀は今のところ量的緩和策を継続する方針を示している。日本の金融政策が変わらない限り円は売られやすいので、当分の間、円安傾向が続くと考えた方がよいだろう。