- ふとして、ぼくは粘膜の張ったゼリーのような恐怖に耽溺することをやめた。眼の前には彼女がいた。
彼女は凡そぼくが呼び止めるに相応しくない瑞々しさを細胞膜から発しながら、「おまたせ」と言った。手の指を見る、色はついて見える。
別段色がついてみえるかどうかはどうでもよいのだった。それは比喩に過ぎないお話であった。ただ、ぼくは自分の指の先からこぼれ落ちる現実性を掬い上げる方法を模索して、その結果が彼女なのだった。
別にこの赤い髪はぼくの伴侶になることをある種運命づけられているとかではなく、とりわけ何があるというわけでもないのに遊んでくれるのだった。彼女はいいな、と思う。なぜなら、そんなことしてる余裕があるのだから。ぼくの方にはさしたる余裕はなかった。ただ、彼女と会話したかった。
透明への恐怖は想像を絶する。ちょっと君も考えてみるといい。もし、自分が脚の先から全くの透明になってしまうとしたら。
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