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CO₂出さない「グリーン」な水素や鉄鉱石、アンモニア、豪州で増産へ 輸出戦略も

World Now 更新日: 公開日:
世界最大級のアンモニア工場の外観=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影
世界最大級のアンモニア工場の外観=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影

オーストラリアの南オーストラリア州は、メガバッテリーを用いて再生可能エネルギー100%をめざしています。さらに再エネを使った「グリーン水素」の製造を進めています。西オーストラリア州でも「グリーン水素」や「グリーンアンモニア」の製造をビジネスチャンスととらえ、新たな再エネ利用を始めています。(佐々木凌)

南オーストラリア州では、電力の安定供給と再生可能エネルギーの活用のためメガバッテリーの次に力を入れるのが、水素の製造だ。目的は水素で再生可能エネルギーを貯めることだ。水は装置(電解槽)に入れて電気を通すと、水素と酸素に分解できる。逆に水素と酸素を化学反応させたり、燃やして蒸気でタービンを回したりすれば電気をつくることができる。再エネの電気を使ってつくった水素は、製造の時にも使用の時にも二酸化炭素を出さないため「グリーン水素」と呼ばれる。

同州では2026年に、世界最大級となる250メガワットの電解槽と、出力200メガワットの水素発電所の運営を開始する。再エネの電気が余っているときにグリーン水素をつくり、足りない時に発電に使うことで、これまで天然ガス(火力発電)が担ってきた調整機能を水素に置き換えるイメージだ。

同州政府の水素事務所トップのサム・クラフターさんはこう説明する。「(同州の)メガバッテリーでは充電が必要になるまでに最大2時間連続して電力を供給できるが、水素に変えてから発電に使えば、微調整もしやすい。この水素発電所では連続4時間以上供給でき、さらなる安定供給につながる」

再エネを「輸出資源」に

オーストラリアの中でも特に資源の輸出が盛んな西オーストラリア州では、グリーン水素を使って再エネを新たな「輸出資源」にする取り組みが進んでいる。

赤い大地が広がる同州ピルバラ地域を、5月下旬に訪れた。少し歩いただけで、靴の裏が赤茶色になる。土が赤いのは鉄分を多く含んでいるからだ。この地域は世界最大の鉄鉱石の生産地で、日本の輸入量の約半分はピルバラ産だ。

赤い大地が広がるピルバラ地域=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影
赤い大地が広がるピルバラ地域=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影

ピルバラ地域の北部にあるポートヘッドランド港は、やはり世界最大の鉄鉱石の輸出港だ。ばら積み貨物船には、ベルトコンベヤーで鉄鉱石がいっぱいに入れられ、日本や中国などへ向けて次々と出港していく。その近くでは、新たな桟橋の建設が進められていた。

西オーストラリア州のポートヘッドランド=Googleマップより

「風力発電の羽根を輸入して運び入れるための桟橋だ。ピルバラは風が吹き、日差しも強く、何より土地があり余っている。再エネをつくるには世界で一番いい場所かも知れない」と地元港湾局の局長サミュエル・マクスキミングさんは説明する。

世界最大の鉄鉱石輸出港のポートヘッドランド=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影
世界最大の鉄鉱石輸出港のポートヘッドランド=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影

ピルバラ地域は、電気が足りていないわけではない。それでも再エネ導入を急ぐのは、そこに「ビジネスチャンス」を見いだしたからだ。再エネの電気そのものを国外に輸出することは難しいが、グリーン水素を使った加工品を新たな輸出品にして産業を発展させようというのだ。

例えば、鉄鉱石。現在は主にそのまま輸出しているが、グリーン水素を使って現地で鉄鉱石から酸素を取り除いて(還元して)から輸出すれば、製鉄の過程で二酸化炭素の発生が抑えられる「グリーンスチール」になり、付加価値がついて高値で売ることができる。

ピルバラ地域には世界最大級のアンモニア工場がある。そこでは「グリーンアンモニア」の製造に向けた動きも進んでいる。

肥料メーカー・ヤラ社(本社ノルウェー)の現地法人が運営するこの工場では、世界で使われる肥料用アンモニアの約5%を生産。外観は配管が入り組み、大きな音がして煙が立ち上る工場のすぐ隣の空き地には、太陽光パネルを設置するための支柱が並んでいた。

アンモニア工場の全景。工場手前側に太陽光パネルを設置する予定だ=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影
アンモニア工場の全景。工場手前側に太陽光パネルを設置する予定だ=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影

アンモニアは大気中の窒素を取り込んでつくるが、製造には水素が必要になる。現在は、天然ガス由来の水素を使っていて、取り出す際に膨大な二酸化炭素が出る。そこで、数千枚の太陽光パネルで計18メガワットを発電。その電気でつくったグリーン水素で「グリーンアンモニア」をつくる計画が進んでいる。今年中の製造開始に向け、準備の真っ最中だ。

再生可能エネルギーの電気で水素やアンモニアができる過程のチャート図

工場で使う水素のうち、この計画で製造できるグリーン水素は約1%と量は少ないものの、将来的な拡張も視野に入っているという。グリーン水素の製造は日本の三井物産とフランス電力大手の合弁会社が担う。アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を出さないことから、火力発電の燃料としても注目されている。このプロジェクトには、連邦政府、州政府も出資している。

アンモニア工場の空撮=ヤラ社提供
アンモニア工場の空撮=ヤラ社提供

同州では他にも、グリーン水素の製造や利用のプロジェクトが30以上あり、州政府は関連事業も含めて約9000万豪ドル(約88億円)を出資している。計画が順調に進めば水素を製造するための再エネによる発電量は、2040年までに大幅に増える見込みという。

ただ、現時点ではグリーン水素そのものを輸出できる態勢にはない。アンモニアであれば零下33度以下で液化して、船で大量輸送することが可能だが、水素を液化するには零下253度以下の極低温にすることが必要だ。さらなる技術やコストの問題から、当面はピルバラ地域をはじめ州内の工場での加工などに使い、アンモニアなどに形を変えて輸出することになる。

だが、西オーストラリア州政府は、将来的にはグリーン水素そのものを新たな輸出品の柱として育てたい考えだ。2030年までには水素そのものの輸出で、現在のLNG(液化天然ガス)と同じ、世界シェア12%を達成することをめざす。ロジャー・クック州首相は力を込める。

「我々は次のステップに行きたい。再エネの一大産地、グリーン水素の供給者として、世界の脱炭素化を後押ししたい」

オーストラリア・西オーストラリア州のロジャー・クック首相
西オーストラリア州のロジャー・クック首相=2024年5月、西オーストラリア州、佐々木凌撮影