日本では古くから建物に使われてきた木材。木造住宅は現在でも一般的であり、日本で暮らす人々にとっては馴染み深い。そんな木材に注目し、世界最大規模の「木造都市」を建設する計画がスウェーデンのストックホルムで進められている。
スウェーデンの大手不動産会社・Atrium Ljungberg(アトリウム・ユングベリ)は、2023年6月に「Stockholm Wood City(ストックホルム・ウッド・シティ)」の計画を発表した。
ストックホルム南部の25ヘクタールを超える広大な敷地に、2,000戸の住宅と7,000カ所のオフィススペース、レストランや店舗の建設が予定されている。建物はもちろんすべて木造で、2025年に着工し、2027年に最初の建物が完成予定だ。樹木を多く植えるなど、自然の要素を多く取り入れ、まるで森の中にいる雰囲気を感じるように設計されているという。
木材は、鉄やコンクリートよりも断熱性に優れ、大量のCO2を吸収できる。建築目的で1トンの木材を加工する際に発生するCO2排出量は、セメントや鉄鋼よりもはるかに少ない。一部の専門家は、木造建築がもたらす火災リスクについて懸念を示しているが、使われる木材は防火処理されており、安全面でも問題ないという。
Europa Property紙によると、同社のアニカ・オーナス最高経営責任者(CEO)は、「スウェーデンのイノベーション力を示す、歴史的なマイルストーンになる」
と語っている。CNNも「これほど大規模な変革には、森林破壊を引き起こさないよう、持続可能な植林が必要だ。だが、スウェーデンは国土の70%近くが森林に覆われており、木材を使用したイノベーションに適した国」
と報じている。
だが、木材は本当の意味で持続可能なのだろうか。
スウェーデン森林産業協会によると、毎年スウェーデンの森林の約1%が伐採されており、2000年以降でデンマークの面積を上回る原生林を失っている。ほとんどの伐採地は、60年から80年後に再び伐採できるよう、単一種の人工林に植え替えられている。しかし、多くの環境保護活動家や先住民族サーミのトナカイ飼いたちは、このモデルの見直しが急務だと主張している。
一度、原生林が失われてしまった場所の生態系は、劇的に変化する。そして、もう二度と元には戻らないだろう。
木材は、たしかに建築素材としては環境に優しく、持続可能と言えるだろう。だが、その原料となる木の伐採や、その後の植林、生態系への影響まで考えると問題は複雑になり、環境のみならず人々の生活への悪影響も懸念される。
こんなときこそ、安易に近視眼的な解決策に飛びつかないように、関係者同士が真摯に向き合った対話や、事実に基づいた議論、お互いの価値観を理解する寛容さなどが必要ではないだろうか。ストックホルムの木造都市では、いかに市民の声が反映され、森林の持続可能性が証明されるのか、注目していきたい。
【参照サイト】The world’s largest wooden city announced in Stockholm, with construction start in 2025
【参照サイト】Sweden is building the largest wooden city in the world
【参照サイト】The largest wooden city in Sweden will be built in 2025
【参照サイト】THE WORLD’S LARGEST WOODEN CITY IS COMING TO SWEDEN
【参照サイト】‘Forests are not renewable’: the felling of Sweden’s ancient trees
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Edited by Megumi