経済的な問題について楽観主義的な人は認知能力が低いという研究結果
物事をポジティブに考える楽観主義(楽天主義)は幸福や長寿のカギだとして自己啓発本などで称賛されており、多くの人は悲観主義よりも楽観主義の方に魅力を感じています。ところが、イギリスのバース大学が行った研究では、過度の楽観主義が認知能力の低さと関連しており、認知能力が高い人は悲観主義的な傾向があることがわかりました。
Looking on the (B)right Side of Life: Cognitive Ability and Miscalibrated Financial Expectations - Chris Dawson, 2023
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/01461672231209400
Optimistic thinking linked with lower cognitive abilities - new research
https://www.bath.ac.uk/announcements/optimistic-thinking-linked-with-lower-cognitive-abilities-new-research/
Financial optimism linked to lower cognitive ability
https://www.psypost.org/2023/12/financial-optimism-linked-to-lower-cognitive-ability-214927
これまでの研究から、人間は将来の収入や平均寿命などを過大評価する一方で、離婚や健康状態の悪化といったネガティブな出来事を過小評価する傾向があることがわかっています。より良い人生を送るためには、物事を客観的にとらえることが役立つはずですが、人々は依然として楽観主義に偏っているとのこと。
バース大学経営大学院の経済学准教授であるクリストファー・ドーソン博士は、「人々は環境から絶え間ないフィードバックを受けており、良い出来事と悪い出来事の現実的な確率を知ることができるにもかかわらず、なぜ人々は未来に対してずっと楽観的なのかという点に長年関心をもっていました。私にはこの観点から、楽観主義のような認知バイアスは認知能力と関連しているように見えました」と述べています。
ドーソン氏らの研究チームは、楽観主義が認知能力と関連しているのかどうかを調べるため、2009年~2021年にかけてイギリス全土の3万6312人が参加した年次調査・Understanding Societyのデータセットを分析しました。被験者らは、翌年についての経済的見通しについて尋ねられ、生活がより良くなると思うか、悪くなると思うか、今年と同じくらいだと思うかを回答しました。
研究チームは、これらの期待を実際の世帯収入の変化と比較し、インフレと世帯の規模を調整した上で、被験者らを「極端な悲観主義」から「極端な楽観主義」までのグループに割り当てました。また、被験者はさまざまなタスクを通じて記憶力・言語能力・計算・推論といったさまざまな認知能力も評価されたとのこと。
分析の結果、認知能力が高い人は自分の経済的見通しについて「極端な楽観主義」に陥る可能性がその他の人々より35%低く、経済的見通しについて「現実主義」である確率が22%高いことが判明しました。さらに、この関係は学歴などの要因を考慮した後でも当てはまったことから、認知能力と経済的楽観主義の関係は単に高等教育を受けたかどうかを反映しているわけではないことが示唆されました。
楽観主義が及ぼす影響は雇用や投資、貯蓄といった主要な金融問題に関する決定および不確実性を伴う選択において特に強かったとのこと。ドーソン氏は、「非現実的かつ楽観的な経済的期待は、過剰な消費と借り入れ、そして不十分な貯蓄につながります。また、過剰な事業参入とその後の失敗につながることもあります。起業して成功する確率はごくわずかですが、楽観主義者は常にチャンスがあると考え、失敗する運命にある事業を始めてしまうのです」と述べています。
認知能力が低い人ほど楽観主義になってしまう理由については、そもそも将来を正確に予測するのは困難な認知タスクであり、認知能力が低い人ほど予測に誤差が生じやすいのが原因かもしれないとのこと。
また、人間はもともと楽観主義であるように生まれついており、重要な財務上の決定を下す時に、認知能力が高い人ではこの生まれつきの反応に対処できているという考えもあります。認知の二重過程理論に基づけば、人間の思考は直感的で即効性のある無意識的な過程(システム1)と、分析的で遅効性の意識的な過程(システム2)があり、より高い認知能力を持つ人はシステム2の思考でシステム1の思考を上書きできるのかもしれません。
ドーソン氏は、「非現実的な楽観主義は、人間に最も広く浸透している特徴のひとつであり、研究によると人間は一貫してネガティブなことを過小評価し、ポジティブなことを過大評価します。ポジティブ・シンキングという概念は、私たちの文化にほとんど疑う余地もなく埋め込まれています。この信念を見直すのは健全なことでしょう」とコメントしました。
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