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ホイップクリーム英語: whipped cream)は、泡立て器ハンドミキサーを用いて空気を多く含んで軽くなるまで泡立てられた(牛乳から作る)クリーム。ホイップクリームは、甘味を加えることが多く、バニラの香りが添加されることもあり、シャンテリークリーム英語: Chantilly cream)、クレーム・シャンティイフランス語: crème chantilly発音: [kʁɛm ʃɑ̃tiji]))と称されることもある。

ホイップクリーム
バラの形に盛りつけたホイップクリームをトッピングしたパンプキンパイ
種類 クリーム
主な材料 クリーム
派生料理 クレーム・シャンティ
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
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ただし、日本語では、こうした本来の意味のホイップクリームの材料となるものを「純生クリーム」と呼び、それに対して、牛乳ではなく植物性油脂から製造する代替品(後述の#イミテーション)を「ホイップクリーム」とし、呼び分けることがある[1]

英語の「whip」は「泡立てる」という意味[2]。もとは「速く強く動かす」という意味の動詞で、その語源は13世紀中頃に遡り、14世紀初め頃からは名詞の「」の意味でも用いられた。料理法に使われるようになったのは1670年頃のことである[3]。「whipped」はその過去分詞形であり[4]、「泡立てた」を意味する。

食品化学

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30%以上の乳脂肪分を含むクリームが、空気を含むように撹拌されると、コロイド状となり、脂肪の滴の連なりの中に空気が泡状に含まれることで、撹拌前の体積の倍ほどのかさになる。しかし、それ以上さらに撹拌を続けると、脂肪の滴はコロイドを壊して密着し、バターとなる。乳脂肪分の低いクリーム(ライトクリーム)や牛乳は、撹拌しても同様にはならず、脂肪分の高いクリームが、安定した泡を形成する[5]

ホイップクリームの物性上の特徴は、乳脂肪分の比率や撹拌時間だけでなく、添加物[6]や撹拌前の温度処理[7]などによって変化することが知られている。

撹拌の方法

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クリームは通常、泡立て器や、電動ないし手動のハンドミキサー、ないしはフードプロセッサーで撹拌される。

ホイップクリームは、砂糖バニラコーヒーチョコレートオレンジ、その他のものによって、風味が添加される[8]19世紀レシピの多くは、ホイップされた泡を安定させるためにトラガカント英語版・ガムを加えることを勧めており[9]、いくつかのレシピではホイップした卵白を加えるよう勧めていた。その他にも、ゼラチンピロリン酸塩が、泡を安定させる添加物として商業的に使用されていた[10][11][12][13]

 
加圧されたスプレー缶で作ったホイップクリームを載せたホット・チョコレート

ホイップクリームは、「ホイッピング・サイフォン (whipping siphon)」と称される製造機でも作られるが、多くの場合、泡を作る気体には亜酸化窒素が用いられるが、これは二酸化炭素を用いると酸味が出やすくなるためである[14]。サイフォンは、 ホイップクリーム・チャージャー英語版カートリッジを取り替えることができるようになっているか、最初から加圧された気体が充填されたスプレーとして小売りされる。加圧された状態では、気体は乳脂肪分の中に溶け込んでいるが、圧力が解放されると気泡が形成され、ホイップクリームが出来上がる。

撹拌を高圧のもとで行なうと空気がより効率よく混ぜ込むことができ、ホイップクリームの撹拌に要する時間を短縮できるため、この原理を応用した撹拌器も開発されている[15][16]

歴史

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しばしば甘味や香料を添加したホイップクリームは、既に16世紀には人気を博しており[17]クリストフォロ・ディ・メッシスブーゴフェラーラ1549年[18]バルトロメオ・スカッピ英語版ローマ1570年[17]ランスロ・ド・カストー英語版リエージュ1604年[19]などによる記述に、様々なレシピが残されている。当時は、「牛乳の雪 (イタリア語: neve di latteフランス語: neige de lait)」と呼ばれていた[20]1545年英語によるレシピ「皿いっぱいの雪 (A Dyschefull of Snow)」では、卵白も一緒にホイップし、ローズウォーター砂糖で風味を付けると指示されていた[21]。こうしたレシピや、19世紀末までのやり方では、自然に分離したクリームを、ヤナギの枝やイグサ類の茎などを用いてホイップし、表面にできた泡を少しずつ掬いとって残りの液体を流すという作業を、1時間以上も繰り返していた[5]19世紀末に、セパレーター英語版が登場して脂肪分の高いクリームができるようになると、ホイップクリームづくりは、遥かに手早く、簡単にできるようになった。フランス語でホイップクリームを意味する「クレーム・フーエッテ (crème fouettée)」は1629年に使用されており[22]英語の「whipped cream」は1673年の用例がある[23]。「スノー・クリーム (snow cream)」という表現も、17世紀まで使用されていた[24][25]

コーヒーリキュールチョコレート果物など、様々なデザートには、ピラミッド状に盛られたホイップクリームが添えられ、あるいは混ぜられ、あるいは上に盛りつけられて、「クレーム・アン・ムース (crème en mousse)」(「泡だらけのクリーム」)とか、「クレーム・フーエッテ」、「クレーム・ムーシューズ (crème mousseuse)」(泡立てたクリーム)、「ムース」(泡)などと称され[26]、さらには「フロマージュ・ア・ラ・シャンティイ (fromage à la Chantilly)」(シャンティイ 風のチーズ)とも称された[27][28]。チョコレート・ムースなど、現代のムースは、こうした伝統を受け継いだものである。

亜酸化窒素を使ってクリームをホイップする ホイッピング・サイフォンは、1930年代に、チャールズ・ゲッツ (Charles Getz) (GFSケミカルズ英語版のG・フレデリック・スミス (G. Frederick Smith) と一緒に開発にあたっていた)と[29][30]、マーシャル・レイネック (Marshall Reinecke) が[31]、同じ時期に発明した。両者とも特許を申請し、法廷での争いとなった。初審では、ゲッツの特許は無効とされたが、控訴審ではゲッツの特許が認められた[14]

クレーム・シャンティイ

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Crème Chantilly

クレーム・シャンティイ (Crème Chantilly)」は、ホイップクリームの異称である。「ホイップクリーム」と「クレーム・シャンティ」の違いは、明確なものではない。両者を別のものと扱う書き手たちは、甘味をつけたものをクレーム・シャンティ、付けていないものをホイップクリームとしている[32]。しかし、大部分の書き手は、両者を同義語として扱っており[33]、いずれにも甘味が加えられているとされるか[34][35]、いずれにも甘味が加えられていなくてもそう呼ばれるとしている例もあり[9][36]、甘味は入れても入れなくてもよいとする説明もある[37][38]。多くの書き手たちは、ふたつの表現の一方だけを、甘味が加えられたもの、ないし、加えていないものについて、使っているので書き手たちが意図的な使い分けをしているか否かは判然としない[39]

クレーム・シャンティを発明したとして、しばしば不正確に、証拠もなく言及される人物であるフランソワ・ヴァテールは、17世紀半ばにシャンティイ城メートル・ドテルを務めていた[40][41]。しかし、シャンティ(シャンティイ)の名をホイップクリームに結びつけた表現が初出するのは18世紀半ばのことであり[42]、同じ頃にはオーベルキルヒ男爵夫人ドイツ語版が、アモー・ド・シャンティイフランス語版で昼食に出されたクリームを誉め称えているが、それについて詳しいことも述べていないし、シャンティに関わる名での言及もしていない[43][44]

「クレーム・シャンティ」、「クレーム・ド・シャンティ (crème de Chantilly)」、「クレーム・ア・ラ・シャンティ (crème à la Chantilly)」、「クレーム・フーエッテ・ア・ラ・シャンティ (crème fouettée à la Chantilly)」などの表現が一般的になったのは、19世紀のことである。1806年、ヴィアール (Alexandre Viard) の『Cuisinier Impérial』初版は、ホイップしたクリームにも、「シャンティ」の名を冠したクリームにも言及していないが[45]1820年版からは、その両方への言及がある[46]

「シャンティイ」の名が使われるようになったのは、おそらくはシャンティイ城が美食の象徴的存在となっていたためであった考えられる[47]

イミテーション

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アメリカ合衆国などで流通している「Cool Whip」を載せたパンプキンパイ。主原料は植物性油脂だが、見た目は乳脂肪分から作るホイップクリームと変わらない。

ホイップクリームのイミテーションは、(英語では)「whipped topping」とか「squirty cream」といった名で商品として流通している。日本語では植物性油脂を乳化させて製造するイミテーションを「純生クリーム」に対して「ホイップクリーム」と称して区別することがある[1]

こうしたイミテーションが用いられる理由としては、以下のようなものがある。

こうしたイミテーションには、ある程度水素添加された油脂甘味料、水、増粘安定剤乳化剤が添加されて離漿英語版を防止するが、これはいわばバターの代用品としてマーガリンを用いることとほぼ同義である。

使用法

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ホイップクリームを載せたワッフル。
 
ホイップクリームをレイヤーにしてブルーベリーを載せたカトルカール(パウンドケーキ)。

ホイップクリーム、ないし、クレーム・シャンティは、果物やデザートのトッピングとして人気があり、パイや、アイスクリーム(特にサンデーなど)、カップケーキケーキミルクセーキワッフルホット・チョコレートゼリーカスタードプディングに添えられる。またコーヒーにホイップクリームを入れることもあり、ウィーンのコーヒーハウスドイツ語版の伝統を引くものは「Melange mit Schlagobers」(「ホイップクリーム添え」)と呼ばれるほか、日本においてはウィンナ・コーヒーとして広く知られている。ホイップクリームは、デザート類の中身としても用いられ、例えばシュークリームレイヤー・ケーキ英語版の中に詰められる[49]

脚注

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  1. ^ a b 太田さちか. “「純生クリーム」「ホイップクリーム」「植物性クリーム」…いろいろあるけど、どう使い分けるの?!”. Cookpad Inc.. 2016年6月9日閲覧。
  2. ^ Definition of Whip”. Merriam-Webster. 2021年10月15日閲覧。
  3. ^ Origin and meaning of whip”. Online Etymology Dictionary. 2021年10月15日閲覧。
  4. ^ whip」『プログレッシブ英和中辞典(小学館)』https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/whip/#ej-94298goo辞書より2023年4月9日閲覧 
  5. ^ a b Harold McGee, On Food and Cooking, p. 32
  6. ^ 小平将太「レモン果汁の添加によるホイップクリーム作製時間と物性変化におよぼす影響」『日本調理科学会大会研究発表要旨集』第25巻、日本調理科学会、2013年、57頁。  NAID 130005044277
  7. ^ 野田正幸、山本晴敬「ホイップクリームの物性に及ぼす温度処理の影響」『日本食品工業学会誌』第41巻第5号、日本食品工業学会、1994年、327-334頁。  NAID 130003968212
  8. ^ Jules Gouffée et al., Le livre de pâtisserie, 1873 p. 138
  9. ^ a b Émile Bernard Urbain Dubois, La Cuisine classique: études pratiques, raisonnées et démonstratives de l'Ecole française appliquée au service à la russe, 1868, p. 122: "La chantilly n'est autre chose que la crème double, amenée à consistance, et rendue mousseuse par le travail du fouet et l'action de l'air."
  10. ^ Wayne Gisslen, Professional Baking, 2008, ISBN 0471783498, p. 264
  11. ^ Alan Imeson, ed., Food Stabilisers, Thickeners and Gelling Agents, 2011, ISBN 1444360337, passim
  12. ^ Rose Levy Beranbaum, The Pie and Pastry Bible, 2009, ISBN 1439130876, p. 550
  13. ^ "Dr. Oetker Whip It"
  14. ^ a b Aeration Processes, Inc. v. Lange et al., 196 F.2d 981, 93 USPQ 332, United States Court of Appeals Eighth Circuit, May 20, 1952.
  15. ^ 三浦加代子、今西あみ、西川有香、坂内綾乃、藤井千紗、守山由佳理、杉原正治「撹拌器「キスワン」を使用したホイップクリームの特性」『日本調理科学会大会研究発表要旨集』第25巻、日本調理科学会、2013年、212頁。  NAID 130005044233
  16. ^ キスワンについて”. 杉原クラフト. 2016年6月8日閲覧。
  17. ^ a b Terence Scully, trans., The Opera of Bartolomeo Scappi (1570): L'arte et prudenza d'un maestro Cuoco; The Art and Craft of a Master Cook, 2008, ISBN 0-8020-9624-7, p. 105, note 2.39 - 「牛乳の雪の上に砂糖をのせて (neve di latte servita con zuccaro sopra)」など多数のメニューが記載されている。:passim
  18. ^ Michelle Berriedale-Johnson, Festive Feasts Cookbook (British Museum), 2004, ISBN 0-299-19510-4, p. 33 - ディ・メッシスブーゴの著書『Banchetti, composizioni di vivande e apparecchio generale』からの引用がある。
  19. ^ Ouverture de cuisine, "Pour faire neige", p. 123 transcription
  20. ^ see also Rabelais, Quart livre, LIX, 1552, éd. R. Marichal, p. 241, cited in the Trésor de la langue française
  21. ^ Catherine Frances Frere, Prepere newe Booke of Cokerye, 1545 (modern edition 1913) -- cited in Scully
  22. ^ Jean-Louis Guez de Balzac, Lettres de Phyllarque à Ariste full text
  23. ^ Oxford English Dictionary, 1923, s.v. 'whipped'
  24. ^ Dictionarium Rusticum, Urbanicum & Botanicum, 1726, s.v. 'Syllabub' full text
  25. ^ Sarah Harrison, The house-keeper's pocket-book, and compleat family cook, 1749, p. 173. full text
  26. ^ Alexandre-Balthazar-Laurent Grimod de La Reynière, Néo-Physiologie du gout par order alphabétique ou Dictionnaire générale de la cuisine française, 1839, p. 184
  27. ^ "Tante Marie", La Véritable cuisine de famille, comprenant 1.000 recettes et 500 menus, 18??, p. 296 "Crème fouettée (ou Fromage à la Chantilly)"
  28. ^ Mrs. Beeton, The book of household management, 1888, p. 927
  29. ^ Charles Getz, "Process of making aerated food products", U.S. Patent 2294172A, filed 26 September 1935, issued 25 August 1942 full text; also U.S. Patent 2435682 (continuation in part)
  30. ^ George Frederick Smith (1891-1976), Department of Chemistry, University of Illinois [1]
  31. ^ Marshall C. Reinecke, "Device for producing aerated expanded food products", U.S. Patent 2120297A, filed 15 August 1935, issued 14 June 1938 full text
  32. ^ recipe entitled "Crème fouettée et crème Chantilly", in Robert J. Courtine, ed., Curnonsky: Cuisine et Vins de France, Larousse, 1974, p. 535
  33. ^ Le Petit Robert (1972): "Crème fouettée, dite aussi crème Chantilly"
  34. ^ La Grande Encyclopédie (1902)
  35. ^ Trésor de la langue française, s.v. crème full text
  36. ^ Paul Bocuse, La cuisine du marché (1980), p. 414: "Crème Chantilly (crème fouettée)"
  37. ^ La cuisine de Madame Saint-Ange (1927), p. 916f: "Crème fouettée dite « crème Chantilly »... Selon le cas, on ajoute du sucre en poudre, vanillé ou non, dans la crème fouettée."
  38. ^ Julia Child et al., Mastering the Art of French Cooking - 本書では、Crème Chantilly を "lightly beaten cream" と定義した上で、"whipped cream" という語句でこれに言及している。砂糖と香料を加えたものについて著者は、"Flavored whipped cream" として言及している (I:580)。2巻に収められた crème Chantilly のレシピは、甘味を加えないものもあるが (II:422)、加えるものもある (II:450)。
  39. ^ Grand Dictionnaire universel du xixe siècle』(1878年)や『fr:Dictionnaire de la langue françaiseLittré』(1872年)では(「ホイップ」に相当する)「fouettée」を使った言及しかないが、『Larousse gastronomique』(1938年)には「Chantilly」による言及しかない。
  40. ^ Stephen Shapiro, "Roland Joffé's Vatel", in Anne L. Birberick, Russell Ganim, Modern Perspectives on the Early Modern: Temps recherché, temps retrouvé, 2005, ISBN 1-886365-54-7 p. 84
  41. ^ "Histoire de la Crème Chantilly", web site of the Domaine de Chantilly
  42. ^ メノンフランス語版の『Les soupers de la cour』に収められた「"fromage à la chantilly glacé"」という一種のアイスクリームの上にホイップクリームを載せたもののレシピにこの表現が見える。 :Les soupers de la cour, 1755, p. "chantilly" 313-314
  43. ^ Mémoires de la baronne d'Oberkirch, vol. 2, p. 112: "Jamais je n'ai mangé d'aussi bonne crème, aussi appétissante et aussi bien apprêtée." (私がこれまで食べたことがないほど素晴らしいクリームで、食欲をそそり、上手に調理されている。)
  44. ^ "Naissance de la crème chantilly", Tables princières à Chantilly, du XVIIe au XIXe siècle, exhibit at the Musée Condé, 16 September 2006 - 8 January 2007 [2] PDF
  45. ^ Le cuisinier impérial, ou, L'art de faire la cuisine et la pâtisserie... - A. Viard - Google Books
  46. ^ Le Cuisinier Royal
  47. ^ Alan Davidson, The Oxford Companion to Food, s.v. 'cream'.
  48. ^ Patrick Di Justo, "Cool Whip", Wired Magazine 15:05 (April 24, 2007) full text
  49. ^ Wayne Gisslen, Professional Baking, 2012, ISBN 1118254368, p. 260

関連項目

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