まずはこれを言っておきたい。2013年はここ最近の中でもエレクトロニック・ミュージック界にとってベストな1年となった。年始から豊作だったわけではないが、春になる頃には素晴らしい作品が波のように押し寄せていた。待望のカムバックを果たしたビッグネームも居た。既成概念を破壊したニューカマーも居た。そして、フルアルバムというフォーマットで音楽を吸収することの必要性を、1年を通して何回も再認識することができた。

20. Daniel Avery - Drone Logic
[Phantasy Sound]

『Drone Logic』によって一躍スターダムに駆け上がったロンドンのDaniel Avery。Fabricでのレジデントやミックス、成功を収めた一連のシングルなど、いくつかのキーとなる要因があるが、彼の登場劇というパズルを完成させる最後のピースとなったのはデビューアルバムとなる本作だった。彼の音楽をフォローしてきた人にとっては、このアルバムにおける捩れたマシーンファンクはそれほど驚くことではないだろう。しかし、それを考慮したとしても、並外れた作品だと言えるのではないだろうか。

Knowing We'll Be Here

19. Moderat - II [Monkeytown Records]

「ノイケルンの地下に潜ってクレイジーなパーティーを楽しむ若い人たちはいるだろうし、今でもたまにそういう場所に行くのは楽しいと思うよ。でも自分たちの中ではそういう段階から少し移行した感覚があるんだ。」Moderatのセカンドアルバム『II』で、より親しみやすい要素を取り入れている点についてこのように語るのはApparatことSascha Ringだ。ストレートなポップ作品と呼ぶには程遠いが、本作にはメランコリックなボーカルや比較的分かりやすいフックとなる要素もしっかりと含まれている。多くのサウンドがダークでニヒルな様相を呈していたこの1年にあっても、彼らにとってそんな流れはお構いなしだ。

Bad Kingdom

18. Jon Hopkins - Immunity [Domino]

この数年、モンスタークラスのエレクトロニックミュージックが数多く発表されている。『Immunity』を聞いているとスタジアムのような開放的な場所が似合うような場面が訪れる。しかし、このアルバムは胸の奥深くへと突き刺すアルバムにも成り得る。プロデューサーとして、予算のかかったメジャー作品の仕事もこなすJon Hopkinsだけあって、『Immunity』は整然としたスタジオクオリティに仕上がっている。しかしエモーショナルに直接訴えかけてくる彼の熱狂性は決して綺麗に納まることなく溢れ出し、今年、最も活き活きとした作品の1つになるまで本作を導いた。

Open Eye Signal

17. James Blake - Overgrown [Polydor]

2011年にデビューアルバムをリリースして、James Blakeは大きく変わった。言ってみれば、彼は恋に落ちたのだ。その影響は『Overgrown』の至るところに現れており、エレクトロニックミュージックにおいて最も才能あるシンガーソングライターとして彼の名を確固たるものとしている。彼の柔らかなバリトンボイスが細部まで機能しているのを聞くと、自身の「声」の在り方を見い出したBlakeが、饒舌に語りかけてきているように感じる。10月にはマーキュリー賞を獲得した『Overgrown』は、さらに広範な音楽シーンに知れ渡ることとなった。

Voyeur

16. Daft Punk - Random Access Memories [Columbia]

みんなのフェイバリット、フランスのロボット2人組Daft Punkは生楽器の温かみ溢れる演奏を用いた『Random Access Memories』にて自身のイメージを再構築した。この豊かでしっかりと厚みのあるディスコアルバムにはNile Rodgers、Giorgio Moroder、そしてPharellといったゲストが参加しており、たとえDaft Punkの要素を抜きにしたとしても、本作には「大作」の2文字が相応しい。これまでに類を見ないほどのマーケティング戦術によって本当に様々な場所で本作を見かけたが、これもひいては7ヶ月に及び吟味に吟味を重ねた結果もたらされた、本作が持つ力強さの証だ。

Doin' It Right
feat. Panda Bear

15. Axel Boman - Family Vacation [Studio Barnhus]

"Purple Drank"をリリースしていた頃のことを考えると、彼がヒットするとは誰も思っていなかったのではないだろうか。Axel Bomanがこれまで常に素晴らしいハウスプロデューサーであったことは確かだが、このデビューアルバムでは、彼がそれ以上の存在であることを知らしめた。スウェーデンのこの愛すべきアーティストは、優しく軽快で、ときに切ないアルバム『Family Vacation』によって見事に開花した。

Hello

14. The Haxan Cloak - Excavation
[Tri Angle]

ちょっとしたことで驚いたり、暗闇を怖がるような人ならば、『Excavation』を初めて聞くときは一人きりにならないほうが良い。アルバムのオープニングで、心を掻きむしるような残酷なサウンドスケープへと放り込まれるからだ。Bobby Krlicが作り出す死後の世界で瞑想しているかのようなサウンドは完全なる暗黒に包まれている。しかしJohn CarpenterやSunn O)))のように様々な要素が絡み合って作り出す狂気的な多彩さを伴った音楽クオリティによって本作は磨き上げられており、おかしいかもしれないが、非常に満ち溢れた気持ちになり、敢えて言うなら人生に肯定的になってしまうほどだ。

The Mirror Reflecting
(Part 2)

13. Laurel Halo - Chance Of Rain [Hyperdub]

昨年、Laurel Haloがリリースし高い評価を獲得したアルバムと同様の手法を用いて今年彼女は『Chance Of Rain』を制作したが、この2つのアルバムは非常に近しい響きを持っている。『Quarantine』で特徴的だったおぼろげなサウンドとボーカルは『Chance Of Rain』でも聞くことが出来るが、今回は彼女のクラシックの素養によって支えられたよりダイレクトなアプローチが施されている。この方向性によって本作は今年最も素晴らしく、最もオリジナルなテクノアルバムの1つへと結実した。

Ainnome

12. Boards Of Canada - Tomorrow's Harvest [Warp Records]

見つかることのない答えを探し求めること。飽くことのない探求心と共に。スコットランドで最もミステリアスなエレクトロニックミュージック・グループであるBoards Of Canadaの普遍的な魅力となっているのはこの点だ。最新アルバムである『Tomorrow's Harvest』はおそらく1998年の『Music Has The Right To Children』以降、ベストとなる作品であり、今年の音楽動向と同様に興味深いものだ。本作における濃霧の中へと誘われる見事な世界観を前にしては、ほとんどの作品は物語性の乏しい貧弱なものに聞こえてしまうだろう。

Reach For The Dead

11. Nils Frahm - Spaces [Erased Tapes]

エレクトロニックミュージックのライブアルバムがリリースされることはそれほど多くはない。しかし、その中でも選ぶとするならベルリン在住のアーティストであるNils Frahmだろう。『Spaces』ではFrahmの音楽性に相応しく多方面にアピールするサウンドを披露している。モダンクラシックかつブルージーなインプロヴィゼーションによる美しいシンセが奏でられ、時に渾然一体となっていく。過去2年間のライブパフォーマンスを基に作られた『Spaces』は新曲だけのアルバムと比べても全く遜色がない。すばり、彼のベストと言っていいだろう。

Says

10. Kyle Hall - The Boat Party [Wild Oats]

Kyle Hallは『The Boat Party』のアートワークは自身のルーツを示すためのものだったとしているが、アートワークに用いられた殺伐としたその風景を見れば、独特の薄いキック、ざらついたハット、雑なR&Bのサンプルはデトロイト以外で生まれようがないことが理解できる。ローファイなハウスは2013年のトレンドだったが、Kyle Hallよりも優れた形でそれを表現したアーティストはいない。

Crushed

09. Special Request - Soul Music [Houndstooth]

2013年、Paul Woolfordはジャングル復興の中心的アーティストとして活躍した。UKのレイブシーンの黄金期を取り入れた彼のサウンドは、ここ1年半で最も新鮮な響きをサウンドシステムにもたらしたと言えよう（そして彼を模倣するプロデューサーが登場したことはこのジャンルが伸びていることも示している）。『Soul Music』はWoolfordが言うところのUKのパイレーツラジオに対する「偽りの記憶」を活用して制作されたオリジナルとリミックスの2枚組となっているが、その内容はエネルギーに満ち溢れている。

Cold Blooded

08. Miles - Faint Hearted [Modern Love]

Miles Whittakerはプロジェクトごとに異なったスタイルに焦点を当てており、Demdike Stareでは陰鬱なアンビエントを、MLZではテクノを、そしてMillieではベースミュージックを取り入れているが、Modern Loveからリリースされたファーストアルバム『Faint Hearted』は例外で、幽玄なエレクトロニカの世界を自由に行き来しており、“Lebensform”のハードコアな響きから、クラウトロック的なアルペジオの“Loran Dreams”まで、「テクノ」の裏面をヒプノティックになぞる作品に仕上がっている。

Loran Dreams

07. Logos - Cold Mission
[Keysound Recordings]

グライムの再隆盛は2013年で最もエキサイティングなトピックのひとつだったが、Logosが年末にリリースしたこのアルバムは、このジャンルの既存のルールを完全に破壊－もう少しやさしい言葉で言えば「分解」－することになった。この『Cold Misson』はグライムの要素をバラバラに分解し、それらを広大な空間に放り込んだかのような作品で、ドラムやベースが重視されつつ、それよりも「静寂」が大きな意味という、勢いのあるリズムが空を切るようなアルバムとなっている。

Atlanta 96

06. DJ Rashad - Double Cup [Hyperdub]

『Double Cup』はフットワークのひとつのピークとも言える作品だ。ただし、この作品はフットワークというジャンルでくくることはできないかもしれない。DJ Rashadのデビューアルバムである『Double Cup』は、シカゴで盛り上がりを見せるフットワークに焦点を当てながら、スムースなテクスチャと急速なリズム、そして他のジャンルへの敬意（アシッド的アプローチも取り入れられている）によって構成されており、最もモダンなベースミュージックとして成立している。Hyperdubは自分たちに課せられている最低限の要求をこのアルバムでクリアしたと言えるだろう。

Every Day Of My Life
feat. DJ Phil

05. Segue - Pacifica [Silent Season]

Jordan Sauerはメロディーを前面に押し出す手法を用いることで、ここ数年で最も優れたダブテクノを生み出すことに成功した。そしてこの手法はこのアルバムのインスピレーションとなった非常に美しい風景をリスナーに想起させるためには最も効果的な手段だったと言える。収録されている9トラックはほぼ同じムードで構成されているが、どのトラックを聴いても「美しい」と言わずにはいられないだろう。

Snow Dub

04. Jessy Lanza - Pull My Hair Back [Hyperdub]

『Pull My Hair Back』の最も優れている点は、まとまりがないにも関わらずアルバムとして成立しているという点だろう。このアルバムは“Kathy Lee”のサンプル使いや、“Keep Moving”の跳ねるようなヴォーカルなどに見出せるSade的な官能性、そして重厚なシンセの中に埋め込まれた巧妙なフックなどの繊細さなど特徴は多岐に渡るが、ひとつだけ確かなのはこのアルバムには一度聴いたら耳から離れないクオリティが備わっているということだ。

Kathy Lee

03. Donato Dozzy - Plays Bee Mask [Spectrum Spools]

Donato Dozzyがリミックスを1曲してくれるだけでも嬉しいだろう。ましてや2曲やってくれるというのであればそれは本当に喜ばしいことだ。しかし、Bee Maskが2012年にリリースしたシンセサイザートラック『Vaporware』は簡単に片づけられる作品ではなく、Donato Dozzyも一筋縄ではいかないリミキサーだ。この『Plays Bee Mask』は、大抵のアルバムがひとつのストーリーを生み出そうする中で、スペーシーなサウンドスケープや雨音の悲しさ、そしてもつれ合うようなテクノを通じてオリジナルを変化させ、ひとつのストーリーを実に7通りの方法で示すことに成功している。ポエティックかつサイケデリックで、どこまでも革新的なこのリミックス集はDonato Dozzyだけが生み出せるクオリティと言えよう。

Vaporware 5

02. DJ Koze - Amygdala [Pampa]

2013年は数多くのアウトサイダーたちがすんなりとトレンドにはまったという意味で非常に面白い1年になったが、DJ Kozeはそのアウトサイダーぶりを自身に向けて解き放った。セカンドアルバム『Amygdala』は、サイケデリックなカバーアートからサウンドひとつひとつに至るまで、彼だからこそ為し得た奇妙な作品となっている。しかし、言及すべきはその「奇妙さ」ではなく、ポップミュージックのプロデューサーたちを辱めるに十分なクオリティの高さを持つフックやソウル、そして暖かみだろう。

Amygdala feat. Milosh

Renata

01. James Holden - The Inheritors [Border Community]

James Holdenのセカンドアルバム『The Inheritors』の収録曲は、アナログモジュラーシステムを自分でコーディングしたプログラムで走らせたもので、すべてシングルテイクでレコーディングされた。Holdenはケイリー、ペンタトニックスケール、古代の異教徒の儀式などを参考にしてこの作品を制作したとしており、60年代、70年代の革新的な精神が息づいた『非競争的思考の理想郷』と称している。ノーベル文学賞作家のWilliam Goldingの2作目からタイトルがつけられたこの作品はHoldenにとっては実に7年ぶりという久しぶりのリリースでもある。このアルバムは上記のように数多くの要素が複雑に絡まっているため非常に難解で過剰なほどに乱雑だが、同時に2013年で最も革新的でエキサイティングな作品となった。

60年代、70年代のドイツ産エクスペリメンタル・ミュージックに影響を受けたこのアルバムには「拒否」の姿勢が貫かれている。クラブミュージックとその構造に対し、常に疑問を持ち続けていたHoldenはこの『The Inheritors』でその代替案を示しており、「メトロノームのようなリズムに縛られたDJ用の音楽から自分たちを解き放ったとしたらどうなるのだろう？」という疑問が提示されているように思える。Holdenはその答えとして、80年代のプリセットのようなシンセサイザーではなく、飼いならされていない荒々しく躍動するサウンドを提示している。その未知なるサウンドは耳に刺激的で、ドラムはダンスに導くものではなくムードを形成する要素として扱われており、アレンジも流動的かつ予想不可能で、イントロやアウトロという既成概念から解き放たれている。またディストーションとフィードバックは挑戦的だが、このアルバムで聴くことができるありとあらゆるノイズには、“Renata”、“Delabole”、“Circle Of Fifths”などで聴けるようなまばゆいメロディーが秘められている。

ただし、『The Inheritors』はオルタナティブなダンスミュージックのブループリントを提示しているわけではない。他の誰よりもクリエイティビティを前面に押し出した1人のアーティストの作品の一例に過ぎないのだ。

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