一人負けのニッポン漁業、どう成長産業に変えていく?
写真:Getty Images

一人負けのニッポン漁業、どう成長産業に変えていく?

「日本の水産業」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。あまり明るい印象を持っていない方は、案外正しい。漁師の高齢化、日本人の魚離れといった複合的要因があいまって、日本の漁獲量は、ピーク時の3分の1程度にまで減っている。

一方、世界では今、水産業は巨大な成長市場として注目を集めている。健康志向ブームや新興国の富裕層人口の増加を背景に、世界的に拡大基調が続いている。実質的に、日本の水産業は一人負けの状態なのだ。

そんな水産業を変えるため、11月6日、約70年ぶりに水産改革関連法案が閣議決定された。漁業制度の改正を含む同法案は、衰退する日本の伝統産業を変えるための施策が多数盛り込まれ、水産改革の起爆剤となることが期待されている。この法案の推進役の一人が、自民党で行政改革推進本部事務局長を務める小林史明衆院議員。日本の水産業の実情と、復活に向けたシナリオを聞いた。

 ――なぜ今、日本の水産業改革なのですか?

 小林 まず前提を少しお話します。世界的に見ると、水産業というのは実はものすごい成長産業なんです。

国連食糧農業機関(FAO) によると、2000年におよそ1.3億トンだった漁業生産量は、2025年には2億トンに迫る水準になると予想されています。数字として相当伸びているんですね。国・地域別でも、中国のほかインド、ノルウェーなどが軒並み大きく成長すると予想されています。

ところが、日本では正反対のことが起きています。漁業・養殖業の国内生産量は1984年の1282万トンをピークに毎年じわじわと減って現在はピーク時の3分の1程度に落ち込んでいます。今後の成長予想もマイナスで、世界6位の海洋大国として由々しき事態に直面しています。

 ――何が問題なのでしょうか?

小林 市場が成長する海外での漁獲競争の激化、あるいは地球温暖化による影響、日本人の魚離れなど様々な外的要因が指摘されていますが、私自身はそれだけだとは思っていません。端的に言えば、日本の水産業が抱える構造問題に着手してこなかったことが要因だと考えています。

問題は大きく2つあります。一つは、魚を過剰に獲りすぎていたこと。簡単な言葉でいうと、乱獲です。もう一つは、世界的に見て伸びしろがある養殖業を育む仕組みが整備されていないことです。順番に説明しましょう。

まず、乱獲については、日本では漁師が毎年、必要以上の魚を獲りすぎた結果、有限な水産資源が枯渇しつつあります。当たり前の事実ですが、成魚が減ると、子供は少ししか生まれてきません。それが成魚になって、また獲りすぎが起きると、子供の数はさらに少なくなる。この悪循環が毎年ひどくなっていき、漁獲高が減っていったのです。

市場の失敗が生んだ漁獲量の低迷

背景にあるのは、典型的な市場の失敗です。毎年の短期的な漁獲量の最大化を追うあまり、長期的な資源維持のメカニズムが働いてきませんでした。

もう一つの養殖業については、長らく続いてきた規制が大きな理由です。養殖業は海の一定の区画を専有して営むものなのですが、その際に漁業権と呼ぶ権利を有している必要があります。実は、海には不動産と同じように、漁業権が細かく割り当てられていて、養殖事業を展開するにはこの権利をクリアにしておく必要があります。ところが、現状はこの漁業権の実態が明確に把握されていません。農業の「耕作放棄地」ではないですけれど、権利はあるけれども誰も使っていないような「空き地」が存在するんですね。しかし、そこは誰かが権利を持っているから、勝手には使えません。

さらに、仮に漁業権が分かったとしても、実際に養殖事業を始めるには、地元の漁業共同組合と県の許可が必要です。ところが、この許可を出す前提となる条件が非常にあいまいでした。使用料金は、漁協の言い値で相場はありません。首尾良く借りられたとしても、5年に一度見直しがあって、地元の漁協から嫌われると、追い出される可能性があります。裁量が強く働く仕組みになっているんですね。

 つまり、参入障壁が圧倒的に高く、新規参入がとても難しい状況にあります。だから、例えば企業が参入したいと考えても、実質的に入れるのは日本水産やマルハニチロといった、資本力のある大企業に限られていました。特に資金の限られているスタートアップは非常に難しくて、その結果なかなか新陳代謝が起きない状況になっているのです。

繰り返しになりますが、本来の養殖業は成長産業のはずなんですよ。中国を筆頭に、東南アジアでも富裕層の拡大とともに魚の消費量は伸びています。正直伸びしろしかないはずなのに、その波に日本は乗れていないのは、非常にもったいないことです。だからこそ、今回の漁業法の改正には期待がかかっています。

獲りすぎを抑制するルールを改正

 ――今回の漁業法改正は、具体的にどう変わるのでしょうか?

小林 先程の2つの問題へのアプローチで言うと、まず、魚の獲りすぎを抑制するためのルールを改正します。具体的には、年間に獲ってもいい魚の量(漁獲可能量)を定めている魚の種類を増やし、漁獲量を適正に管理します。現在、漁獲可能量が定められているのはサバ、アジ、イワシなど8種類なのですが、これを25種類にまで拡大します。この結果、日本で流通する漁獲量の8割程度はカバーできることになります。

これを担保するのが、船ごとの「個別割り当て」で、漁船単位で獲得できる魚の量を調整します。毎年、獲得可能な魚の量を決め、その総量に基づいて船ごとに獲得量を割り当てます。その船がどれだけ魚を獲れるかについては、前年の実績などを基に考慮します。

前提となる1年ごとの獲得可能な魚の量については、水産研究・教育機構という独立行政法人が、科学的に検証して推計することになっています。漁業者に漁獲量報告義務などを課して、正確な数値の把握を徹底します。

もう一つの養殖業の育成については、漁業権の整理から取り組みます。先程の農作放棄地のたとえで言えば、現状は整理されていない海の権利を透明化することから始めます。漁業権はどこに誰が持っていて、適切に使われていないところはどこか、把握することに取り組みます。

 その上で適切に活用されていない区画に参入する場合ですが、漁業権の付与には、現状は利用できる優先順位があるのですが、これを撤廃します。従来は、漁業権の利用を申請した場合には漁協に加盟している人や団体が優先されて、純粋な法人には基本的に順番が回ってこない仕組みになっていました。

保護から成長産業へ転換する機会に

この2つの改革によって、企業の新規参入が増えることが期待されています。私の地元では、食品スーパーなどが漁業に参入してオリジナルブランドの魚を販売する動きがありますが、こうした動きがさらに加速すると思います。漁業にフォーカスしたスタートアップも増えるかも知れません。

個人的には、養殖業が発展することで、漁師が計画的に収入を得られることを期待しています。そうすれば、漁師の生活もずいぶんと変わるはずですよ。現状、漁師の生活は本当にその日の漁獲量に左右されていて、極端な話をすれば、年収1000万円の年もあれば、0円の年もある。収入が安定しないから、毎日海に出ないと不安だし、家族も心が休まりません。これが、若者が漁師になりたがらない一因でもあると思っています。今回の漁業法改正は、漁師の働き方改革にもつながると信じています。

――これまで、なぜこうした改革が着手されてこなかったのでしょう?

小林 結局、あまりに短期的な指向に陥っていたということだと思います。例えば、漁獲量に上限を設けられてしまうと、目先の売り上げは当然減ります。それは困るので、漁協は地元の政治家に陳情して、役所にプレッシャーをかけていきます。水産庁も現場や政治家からガンガン突き上げられると弱いですから、「仕方がないですね」という具合で、上限規制が形骸化されていきます。それが全国で起きて、結果的に獲りすぎの状況を招いていたのです。

その意味では、今回の漁業法改正の本当の勝負は、これから水産関係者の意識をいかに変えていくかになります。当然、目先の漁獲量は減る可能性もあるので、そうした状況になっても、長期的には産業が成長していくという努力を続けていく必要があります。

繰り返しますが、個人的には水産業は伸びしろしかないと思っています。情報技術をガンガン活用して生産性を高める余地がある。すぐに思いつくだけでも、効率的に魚群を探索するためにドローン技術を利用したり、魚のトレーサビリティにブロックチェーンを活用したりと、やれることは、無数にあります。

もちろん、課題も山積していますが、政府は今回の法案により、腹を据えて改革すると宣言しました。一刻も早く、保護産業から成長産業へ、世界で勝てる漁業に変えていきたいと考えています。

— 聞き手は 蛯谷 敏(Satoshi Ebitani)

小林氏の考え、日本の水産業のあり方についてのご意見をお待ちしています。コメント欄にぜひご記入下さい。

Masafumi Yagyu(柳生)

雲外に蒼天あり。平凡な日常。43 years old. I feel happy. It is an Image of Honeymoon.

6年前

確かに田舎のほうでは漁業の権利が強い。昔から住んでる地元民の結束力も強い。自分の実家もそういうしきたりが実際にあるから、よそ者はなかなか入り込めない気がする。漁業に限らずだけど。

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