内柴事件
この項目には性的な表現や記述が含まれます。 |
内柴事件(うちしばじけん)は、オリンピック柔道男子金メダリストであり九州看護福祉大学女子柔道部コーチであった内柴正人が2011年に起こした事件[1][2]である。
概要
編集2011年9月中旬に九州看護福祉大学女子柔道部は三泊四日の合宿中に東京都八王子市のホテルで女子部員4人[注 1]と内柴正人コーチと男性コーチらが参加していた。同年9月19日から9月20日にかけて内柴コーチが関係者と飲食店やカラオケボックスで19歳だった女子部員Aへ酒を飲ませ、「ぐったりして一切動きの無い状態であり、ほとんど意識の無い状態」[3]のAを背中に担いでホテルの部屋に戻り二人きりになった際に性行為を行った。
2011年11月8日、九州看護福祉大学女子柔道部において内柴コーチによる女子部員へのセクハラ疑惑がマスメディアで報じられる[4]。2011年11月29日、九州看護福祉大学は内柴のセクハラ行為に関する調査結果について、未成年女子部員の飲酒を黙認し、その後セクハラ行為を行ったとし、内柴に対し懲戒解雇処分を発表した[5][6][7][8]。
内柴は事件前の2003年3月に結婚していたが[9]、事件による逮捕後の一審裁判中の2012年12月に離婚したと報じられた[10]。
元女性部員が九州看護福祉大を運営する学校法人に約4780万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こし、2017年3月9日に京都地裁は「(大学が内柴を)相当の注意をもって監督したとは認められない」として慰謝料など約480万円の支払いを命じる判決を言い渡した[11]。
刑事裁判
編集12月6日、準強姦容疑で警視庁に逮捕された。内柴は「納得いかない。合意だった」と容疑を否認[12]。12月27日、東京地検は同罪で内柴を起訴[13][14]。12月29日、東京地裁は内柴の保釈請求を却下[15]。2012年3月30日、東京地裁は内柴の保釈請求を再び却下[16]。
第一審・東京地方裁判所
編集2012年9月12日、東京地裁の初公判が行われ、内柴は「合意の上で行為に及んだ」と無罪を主張[17]。同年12月21日の結審まで7回の期日が指定された。
まず、検察の冒頭陳述では、内柴が抵抗するAの口をふさぎ室内のテレビの音量を上げて姦淫後には「犯されたんじゃないよな」と口止めを強要してきたことが述べられた[18]。さらに、公判の過程で、
- 事件直前に飲食店で内柴が主導する形で生ビール15杯・巨峰サワー8杯・焼酎2本・ワイン2本を計7人で急速に酔いが回る一気飲みのルールで飲んでいたこと
- 内柴が「口裏を合わせてでも、本当も嘘も使ってかばってほしかった」「そもそも俺がインポってことにすれば…」などと隠蔽工作を疑わせる内容の携帯メールを男性コーチら関係者に送信していたこと
- 内柴の指示によって大学の師範室などに隠してあったアダルトグッズ、アダルトDVDや避妊具の処分を男性コーチに行わせており、内柴が教え子と常態的に性的行為に及んでいた疑惑があること
- 内柴が過去に交際した女性に認知はしていないものの子供の養育費を送っていたこと
が明らかになり[19]、また翌朝に謝罪され5万円を渡されたとするAの証言が読み上げられた[18]。
また、事件の当日の合宿先のホテルではA以外にも女性部員B及びCとも性行為をしており、合宿に参加していた女子部員4人中3人と性行為を持っていたことが明らかになった。Bとは合宿以前から交際関係にあった(内柴は既婚者だったが、Bは「柔道部内の『本妻』」と報道されている[19])ものの、Cは、「就寝中に乱暴された。拒否すれば指導を受けられなくなると思い、抵抗できなかった」と述べ、当初は被害届を提出していたが、「話すのも辛い」として被害届を取り下げている[18][20]。
12月26日、検察側は「指導者としての品性のかけらもなく、卑劣極まりない犯行だ」と述べ、懲役5年を求刑した。
2013年2月1日、東京地裁(鬼沢友直裁判長)は、以下の理由で求刑通り懲役5年の実刑判決を言い渡した。
まず、内柴が「被害者がカラオケ室内で口淫行為をして誘ってきたから性交した」と主張していた[3]ことに対しては、被害者はほとんど酔いつぶれて寝ている状態で何らかの行動をできるというような状態にないこと、および、カラオケ室内での口淫行為という異常な行動がとられれば目にとまらないはずがないが、カラオケ室内にいた内柴の「親しい後輩」[3]2人がいずれも被害者による口淫行為を目撃していないこと[3]から、「被告人の発言は、被害者が当時酔いつぶれていて意識を失っていたことを利用しての虚言といわざるを得ない」[3]と判示された。結局、裁判長は、「被告人の公判供述は信用することができない」[21]、「被告人は指導者の立場にありながら、被害者の心情を無視した被告人の行為は悪質である」[22]など内柴側の主張を全面的に退けた。内柴側は引き続き無罪を主張、即日東京高等裁判所に控訴した[23]。
第二審・東京高等裁判所
編集2013年10月4日、東京高裁(金谷暁裁判長)で控訴審初公判が行われたものの、弁護人側が求めていた被告人質問の機会と新たな証拠の採用がことごとく却下された。審理はわずか30分ほどで終了して、即日結審となった[24]。12月11日、「被告の無罪主張は不合理、信用出来ない」との趣旨で控訴棄却。内柴側は即日上告[25]。
終審・最高裁判所
編集2014年4月23日付で、最高裁判所は被告人側の上告を棄却する決定をした。懲役5年の実刑とした一審、二審判決が確定することとなる[26]。
各方面の対応
編集司法以外でも内柴の準強姦事件の逮捕を受けて、以下のような処分が検討されたり、実施されている。
柔道関係
編集内柴の逮捕を受けて、全日本柔道連盟(全柔連)は会員登録の抹消を含む処分を検討することを示唆し、永久追放となる可能性が浮上した[27]。
全柔連の寄付行為登録規定第19条には「本連盟の名誉を傷つける行為」があった場合は登録を取り消すことができると規定されている[28]。全柔連の登録抹消となると選手としてはおろか指導者としても大会参加などができなくなる。
全柔連調査委員会は、内柴の指導者登録を2011年12月27日付で停止したことを2012年1月10日に明らかにした[29]。
一審有罪判決を受けた2012年2月5日に、全柔連は内柴を会員登録の永久停止処分にした[30]。講道館の会員資格剥奪となると講道館が認定している内柴の段位(五段)及び黒帯が消えることになる。
顕彰関係
編集- 内閣府の紫綬褒章
- 内閣府から「学術、芸術、技術開発等の功労者」として内柴に五輪金メダル獲得を受けて2004年と2008年にそれぞれ授与されている[31]。
- 2014年4月に実刑判決が確定し、勲章褫奪令に基づき、同年5月10日付で紫綬褒章は褫奪された[32]。褫奪されたことにより、官報に掲載され、紫綬褒章を返還しなければならず、紫綬褒章受章者であると名乗ることも認められなくなる。
- 文部科学省のスポーツ功労者顕彰等
- アテネ、北京の両五輪で金メダルを獲得した際に、2005年には世界選手権2位で過去に計4回のスポーツ功労者顕彰の顕彰、表彰歴がある[33]。
- 中川正春文部科学大臣は「現在捜査中であり、対応については慎重に検討したい」とする一方で、現在は顕彰を取り消す規定がないことから「(規定を)改正する必要があれば改正するなど、顕彰規定そのものの見直しも含めて考えたい」と述べた。
- 東京都の「東京都栄誉賞」「都民スポーツ大賞」
- 東京都は内柴が五輪金メダルを獲得した2004年と2008年に東京都栄誉賞を、2008年には都民スポーツ大賞を授与した。2014年4月23日付最高裁判所決定により実刑判決が確定することになったため、2014年5月1日付で両賞を剥奪する旨を公表した。併せて、東京都栄誉賞副賞二回分60万円の返還を求めた[34]。
- 熊本県の「県民栄誉賞・同特別賞」「記念植樹の標石」
- 熊本県は内柴が五輪金メダルを獲得した2004年に県民特別賞を授与し、2回目の五輪メダルを獲得した2008年に栄誉賞「特別賞」を新設して授与した[35]。しかし、内柴逮捕を受けて12月8日に表彰要項に「表彰を受けた者が本人の責めに帰すべき行為によって栄誉を著しく失墜した時に、知事が取り消しできる」旨の取り消し規定の条項を急遽新設。内柴について、司法による罪の判断以前に教え子を酔わせ性行為を行ったこと自体を問題とし、県民栄誉賞の取り消し規定を適用して県民栄誉賞と同特別賞を剥奪した。また、特別賞受賞後に内柴が県庁前庭にサザンカとツバキを記念植樹しているが、内柴の名前や植樹日付などを刻んだ大理石の標石が12月9日に撤去された[36]。
- 合志市の「名誉市民」
- 熊本県合志市は市制移行前の合志町時代の2004年に内柴に町民栄誉賞を贈り、市制移行後の2008年に内柴を名誉市民としていた。名誉市民条例の「著しく名誉を失い、尊敬を受けなくなった場合には称号を取り消すことが出来る」という規定を適用し、2011年12月16日に取り消しを決めた[37]。
脚注
編集注釈
編集- ^ 当時の女子柔道部部員は約20人。
出典
編集- ^ 内柴事件の裏に日本柔道の危機感のなさ 産経新聞 2011年12月13日
- ^ 内柴事件で全柔連会長が陳謝…指導者登録も停止 読売新聞 2012年1月10日
- ^ a b c d e 東京地方裁判所平成25年2月1日判決平成23年(合わ)第293号
- ^ 五輪「金」内柴氏セクハラの疑い、大学が調査委 読売新聞 2011年11月8日
- ^ 本学客員教授の懲戒処分について、九州看護福祉大学、2011年11月29日
- ^ 内柴客員教授を懲戒解雇 九州の大学、飲酒・セクハラで、朝日新聞(電子版)、2011年11月29日
- ^ 五輪「金」内柴氏を懲戒解雇 九州看護福祉大、熊本日日新聞(電子版)、2011年11月29日
- ^ 内柴氏を懲戒処分へ 所属大、セクハラ問題で、日本経済新聞(電子版)、2011年11月29日
- ^ 夢は夫婦合わせ技!「内柴道場開校」サンケイスポーツ 2008年8月11日
- ^ 女性セブン 2012年12月20日号
- ^ 内柴事件で大学に賠償命令 元柔道部員暴行、京都地裁 産経新聞 2017年3月9日
- ^ 内柴正人容疑者を警視庁が逮捕 準強姦容疑 朝日新聞 2011年12月6日
- ^ “五輪金の内柴容疑者を起訴 女性部員への準強姦罪”. 共同通信社. 47NEWS. (2011年12月27日) 2012年9月12日閲覧。
- ^ 内柴正人容疑者を柔道部員への準強姦罪で起訴 東京地検 朝日新聞 2011年12月27日
- ^ 東京地裁、内柴正人被告の保釈請求を却下、スポーツニッポン 2011年12月29日
- ^ “柔道の内柴被告、再び保釈却下 東京地裁”. 共同通信社. 47NEWS. (2012年3月30日) 2012年9月12日閲覧。
- ^ “内柴被告が準強姦無罪主張 柔道五輪メダリスト”. 共同通信社. 47NEWS. (2012年9月12日) 2012年9月12日閲覧。
- ^ a b c 内柴被告(上)2人の女子部員を“ハシゴ”…「股間に『アクション』された」 産経新聞 2012年12月1日
- ^ a b 内柴被告(下)「隠し子」疑惑、“玩具”常備… 次々明かされる事件背景 産経新聞 2012年12月2日
- ^ 合宿中に3人と性行為していた! 内柴被告の絶倫ぶりが話題に J-cast 2012年11月29日
- ^ “「被告人の供述信用できない」 猫背になり、がっくり両肩落とす”. msn産経ニュース (2013年2月1日). 2013年2月1日閲覧。
- ^ “「性的欲求満たすためだけに姦淫」 厳しい言葉の数々”. msn産経ニュース (2013年2月1日). 2013年2月1日閲覧。
- ^ “内柴被告 即日控訴「僕は無実 まだ頑張る気持ちがある」”. スポーツニッポン. Sponichi Annex. (2013年2月1日) 2013年2月1日閲覧。
- ^ “内柴被告“返し技”不発 準強姦控訴審 発言機会与えられず”. スポーツニッポン (2013年10月5日). 2013年10月8日閲覧。
- ^ 柔道の内柴被告、二審も懲役5年 準強姦「無罪主張は不合理」 共同通信2013年12月11日
- ^ “教え子に性的暴行 内柴被告の懲役5年確定へ” (2014年4月24日). 2014年4月24日閲覧。
- ^ 内柴容疑者 史上初の汚点も 黒帯そのものもはく奪か スポニチ 2011年12月7日
- ^ デイリースポーツ 2011年12月7日
- ^ 内柴容疑者の指導者登録停止=上村会長「信用傷つけた」-全柔連 時事通信 2012年1月10日
- ^ 全柔連、内柴被告を永久追放処分 「許されない行為だ」 共同通信 2013年2月5日
- ^ 内柴容疑者「紫綬褒章」の行方 実刑確定なら「はく奪」 J-CASTニュース 2011年12月8日
- ^ 『官報』6342号9頁(2014年7月30日)
- ^ 文科省が内柴容疑者顕彰取り消し含め検討日刊スポーツ 2011年12月9日
- ^ 東京都生活文化局、オリンピック・パラリンピック準備局(2014年5月1日)
- ^ 内柴容疑者の県栄誉賞2つとも剥奪…熊本県急きょ取り消し規定 スポーツ報知 2011年12月9日
- ^ 内柴容疑者の標石撤去、賞取り消しで熊本県庁から 読売新聞 2011年12月9日
- ^ 内柴出身の熊本・合志市も栄誉賞取り消し スポニチ 2011年12月17日
- ^ 内柴容疑者への栄誉賞、阿蘇市も取り消しへ 読売新聞 2011年12月9日
- ^ 内柴容疑者 阿蘇市も栄誉賞取り消し スポニチ 2011年12月14日
- ^ 内柴容疑者の手形モニュメント撤去へ…延岡駅前 読売新聞 2011年12月12日