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投稿日:2017年6月1日

スタンフォードソーシャルイノベーションレビューで発表された「コレクティブインパクトとは?」

松田 典子Noriko Matsuda
准認定ファンドレイザー

最近ソーシャルセクターで話題になっている「コレクティブインパクト」という言葉をご存知ですか?本連載では3回に分けて、いまソーシャルセクターで最も注目を集める「コレクティブインパクト」の基本的な概念と、「コレクティブインパクト」の海外の動向、そして日本でも動き出している「コレクティブインパクト」の最新動向を解説します。

事業体を超えて共通の課題を解決するワケ

コレクティブインパクトとは、2011年、John KaniaとMark KramaerがStanford Social Innovation Reviewで発表した論文”Collective Impact”で定義された言葉であり、個別アプローチにするだけでは解決できなかった社会的課題を解決する新たな試みとして発表されました。

社会的課題を解決するとき、個々の団体がそれぞれ特化したアジェンダに沿って活動を進めることがほとんどでした。しかし近年の社会課題は複雑化し、単一の団体のみで解決することが難しい課題も多く、NPOセクターは、様々なコラボレーションを通じて課題に取り組もうとしてきました。そうした中で、単なるコラボレーションに留まらず、NPOや企業、行政などのセクターを超えて、共通のアジェンダをもとにコミットする、コレクティブインパクトが注目されるようになったのです。

コレクティブインパクトの5つの特徴

コレクティブインパクトとは、下記の5つの特徴をもつものであると定義されています。

1, 共通のアジェンダ (Common Agenda)

全ての参加者が、変革に向けた共通のビジョンを持たなければならない
課題に対して共通の認識をもち、合意が得られた行動を通じて、共に問題解決を行う

2, 評価システムの共有 (Shared Measurement)

全ての参加者が、共通の方法で成果を測定・報告し、それらを通じて学習・改善する

3, 互いに強化し合う活動 (Mutually Reinforcing Activities)

様々な分野のステークホルダーが、それぞれに特化した活動を通じて、互いを強化し合い連携する

4, 継続的なコミュニケーション (Continuous Communication)

信頼を築き、共通の目的を持ち、モチベーションを創り出すために、すべてのプレーヤーが、継続的なコミュニケーションをとる

5, 活動を支えるバックボーン組織 (Backbone Organization)

全体のビジョンや戦略を導いたり、測定システムを確立したりなど、活動をサポートする独立した組織のこと

また、コレクティブインパクトの特徴の1つとして挙げられるのは、一から新しいプログラムを作ろうとするのではなく、既にあるプログラムや組織をもとに構築していくことであると言われています。全体のランドスケープを理解した上で、各セクターのリーダーが集まり、共通のアジェンダや評価システムを議論し、決定するというプロセスを経ることが重要で、その間6か月から長くて2年もの年月を想定しておく必要があると言われています。

共通のゴールは“ゆりかごから就職まで”-アメリカのStrive Together-

コレクティブインパクトの代表例としては、アメリカのシンシナティにあるStrive Togetherが有名で、上に挙げた5つの条件をまさに満たしているような活動です。

Strive Togetherは、2006年に様々なセクターのリーダーたちが、Greater Cincinnati エリアの教育を改善し、子どもたちが成功できるように導いていくシステムを作ることを目指し、集結しました。300以上の団体、例えば学校の教育長、幼児教育の担当者や専門家、非営利団体の実践家やビジネスリーダー、 コミュニティ・企業財団、行政、大学学長が集まり、こどもたち・生徒たちの成功のため、同じビジョン、ゴールを目指して活動することを決めたのです。

Strive Togetherは、新たな教育プログラムを作るのではなく、既存の全教育コミュニティが、共通の測定方法を用い、共通のゴール“ゆりかごから就職まで (From Cradle to Career)”を目指すことに注力しました。参加する組織は活動の領域ごとにグループを作り、3年ものあいだ、2週に1回のペースで2時間のミーティングをもち、共通の指標を開発し、進捗を話し合うことで、互いに学び・サポートし合いました。また、これらの活動は、プロジェクトマネージャーやデータマネジャー、ファシリテーターのスタッフを擁するバックボーン組織のサポートによって成り立っていました。

その後、Strive Togetherは、アメリカ32州70もの団体とパートナーシップを組み、そのネットワークは広がりを見せています。

日本版コレクティブインパクトはどうなっていく?

Strive Together以外にも、コレクティブインパクトを用いた事例は多く、社会課題解決の手法として期待されています。一方で、2011年にコレクティブインパクトの概念が初めて発表されてから5年超が経過し、現状のコレクティブインパクトの概念に対する限界や批判なども指摘されています。

2016年には、TamarackのMark Cabaj と Liz Weaverが、”Collective Impact 3.0 – An Evolving framework for community change”を発表し、既存のコレクティブインパクト 2.0をアップグレードした、コレクティブインパクト 3.0を提唱しました。この論文では、コレクティブインパクト2.0が「マネジメント」に基づくリーダーシップだったのに対し、コレクティブインパクト3.0は「ムーブメント作り」に基づくリーダーシップを目指すべきであると提唱しています。

徐々に日本でも注目されつつあるコレクティブインパクトですが、初めて提唱されてから10年も経たない新しい概念です。事例の蓄積や研究、フレームワークの開発が、現在も進められている分野であり、今後もそうした動きをフォローしていく必要がありそうです。

2017年5月23日に、ボストンでコレクティブインパクトのフォーラムが開催されます。次回のジャーナルでは、このフォーラムの様子を通じて、コレクティブインパクトの最前線をお知らせしたいと思います。

参照URL

“Collective Impact” by John Kania & Mark Kramer | Winter 2011
https://ssir.org/articles/entry/collective_impact

“Channeling Change: Making Collective Impact Work” by Fay Hanleybrown, John Kania, & Mark Kramer | Jan. 26, 2012
https://ssir.org/articles/entry/channeling_change_making_collective_impact_work

“Embracing Emergence: How Collective Impact Addresses Complexity” by John Kania & Mark Kramer | Jan. 21, 2013
https://ssir.org/articles/entry/embracing_emergence_how_collective_impact_addresses_complexity

“Essential Mindset Shifts for Collective Impact” by John Kania, Fay Hanleybrown, & Jennifer Splansky Juster | Fall 2014
https://ssir.org/articles/entry/essential_mindset_shifts_for_collective_impact

”Collective Impact 3.0 – An Evolving framework for community change” by Mark Cabaj & Liz Weaver
https://collectiveimpactforum.org/sites/default/files/Collective%20Impact%203.0.pdf

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Profileこの記事を書いた人

松田 典子 Noriko Matsuda

准認定ファンドレイザー

大学卒業後、金融機関で不動産ファンド業務に従事。働きながら、NPO法人Living in Peaceにて、国内の貧困に取り組む教育プロジェクトを立ち上げ、児童養護施設の子どもたちの環境改善のための寄付プログラム「Chance Maker」や、児童養護施設の子どもたち向けのスタディツアーを作る。

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