コンパクトミニバンのホンダ「フリード」が、2024年6月にフルモデルチェンジされる。筆者は、新型「フリード」の実車をひと足先に試乗し、価格などの詳細についても独自情報で判明した。
そこで今回は、新型「フリード」とライバル車のトヨタ「シエンタ」の2車について、内外装やシートアレンジ、荷室の使い勝手、走りや乗り心地、価格や装備に至るまで徹底比較してみよう。
2024年6月に3代目へフルモデルチェンジされる、ホンダ「フリード」
3代目モデルが2022年に発売された、トヨタ「シエンタ」
比較する前に、記事掲載時点で公表されていない新型「フリード」のグレードごとの価格や燃費(暫定値)などの情報を独自に入手したので、以下にお伝えしたい。
■ホンダ 新型「フリード」のグレードラインアップと価格(2WD/販売店調べ)
-エアー-
・NAエンジン搭載車
エアー [6人乗り]:250万8,000円
エアーEX [6人乗り]:269万7,200円
エアーEX [7人乗り]:274万1,200円
・e:HEV(ハイブリッド)
エアー [6人乗り]:285万7,800円
エアーEX [6人乗り]:304万7,000円
エアーEX [7人乗り]:309万1,000円
-クロスター-
・NAエンジン搭載車
クロスター [5人乗り]:281万2,700円
クロスター [6人乗り]:285万6,700円
・e:HEV(ハイブリッド)
クロスター [5人乗り]:316万2,500円
クロスター [6人乗り]:320万6,500円
■ホンダ 新型「フリード」のWLTCモード燃費(2WD/販売店調べ)
※燃費は暫定値になります
-エアー-
・NAエンジン搭載車
エアー [6人乗り]:16.5km/L
エアーEX [6人乗り]:16.4km/L
エアーEX [7人乗り]:16.3km/L
・e:HEV(ハイブリッド)
エアー [6人乗り]:25.6km/L
エアーEX [6人乗り]:25.4km/L
エアーEX [7人乗り]:25.3km/L
-クロスター-
・NAエンジン搭載車
クロスター [5人乗り]:16.4km/L
クロスター [6人乗り]:16.4km/L
・e:HEV(ハイブリッド)
クロスター [5人乗り]:25.5km/L
クロスター [6人乗り]:25.3km/L
■ホンダ 新型「フリード」グレードごとの装備
●エアー
HondaSENSING(衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能)、サイド&カーテンエアバッグ、LEDヘッドライト、電子制御パーキングブレーキ、両側スライドドアの電動機能、撥水・撥油シート生地など
●エアーEX(エアーの装備に加えて)
ブラインドスポットインフォメーション、リヤクーラー、コンビシート(上級シート表皮)、本革巻きステアリング&ATレバー、アルミホイールなど
●クロスター [6人乗り](エアーEXの装備に加えて)
クロスター専用の外装パーツ、ルーフレール、LEDフォグライトなど
●クロスター [5人乗り](クロスター [6人乗り]と比べたときの変更点)
荷室後部の形状を変更して、ユーティリティナット、ユーティリティボードなどを追加装着。その代わりに3列目のシートやリヤクーラーは非装着
新型「フリード」のグレード構成は、大きくは標準タイプの「エアー」と、SUVタイプの「クロスター」の2種類に分けられる。どちらにも、1.5L直列4気筒のNAガソリンエンジンと、ハイブリッドの「e:HEV」がラインアップされている。
対する「シエンタ」のボディは1種類のみだが、パワートレインは1.5L直列3気筒のNAガソリンエンジンとハイブリッドがラインアップされている。
新型「フリード」のボディサイズは、全長が4,310mmで、全幅は「エアー」が1,695mm、「クロスター」は1,720mmになる。「クロスター」は、フェンダーにSUV風の樹脂パーツを装着したこともあって、3ナンバーサイズに拡幅されている。全高は1,755mm(2WD)だ。
標準タイプの「フリード エアー」のフロント、リアエクステリア
SUVタイプの「フリード クロスター」のフロント、リアエクステリア
対する「シエンタ」は、全長は4,260mmに収まる。全幅も1,695mmで、全グレードが5ナンバー車だ。全高は1,695mmなので、新型「フリード」の「エアー」と比べても、全長、全高ともに「シエンタ」のほうが小さい。
「シエンタ」のフロント、リアエクステリア
インパネの上面は両車とも平らなので、前方視界がスッキリとしており見やすい。ななめ後方の視界は、水平基調の「フリード」のほうが少しすぐれている。その代わり、全長は前述のとおり「シエンタ」のほうが短く扱いやすい。
運転のしやすさについては、どちらもコンパクトなボディサイズで視界がよく、良好だ。
結果:
ボディサイズは「シエンタ」のほうが少し小さく、扱いやすい
視界は「フリード」のほうが少し見やすい
どちらも運転しやすい
インパネのレイアウトは、両車ともに似た造形が採用されている。助手席の前方にトレイが備わっていたり、グレードに応じて布や合成皮革などが貼られていたりなども同様で、インパネ全体の質感はどちらもよい。そのうえで、「フリード」のインパネは広い面積が表皮に包まれているので、質感がより高く感じられる。「シエンタ」の質感も高いほうなのだが、「フリード」の内装はさらに上質なものとなっている。
「フリード」のインパネ周り
「シエンタ」のインパネ周り
メーターパネルは、「フリード」はデジタル表示だ。いっぽう、「シエンタ」のZは多彩な表示が可能で、GとXはアナログメーターと4.2インチマルチインフォメーションディスプレイを併用する。視認性は、両車ともに良好だ。ATレバーは、両車ともインパネの中央付近に備わり、周辺のスイッチ類などを含めて使いやすい。
結果:
内装の質感はコンパクトカーとしてはどちらも高い
メーターの視認性、スイッチなど操作性はどちらも見やすく、使いやすい
両車ともに、フロントシートのサイズには余裕がある。さらに、「フリード」は背中から腰、大腿部をしっかりと支えてくれて、長距離を移動するときでも着座姿勢が乱れにくく、疲労も抑えられる。「シエンタ」もシートの造りは似ているのだが、サポート性は「フリード」のほうが少しすぐれている。
「フリード」のフロントシート
「シエンタ」のフロントシート
結果:
1列目シートは「フリード」のほうが少しサポート性がよい
2列目シートは、「フリード」には6人乗りのセパレートシートと、7人乗りのベンチシートの2種類が用意されている。「シエンタ」は、7人乗りのベンチシートのみだ。
一般的に、ミニバンの2列目シートはベンチシートよりもセパレートシートの人気が高い。2列目シートがセパレートシートになると、乗車定員は1名減るものの、座り心地が向上する。さらに、車内の中央が通路になるので、2〜3列目の移動などもしやすい。たとえば、3列目から中央を通って2列目へ移動して、スライドドアから乗り降りするときなどにも便利だ。
「フリード」の2列目セパレートシート
「フリード」の2列目ベンチシート
「シエンタ」の2列目ベンチシート
身長170cmの大人6名が乗車したとき、2列目シートに座った乗員の膝先空間を握りコブシ1つ分に調節すると、3列目シートに座る乗員の膝先空間は、「フリード」は握りコブシ2つ分の広さがあるが、「シエンタ」は0.5個分に留まる。3列目シートの足元空間は、「フリード」のほうがかなり広い。
「フリード」の3列目シート
その代わり、「シエンタ」には薄型燃料タンクが採用されているので、「フリード」に比べると3列目の床が低い。そのため、3列目の床と座面の間隔は、「シエンタ」のほうが40mm上まわり、膝が持ち上がるような窮屈な姿勢になりにくい。つまり、「フリード」の3列目シートは足元空間が広く、「シエンタ」の3列目シートは自然に座れるという違いがある。
「シエンタ」の3列目シート
2、3列目シートの座り心地については、「フリード」のほうが快適だ。特に3列目シートは、「シエンタ」に比べると床と座面の間隔が足りず、膝が持ち上がった座り方になりやすいが、それでも座面は柔軟でボリューム感があって座り心地はよい。
ひとつ注意したいのは、NAガソリンエンジンとハイブリッドで、居住性が異なる場合があることだ。特に「フリード」の場合、NAガソリンエンジンでは2列目シートに座る乗員の足が1列目シートの下にスッポリと収まるが、ハイブリッドのe:HEVでは足がシート下に入りにくい。
コンパクトミニバンの場合、多人数で乗車するときには、かぎられた足元空間を2、3列目で分け合う必要が生じてくる。「フリード」は、両席の膝先空間が握りコブシ1.5個分前後になるよう2列目シートのスライド位置を調節するが、このときに2列目シートに座る乗員の足が1列目シートの下側に収まるか否かで、2、3列目の快適性が変わってくる。「フリード」の場合、多人数乗車が快適なのは、2列目シートに座る乗員の足が1列目シートの下側に収まりやすいNAガソリンエンジン車だ。
結果:
「フリード」は2列目にセパレートシートを選べる
2、3列目シートの座り心地は「フリード」のほうが快適
3列目シートは「フリード」のほうが広く、「シエンタ」は自然な体勢で座れる
他人数が乗車する機会の多いミニバンは、荷室の使い勝手も大切な機能のひとつになる。
両車ともに、3列目シートを格納すれば、大きな荷物も積み込める広い荷室になる。路面から荷室床面までの高さは、「フリード」が480mmで、「シエンタ」は505mm。荷室床面はどちらも低いので、荷物を大きく持ち上げずに積むことができる。
3列目シートの格納方法は、「フリード」は左右に跳ね上げるタイプで、「シエンタ」は2列目下に格納するタイプだ。「フリード」は格納操作がカンタンだが、格納された3列目シートが荷室に張り出す。
「フリード」で3列目シートを左右に跳ね上げた状態
いっぽう、「シエンタ」は3列目シートが床下に格納されるので、スッキリとした広い荷室になる。だが、3列目シートの格納操作をするたびに、2列目シートも動かす必要がある。
「シエンタ」で3列目シートを床下に格納した状態
つまり、3列目シートの出し入れをひんぱんに行うユーザーなら、格納操作がカンタンな「フリード」が適している。また、3列目を格納して広い荷室として使うことが多いユーザーなら、「シエンタ」のほうが向いているだろう。
結果:
3列目シートをひんぱんに出し入れするなら「フリード」
荷室を広く使いたいなら「シエンタ」
「フリード」と「シエンタ」には、それぞれ2列シート車も用意されている。特に、「フリード クロスター」の5人乗りは、車椅子で乗車できる福祉車両もあるので、車内後部の床がスロープ状に低く抑えられている。そのため、路面から荷室床面までの高さが335mmと低いので、重い荷物なども積みやすい。
また、「フリード」の2列シート車は専用のボードを使うことで、荷室を上下2段に分けられる。後席の背もたれを前側に倒すと、荷室上段が平らな広い空間になり、車中泊としても使いやすい。下段には、低い床を生かして荷物を十分に収納できるから就寝時にも便利だ。
「フリード」2列シート車の荷室
「シエンタ」の2列シート車も荷室はフラットで広いのだが、「フリード」は3列シート車とは明確に異なる使い勝手の高さが魅力となっている。
結果:
2列シート車は、どちらも2列目を倒せば広くてフラットな荷室になる
「フリード」の2列シート車は荷室を上下2段に分けられる
新型「フリード」のパワーユニットは、1.5L直列4気筒のNAガソリンエンジンとハイブリッドの「e:HEV」だ。「シエンタ」は、1.5L直列3気筒NAガソリンエンジンで、同じくハイブリッドも選べる。
両車の動力性能について、NAガソリンエンジン同士で比べると、「シエンタ」は軽快な吹け上がりが特徴的だ。「フリード」は、動力性能では「シエンタ」に少し劣るが4気筒なので、3気筒の「シエンタ」に比べてエンジンノイズが小さいというメリットがある。
「シエンタ」NAガソリンエンジン車の走行イメージ
いっぽう、ハイブリッドを両車で比べてみると、新型「フリード」のe:HEVのほうが力強い。通常走行ではエンジンが発電を行い、モーターが駆動を担うので加速は滑らかだ。3気筒の「シエンタ」に比べると、ハイブリッドについても「フリード」のほうがノイズは小さい。
「フリード e:HEV」の走行イメージ
結果:
NAガソリンエンジンは「シエンタ」のほうが軽快
ハイブリッドは「フリード」のほうがパワフル
静粛性は「フリード」のほうが静か
走行安定性は、「フリード」のほうがすぐれている。ステアリング操作に対する車両の反応は、「シエンタ」も先代から現行になってかなり改善されたのだが、新型「フリード」のほうがさらに正確だ。「シエンタ」はその代わり、運転フィールが軽快で、車両の向きを変えやすい。「フリード」は、「ステップワゴン」のようなミドルサイズミニバンに近い走りで、「シエンタ」は「ヤリス」や「アクア」のようなコンパクトカーに近い感覚という違いになる。
乗り心地は、どちらもやや硬めなのだが「フリード」のほうがわずかにやわらかい。
「フリード e:HEV」の走行イメージ
「シエンタ ハイブリッド」の走行イメージ
結果:
運転感覚は、「フリード」は重厚で「シエンタ」は軽快
走行安定性は「フリード」のほうが高い
乗り心地は、どちらもやや硬め
後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットインフォメーションなどは、両車とも、売れ筋グレードに標準装備されている。だが、「シエンタ」の衝突被害軽減ブレーキは、右折時にも直進車両や横断歩道上の歩行者を検知して作動する。安全装備は、「シエンタ」が少し先進的だ。
結果:
安全装備は、「シエンタ」のほうが少し先進的
(「フリード」の燃費数値は、独自情報によるメーカー暫定値になります)
売れ筋グレードのWLTCモード燃費を比較してみよう。「フリード」の「エアーEX」6人乗り(2WD)は、NAガソリンエンジンが16.4km/Lで、ハイブリッドのe:HEVは25.4km/L。
対する「シエンタ」の「Z」7人乗り(2WD)は、NAガソリンエンジンが18.3km/Lで、ハイブリッドは28.2km/Lになる。NAガソリンエンジン、ハイブリッドともに、WLTCモード燃費は「シエンタ」のほうがすぐれている。
結果:
燃費は、「シエンタ」のほうがすぐれている
「フリード」の買い得グレードは、「e:HEV エアーEX」の2WD(304万7,000円/6人乗り)だ。いっぽうの「シエンタ」は、「ハイブリッドZ」の2WD(303万6,600円/7人乗り)になる。
「シエンタ」の「ハイブリッドZ」は、「フリード」の「e:HEV エアーEX」と異なり、アルミホイールは標準装備されないが、ハイビーム使用時にも対向車などの眩惑を抑える「アダプティブハイビーム」や「ドライバー異常時対応システム」、「10.5インチ ディスプレイオーディオ」などが標準装備されている。価格が同程度のグレード同士で比べると、装備は「シエンタ」のほうが充実している。
また、NAガソリンエンジンについては、「フリード」は「エアーEX」の2WD(269万7,200円/6人乗り)、「シエンタ」は「Z」の2WD(268万6,600円/7人乗り)を推奨したい。
「フリード」に用意されるSUV風の「クロスター」は、積載性にすぐれた2列シート仕様を推奨する。「クロスターe:HEV」の2WD(316万2,500円)、あるいはNAガソリンエンジンの「クロスター」の2WD(281万2,700円)を検討するとよいだろう。
結果:
「フリード」は「e:HEV エアーEX」(2WD)が買い得
「シエンタ」は「ハイブリッドZ」(2WD)が買い得
「フリード」は、3列目シートの使用頻度が比較的高い人など、ミニバンの機能を重視するユーザーに適している。そして、2列シートの「フリード クロスター」の5人乗りは、車中泊を楽しむなど、車内の広さを重視するユーザーに向いている。
いっぽうの「シエンタ」は、通常は2列シートで使って、たまに3列目シートを利用するといった用途にピッタリだ。ボディが短く、運転感覚もコンパクトカーに近く軽快なので、気軽に扱えるミニバンがほしいというユーザーに適しているだろう。
(写真:島村栄二、ホンダ、トヨタ、価格.comマガジン編集部)