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ノートアプリ「Obsidian」を使いこなす

ローカル環境で動作し、Markdownで書いたノートをつなげるアプリ「Obsidian」とは

2022年10月に「1.0」というバージョンがリリースされたアプリObsidian⁠。このリリースはgihyo.jpでも記事として取り上げられ、非常に注目されています。

この記事では具体的にどのような特徴があるのか、他のノートアプリやMarkdownエディタと比較しながら紹介します。

Obsidian
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Obsidianとは何か?

Obsidianというアプリを紹介するとき、さまざまな説明が使われます。

  • ノートアプリ
  • メモアプリ
  • Markdownエディタ
  • PKM(Personal Knowledge Management)ツール
  • など

これらはいずれも間違いではありませんが、一言で表現するのは難しいものです。そして、一言で表現しようとすると、そのアプリの特徴を見誤る可能性があります。

Obsidianの公式サイトには「A second brain, for you, forever.​​」と書かれています。Evernoteというアプリの紹介に「第二の脳」という言葉が使われたことがありますが、どういった違いがあるのでしょうか?

よく使われる「ノートアプリ」の課題

個人的なノートを作成するとき、紙のノートに手書きで書いている人もいますが、最近では「ノートアプリ」を使う人が増えています。AndroidやiOSなどに搭載されているメモアプリもありますが、先ほど言及したEvernote以外にも、NotionやOneNote、Scrapbox、Google Keepなど、クラウドにデータを保存するノートアプリがあります。

クラウド上にデータがあると、インターネットにアクセスできればどこからでも使えるため、複数のパソコンやスマートフォンでも同じデータにアクセスできて便利です。一方で、これはデメリットにもなります。

データが手元にないため、インターネットに接続できない環境では中身を見ることができないのです。一昔前に比べるとインターネットは高速になりましたが、移動中で電波が届かなかったり、つながりにくかったりする場所はまだまだたくさんあります。さらに、ネットワークに障害が発生したり、サーバーに障害が発生したりする可能性もあります。

こうなると、短時間であっても自分のノートにアクセスできないのです。また、アクセスできたとしても、回線速度が遅いと表示されるまでに時間がかかります。

さらに、サービスそのものが終了する可能性もあります。⁠Evernoteが買収される」という報道がありましたが、現時点では問題なくても、ライバルの登場によって利用者が減少し、サービスの運営が成り立たなくなることもあるのです。多くのサービスでは、データをエクスポートする機能を提供していますが、エクスポートしたデータを他のサービスでそのまま使えるとは限りません。自分のノートなのに、そのノートが閲覧できなくなる可能性があるのです。

ローカル環境で動くObsidian

そこで登場するのが、⁠ローカル環境で動かす」という考え方です。データを手元のパソコンやスマートフォンに保存し、アプリも手元のパソコンやスマートフォンで実行します。これにより、インターネットに接続していなくても、自分のノートにアクセスできます。

そして、データはテキスト形式で保存しておきます。特殊なデータ形式で保存していると、アプリのサポートが終了してしまうと、そのデータを読み込めなくなってしまいますが、テキスト形式であれば、そのアプリが使えなくなっても、別のアプリにも容易に移行できます。

この考え方で開発されているのが、今回紹介する「Obsidian」です。作成したデータはITエンジニアが使い慣れている「Markdown形式」「ローカルに」保存します。そして、WindowsやmacOS、Linux、iOS、iPadOS、AndroidなどさまざまなOSに対応したアプリが提供されています。これらのアプリは個人の利用であれば無料で使用できます。

ローカルで動かすと問題になるのが「データの連携」「ハードウェアの故障」です。現在では1人で複数のコンピュータを使うことは当たり前になりました。このとき、データが連携できないと困ります。また、1台のコンピュータに保存していると、そのコンピュータが壊れるとデータが失われてしまいます。

これに対する解決策がファイル共有サービスの使用です。たとえば、Google DriveやiCloud、OneDrive、Box、Dropboxなど多くのファイル共有サービスが使われています。

これらを使うと、複数のコンピュータ間でデータを連携できますし、ハードウェアの故障にも対応できます。このようにして、インターネットに接続しているときにデータを同期しつつ、インターネットに接続していないときも自分のデータへのアクセスを担保できるようになるわけです。

さらに、ObsidianはMarkdown形式で保存するので、Gitなどとの相性が良いことも特徴です。ITエンジニアはGitやGitHubを使っていることが多いため、ノートのバージョン管理も兼ねてGitで管理する方法もあります。

さらに、有料ではありますがObsidianの公式が提供しているObsidian Syncというしくみも用意されてます。こういった機能を使えば、ローカル環境で動かしても、データの連携やハードウェアの故障はそれほど大きな問題ではないでしょう。

Obsidianの開発状況・利用状況

Obsidianは2020年に公開された、比較的新しいアプリですが、現在は世界中で使われています。EvernoteやNotionのように会員登録して利用するサービスではないため、実際の利用者数を調べることはできませんが、たとえば、Discord上のコミュニティObsidian Members Groupには、執筆時点で77,000人を超える利用者が参加しています。

先に述べたように、WindowsやmacOS、Linuxのアプリが公開されているだけでなく、2021年7月にはモバイルアプリが公開され、iOSやiPadOS、Androidにも対応しました。さらに、2022年10月には「1.0」というバージョンがリリースされました。

毎月のようにアップデートが公開されており、その度に新しい機能が追加されるなど、活発に開発が進められているアプリだといえます。

他のMarkdownエディタとの機能の違い

Markdownでノートを作成し、ローカルに保存できる、というだけであれば、同じような機能を持つアプリはたくさんあります。一般的には「Markdownエディタ」と呼ばれ、具体的には次のようなアプリがあります。

こういったツールに対し、Obsidianが備える機能との違いをいくつか紹介します。

ノート間のリンク

一般的なMarkdownではリンク記法が用意されています。たとえば、技術評論社のWebサイトへのリンクを作成する場合は、次のように記述します。

[技術評論社](https://gihyo.jp)

これにより、ノートをプレビューすると「技術評論社」と表示され、クリックするとWebブラウザで技術評論社のWebサイトを開けます。ただし、これは一方向のリンクであり、技術評論社のサイトからこのノートへのリンクがあるわけではありません。

しかし、自分の手元で複数のノートを作成したとき、逆方向にもリンクしたい場合があります。それぞれのノートにリンクを記入する方法もありますが、一方からリンクしたときに、逆方向にもリンクできると便利です。Obsidianだけでなく、一部のMarkdownエディタでは「ウィキリンク」という記法が用意されています。これは、Wikipediaで「Wikipedia内のリンク」に使われている記法です。

たとえば、⁠技術評論社」という名前のノートから「出版社」というノートにリンクするときは、⁠技術評論社」というノートの中に次のように記述します。

[[出版社]]

これで、技術評論社というノートから出版社というノートへのリンクが作成されます。これは「アウトゴーイングリンク」とも呼ばれ、他のノートに飛ぶことができます。このようなリンク方法は、多くのMarkdownエディタが備えています。

Obsidianでは、⁠出版社」というノートからも「技術評論社」というノートに自動的にリンクされます。これを「バックリンク」といいます。たとえば、さまざまな出版社についてノートを作成し、それぞれのノートから「出版社」というノートにリンクすると、⁠出版社」というノートを開くだけで、このノートにリンクしているノートの一覧を表示できるのです。これにより、一方向からリンクするだけでノートとノートが双方向にリンクされ、つながっていきます。

Obsidianでは双方向のリンクを設定できる
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階層型のタグ

多くのツールでは、ファイルをフォルダで管理します。これは階層的に管理できて便利な一方で、ノートをどのフォルダに格納すればよいのか悩む場面があります。たとえば、私が書いた『Pythonではじめるアルゴリズム入門』という本についてのノートを保存したい状況を考えましょう。

このとき、⁠/プログラミング言語/Python」といった階層のフォルダに格納する方法が考えられます。また、⁠/プログラミング/アルゴリズム」という階層のフォルダに格納する方法も考えられます。フォルダに格納するなら、1つのフォルダにしか格納できないため、両方を満たすことはできません。

そこで、タグを使う方法がよく使われます。たとえば、iOSの標準メモやScrapboxのようなツールではノートに「#Python」⁠#アルゴリズム」のようなタグを入れておけば、これがリンクになって、似たようなノートを検索できます。

しかし、このような単純なタグではうまく分類できないものもあります。たとえば、⁠#PHP」というタグをつけると、プログラミング言語のPHPだけでなく、月刊誌のPHPについてのノートも表示されてしまうかもしれません。

Obsidianでは階層型のタグを扱えます。具体的には、⁠#プログラミング言語/PHP」のようなタグを設定できるのです。同様に、⁠#プログラミング言語/Python」のようなタグをつけておくと、それぞれのノートが表示されるだけでなく、⁠#プログラミング言語」のように親の階層で検索したときにはいずれのノートも表示されます。月刊誌のPHPについては「#月刊誌/PHP」としておけば、プログラミング言語のPHPのノートが検索されることはありません。

ノートをフォルダで管理するのではなく、タグで管理でき、階層構造を作成することもできるのは便利です。

プラグインでの拡張

Notionのようなツールでは、便利な機能が最初からたくさん用意されています。これは便利な一方で、それを使いこなせていない人も多いでしょう。使わない機能があっても、それが候補として表示されてしまうため、それを使わない人には複雑に見えてしまう場合があります。

Obsidianでは標準で用意されている機能はシンプルです。シンプルといっても、ノートをMarkdownで書き、リンクを作成し、タグをつける、といった基本的な機能は備えています。それだけでなく、⁠プラグイン」を使うことで必要に応じて拡張できます。公式が用意している「コアプラグイン」だけでなく、世界中の開発者が開発して提供している「コミュニティプラグイン」があります。

こういったプラグインを導入することで、標準では用意されていない機能を簡単に追加できます。これにより、Obsidianをデータベースとして使う、スケジュール管理に使う、位置情報を地図で管理する、グラフを描く、などさまざまな使い方ができます。

具体的なプラグインの使い方などについては次回以降に詳しく紹介しますが、HTMLとCSS、JavaScript(TypeScript)を知っている人であれば、自分でプラグインを開発することもできます。

どのような用途で使うのがよいのか?

このような特徴があるObsidianをすべての人がノートやメモに使えばよいか、というと、それは違うと考えています。それぞれの人や使い方によって、向いているもの、向いていないものがあるためです。

以下は個人的な感想であり、今後のObsidianのバージョンアップによって状況が変わるかもしれませんが、ぜひ使い方の参考にしてみてください。

企業の情報管理や情報共有ならクラウド型

企業などの組織で複数人のメンバー間でノートを共有して編集するのであれば、クラウドで管理する方法が便利です。たとえば、NotionやScrapboxのようなツールは同時編集にも対応しており、初心者でも使いやすいでしょう。また、Markdownに慣れていないのであれば、ObsidianのシンプルなUIではどうやって書けばよいのか戸惑ってしまうかもしれません。こういった場合、NotionなどのサービスではMarkdownの書き方を知らない初心者でも更新できるメリットがあります。

このため、私も他の人と共有するノートについてはクラウド型のノートアプリを使っています。

個人のノートならObsidian

企業で使うのではなく、個人のノートであればツールは自由に選べます。もちろん、NotionやScrapboxを使う方法もありますし、他にも便利なツールはたくさんあります。

しかし、Markdownに慣れたITエンジニアであれば、Obsidianをおすすめしたいと考えます。一般的なMarkdownの記法はそのまま使えますし、プラグインを導入してカスタマイズすることにも慣れているでしょう。

そして、ローカルで軽快に動作することから、クラウド上のサービスのレスポンスに不満がある人にもおすすめできます。何よりも、上記で紹介したようなノート間のリンクや、階層型のタグでの管理に慣れると、他のアプリより便利だと感じる人が多いでしょう。

情報発信にも使えるObsidian

ObsidianにはObsidian Publishという有料プランが用意されています。これは、Obsidianで作成したノートをブログのように公開する方法です。

自分で取得した独自ドメインで、Obsidianで書いた自分のノートを公開できるのです。Markdownで記事を書くことに慣れていて、記事を公開するためにQiitaやZenn、ブログなどにコピー&ペーストしている場合、自分のObsidianのノートの中から公開したいノートを選択して公開できるのは便利でしょう。

自分のドメインで公開できるため、他のサービスの規約などで悩む必要もありませんし、サービス終了にも備えられます。


この連載では、Obsidianを使うときの考え方や、活用方法を解説していきます。次回は、Obsidianのインストールや基本的な使い方、便利なプラグインについて紹介します。

待ちきれない方は、拙著Obsidianノート術などをご覧ください。

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