太陽を燃料に太陽系ごと宇宙を旅することが可能な「恒星エンジン」とは一体どんなものなのか?
太陽を燃料として、太陽系ごと宇宙を旅することが可能となる「恒星エンジン」について、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtがアニメーションで解説しています。
How to Escape a Super Nova: Stellar Engines - YouTube
宇宙空間に静的なものは存在しません。例えば地球の存在する天の川銀河では、数十億個もの星々が周回しています。
地球を照らす太陽の場合、この天の川銀河の中心地点から3万光年の距離を維持して周回しており、その周期はおよそ2億3000万年だそうです。
そんな宇宙空間では、いつどの星が超新星したり、小惑星が降り注いだりするかわかりません。もしもそのような人類にとっての大危機が起きた場合、人類はどのようにしてその危機を回避すればいいのでしょうか。
その答えのひとつとなるのが、太陽系そのものを動かすことができる「恒星エンジン」です。恒星エンジンは既存の文明レベルでは実現不可能なほど高度な技術であり、「数百万年先の未来の技術」と言えます。それでも、人類が天の川銀河周辺で超新星爆発を検知した際には、この恒星エンジンを作成し、爆発から星ごと逃れる必要があるとのこと。
恒星エンジンは「太陽系ごと移動可能」ということで、どのように無数の星々を同時に移動させるのか疑問に思うかもしれません。しかし、実際のところ太陽系に存在する星は太陽の重力に引っ張られているため、太陽を動かすだけで太陽系全体を動かすことができるとのこと。
恒星エンジンについては複数のアイデアが存在しますが、既存の物理学で説明できるアイデアはおおまかに2つだそうです。
そのうちの1つは、最も単純な恒星エンジンである「シュカドフ(Shkadov)スラスター」です。シュカドフスラスターを簡単に説明すると、「超巨大な鏡を用いた推進装置」です。
シュカドフスラスターは既存の燃料ロケットと同じような原理で動作します。太陽放射として放たれる光子は運動量を運びます。例えば宇宙飛行士が宇宙空間で懐中電灯を点けると、宇宙飛行士の体は非常にゆっくりと後ろ方向に押し出されます。これは懐中電灯から発せられる光子が運動量を運んで、宇宙飛行士の体を押すためです。
太陽は多くの光子を発するため、これを利用するシュカドフスラスターならば、懐中電灯よりも大きな運動量を生み出すことが可能。
シュカドフスラスターの基本原理は、「太陽放射の半分を反射することで、ゆっくりと太陽を一方向に動かす」というもの。
シュカドフスラスターを実現するには、「太陽を周回せずに一定の位置に固定可能な鏡」を作成する必要があります。太陽の重力により、太陽放射を反射する鏡を引き寄せようとする引力が発生しますが、それに対して放射圧が鏡全体を太陽から引き離そうとする力として作用するとのこと。
この力を用いて太陽から一定の距離に鏡を固定するには、太陽の片側半分を覆う鏡を非常に軽量にする必要があり、アルミニウム合金のような軽い材料であってもマイクロメートルレベルの薄さの構造物とする必要があります。
そして、太陽を覆う鏡の形状も重要です。太陽を巨大な球形の殻で包み込むと太陽放射が太陽に当たり、太陽の温度が上昇して多くの問題が引き起こされてしまうため、シュカドフスラスターは正しく機能しません。
それではどのような形状が理想的なのかというと、パラボラ・アンテナのような形状だそうです。この形状ならば太陽放射による光子を推力として最大限利用することが可能になるとのこと。
シュカドフスラスターを設置した結果、地球に降り注ぐ日光の量が変化して地上の氷がすべて溶けたり、氷河期が到来したりすることを心配するかもしれません。そういった要素を考慮すると、シュカドフスラスターの設置場所として最も安全なのは、「太陽の極点部分」だそうです。
極点は太陽に二カ所しか存在しないため、安全にシュカドフスラスターを運用するとなると、太陽系を一方向にしか動かすことができなくなります。なお、このような機能的に欠陥を持ったシュカドフスラスターならば、ダイソン球を作成可能な文明にとっては比較的簡単に作成できるそうです。
なお、シュカドフスラスターの場合は2億3000万年で約100光年の距離しか移動できないため、超新星爆発を回避できるほど高速ではない模様。
そこで2つ目の恒星エンジンに関するアイデアが登場。シュカドフスラスターよりも高速な恒星エンジンとしてKurzgesagtが紹介しているのが、「カプランスラスター」です。
仕組みは従来の使い捨て型ロケットと同様。ダイソン球を搭載した大型の宇宙ステーション型プラットフォームで、太陽から物質を収集して燃料とし、核融合で生み出したエネルギーを推力とします。カプランスラスターは「太陽系から放出される光の1%」という非常に速いスピードで粒子をジェット噴射し、太陽を引っぱって宇宙空間を移動できます。
カプランスラスターを実現するには大量の燃料が必要となります。必要な燃料は毎秒数百万トンレベル。
そのような膨大な量の燃料を集めるために、カプランスラスターは電磁場を利用して太陽風から水素(H)とヘリウム(He)をエンジンに取り込みます。
しかし、太陽風から取り込むことができる水素とヘリウムでは燃料として不十分なため、ここでダイソン球の出番となります。ダイソン球の力を利用して、太陽光を太陽の表面の一点に集中させ、その地点だけを極端に加熱。加熱したことで持ち上がった太陽表面の数十億トンもの質量を回収し、水素とヘリウムに分離してエネルギーとして用いるわけです。
収集した大量のヘリウムは、カプランスラスターの熱核融合炉で燃焼させます。10億度近い温度の放射性酸素をジェット放出し、カプランスラスターのメイン推力とします。
ただし、カプランスラスターの場合はスラスター自体が太陽に突っ込んでしまわないようにするために、太陽との距離を一定に保つ必要があります。
そのため、カプランスラスターのヘリウムを燃料とする熱核融合炉とは反対側には、粒子加速器が設置されています。この粒子加速器で水素を加速し、太陽に向けてジェット放出することで、太陽とスラスターの距離が保たれるわけです。
なお、カプランスラスターの場合、理論上はわずか100万年で太陽系全体で50光年もの距離を移動することが可能。これは超新星爆発を回避するには十分すぎるスピードです。
しかし、この方法ではいつか太陽の質量を使い果たしてしまう心配があります。幸いなことに、太陽の質量は膨大で、何十億トンもの質量でさえ太陽の表面をほんの少し傷つける程度です。
また、低質量の星ほどより遅く燃焼するため、太陽そのものを燃料として使用すれば、太陽そのものの燃焼速度が低下し、太陽自体の寿命は長くなるとのこと。
カプランスラスターを用いれば太陽系そのものを宇宙船に変えることができるため、太陽系まるごと別の銀河へと旅立つことも可能になるかもしれません。
恒星エンジンが完成すればいつか死ぬことがわかっている太陽を使い、宇宙で活動範囲を広げることが可能となります。そうすれば、いつか太陽の命が尽きても人類は宇宙で繁栄し続けることができるようになるかもしれません。
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