腐女子ならぬ「腐男子」が急増中。アメリカで盛り上がるBL事情とは?

マンガと並び、日本発祥の文化といえば「ボーイズラブ(BL)」だろう。
国内では腐女子を中心に熱狂的なファンを獲得しているBL市場だが、その人気は国内にとどまらず、今や世界中でファンを獲得している。
とりわけ北米では毎年さまざまな都市でBLイベントが開かれるほど。
日本でのBLユーザーはほとんど腐女子だが、北米では男女比は1:1で、意外にも「腐男子」が多いのが特徴だという。
そんなアメリカのBL事情について、北米のBL専門の出版社「やおいレボリューション」の代表・シャロンさんに、記者のジニーKが話を聞いた。
Text : ジニーK
なぜアメリカでは「やおい」と呼ばれるのか。
写真左がBL専門出版社『やおいレボリューション』のシャロンさん。
──「やおいレボリューション」もそうですが、アメリカでは、男同士のラブロマンを「やおい」と呼んでいます。その理由を教えてください。
シャロン:「ボーイズラブ」がアメリカ人に理解されないように、いまの日本人には「やおい」という言葉はあまり馴染みがないようですね。書店で日本の友人に、「やおいコーナーはどこ?」と聞いたら変な顔をされました(笑)。
私みたいなアラフィフのアメリカ人がBL好きと知って、驚いてもいましたけれど。
アメリカで「BL」が定着しなかった理由は、まず、「ボーイズラブ」という言葉が、和製英語であること。
※ 戦前に訳されたドイツ語の「クナーベン・リーベ」“少年愛”からきている
さらに、英語では「ボーイズ」とは子供を指しますから、小児性愛を連想させます。アメリカでは未成年の性描写を法律で厳しく規制していて、「作中に登場する人物はすべて18歳以上です」という注意書きをつける必要があるほどです。
日本では、「やおい」という言葉は1970年代に作られたと聞きました。
※ 1979年、漫画家の坂田靖子、故・花郁悠紀子、波津彬子らが制作した同人誌『らっぽり やおい特集号』が始まり
「ヤマなし、オチなし、イミなし」の頭文字をとって、「やおい」とした、と。これがいつしか男同士のロマンスを意味する言葉として定着したそうですね。
英語では、PWP <Plot, What Plot?>といいますが、奇しくも、二次創作の分類タグとして浸透している言葉です。ようは、「深イイ話なんかは期待しないで!」って意味ですね(笑)。
アメリカにも昔から、テレビや漫画、映画の男性キャラクター同士をカップルにして妄想する、「スラッシュ」と呼ばれる二次創作の文化はありました。一方「やおい」は、オリジナル作品を指すことが多い気がしますね。
熱心なコレクターからBL出版社創設へ──
──2012年から、BL漫画を中心に出版されていますね。始めたきっかけは?
シャロン:BLにハマる前から、アート、食べ物、宗教──日本のすべてに魅了されていました。何かを好きになったらとことん追求するタイプなんです(笑)。
何から何まで吸収したくて、何度も日本へ旅行に行き……日本語を上達するためには漫画を読むのが一番手っ取り早いかな、と。
その頃すでに、自分でも『Xファイル』や『ロード・オブ・ザ・リング』の二次創作を書くぐらいスラッシュが好きで……って年がバレますね(笑)。
日本にも男同士の漫画があることは知っていたんですが、女性的なキャラクターが多いという印象でした。
ところが、いざネットで調べると、男らしくて大人のキャラクターを描くBL漫画家さんもたくさんいると知り、そこからどんどんハマっていきました。
南カリフォルニアで買えるBL漫画を根こそぎ買い占め、日本語でBL小説まで読んでいた時期もあったほどです。アマゾン・ジャパンでリブレのBL誌『BE・BOY GOLD』を買ったりも。すごく高額でしたけど。
日本に行くたびに、普通の書店では手に入らないBL漫画の古本をスーツケースいっぱいになるまで買い漁り、アメリカの空港の税関で怪しまれて、一時間以上拘束されたことも(笑)。
男同士が絡んでいるシーンを、男性職員がしげしげと眺めてましたっけ。
長い間、コレクターというだけで満足していたんですが、ある出来事が契機になりました。
2012年、東京都が都議会に提出した「青少年育成条例」の改定案に、漫画、アニメの「非実在青少年」も対象になるという規定が盛り込まれた出来事です。
そのために、私が好きだった漫画も絵が消されるものがでてきたのです。アメリカでは、読者が成人なら、お尻の穴も男性器も見ることができます!これからは、日本の漫画ではエロティックな描写が制限されていくのか……と非常に残念な思いでした。
それならいっそ自分で作ってみようか、と――若い頃に雑誌の編集や記者をやっていたので、本の出版までの流れはわかっていましたし、作家としての経験も積んでいましたから、アイデアも豊富でした。
さっそく「デヴィアントアート」(日本のピクシブのようなサイト)で、BLやスラッシュ作品を描いている人たちを見つけ、出版してみないかと話を持ちかけました。
日本のような恵まれた出版環境にはありませんから、作家たちにはめずらしがられ、大いに食いついてもらえました。最初は眠るまもないほど忙しかったですね。
左から、こだか和麻、新田祐克、理想の攻めを描く亜樹良のりかずのイラスト。
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