「ゲーム業界で働くなら中二病は大事」採用担当が語るゲーム業界採用事情
東京工芸大学で行われたオープンキャンパスイベントの一環として、ゲームメーカー3社による合同就職セミナーが行われました。参加したメーカーは「.hack」シリーズや「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「Solatorobo それからCODAへ」などを開発するサイバーコネクトツー、「魔界戦記ディスガイア」シリーズなどを開発・販売する日本一ソフトウェア、そして「アーマード・コア」や「DARK SOULS」などを開発・販売するフロム・ソフトウェアの3社です。
ゲーム業界に入るためにはどうしたらいいのか、採用が求める人材とはどんな人物なのか、課題作品はどんなものを出せば良いのか、ゲーム業界への就職について、気になるポイントをじっくり聞いてきました。
セミナー会場では東京工芸大学の学生たちが運営を行っていました。
セミナー開始15分前。ここからさらに人が増え、臨時で座席を追加しつつ、あまりの熱気に扇風機が追加で導入されることになりました。
登壇者は以下の3名。
株式会社サイバーコネクトツー ゼネラルマネージャー 渡辺雅央さん
株式会社日本一ソフトウェア 管理部総務課 本間翼さん
株式会社フロム・ソフトウェア 管理部人事課 立野怜子さん
◆ゲーム業界に入るためには
フロム・ソフトウェア 立野怜子さん(以下、立野):
ゲーム業界に入るための極意というものがあればいいんですが、残念ながら王道というものは無いので、私の体験談を話したいと思います。私は2001年に大学を卒業し、新卒でフロムソフトウェアに入社しました。開発ではなく、最初から人事など間接部門の人材としての採用でした。もともと大学では心理学を勉強していたのですが、心理学を学ぶことになったきっかけも、実はゲームでした。
大学に入る前からずっとゲームは好きだったのですが、ニュースやワイドショーでは凶悪犯罪が起こると「ゲームソフトの影響だ」と言われることが多くて、「本当にゲームってそんなに悪いものなの?」という疑問がずっとありました。そうした想いがあって、自分で自由に研究ができるようになってから、教授に「どんな研究がしたい?」と聞かれた時、「テレビゲームが与える心理的な影響の良い側面を研究したい」と答えたら、あっさりOKが出て、このテーマで研究をすることになりました。
研究と言ってもそこまで大がかりなものではなかったのですが、この研究を進めるうちに、ゲームというのは遊びとしてだけじゃなく、メディアとしてもすごく面白いものだと思うようになりました。それがきっかけになって、就職先を考えるようになった時、ゲーム業界を考えるようになりました。
でも、実際にゲームを作る仕事というのは、自分には向いていないんじゃないかという気持ちもあって、開発を支えるという仕事でゲームに関われないかと考えながら、就職先を探していたところ、自分でも好きなゲームの開発会社だったフロム・ソフトウェアが間接部門の人材を募集しているのを知りました。それから、社長のインタビューを読んだりして会社について調べていくうちに、社風にもすごく共感できることが分かり、応募して、採用となりました。
私の場合は、高校生の時からゲーム業界というものに興味があって入ったのですが、日本一ソフトウェアの本間さんはちょっと変わったケースでゲーム業界に入ったそうですね?
日本一ソフトウェア 本間翼さん(以下、本間):
はい。実はこの会社に入る前までは公務員で、税務関係のお仕事をしていました。
立野:
メチャクチャ堅いお仕事ですね……。
本間:
そこからゲーム業界という、180度の転身とも言える転職をしたのですが、入社の経緯は本当に偶然と言えるようなものでした。公務員の仕事をしていた時から、「人を育てるような仕事をしたい」という想いがあって、人事とか採用とかの職種への転職を考えていたときに、ちょうど転職サイトに日本一ソフトウェアの求人が載っていました。応募して面接を受けたら、運良く「すぐにでも来てくれ」ということになりました。後で聞いたところによると、その求人は1週間くらいしか掲載されていなかったそうで、まさにその瞬間、その求人を見ていなかったらここにはいなかっただろうと思います。
本間:
ここにいる皆さんも、将来就職を考えることになるかと思いますが、そうした時、実はタイミングというのはけっこう重要なんだ、ということを知っておいて欲しいですね。自分はこういう仕事がやりたい、と思っていても、その時ちょうどその仕事に空きがあるかどうかは分かりません。逆に、自分が希望する仕事とぴったり一致していなくても、何かの縁で入った場所で、思った以上に活躍できるということもあります。そういう意味では、現在高校生の皆さんは、自分の可能性をいろいろ試す広い視野を持って欲しいな、と思います。
サイバーコネクトツーの渡辺さんは技術職として入社されたそうですね。
サイバーコネクトツー 渡辺雅央さん(以下、渡辺):
私は現在、ゼネラルマネージャーという仕事をしています。具体的には、会社内の全プロジェクトの確認をしたり、判断をしたり、会社の人材の方向性を検討したり、会社の開発力を支えることを目的とする仕事です。
もともと学生時代は情報処理科でプログラムの勉強をしていました。ずっとゲームが好きで、その頃から友人と一緒にゲームを作ったりしていましたね。私は福岡出身なんですが、就職活動をしている時に、たまたま福岡のゲーム会社が求人を出してたので、そこに応募したところ、プログラマーとして採用されました。
それからその会社で働くうちに、同じ福岡のゲーム会社でサイバーコネクトツーという会社がとんでもなく面白いゲームを作っている、ということを知って、その会社で自分の実力を試してみたいと思い、転職をしました。
サイバーコネクトツーに入社してからもずっと開発としてゲームを作ってきて、管理系の仕事についたのは、つい最近のことです。こうして見ると、私は開発、本間さんはもともと公務員、立野さんは新卒入社時から間接部門ということで、それぞれ違って、今日はちょっと面白い話ができるんじゃないかな、と思います。
◆採用で印象に残ったこと
本間:
自分自身、採用される側から採用する側に回ってまだ数年しか経っていないんですが、一番印象に残っているのは今年の内定者ですね。
キャラクターデザインの仕事で内定となった学生なんですが、面接の時に「アニメーションにも興味があります」と言っていて、社長から「じゃあアニメーション方面でも頑張って」と声をかけられていました。そうしたら、その一ヶ月後に「あれから社長の言葉をモチベーションにして、アニメーションの勉強をしました」と言って、一本自分で作った作品を持ってきたんです。
この就職が厳しい時期、内定が出ると、苦しい就職活動から解放されたという気持ちが強くて、遊びほうけてしまう学生が多い中で、もう内定が出ているのにこのモチベーションの高さというのは非常に驚きましたね。
立野:
内定者の鑑みたいな子ですね(笑)
渡辺:
すごい。そういう子は絶対将来も成長しますね。
立野:
本間さんからすごくいい話を聞いた後ですが、私からは「ホントにそんなことあるの?」っていう、就職活動での失敗の話をしたいと思います。
採用を行う中で、書類選考ではすごく沢山の書類を読んでいくんですが、その中でよくあるのが「私はとても几帳面で……」と書いてあるのに、履歴書の下書きを消さずに残ったままになっているというパターンです。ほかにも、履歴書に写真が無いというのもあります。
面接では、質問をしていく中で「こういうのはどう思う?」と話を広げると、想定していなかった質問だからなのか、うっと詰まって「もういいです」と言って話すのをやめてしまう人もいます。そういう時、採用担当としてはサポートしてあげたいという気持ちになるんですが、下書きを消したり、代わりに質問に答えてあげるわけにもいかないので、すごくもったいないと思います。
本間:
けっこう皆さん勘違いしている部分でもあるんですが、ゲーム業界で必要とされているのは技術だけじゃないんです。実はその前の段階、人間としての基本的なマナーや能力が重要です。そういうところをクリアしてからでないと、技術を見ることができない、という部分もあります。
渡辺:
僕も採用にずっと関わっていて、今はサイバーコネクトツーの採用面接すべてに参加することになっていますが、その中で出会ったエピソードをひとつ話したいと思います。
すごく絵が好きな人を面接していた時の話です。その人の絵を見たり話を聞いたりすると、すごく絵が好きなんだということが伝わってくる人でした。でも、ひとつ気になって「君はすごく絵が好きみたいだけど、本当はゲームを作りたいんじゃなくて、絵が描きたいんじゃないの?」と聞いてみました。すると、「私はたしかに絵が好きです。でも、私は小さい頃からゲームが好きで、嫌なことがあった時、辛い時、ゲームに支えられてきました。ゲームがあるからこそ、今こうして絵が描けているんです。だから私はゲームクリエイターになって、今度はそんなゲームをほかの人に届けるようになりたい」と答えました。
面接をしていて、どうしてゲームクリエイターになりたいのかという質問をすると、こういう人と一緒に仕事がしたい、という人が見えてきます。そういう部分は、技術の問題ではなく、すごく大事なポイントですね。ウソを言っちゃダメですよ、根っこからそういう感情を持ってないと、面接ではバレちゃいますから。
◆この仕事を続けていくためには
渡辺:
やっぱりゲームの開発も仕事なので、いろんな事があります。「やっててよかった」と思える瞬間もあれば、失敗して「明日からどうなっちゃうんだろう」と思う瞬間もあります。
ゲームを作っている時って、なかなかアイデアが出なかったり、どうしても問題が解決できない時というのがあります。一生懸命作ったシステムが、出来上がってみると面白くなかったということも、たまにあります。そういう時はやっぱり絶望的な気分になります。「俺、才能無いかも」とか、「このプロジェクトどうなっちゃうんだろう」とか思ったりもします。
でも、大体物事ってなんとかクリアされていくんです。誰かが突然ひらめいたりして、問題が解決される瞬間がやってきます。そういう時、今までの苦労がすべてプラスの方向に変わるんです。「俺って天才じゃね?」とか「今ならなんだって解決できる気がする」とか。開発には、そういうジェットコースターみたいなメリハリがあって、それがつらいと思う人もいるかもしれないけれど、すごく楽しいところでもあります。
ゲームの開発って、今まで誰もやったことが無いことをやる仕事です。今、我々は「アスラズ ラース」というタイトルを開発していますが、世の中のどこを見ても、「アスラズラースの作り方」なんて本は売ってないんです。それは僕らが今から作っていくしかないんです。そこを作り出していく苦しみ、そして楽しみが、ゲーム業界の醍醐味かなと思います。
それと、作る側にとってすごく楽しみなのが、作ったゲームがお店に並ぶ瞬間です。これは何物にも代えられない喜びです。まさにそこで自分たちの作ったゲームを手にとって買っていく人を見ると、握手したいような気持ちになります。命をかけてゲームを作った甲斐があったと感じる瞬間です。
立野:
ポスターとか、店頭に貼ってあるのを見ると感動しますし、ゲームショウなどのイベントを見に行って新タイトルのコーナーに並んでくれている人を見ると、本当にありがたいなと思います。私は開発しているわけじゃないんですが、「どう? ウチの開発の人たちってスゴイでしょ?」って、すごく誇らしい気持ちになります。
仕事って、人生の中でもすごく長い時間をかけて付き合うものなので、そこから得られる感情とか、やっててよかったなって思える気持ちって、すごく重要だと思います。
本間:
やっぱり、もの作りの仕事なので、つらいことはとっても多いと思います。技術的な問題もあるし、時間的な問題もある。プログラムのバグを1個直したら、10個新しいバグが出て来たとか、そんな話はよく聞きます。それでもみんな、歯を食いしばって頑張っています。
そういう環境の中で、会社を辞めていく人というのも、少なからずいます。辞めていく人と残る人、どこに違いがあるのかな、と考えると、残る人は先ほど渡辺さんもおっしゃったように、「新しいものを作る」ということにやりがいを感じられている人だと思います。
もうひとつ、ゲームを作るということに対して、どういう姿勢で臨んでいるかということもあると思います。ゲームを作るということを、自分の自己満足のためにやっている人というのは、なかなか残らないです。「思い通りのゲームが作れなかったので辞めます」という人も実際にいます。逆に残る人たちには、「お客さんに喜んでもらえるのが嬉しい」というクリエイターが多いです。
日本一ソフトウェアの社長はよく「ゲームクリエイターはエンターテイナーであれ」と言います。お客さんに喜んでもらうこと、そこを自分の楽しみと感じられる心意気が大切なんじゃないかな、と思います。
渡辺:
それは私もすごく感じます。それと、「本当にゲームが好きか」というのはすごく大事かな、と思います。
今、いろいろ辛い時の話が出ましたが、そういう時、ゲームが好きだったらそんなときも頑張れたりするんですが、例えば「ゲームじゃなくてもよかったな」っていう気持ちが出てくると、続けて行くのが難しいかも知れないです。「自分にはゲームしかない!」っていうのも危険なんですが、やっぱり「ゲームを通じて世の中になにかを伝えたい」っていう気持ちがある人、そのために自分から勉強する人っていうのが、ずっと仕事を続けて行けるのかな、という印象があります。
立野:
「何のためなら頑張れるのか」っていうのは、すごく重要だと開発の人間からよく聞きます。すごくつらい時、今はキツイけど、でもこれができているから嬉しいっていう何かを持っていることが重要なのかな、と思います。それが無いと、つらい時にポキッて折れちゃうのかなって。
◆ゲーム開発も普通の社会人
渡辺:
社会人としてちゃんとしていること、これ大事です。ゲームクリエイターってすごくアウトローなイメージがあるかも知れませんが、そういうイメージは当たってないですよ。僕たちも普通の社会人なので、普通に働いています。サイバーコネクトツーでは、朝9時出社、18時定時です。日本一ソフトウェアさんではどうですか?
本間:
日本一ソフトウェアも同じです。
立野:
当社は裁量労働制ですが、午前10時には仕事を始めるようにしています。ゲームはチームワークで作られるものなので、みんなが揃って仕事をする時間が必要ですから。
本間:
ゲーム開発も、きちんとしたルールに則って行われるものなので、そのルールが守れないのは厳しいです。以前、「朝9時に起きられないから会社を辞めます」という人がいたのですが、そのような姿勢ではどこへ行っても仕事を続けるのは難しいですよね。
渡辺:
あと、すごく徹夜するイメージもあるかもしれないけど、今のゲーム業界はそんなことないです。なぜかと言うと、徹夜は効率が悪いからなんです。例えば徹夜して、次の日に15時とかに出社する。そうすると実際に仕事をしている時間は、定時にちょっと残業を加えたのとあまり変わらなかったりするんです。徹夜は体を壊すリスクもあるし、長く働くには効率が良くないんです。
クリエイターという言葉のかっこよさにだまされちゃダメです。「俺はこうやりたいんでこうやります」っていうのは通用しません。ちゃんとみんなを説得できるだけの理路整然とした話ができる、ちゃんとみんなの気持ちを考えた提案ができる、そういうことができないと、ゲームの開発はできません。そういう意味では、どこにでもある会社のひとつなんです。
立野:
採用でも、そこを勘違いして、変にユニークな部分を押し出す人もいるんですが、組織でやる仕事だという部分はよく知っておいて欲しいですね。
本間:
この業界の仕事って、基本的には流れ作業で、誰かが作ったものの上に自分の仕事を乗せていくんです。そこで大事なことが2つあります。自分の作業範囲で、少しでもプラスアルファを乗せていくこと。もうひとつは、前後の人との引き継ぎをしっかりやること。その部分で、コミュニケーションがしっかりできない人は厳しいです。
渡辺:
そこは面接でもよく言いますね。新人研修でも、口を酸っぱくして、「報告・連絡・相談」をきっちりやることと言います。これは仕事をするようになって突然出てくることじゃなくて、自分の両親に、自分はこれから何をするのか、何が終わったのか、どんなことで迷っているのか、そういうことをちゃんと話せるようになっていて欲しいです。学校や家庭でこれができていないと、会社で自分のアイデアをきちんと伝えられるわけがないですから。
ゲーム業界で働こうと考えているというと、周りの人は「それで大丈夫なのか?」という風に言うかも知れません。そういう時に、ちゃんとした説明が求められるので、そこはきっちりと説得できるようにして欲しいと思います。
立野:
逆にそういう説明がきちんと出来ていると、両親も「それなら好きなようにやりなさい」と任せてくれたりするかも知れません。会社でも同じで、ちゃんと説明すれば、新しい仕事を任せてもらえたりします。報告や相談は「やらなきゃいけない」と考えるよりも、「やったほうが自分にとって得」と考えたほうがいいかも知れません。
常にいろんな人に相談していると、いろんなアイデアをもらえることもあります。この前、違う会社ですけど、渡辺さんに相談に行きましたしね(笑)
渡辺:
いろいろ熱く語りましたね(笑)
◆夢を応援してもらえるようにしよう
渡辺:
この仕事を続けていくためには、「ゲームクリエイターになりたい」と言ったときに「いいね、君ならなれると思うよ」と言われるようにならないといけません。そういう信頼を得られるような毎日を過ごしているかどうか、そこが重要です。
これは仕事を始めた後もそうです。「こんなゲーム作りたいと思ってるんだよね」って言ったとき、信頼を勝ち得ていれば「それ企画書出しなよ、お前ならできるよ」って言ってもらえるんです。逆に信頼されていないと「お前、そんなこと言う前に自分の目の前の仕事片付けろよ」って言われちゃいます。けっこう大きな差ですよね。
これは、その時だけの問題じゃなく、その人が毎日何を積み重ねて来たのか、そしてこれから何を積み重ねようとしているのか、そういう問題なんです。これは高校生の皆さんにはまだ難しいかもしれませんが、毎日を大切にして欲しいと思います。
例えば、今私が「野球選手になる」って言ったら笑われますよね。「いや、だってずっとゲームしてるじゃん」って。でも、例えば高校生で、毎日野球をしていて、甲子園にも出たりしている人が「野球選手になる」って言ったら、「なれるんじゃない?」って言われると思うんです。何が違うんでしょう。積み重ねて来たものの違いですよね。
立野:
あとは、自分のやりたいことを突き詰めていって欲しいな、と思います。やれと言われてやることって続かないけれど、ゲームをやっていると「やめなさい」と言われてもやめなかったりしますよね。それと同じで、やりたくてやっていることなら、周りにやめなさいって言われても続けられるんです。やっていて楽しいことが、仕事に繋げていけるなら、それって素晴らしいことだと思います。
例えば今、すぐに「ゲームを作る」こと自体はできなくても、そこに関わる何かしらのことを突き詰めて行くと、その先につながっていくかも知れません。やらされているんじゃなくて、やりたくてやっているという形でゲームに関わって欲しいな、と思います。
本間:
皆さん、今は時間がすごくたくさんある時期だと思うので、いろんな可能性を伸ばしていって欲しいな、と思います。いろんなゲームをやるのもそうですが、映画を観たり、小説を読んだり、絵画を観たり、いろんなセンスを磨いて欲しいですね。これはどこがスゴイんだろう、なんで面白いんだろう、そんなことを考えながら、それを説明できるようにしていくと、会社に入ってからも役に立つはずです。
渡辺:
すごく大事ですね。いろんなことを勉強しておくというのは大変重要で、その中で忘れちゃいけないのが、学校の勉強です。どの科目でも大事です。会社に入ってよく思うのは、「こいつ仕事できるな」って思う人はなぜか学校の成績も良かったりするんです。自分の興味が無い部分でも、しっかりやっておくと、それが将来クリエイターになったときに、思わぬ引き出しになるんです。
立野:
渡辺さんのお話を聞いて、私が高校生の時、英語の先生に「私は君たちに英語を教えていますが、英語を通じてものの考え方も教えているんです」と言われたのを思い出しました。そう考えるとどんな科目でも役に立ちますし、社会に出てからだと時間も足らないので、ぜひ意識しながら日々の授業に臨んで欲しいと思います。
渡辺:
勉強といっても、それが好きでやってることになれば、苦痛なんてなくなりますよ。
本間:
それは本当にそうですね。例えば将来プログラマーをやってみたいな、と思っている人ってどれくらいいますか?
(会場挙手)
本間:
高校の授業で聞いてるだけだとすごくつまらないかも知れませんが、例えば三角関数は、ゲームのプログラミングで放物線を描くために勉強してるんだと思えば、けっこうモチベーションって上がってくると思うんです。
渡辺:
私も高校生のころからゲームを作ったりしていたんですが、どうやら三角関数なるものがゲームのプログラミングの役に立つらしいということを聞いて、先生のところに行って「僕の将来に必要なようなので、三角関数を教えてください。ほかは要りません」と言ったら3時間くらい説教されました。バランスは大事ですけど、これは将来の役に立つんだ、と思ってやると、勉強って楽しくなります。
本間:
あとは、時間のあるうちに、自分の将来なりたいものを考えて、それに必要なものを自分で調べてみてください。自分で考えるクセをつけておいてください。開発の現場に入ると特にそうですが、誰も知らないようなやり方を、自分で組み上げていかなくちゃいけないことがよくあります。そんなとき、誰かに教わらないとできませんじゃ、仕事にならないんです。
自分で調べてやってみる、挑戦してみる、という姿勢が無いと、言い方は悪いですが、扱いにくい人材になってしまいます。そうした自主性を、今から磨いておいてもらえるといいのかな、と思います。
◆学生と社会人の違い
立野:
高校生の時って、中間テストとか期末試験がありますよね。社会人になると、定期試験って無くなるんですが、それによって「あなたは何点ですよ、これくらいの評価ですよ」っていうのが分かりにくくなるんです。
そもそも評価の仕方が違うということを知った上で社会に出ると、評価に対して苦しまなくて済むのかな、と思います。会社に入ると、自分が隣の人よりどれだけ良く出来ているか、というのはそこまで重要じゃないし、明確にあなたは何点、隣の人は何点って出てくるわけじゃないです。
会社に入ってから重要なのは、新しい仕事がある時に、「一緒にやろう」って声をかけてもらえるかということになります。それはもう、日々の積み重ねで、このテストで何点とったという話とは違うものです。
それは就職活動の時から始まっていて、採用も「この人は何点、あの人は何点」って基準で決まっているわけじゃなくて、「この人と仕事したいな」と思ってもらえるかどうかが大切です。そういう信頼が社会の評価なんだということを知っておくと、役に立つと思います。
司会:
信頼という言葉が出て来ましたが、皆さんが信頼を勝ち得るためにどんなことをしているか教えてください。
立野:
私が入社して間もないころ、ある先輩に期限ギリギリになってから仕事の相談をしに行ったら、「もっと早く相談してくれたら、いま以上に対策を立てられたのに」と言われました。その時、ギリギリに相談しに行くと、良い仕事にならないし、あいつからの相談は大変だと思われちゃうな、と気づいて、何事も早めに相談するように心がけて、信頼を失わないように努めています。
本間:
報告・連絡・相談に尽きると思いますが、もうひとつ、今のうちから訓練できるところとして、「事実と意見の違いをきちんと区別できる」ようにしておくことが大事かな、と思います。「自分はこう思う」と「事実としてこうだ」というのをきちんと分けて説明できないと、「こいつ、自分がこうしたいからこう言ってるだけなんじゃないか」と思われてしまって、企画出しでも報告でも信頼度が下がってしまいます。
渡辺:
信頼を勝ち得るために大切なことは、まず自分ができる範囲から結果を出していくことだと思います。
例えに話すこととしては、高校生にはちょっと馴染みが薄いかも知れませんが、トヨタという自動車メーカーがあります。トヨタで採用されている「カンバン」と呼ばれるトヨタ生産方式を導入するに当たって、これを体系化した大野耐一さんは、周囲から反対されたといいます。
人間、やったことの無いことに対しては、懐疑的になってしまうものです。そこで大野さんがどうしたかというと、自分が持っている班にそれを導入しました。そこで結果が出たので、大野さんは少し出世します。自分の影響を及ぼせる人数も少し増えます。これを繰り返していって、やがてひとつの工場がカンバン方式で運営されるようになりました。その工場が、のちのトヨタを決定づけるような、体制を全社に浸透させることになったそうです。
会社が悪いとか、親が悪いとか、そういうことを言うよりも、まずは自分のやれる範囲から結果を出していく。まずは自分自身から。それから隣の人。それからもうひとり、もうひとりと、自分が影響を与えられる人を増やしていくと、会社だって変えられると思います。
僕もそうやってきました。最初はひとりのプログラマーです。それから部下がひとりついて、やがてそれが5人になり、10人、20人、100人と増えてきました。それは、自分の今やれる範囲内できっちり結果を出して、上に進むたびに工夫を重ねてきたからです。会社というのは、何もやっていない人間に権限を与えません。肩書きとか権限っていうのは、後からついてくるものなんです。だから、まず自分ができることからきっちり結果を出していく。それが信頼を勝ち得る手段かな、と思います。
立野:
高校生だとイメージしづらいかも知れませんが、こういうことは実は日常生活でもすでに起こっていることです。例えばマンガを貸すと1年返ってこないような人には、マンガを貸したくないですよね。自分の日々やっていることで評価されるっていうのは、すでに皆さんが自然にやっていることで、社会でもそうなんです。
そうすると、そこでやることって非常に単純で、マンガを借りたらちゃんと返すとか、そういうことと変わらないんです。どうしたら周りの人に自分を信頼してもらえるかなっていうことを考えて、それをやるっていう、ただそれだけのことなんです。
本間:
そうですね。信頼される人っていうのは、約束を守り、責任を持ってやり遂げてくれる。有言実行というか、言ったことはすぐやる。そういうことが大事です。
渡辺:
一方で、「人から信頼されているかどうか」っていうのは、すごく分かりづらいんです。普段からはっきり目に見えるものじゃないんで。でも、自分がピンチに陥ったとき、初めて見えてくるんです。常に積み重ねていないと、そこで助けてもらえない。
皆さん、マンガって読みますか? 私は「はじめの一歩」が大好きなんですが、「はじめの一歩」に出てくる鴨川会長というすごく厳しいボクシングジムの会長が、こんなことを言っています。「日々の積み重ねが己を弱らせる」。毎日、のんびりしているだけじゃ、劣化してしまうんです。常に新しい努力、常に新しい鍛錬を行っていかないといけない。
ゲーム開発って、毎日新しいことに挑戦していく仕事です。それはとっても楽しいんですが、その楽しさを味わうためには、毎日新しいことに挑戦しなくちゃいけないんです。
◆これからのゲーム業界はどうなるのか
立野:
ゲーム業界は今、すごく多様化していると言われていますが、それを作っていくのは自分たちなんですね。新しいものを作っていくのはすごく大変だし、世の中の変化というのはすごく早いので、それに対応していくのも大変です。それでも、ゲーム開発を続けて行きたいというのはみんなが持っている想いなので、ゲームを作り続けられる環境を作ることがまず必要なのかな、と考えています。
これからのゲームは、今あるようなテレビゲームのパッケージソフトの形から違ったものに変わっていくかも知れませんが、ユーザーに遊んでもらって、感動してもらえるものを作り、ゲームを楽しんでくれる人を増やしていきたいと思っています。
本間:
業界の中にいる人間でも、5年10年先にゲームがどうなっているのか、まったく分からないような、めまぐるしい変化が起きている状況です。東日本大地震もあり、今ゲームを作っている場合なのか、ということもあったのですが、被災地の方からのお便りでも、元気の出るようなゲームを作ってくださいというご意見をいただくことが多くありました。
そうした応援もあり、世の中を楽しくしていきたい、楽しめるものを作っていきたいというのが、日本一ソフトウェアの経営理念でもあります。ここの三社でなくても、ゲーム業界を目指す人は、人を喜ばせたいという気持ちを持っていて欲しいなと思います。そういう人たちが沢山集まれば、ゲーム業界というのもまだまだ頑張っていけるんじゃないかな、と思います。
渡辺:
世の中これから楽しみだと思っていることが2つあります。
まずひとつ。ゲーム業界というのは歴史のある業界じゃありません。昔、プログラマー35歳定年説というのがあって、プログラマーというのは35歳になったら使い物にならないと言われていた時期があったのですが、今社内を見渡すと、まったくそんなことはありません。40歳代のプログラマーが、現在は沢山います。私自身も、今は管理職ですが、自分の実力を確かめるために日曜日にひとりでゲームを作ってみたりしています。
こうした世代の問題をひとつ例にとってみても、業界にとってこの先はまったく未体験の領域です。だからこそ、そこに私たちはいかにポジティブに立ち向かっていくことができるかが重要です。60歳になっても、70歳になっても、ゲームを作りたいと言っている人はゲームを作れるような環境を用意する、それも、今現場に携わっている人間の使命だと思っています。私はずっとゲームを作り続けるつもりです。150歳くらいまで作りたいな、と思っています。
もうひとつは、ゲーム業界にとって新しい時代が来ているということです。いわゆるソーシャルゲームというものが広がってきていて、家庭用ゲーム機の売上げが減ってきているということが言われています。でも、それはネガティブなことでしょうか。
ゲーム業界というのは枠が無くなってきて、何をもってゲームというのか、その定義もすごく難しいという状況になっています。あらゆる領域にゲームが浸透して、勉強をしていると思ったら実はゲームだった、という時代が、もうすぐそこまで来ています。
そうなるとどうなるかというと、ゲームの市場が爆発的に広がります。ゲームクリエイターの持っている能力が、あらゆる場面で求められるようになります。例えばPS3のトルネ。あれは、家電の録画システムよりも使いやすいと言われている。なぜかというと、ゲームクリエイターが作っているからです。そういう能力をゲームクリエイターは持っているんです。今、世界中で、様々な問題をゲームの枠組みを使って解決しようというような、「ゲーミフィケーション」と呼ばれる試みもあったりします。
今、我々に与えられている市場規模よりも、これから開拓できる市場規模は、何十倍も大きいものになります。さらに、純粋なゲームに絞っても、世界中で見ると、まだゲームで遊んだことの無い人のほうが多いんです。そういったところに新しいゲームを届けるのは、今ここでこの話を聞いている、皆さんの世代です。私はそれが楽しみでなりません。
私たちと違う感覚でゲームを見るあなたたちは、どんなゲームを作るんだろう。それはどんなに楽しいんだろう。そんな風に思います。よく言われる「ゲーム市場の縮小」なんて、いくらでも取り返せます。いくらでも広がって行く余地がある。そんな未開拓の領域に、一緒に挑戦していけるように、皆さんにもしっかり勉強してもらいたいし、私も一生懸命勉強します。入る会社は違っても、同じ方を向いて頑張っていきたいと思っています。
◆質疑応答1「大学はどんなところを選べばいいか」
学生:
今、高校3年生で、大学進学で迷っています。ゲーム科のあるような大学に進むべきなのか、それとも幅広く絵を学べるような美大に通ったほうがいいのか。ゲーム業界に入るなら、どちらがいいのでしょうか?
立野:
結論を言ってしまえば、どこだから有利、というのは無いと思っています。自分の将来の仕事がイメージできるなら、それに必要な勉強ができるところを選べばいいと思います。絵の勉強がしたいのに経済学部に行くとか、そういう選択をすると勉強できるチャンス自体が減ってしまうかも知れませんが、ゲームのための絵を学ぶということなら、美大でもいいし、ゲーム専門学校でもいいと思います。
自分がどんなことを学びたいのか、しっかりと見定めて、どこならそれが学べるのか、調べてみてください。大学や専攻で採用の間口を絞ることはしていないので、自分のやりたい勉強で選んでもらえればいいのかな、と思います。
本間:
大事なのは自分の強みがどこにあるのか、それをはっきり持っているのが大事です。2Dとか3Dとか、技術的なところを学びたいなら専門学校を選ぶのもひとつの手ですし、逆に汎用的なデザインを、デッサンから学びたいということであれば、美大というのもいいと思います。どこで合否の分かれ目があるかということで言えば、入学してから自分にしかできないものを身につけられるかどうかというところにあると思います。
就職的なところで言えば、デザインを志す場合、デッサンが崩れないというのは重要な能力です。現在ゲームの開発をしている人の中にも、もともとゲーム開発の知識を持っている上に、開発をしながらデザインの勉強をしているという人もいます。そういう人たちに追いつき、追い越すために、なにが必要か、ということを考えてもらえればと思います。
渡辺:
一番大事なのは、あなた自身が考え、決断することです。誰かが言ったからこうした、という風に決めると、「あいつが言ったからこうなったんだ」という逃げ道を与えることになって、自分の人生をメチャクチャにしてしまいます。
この質問はすごくいい質問ですが、答えは「関係無い」ということになります。工場でずっと働いていてゲーム開発に入った人もいるし、美大を出て入った人もいる。あとは、どういう所が自分の才能を伸ばすのに適しているかを考えることです。
加えて、学校というのは大切な場ですが、学校にいない時間も自分を伸ばしていくことが必要です。本間さんからも話がありましたが、ゲーム開発の現場では、仕事が終わったあとも勉強しているクリエイターが沢山います。そういう人たちに、どうやって立ち向かっていくか、それを考えることが重要だと思います。
立野:
あと、具体的な学校選びで言うと、OBがどういうところに就職しているのか、調べてみるのもいいと思います。自分の行きたいところに多くOBが行っているところを選ぶとか、そういう情報も調べられるので、いろんな情報を参照してみてください。
◆質疑応答2「プログラマーを目指すにあたって取っておいたほうがいい資格は?」
学生:
プログラマーになるために、取っておいたほうがいい資格ってありますか?
渡辺:
結論から言うと、実はゲーム業界では資格は重視されません。私も資格をいくつか持っていますが、何を持っていたかよく覚えてなかったりします。履歴書でも、資格の欄は重視しません。
採用の過程は各社さまざまですが、弊社で言えば、課題になる作品を作ってもらって、別途適性検査を設けています。なので、資格自体に意味はありません。ただし、資格の勉強をすることによって知識は増えるので、そういう所を目指すのであれば、意味はあるのかな、と思います。
◆質疑応答3「今からできることは?」
学生:
学校の勉強が大事、というのはよく分かるのですが、ゲームクリエイターになるために今からできることはありますか?
渡辺:
まず、学校の勉強はさらに頑張ってください。1番になるくらいにやるといいです。そして、それにプラスして、ゲーム開発に関する本が今は沢山出ていますので、プログラマーにとって必要な知識を身につけるといいでしょう。学業をメインに、ゲームの勉強はプラスアルファでいいと思います。そうした勉強は、大学や専門学校に入ってからでも十分間に合います。ただし基礎学力があればの話になるので。
本間:
今の時期は、自分を見定める時期だとも思いますので、まずはいろんな事をやってみてください。ただ、中途半端にやるのではなく、トップを目指すくらいの気持ちでのめり込んでみるのがいいと思います。そのほかで言えば、ゲームでなくても構わないので、なにかを作ってみるのもいいでしょう。作ってみて、誰かに見てもらう。客観的な意見をもらう姿勢を磨くといいんじゃないかな、と思います。
立野:
これをやったほうがいい、というよりも、いろんなことをやって、失敗して、くやしい気持ちを味わったりしたらいいんじゃないかと思います。学生時代の経験ってそれ自体が財産になるので、回り道をしてもいいから、いろんな経験をして、それをどう感じるか、どう考えるか、それはゲーム開発に限らず、将来に生きてくると思います。
◆質疑応答4「ポートフォリオ(作品集)で特に惹かれるのはどんな作品?」
学生:
現在大学3年生で、ゲーム業界への就職を考えています。課題としてポートフォリオの提出が求められていますが、どんな作品に惹かれますか?
渡辺:
よく言われる「良いポートフォリオ」っていうのは、「その人が何がしたいか分かりやすいもの」だと思います。キャラクターデザインがやりたい人なんだなとか、背景をやりたい人なんだなとか、UIを作りたい人なんだなとか、そうしたことがポートフォリオを通して説明できるというのが理想です。会社でよく言うのは、「ポートフォリオはその人の取扱説明書」ということです。
本間:
1枚目で「これはいい」と思わせてくれる人はけっこういるんですが、2枚目3枚目とめくっていくとだんだん質が落ちていくという人がよくいます。そういうのって、とてももったいなくて、2枚目3枚目は100%の実力が出せていないわけです。ポートフォリオでは、「これが今の自分の100%です」と言えるようなものを出して欲しいと思います。
立野:
ただキレイな、リアルな絵が入っているよりは、一枚一枚作り手の意図が伝わってくるものがいいなと思います。学校の課題で作った作品を入れてくる人も多いんですが、その中でも「これはライティングにすごくこだわったんだな」と意図が伝わってくる人もいれば、「言われたままに作ってるな」という人もいて、その違いは歴然と出て来ます。自分らしさや、これをやりたかったという意図を込めて欲しいな、と思います。
◆質疑応答5「中二病って大事?」
学生:
クリエイターになりたいということで人に相談すると、「謙虚になりなさい」や「もっと自信を持ちなさい」と、正反対のことを言われたりして、混乱しています。自分のアイデアに対する自意識とか自信って、やっぱり持っておくべきでしょうか?
渡辺:
まず、いろんな人にいろんなことを言われるのは仕方のないことで、その中でどれが大事かを判断することが必要ですね。自信ということに関して、私がよく言うのは、「中二病はすごく大事」ということです。
私も学生のころは勉強が苦手で、覚えてもすぐ忘れちゃったりしてたんですが、それでも「自分は絶対ゲームプログラマーになる」と信じていました。絶対にものを作って、それで人を楽しませるんだ、という根拠の無い自信を持っていました。そういうよりどころになる自信は必要だと思います。でも、それが人の提案を受け入れない方向に行くとダメですが、自分は絶対なれるという自信を持って、勉強していくといいのかな、と思います。
◆ゲーム業界を目指す人へのメッセージ
立野:
今、ゲーム開発者になりたいと思っていて、これからいろんな経験をして、結果として違う道を選ぶのなら、それもいいと思います。ゲーム開発者になるために学んだ経験っていうのは、すべて生きていくと思うので、そこはあまりガチガチに固めずに、まずはやりたいと思うことをやってもらいたいなと思います。
いろんな経験をして、その結果ゲーム開発という道を選んでくれて、一緒に悩んで、一緒に考えて、誰かに喜んでもらえるものを一緒に作れるひとが、この中から出て来てくれたら嬉しいです。
本間:
将来、この業界を目指したいなと思った時、「そういえばあのオッサン、こんなこと言ってたな」くらいに思い出してもらえたらな、と思います。今、皆さんに時間は沢山ありますが、それは有限の時間です。社会に出て行くまでに、あと5年か、もっと少ないかもしれません。ぜひ有意義に過ごしてください。一緒に働ける日を楽しみに待っています。
渡辺:
これから先、皆さんがゲーム業界に入ったとしたら、これからの世界をもっともっと便利にして、もっともっと楽しくするようなものを、一緒に作っていきたいな、と思っています。ぜひ、これからの日常を、全力で過ごして、みんなに胸を張れるような日々を過ごしてください。そして、自分の意志で選んで、決断して、両親に自分の気持ちを伝えて、夢を応援してもらえるようにしてください。本日はどうも、ありがとうございました。
この後、学生たちからの個人的な質問に答える時間が設けられました。
◆採用担当者たちに直接インタビュー
学生たちの追加質問に個別で答えた後、まだ少し時間があるということなので、直接インタビューをさせてもらいました。
GIGAZINE(以下、G):
立野さんがフロム・ソフトウェアに入社されたきっかけは、もともとフロムのゲームをやっていたということでした。フロム作品はなかなか女性ユーザーが少なそうですが、どんなタイトルをプレイされていたんでしょうか。
立野:
実は弟が熱心なアーマード・コアのファンだったんです。そもそも弟がプレイステーションと一緒に買ってきた最初のゲームが「キングスフィールド」だったということもあって、私も「キングスフィールド」や「アーマード・コア」は1作目から親しんでいました。
それに弟と一緒にゲームショウに行ったことがあるのですが、弟がフロムのブースから動かないんです。「あっちのブース行こうよ」って誘っても「ううん、僕ここにいる」っていう感じで。そこまで弟が入れ込む会社ってどんな会社だろうとずっと思っていました(笑)
G:
渡辺さん、サイバーコネクトツーにはあらゆる雑誌が毎週届いていて、社員はこれを読むのが日課になっていると聞きましたが、本当でしょうか。
渡辺:
そうですね。コーヒーサーバーとかが置いてある共有スペースに、本棚が置いてあって、週刊誌、月刊誌、マンガ雑誌、業界情報誌など、たいていのものがそろっています。それらは基本的にスタッフが読めるようになっています。読んでないと社長の松山がチクチク文句を言ってきたりします(笑)
G:
ゲームプランナーになる、というのはかなり狭き門と思われますが、新卒でプランナーの募集はされているのでしょうか。
立野:
プランナーも募集しています。
本間:
日本一ソフトウェアでも、プランナー募集しています。
渡辺:
サイバーコネクトツーでもしています。表立って募集はしていないのですが、会社説明会などでは、中途のみということで告知していて、新卒でもどうしてもという人は応募を受け付けています。そういう、良い意味でルールを破る人で、才能に溢れた人が欲しいという想いがあります。ただし、合格率は極めて低いです。
G:
開発現場の平均年齢を教えてください。
立野:
フロムでは、28~29くらいですね。
本間:
日本一ソフトウェアも同じくらいです。
渡辺:
サイバーコネクトツーも同じくらいです。ちょっと前まで26くらいだったんですが、中途採用を大幅に増やしまして、今は27と28の間くらいです。
G:
ゲームプロデューサーになると志したとしたら、どんな手順を踏んだらいいのでしょうか。
立野:
まずは作り手として信頼されることが重要だと思います。ディレクターとかプロデューサーという職種が、企画職からでないとなれないわけではありません。プログラマーやデザイナーからディレクターになる人は大勢います。自分がまず、開発職として就いた職種で、きちんと信頼を積み重ねていくというのが大事なステップです。
そこできちんと「自分はこういうものを作りたい」というビジョンを話していけば、味方がだんだん増えていくので、そうするとプロジェクトが任されるようになっていくというステップがあります。まずは自分の職種で信頼を積み重ねることですね。
本間:
上に引っ張られていったりする人は、最初に任された仕事でもいい仕事をしているもので、「あの人だったらウチのチームにも欲しいよね」という感じで声がかかっていく、という形で広がっていくものです。逆に、自分の興味のあることしかやらない人というのは、なかなか伸びていかなかったりします。
G:
プロデューサーになる人というのは、そうした形でのたたき上げが多いのでしょうか?
渡辺:
会社によると思いますが、開発を主に行っている会社では、たたき上げが多いかな、と思います。
立野:
フロムもたたき上げが多いんですが、「ダークソウル」でディレクターをしている宮崎は毛色が変わっていて、ゲーム業界未経験の中途で入ってきた人材です。30歳ちょっと前にまったく別の業界から転職してきて、イチから企画をやり始めたんですが、そこからの信頼を得るスピードというのがすごく早くて、2年目くらいにはタイトルのディレクターを任されて、3~4年目にはある程度自分の作りたいものを作れる立場を築いていました。
速さという意味では宮崎は異例でしたが、それでもそこに至るプロセスは変わらなくて、まずは信頼を積み重ねて、味方を増やしていくことなんですね。
渡辺:
素晴らしいですね。サイバーコネクトツーではプロデューサーという肩書きは無くて、プロジェクトリーダーと呼んでいます。そうした立場に立つ人間というのは、やはり現場でクオリティの高い仕事をして、周りからの信頼を積み重ねていったという人が多いですね。
G:
ゲーム開発の現場というのがどういう状況なのか、業界で働いたことが無い人には分かりづらいところかと思いますが、良い仕事をした人というのは、周囲で働いている人からすると分かるものなのでしょうか。
渡辺:
分かりますね。同じ仕事をしている人間からすると、その人のクオリティが高いか低いか、如実に分かるんです。一番分かるのは絵ですね。この人の絵はキレイ、この人の絵は汚い、そういうことがはっきり分かります。あとは、最期までこだわって仕事をしているか、困った人を助けているか、そういう日々の行動も見えます。
G:
ゲーム業界が今、大きく変わりつつあるという話がありましたが、開発の現場も変わりつつあるのかなと思います。海外では他社製のゲームエンジンを使って開発を行うようなパターンもあったりしますが、そうした状況の中で、プロデューサーに求められる資質というのも変わってきているいのでしょうか?
渡辺:
根本的なところでは変わらないと思っています。やはり、関わった人すべてを幸せにする、そして利益を出す、プロデューサーに求められるのはここでしょう。たしかに海外の市場も大きくなったりしていますが、まったく違うことをするようになったわけではないので。ただ、知らなくちゃいけないことは増えましたね。例えばソーシャル系はどうだとか、そういう意味での広がりはあります。
本間:
コンシューマ中心にやってきた会社だと、根っこのところは同じ開発ですが、新しく出来た会社との違いはあるかも知れません。ソーシャルゲームを中心にする会社であれば、Unityをガッツリ使って効率重視で、とにかく速く安く作ることを求められるかも知れません。そういう現場では、ゲームエンジンの使い方をよく知っているというのは重要な資質になるでしょうし、企業の立ち位置によって変わってくるかも知れません。
渡辺:
そういう意味でも多様化していると言えますね。
立野:
業界にいる人のほうが、逆に今までと同じ意識でいるといけないかも、という危機感を持っているかも知れないですね。
渡辺:
意識改革が必要、ということは常に考えているんですが、かといって今まで培ってきた良い部分というのも残したいというのは、こだわりとしてあります。
G:
現在、「怪盗ロワイヤル」などのソーシャルゲームが注目されていますが、ソーシャルゲームについての意見を聞かせてください。
渡辺:
私はソーシャルゲーム大歓迎です。ああいった、入りやすいゲームがあることで、私たちが作っているような家庭用のゲームにユーザーが来る導入口が増えたと考えています。
本間:
日本一ソフトウェアでもGREE向けのソーシャルゲームを扱っていて、特にそこに危機感のようなものは感じていません。ソーシャルとコンシューマがケンカしているような構図は無いですね。それぞれの良い部分を上手い具合に組み合わせて、ゲーム業界を盛り上げていけたらいいのかな、と思っています。
立野:
今はソーシャルゲームというものが出て来たばかりでとても目立っているので、コンシューマと比較されがちですが、これが落ち着いてくると、また違った見方が出てくるのかな、と思います。
G:
就職活動において、自分でゲームを作ってみました、というのは有効なのでしょうか?
渡辺:
各社によって大きく異なるところだと思いますね。サイバーコネクトツーでは作品の提出が必須になっています。
本間:
日本一ソフトウェアでも専門学生の方には作品の提出を求めているんですが、評価の基準としては、ゲーム自体の出来というよりは、可読性とか、人に見てもらった時にきちんと理解してもらえるものを作っているか、という気配りの姿勢を見ています。
渡辺:
そうですね。ゲームを作ってもらっても、どう操作していいか分からないようなゲームだと、人に伝える仕事ができない、向いていないのかな、という評価になります。
本間:
ソースコードにしても、読んで分かるものを書くというのが重要ですね。
立野:
当社では作品提出は必須ではないんです。でもゲームを作ったということであれば、やはり各社さんと同じく、ゲームのアイデアというよりは、それで何がやりたかったのか、という部分を見ることになります。ゲームを作ったことがなくても、面接で何がやりたいのかという部分がよく出ていればそれで構わないので、作品の有無というよりは、話したことの説得力があるかどうか、ということが重要です。
G:
これまで応募者が持ってきた作品の中で、これはスゴイという作品があれば教えてください。
渡辺:
ありましたよ。すごく良くできた3Dのゲームで、立方体の上にスーパーマリオのようなステージが置かれているんです。そこで何かをすると、立方体の違う面に移動するという仕組みで、2Dと3Dをすごく高いレベルで融合した作品でした。それを見たときは、「これは負けたな」と思いましたね。その子は当然入社して、今ものすごく活躍しています。
立野:
それは、プログラマーですか?
渡辺:
プログラマーです。絵も自分で全部描いていて、音楽も入っているんですが、それは海外の人と交渉して、ゲームの雰囲気を伝えて作ってもらったそうです。その彼は、純粋な新卒というわけではなくて、いろんなことをやってから応募してきた人で、20代半ばを少し過ぎての応募でしたが、人より少し時間がかかった分、それだけのものを身につけてきたというわけですね。
本間:
デザイナーで言うと、コミケとかで雑誌を売っても1000冊単位で完売するという子がいました。デザイナーでは、何年かに一度そういう子が出ますね。
立野:
そういう逸材はやはり欲しいですね。学生のころからゲームの絵を描いていて、レベルがまるで違う子というのはやはりいるんですが、多くはいないですね。新人のプログラマーではそこまでのレベルの人というのは見たことがないです。
一方で、増えてきたのは海外からの留学生で、本国で大学を出たけれど、日本でどうしてもゲーム開発がしたくて、日本の専門学校や大学に入った、という人たちですね。通常の新卒よりすこし年齢は上なんですが、やはりそういう人たちはやっていることが濃いですね。そういう人たちに触発されて、自分たちも頑張ろう、という雰囲気も生まれるようになっています。
渡辺:
ウチでも多いです。韓国からとかも多いですね。
立野:
震災があって、そうした人たちが減らないか少し不安もあるんですが、社内の活性化にもつながりますし、国に関係無く、お互い切磋琢磨できたらと思います。
G:
こういう学生を待っています、という希望をお聞かせください。
渡辺:
しっかりとした技術を持っていて、かつそれがゲームに対する情熱に裏付けされたもの、という技術と気持ちの両面を持っている人ですね。そして、この人がいたからこのプロジェクトは成功したよね、と言われるような人になって欲しいと思います。こう言うとすごく高望みしているように聞こえるかもしれませんが、実際、過去にそういう新人はいました。会社を良い意味で変えられる人というのに、入って欲しいと思います。
本間:
会社として一番大事にしているのがカスタマーサービスの部分なので、お客様のためになにができるのか、自分で考えて自分で行動できる人に来て欲しいと思います。
立野:
「コミュニケーション力」がある人に来て欲しい、とよく言われますが、コミュニケーション力ってなんだろう、と考えると「一緒に悩める人」「相談できる人」なのかなと思います。一緒にものを作っていく上で、これからどうやっていこうかということを、一緒に悩んで、考えてくれる人に来て欲しいなと思います。
本間:
社長がよく言っているのが、「プライベートでも友達になれる人」ということです。人間的な魅力を持った人というのが求められています。
G:
ありがとうございました。
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