Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

マネタイズとアウトプットを意識する~エンジニアの視点から考えるネットサービス:エンジニアブレークスルー#02レポート

エンジニアがどのようにしてブレークスルーしていけるか

エンジニアブレークスルーは、その名のとおり「エンジニアがどのようにブレークスルーしていけるか」をテーマに、株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ 山崎徳之氏を中心にスタートした活動。10月7日に、スタートアップデイティングの一企画として第1回が開催され、今回初の単独開催として、第2回目開催の運びとなった。今回は二部構成で、一部がパネルディスカッション、二部がパネリストと参加者の交流を兼ねたエンジニア査定大会が実施された。

イベントの企画者でもあり、モデレータを務めた山崎氏。
イベントの企画者でもあり、モデレータを務めた山崎氏。

エンジニアの視点から考えるネットサービス

今回のパネリストは以下の通り。

  • 米林正明 氏(株式会社Abby)
  • 閑歳孝子 氏(株式会社ユーザーローカル)
  • 和田修一 氏(株式会社ロケットスタート)
  • 和田裕介 氏(株式会社ワディット)
  • 天野仁史 氏(オーマ株式会社)
  • 並河祐貴 氏(株式会社サイバーエージェント)
  • 小林 隆 氏(株式会社ブレインパッド)
  • 堀 邦明 氏(フリーランス)
  • 福永康司 氏(fkoji.com)
  • 佐藤一憲 氏(有限会社スティルハウス)

第1回目から7名が再登壇し、和田(裕)氏、天野氏、堀氏が、今回初登壇となった。

前回に引き続き、モデレータは山崎氏が務めた。

左手前から右に向かって、和田(裕)氏、和田(修)氏、閑歳氏、米林氏。
左手前から右に向かって、和田(裕)氏、和田(修)氏、閑歳氏、米林氏。
右手前から左に向かって、天野氏、並河氏、小林氏、堀氏、福永氏、佐藤氏。
右手前から左に向かって、天野氏、並河氏、小林氏、堀氏、福永氏、佐藤氏。

「ゴール=作ること」から「ゴール=使ってもらうこと」

オープニングの自己紹介は閑歳氏から。現在、⁠なかのひと」⁠Twitraq」などの開発・提供を行っている立場から、⁠以前は作ることがゴールになりがちだったのですが、最近は、ユーザ向けのサービスを提供するようになり、継続的に使ってもらうこと、そして、何かしらの対価を発生させることをゴールとして意識するようになりました」とコメントした。これは、職業としてのエンジニアとして見た場合に、非常に重要なポイントと言えよう。

一方、さらにユーザ目線の立場でコメントしたのが、Meity.jpの作者でもある福永氏。⁠僕がいつも考えているのは、便利なもの。便利なツールを作ることを目指しています。便利なツールというのは、それ以上に便利なツールが現れない限りずっと使ってもらえるから。単に人が集まる(一過性の)サービスだと飽きられて終わってしまいますね」と、やはり別の言い回しから、使ってもらうサービス/ツールを作る重要性を訴えた。

企画屋とエンジニアの違い

引き続き、オープニングの自己紹介が進む途中、モデレータの山崎氏から「もう少し対象を狭めて、エンジニアが考える(エンジニアならではの)サービスってどう?」という問いに対し、株式会社ワディット和田(裕)氏から、次のようなコメントが述べられた。

「エンジニア視点っていうのは、つまるところ、企画屋と技術者の違いじゃないでしょうか。つまり、実装技術を知っているかどうか。エンジニアの場合、技術の裏付けから企画が上がってきます。たとえば、位置情報を使えるとこういうことができるとか、スマートフォンを対象にするならここまでできる、とか。

一方で、企画屋、あるいはデザイナーまで幅を広げたとき、その視点で提案される企画の多くは⁠できるかどうかはわからないけど面白そう⁠というのが裏側にあります。これは重要で、できることにだけ縛られてもいけないと思いますね。

ただ、どちらが良いか悪いかではなくて、ようはニーズからのアプローチ、アイデアからのアプローチさまざまなものがある中で、エンジニアは実装できることを知った上で作れることが特徴になります」という、自身の経験を踏まえたメッセージが述べられ、パネリストからも多くの賛同が得られていた。

エンジニアのパートナー

その話の延長線で、⁠ではエンジニアが組むとした場合、どういうポジションがいいのか」という話になり、和田(裕)氏から、⁠nanapiは、和田さんと古川(kensuu)さんの二人でやっていると思いますけど、仲の良い二人でやるという組み合わせは?」という質問が投げかけられた。

これに対し、nanapiのCTO和田(修)氏は「もともとnanapiは、僕と古川、そしてデザイナーの山田(purprin)さんの3人で考えたサービスで、とくに古川と僕が中学時代からの同級生でもあり、その点で意思疎通がしやすかったですね。気心を知れているやりやすさは実感しています。

それ以上に、この二人でやっていて実際に良かったと思うのが、二人とも一度会社に属している経験がある(和田(修)氏は楽天、古川氏はリクルート)ことです。これは、仕事をするにあたって、収益をどう上げるか、自分のコストはどうなのか、そういった点を見られたこと、結果として意識できていること、それが今の仕事に繋がっています」と、二人の関係に加えて、企業を経験したことの強みをアピールした。

これに近いコメントとして、現在フリーランスとして活躍している、元Yahoo! JAPANのトップページを担当していた堀氏からも、現在手がけているハンドメイドコミュニティcoobooの経験に紐づく体験談が話された。

「僕もnanapiに似ている感じで仕事をしていて、それが今手がけているcoobooです。僕の場合、パートナーもエンジニアなのでエンジニア同士で作っていることになりますが、僕自身Yahoo! JAPANのトップページという、シビアな環境を体験していることが非常に大きな財産になっています。それと、エンジニア同士で仕事をすることのメリットは、⁠機能などの)取捨選択をしなければいけないときに、ロジカルに議論できることですね」と、エンジニア同士でサービスを作るメリットを取り上げていた。

技術力だけがエンジニアの資質ではない

ここまでの展開で、エンジニアたる意味、エンジニアの強みに関して「モノを作れる」という部分が明確になってきた。これに対し、エンジニアでもあり経営者でもある株式会社Abby米林氏はこう述べる。

「今までの話は、自社サービスに限らず、受託業務にも当てはまることです。エンジニアの強みは自身の技術力。ただ、僕が最近感じているのは⁠見せびらかすための技術⁠であってはいけないということ。モノを作り出すために、技術的好奇心、向上心はなくしてはいけませんが、エンジニアがモノを作るのは、本来⁠人に使ってもらう⁠ため。技術面だけに眼を向けるのではなくて、使ってもらう人に使ってもらいやすいことを意識することが重要です⁠⁠。

この意見に対して、これまで大企業からベンチャー企業まで、さまざまな規模でエンジニアを経験しているオーマ株式会社の天野氏からはこういう意見も出た。

「技術を突き詰めたいか、収益(利益)を求めたいか、この選択というのは大事ですね。僕の経験からは、技術を突き詰めたいのであれば大企業に所属することを勧めます。大企業であれば、⁠エンジニアが)技術を突き詰めていく余裕があるからです。

ただ、僕自身は途中で技術を突き詰めることに面白みを感じなくなって、それで収益を目指しつつ、技術を活かす、エコシステムなサービスを作りたくなって転職しました」と、自身の経験に、今の自身の気持ちを交えた本音を聞くことができた。

目的を意識する

一方、大企業から大企業への転職を行い、現在株式会社サイバーエージェント(CA)にて、おもにアメーバピグを担当している並河氏は「私はインフラエンジニアという立場にいて、SEと一緒に仕事をする機会が多くあります。さらにCAでは、自分で責任を持てる範囲でどんどん挑戦できる環境があるので、アグレッシブに開発しやすいですね。ただ、ビジネスにも直結しているので、目的を失わないようつねに心がけています。たとえば、アメーバピグが1時間ダウンしたらどのぐらいの損失になるか、などリスクを見積もった上で目的を意識していますね」と、技術的挑戦の中にもビジネス的な観点は忘れてはいけないという、米林氏に近い発言がなされた。

最近面白いサービス

ここで、モデレータの山崎氏から「最近面白いと思ったサービスや技術は?」という質問が出され、話が転換した。

これにすぐ答えたのが和田(裕)氏。

「やっぱりiPhoneですね。iPhoneのリアルにつながる感覚が面白い。僕自身、リアルなものを助けるサービスを作りたいと思っています。たとえば、Ustream.tvなんかはイベント中継というリアルとネットを繋ぐサービスの典型ですよね。こういう、コミュニケーションの質が異なるものを繋げるものに注目しています。たとえば、iPhoneアプリのBumpのように、ネットの距離を越える、会ったときの衝撃を体感できるものです⁠⁠。

位置情報、課金、ソーシャル

また、閑歳氏は、メディアを通じて2010年のサービストレンドを分析したそうだ。

「私はこの1年のアメリカのTechCrunchの記事を見て、どんなサービスが生まれて、どんなサービスが流行り、どんなサービスにVC(ベンチャーキャピタル)が注目したのか、それを調べてみました。全体を通じてわかったのは、2010年は⁠位置情報⁠⁠課金⁠⁠ソーシャル⁠⁠、このいずれか、あるいはすべてが関係したサービスがほとんどだということ。真の意味で新規のサービスは皆無だったと言っても過言ではありません。言い換えると、再発見のサービスが多かったわけです。グルーポンはその典型とも言えて、これまでも共同購入のサービスはあったと思いますが、今のような爆発的な普及はありませんでした。

そう考えると、何でも新しいものを探し出すのではなく、これまでのアイデアを見直してみるのも面白いですね⁠⁠。

モデレーターの山崎氏も「たしかに新しい技術やサービスって注目されがちだが、実は使われなかったりもするわけで。私は今のARと3Dテレビがそれなんじゃないかと思っています。逆に周辺から過度の期待が掛かりすぎている状況でもあり、その点が(サービスとして潰れてしまわないか)不安です」と、新技術だけに眼を向けることの難しさを指摘した。

その流れで天野氏も、⁠その(見直されたサービスでブレークしたものの)典型はクックパッドではないでしょうか。もともと1997年から始められていたサービスですが、ブレイクという意味では今年だと思っています。ノートパソコンやスマートフォンの普及、キャリア側のパケホーダイといった環境の整備、こういう複合的な要素が合わさってユーザに浸透することがあります。これはエンジニア目線とはまた違う判断が必要なのかもしれません」⁠新技術や面白い技術を使ったサービス⁠と、⁠使われるサービス⁠の相違点について自身の考察を述べた。

会場の様子はUstream.tvを通じて中継されていた。
会場の様子はUstream.tvを通じて中継されていた。

クラウドの面白さ

これまでアプリレイヤ、サービスレイヤに関する発言が多かった中、現在、Hadoopなど大規模分散技術やクラウドコンピューティングに関係した業務を行っている株式会社ブレインパッドの小林氏がクラウドコンピューティングに関して述べた。

「僕が今面白いと思っているのは、やっぱりクラウドの世界。2、3年前から技術的に登場してきて、最近では使うのが当たり前と言っても言い過ぎではありません。とくにエンジニアにとっては、実際にサーバを買わなくても環境を構築できますし、ビジネス面でも見積もりや納期といった概念から逃れられる点で、今のWebに大きな影響を与えていると思います。昨今のソーシャルアプリブームなんかは、クラウドがなければ生まれなかったのではないでしょうか⁠⁠。

さらに有限会社スティルハウス佐藤氏も「大規模システムを開発するときに参入障壁がいくつかあるが、クラウドの登場により技術力によってその障壁を取り払えるなど、技術的な貢献がしやすい時代になったと思います」と、クラウド登場の意義について述べた。

ソーシャルはいずれプロトロルレイヤに落とし込める?

先ほどの閑歳氏が述べた要素の1つ、⁠ソーシャル⁠に関しては、天野氏が面白いコメントをした。

「今はソーシャルネットワーク全盛の時代ですが、いずれはソーシャルネットワークそのものがプロトコルと同じレイヤに落とし込めるんじゃないかと思っています。その点で、プラットフォームごとに何かを考えるより、たとえばApacheのようにオープンな技術に集約していくほうがいいですね。Facebookは注目されていますし、僕自身とても好きなサービスですが、Facebookに支配されて良いのか、ということには疑問を感じています⁠⁠。

また、ソーシャルサービスに関して、エンジニアならではのコメントをしたのが和田(裕)氏。

「今、ソーシャルサービスというとTwitterとFacebookという2つに注目が集まっていますが、どちらを好むかっていうのはサービスの思想をどう感じるかみたいなものですね。極端に言うと、⁠CUIが好きかGUIが好きか⁠みたいな(笑⁠⁠。たぶんエンジニアとして燃えるのはTwitter(CUI)ですね(笑⁠⁠」と、UIから見たサービス比較が行われた。このあたりは、エンジニアの気質にも関係していると言えよう。

受託開発とサービス開発

次は受託開発とサービス開発という、業務的な立ち位置の違いから見たエンジニアの仕事に関するディスカッションが行われた。

その中で、自社サービスcoobooを立ち上げた堀氏からは、⁠実際のところ金銭面ではまだまだ結果が出ていなく、ビジネスとしては成立していないのが現状です。それでも、coobooを見て仕事を発注したいと思ってくださる方や、また僕自身にインタビューをしていただく機会が増えているので、独自のサービスを開発することは、長期的な面でメリットが出てくるように思います」と、大手サービスから独立して新規サービスを開発したことの違い、またそこでのメリット・デメリットについて述べた。

一方、受託サービスをするメンバーからは「収益については予測しやすい」⁠時間的制約がある」など、多くの意見が「受託開発の場合、発注者ありきのためにどうしても優先度が発注者側の要望になりがち」という、受託開発=受身というコメントが多かったのだが、モデレーターの山崎氏から、それに対して真っ向から異なるコメントがなされた。

「最近、受託開発よりサービス開発のほうが面白かったり、技術的に取り組みやすいという風潮があるように感じていますが、自分がオン・ザ・エッヂに在籍していたころは、受託開発のほうが意識が高かったり、プライドを持ってやれる仕事の位置付けだったんです。今の場合、受託の良さっていうのは手段としてのポジティブさはあるが、積極的に受託で開発したいという理由が少なくなっているのかもしれないですね」と、最近の経済市況やインターネット業界全体の動きから、受託開発とサービス開発の位置付けが変化していることを示唆した。

さらに山崎氏は、受託開発の印象が現在のようになってしまった理由として見積もりの問題点を指摘した。⁠現在の人月換算による見積もりというのが、大きな問題点の1つ。本来ならば、素晴らしいサービスを短い期間で開発すれば、価値としては非常に大きいはず。ところが、現在の受託開発の世界では、たくさんの人数でたくさんの期間をかけて開発するほうが見積もり額が多くなり、結果として大きなビジネスになっている。これは受託が悪いというわけではなく、発注者側の見積もりの仕方が問題」と、受託開発での見積もり方法に対する問題提起もなされ、パネリストや会場から多くの賛同を得ていた。

埋もれないような“計算高さ”を身に付ける

山崎氏から、最後のテーマとして「エンジニアにも計算高さは必要か?」という質問が、全パネリストに向けて問いかけられた。これは、つまり、エンジニアとして仕事をしていく上での立ち回り方、やりたいことをやるためにどうするかという意図の質問だが、それぞれが異口同音に「アウトプットをすることの重要性」を述べた。

たとえばid:rx7の名前でブログを解説している並河氏は「ブログを通じて書籍執筆の依頼が来たり転職につながった」など実体験からのメリットを紹介した。また、和田(裕)氏は「ブログを通じてdankogai(小飼弾氏)に会うきっかけができたり、また、僕自身エロギークという呼び名を自分でアピールしていたら、それが自己ブランディングにつながり、名前が伝わるようになりました。そして、名前が売れて人に見られる機会が増えると、賛同する人、批判する人がどんどん増えていく。これは非常にありがたいことで、人に見られることで自身の成長にもつながっていくのです」と、ブログをはじめとしたネット上での発言の重要性を力強く述べた。

マネタイズとアウトプット

最後にモデレーターの山崎氏から、今回のパネルディスカッションのまとめとして、⁠収支」「アクティビティ」の2点が挙げられた。エンジニアといってもただ技術力と追求するだけではなく、収支を意識した開発していくこと、すなわちマネタイズが重要であり、また、そのためには自身のプロモーション、その手段としてソーシャルを利用したアクティビティを積極的に行っていくことが大切ということだ。

まもなく2011年を迎えるが、これからのエンジニアとして活躍するには何が大切なのか、どういう活動をすれば良いのか、そのヒントを掴むことができたパネルディスカッションだった。

スポンサー企業のAmazon Data Services Japan株式会社から、AWSの最新動向が紹介された。写真は同社マーケティングマネージャーの小島英揮氏。
スポンサー企業のAmazon Data Services Japan株式会社から、AWSの最新動向が紹介された。写真は同社マーケティングマネージャーの小島英揮氏。
フードスポンサーの宅麺.comからは、宅麺の紹介と会場参加者全員に宅麺チケットが配布された。
フードスポンサーの宅麺.comからは、宅麺の紹介と会場参加者全員に宅麺チケットが配布された。

エンジニア査定大会

パネルディスカッション、スポンサーセッションのあとは、懇親会を兼ねたエンジニア査定大会が実施された。参加者自らが用意した自己分析シートを手に、パネリストたちに自分のエンジニア力の査定をしてもらったり、また、情報交換をしたりと、さまざまな交流がなされた。

シートを片手に査定をしてもらう参加者。
シートを片手に査定をしてもらう参加者。
テーブルに座り、じっくり話し合っている姿も。
テーブルに座り、じっくり話し合っている姿も。
今回のイベントをサポートしたリス&サンタの衣装を来たスタッフ。中央は企画者の山崎氏。
今回のイベントをサポートしたリス&サンタの衣装を来たスタッフ。中央は企画者の山崎氏。

おすすめ記事