ポートレートの撮影は一般的に、望遠域のレンズを利用することが多い。しかし、広角で撮るポートレートには特有の面白さがある。バリエーションを出すにも、利用する焦点距離の幅は広いほうがよく、望遠域だけ使っていてはもったいない! そこで今回は、ポートレート撮影における広角レンズの活用法を、キヤノンの単焦点レンズ2本を用いて解説しよう。
本記事ではキヤノンのミラーレスカメラを使用した。広角レンズとして選んだのは「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」(右)と「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」(左)。比較のために中望遠レンズ「RF85mm F2 MACRO IS STM」も使用した。カメラ本体にはフルサイズミラーレス「EOS R6 Mark II」を使っている
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影しています。一部の写真は「Digital Photo Professional 4」(DPP4)で現像処理しました。
ポートレートの撮影で望遠域(中望遠80mm前後〜望遠300mm程度まで)が利用されるのは、望遠レンズによるダイナミックなボケが重宝することが大きい。特に中望遠レンズは使用頻度が高く、焦点距離85mmの単焦点レンズを“ポートレートレンズ”と呼んだりする。これは、それだけポートレート撮影でこの焦点距離が扱いやすく便利だからにほかならない。
中望遠85mmで撮影
背景ボケが大きく人物が浮き上がって見える
EOS R6 Mark II、RF85mm F2 MACRO IS STM、85mm、F2、1/125秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、DPP4で現像処理
しかし、便利だからといって85mmレンズを中心に望遠域ばかりを使っていては、描写はどうしたってワンパターンになる。表現の幅を広げるためにもほかの焦点距離、とりわけ広角域も積極的に用いてメリハリをつけたいところだ。
まずは広角レンズでポートレートを撮影する際の特徴を列記していこう。
広角レンズは望遠レンズのように引かなくても周囲の情景を入れ込める。どういう場所で撮っているのかをシンプルにわかりやすく表現できるのは、広角域を使う大きなメリットだ。
広角35mmで撮影
情景を広くとらえることができる広角レンズは、人物と背景の両方を主張させたい場面で便利だ
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F2.8、1/200秒、ISO125、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
望遠レンズは人物をアップで撮ろうとすると、入り込む背景の範囲もそれにあわせて狭まる。しかし、広角レンズは人物に寄ると遠近感が強調される影響で、背景を広く入れ込むことが可能だ。寄りで撮る際も、広角域を活用することでダイナミックな画作りが楽しめる。
広角24mmで撮影
グッと人物に寄ることで、背景を広く入れながら力強い描写になった。広角レンズはこの寄り引きがバリエーションを増やすための重要な役割を担う
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F1.8、1/320秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:オート、DPP4で現像処理
中望遠85mmで撮影
望遠域は入り込む背景が少なくなる。その分、人物を目立たせられるが、描写は淡白になりやすい。アクセントになる要素を入れ込む工夫も必要に。ここではベンチを意図的に入れ込みアクセントにした
EOS R6 Mark II、RF85mm F2 MACRO IS STM、85mm、F2、1/160秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート、DPP4で現像処理
広角レンズは元々被写界深度が深く、ボケを演出しにくいアイテムだが、ピントを合わせる被写体に近づくことで大きなボケが得られる。特に今回使った明るい単焦点レンズであれば、被写界深度の浅い描写が気軽に楽しめる。
広角35mmで撮影
手を前にかざしてもらい、表情にピントを合わせながら前後ボケを演出した。ダイナミックな遠近感もポイントだ。広角レンズだからこそ撮れる写真である
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F2.2、1/400秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:ポートレート
焦点距離は短くなるほど遠近感が強調される。近くのものはより大きく、遠くのものはより小さく再現される。奥行きのあるシーンではより広がりのある、躍動感ある描写が得られる。
また、広角レンズは画面周辺が歪みやすくなる。こうしたデフォルメ効果も画作りに生かせる。典型例に、アングルを意識したポートレート撮影がある。全身をとらえる際は、低い位置から見上げるような視点で撮ってみよう。デフォルメ効果と強調される遠近感の影響で「脚長・小顔効果」が得られる。
寄りで撮る際も、デフォルメ効果で顔が細く見えるのも広角レンズの特徴だ。望遠になるほどデフォルメ効果は乏しくなり、顔のフォルムがより正確に再現されるようになる。
広角24mmで撮影
遠近感が強調されることで、小道の伸びる様子が力強く、解放感のある描写になった。低い位置から狙っているのもポイントだ
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F2、1/200秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート、DPP4で現像処理
中望遠85mmで撮影
背景が圧縮され、デフォルメ効果も希薄だ。上の24mmでの作例と同じ小道で撮っているがまったく見え方が異なっている。どちらがよい悪いではなく、表現したい内容に応じて撮り手が選択することが重要なのだ
EOS R6 Mark II、RF85mm F2 MACRO IS STM、85mm、F2、1/125秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:オート
ちなみに、広角レンズを使う際は画面の隅に顔を配置しないように注意したい。特に被写体に寄る際は意識しよう。デフォルメ効果が強調される影響で、顔が歪んで写ってしまうためだ。
下の2枚の作例を見てほしい。1枚目は自然な見え方だが、2枚目は、人物に近づきつつ傘を画面周辺に配置したことで、実際以上に傘が大きく見えていてバランスが悪い。
広角24mmを使い、やや引き気味に撮影。画面の中心に被写体があり、歪みは少ない
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F4、1/500秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
広角24mmを使い、やや寄り気味に撮影。デフォルメ効果で傘が大きく見える
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F4、1/500秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
今回の撮影は、焦点距離24mmの「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」と35mmの「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」の単焦点・広角レンズ2本で撮影を行った。ポートレートで用いる広角レンズとしては、まずは、この2つの焦点距離の違いを知るとよいだろう。
選択肢としては28mmレンズもあるが、明るい単焦点レンズとなると、24mmと35mmが各メーカーともラインアップが充実している印象だ。24mmと35mmではそれぞれに持ち味がある。ここからは個々の特徴と使い分けを解説していこう。
左が「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」で、右が「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」。「RF24mm F1.8 MACRO IS STM」は全長約63.1mm/重量約270g。「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」は全長約62.8mm/重量約305g。サイズ感はほぼ同じ。どちらもコンパクトで携行性にすぐれている
焦点距離は短くなるほど、1mmの違いによる描写の変化が大きくなる。つまり、24mmと35mmではたった6mmしか差がないが、これは85mmと91mmを比較するのとはわけが違うのである。広角域における6mmの違いは非常に大きな変化を描写にもたらす。
以下の2つの作例では、24mmでほどよく全身が入るポジションから、24mmと35mmで撮り比べてみた。6mm違うだけで画角が大きく変化することがわかるはずだ。
24mmで撮影
35mmで撮影
次の2つの作例は、被写体が同じくらいの大きさになるように撮影距離を調整して24mmと35mmで撮影したもの。背景の入る範囲が結構違うことがわかるだろう。24mmのほうが背景が広く入っていてダイナミックな印象だ。
24mmで撮影
35mmで撮影
24mmは広角域としては標準的で、どちらかというと周囲の風景をしっかり入れ込みたい場面で有効だ。遠近感も出しやすく、人物に寄りながら背景をダイナミックに入れ込むことができる。画面いっぱいを使って臨場感や躍動感のあるポートレートを撮影できる。
いっぽう、寄る際は顔のデフォルメに注意が必要だ。極端に寄りすぎず、ほどよい距離感を保ちながらフレーミングしたい。そういった意味では、やや扱いが難しい側面もある。
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F2、1/250秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:オート
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F2、1/640秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:オート
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F2、1/2000秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:モノクロ、DPP4で現像処理
標準域50mmに近いイメージで撮影に臨めるのが35mmの魅力だ。背景を適度に入れ込みながら、自然な見え方でポートレートを撮影できる。過剰にデフォルメされてしまうこともなく、構図も決めやすい。広角域のなかでは非常に利用しやすい画角だ。
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F2、1/200秒、ISO400、+0.7EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:オート
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F2、1/2000秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F1.8、1/250秒、ISO125、+1.0EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート
冒頭から述べているように、広角レンズは被写界深度が元々深い。単焦点レンズのほうがボケを気軽に演出できて重宝する。機動力を優先したい場面でも、標準ズームレンズに1本単焦点・広角レンズを忍ばせておくだけでも(仮に焦点距離が被っていても)表現に幅が生まれるはずだ。多少暗いズームレンズでも望遠側はボケを演出できるので、広角側は明るい単焦点レンズを使えば、被写界深度の浅い写真をバリエーション豊かに撮ることができる。
広角24mm、絞り値F1.8で撮影。24mmでもF1.8まで開ければ、それほど寄らなくても大胆な背景ボケが演出できる。ここでは樹木で前ボケも作ってみた
EOS R6 Mark II、RF24mm F1.8 MACRO IS STM、24mm、F1.8、1/125秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:ポートレート、DPP4で現像処理
明るい単焦点レンズは、暗所でも低感度のままシャッタースピードを落とさず、明度の高い写真が撮影できる。今回のロケは雨模様の中で行ったが、暗さを気にせず撮影に集中できた
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F1.8、1/500秒、ISO800、+1.0EV、ホワイトバランス:くもり、ピクチャースタイル:オート
今回使用した2つのレンズは、いずれもハーフマクロに対応する接写能力を有している。身に着けているアクセサリーなどのパーツもクローズアップして撮れる
EOS R6 Mark II、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、35mm、F1.8、1/400秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:ポートレート、DPP4で現像処理
ポートレートの撮影では、広角域を最大限に活用することで、バリエーションを増やすことができる。望遠域がメインであっても、要所要所で広角域で撮った写真を差し入れてみよう。グッとポートレートの世界観が締まる。よい気分転換にもなるはずだ。
24mmと35mmのどちらを選ぶかは悩ましい。どちらも持つのが理想かもしれないが、単純に使いやすさで比較すると35mmのほうに軍配は上がるだろう。しかし、使いやすさと表現力は別だ。24mmは35mmでは表現できない広角ならではのダイナミックな遠近感があり、背景ボケとうまく組み合うと非常にドラマチックな写真になる。あるいは、周囲の情景にも気を配りたい人は24mmを、あくまで主題はポートレートで背景は副題にすぎないという人は35mmを、というような分け方もできるかもしれない。とはいえ、どちらを選ぶかは非常に悩ましい。
85mmレンズも含めて今回使用したキヤノンの3本は、いずれも小型・軽量でかつ10万円以下で購入できるリーズナブルな単焦点レンズだ。この3本だけでも十分にさまざまなストーリーが形作れるだろう。ぜひ活用してみてほしい。
モデル:Kaho