「第12世代Coreプロセッサー」シリーズの発売から約1年となる2022年10月20日、待望のインテルの最新CPU「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが市場投入された。今回インテルから、ハイエンドモデルの「Core i9-13900K」とスタンダードモデルの「Core i5-13600K」のレビュワーズキットをお借りすることができたため、前世代の「Core i7-12700K」と比較しながら、2回にわたって徹底チェック。『インテル第13世代Coreシリーズの実力は? 「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」を試す【前編】』では、基本スペックと主要ベンチマークプログラムを確認し、その大きな進化に目をみはった。いよいよこの後編では、クリエイティブ作業や人気ゲームを利用したベンチマークプログラムを試し、より実践的なタスクにおける性能を見極めていきたい。
ベンチマーク結果を確認していく前に、『インテル第13世代Coreシリーズの実力は?「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」を試す【前編】』で明らかになったことを、ざっとおさらいしておこう。
まず大前提となるのは、今回登場した「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは、圧倒的なハイパフォーマンスで一世を風靡した前世代「第12世代Coreプロセッサー」シリーズの設計思想を、基本的には変えずに受け継いでいるということ。その中核となるのは、パフォーマンスを追求した「Pコア」と、高効率に徹した「Eコア」という2種類のコアを組み合わせたハイブリッド・アーキテクチャーだ。ハイブリッド・アーキテクチャーの導入によって、システム系の処理やバックグラウンドタスクなどを電力効率にすぐれたEコアが担当し、アプリケーションのメイン処理をパワフルなPコアが集中的にさばくという理想的な分業が実現する。これにより前世代の「第12世代Coreプロセッサー」シリーズは、シングルコア性能とマルチコア性能を高次元で両立させることに成功したため、最新の「第13世代Coreプロセッサー」シリーズでもその路線を継承したというわけだ。さらに、CPUソケットも前世代のLGA1700から変更なし。回路の線幅も10nmのまま据え置かれている。
ただしこの最新CPUは、こうした前世代の基本設計を踏襲しつつも、マイナーチェンジのひと言では片付けられない進化を遂げていた。その根源となっているのは、プロセスルールのアップデートだろう。プロセスルール「Intel 7」は前世代から名称こそ変わらないが、10nmのまま構造を刷新し、省電力性を大規模に改善。これにより、動作クロックを最大600MHzも引き上げることに成功している。また、この省電力性の改善により、Eコアを各モデルで倍増させることも実現。ハイブリッド・アーキテクチャーの持ち味であるシングルコア性能だけでなく、やや不得手となるマルチコア性能も手厚く進化させた格好だ。さらには、PコアとEコアの双方でL2キャッシュが大幅に増やされているうえ、EコアではL3キャッシュも増量。キャッシュのリングパスが強化されていることも相まって、キャッシュを多用するゲームなどで、さらなるハイパフォーマンスが期待できるのだ。
今回チェックした「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」。いずれも同じ形状をしているうえ、CPUソケットが共通する「第12世代Coreプロセッサー」シリーズともほぼ変わらない
「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」と、比較モデルとして使用する前世代「Core i7-12700K」の主な仕様をまとめたもの。プロセスルールが改良版になっていることや、Eコア数とキャッシュ、最大ブーストクロックが大きく引き上げられていることに注目したい
事実、前編で実施したベーシックなベンチマークでは、シングルコア性能とマルチコア性能の双方で飛躍的な向上が確認された。基本的にはいずれの性能も前世代より1クラス以上も上昇しており、フルモデルチェンジ級の進化を遂げていると言える。加えて、高負荷時であってもサーマルスロットリング(温度制限)によるパフォーマンス低下がほとんど生じなかった。「Intel 7」の刷新によって省電力性を追求し、発熱を極力抑え込めたからからこそ、このようにパフォーマンスを最大化できたと言えるだろう。それでも、前編でチェックしたような一般的なベンチマークよりも、より実践的なタスクで「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは真価を発揮するとインテルは主張する。そしてこの後編では、実際のアプリケーションを動かしてテストするベンチマークが中心になるため、どこまでパフォーマンスを伸ばしてくるか要チェックだ。
なお、ライバルとなるAMDの「Ryzen 7000」シリーズは対照的に、無理なクロックアップが祟って非常に発熱しやすく、上位モデルほどパフォーマンスの低下が顕著。『AMD「Ryzen 7000」シリーズ全4モデルをベンチマークで徹底検証【前編】』では、今回と同等の環境でその性能を検証したが、主要ベンチマークでは全体的に「第13世代Coreプロセッサー」シリーズに軍配が上がっていると言える。とりわけシングルコア性能では、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズの優位性が見て取れる。この後編で試すクリエイティブタスクやゲームのベンチマークでも、シングルコアの活躍ぶりに注目したいところ。
ただ、マルチコアがふんだんに生きるタスクでは、高性能コアのみで固めた「Ryzen 7000」シリーズは驚異的なパフォーマンスを見せる。高効率に特化したEコアを混ぜ込んだ「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは、こうしたシンプルなマルチコア性能ではそこまで突き抜けない部分も前編では見られたため、この後編で扱う実践的なタスクでどこまで伸びるかもしっかりとチェックしたい。
今回検証した「Core i9-13900K」「Core i5-13600K」と、比較用の「Core i7-12700K」で使用したパーツリスト
それでは今回の検証環境を確認しておこう。上記のとおり、パーツは前編と同じだ。メモリーに関しても同様に、XMPを使用して、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」では定格のDDR5-5600に、「Core i7-12700K」では定格のDDR-4800に設定している。それ以外のUEFIの基本設定はデフォルトのAutoのままとした。また、「Windows 11」のコントロールパネル内の電源オプションは「バランス」、設定アプリ内の電源モードは「最適なパフォーマンス」に設定して検証を行った。
ここからは、クリエイティブ系ベンチマークの結果を見ていきたい。まずは、「Photoshop」を実際に自動操作することで画像編集性能を測定する「PugetBench for Photoshop」をテスト。「Photoshop」のような歴史の長いプログラムでは、マルチコアが十分に活用されず、シングルコアをベースとした処理が中心になってくる。そのため、高発熱によってシングルコア性能が制限されやすい「Ryzen 7000」シリーズでは上位モデルほど伸び悩みが見られたが、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズはどうだろう。ハイエンドモデルの「Core i9-13900K」がしっかりと突出し、「Core i5-13600K」も1クラス上位にあたる前世代モデル「Core i7-12700K」を超えてきた。画像編集におけるシングルコア性能の安定した強さを実証した形だ。
「PugetBench for Photoshop」では、シングルコア性能がダイレクトに反映され、「Core i9-13900K」が「Core i5-13600K」の1割ほど高いスコアをマーク
続いて、動画編集プログラムの「DaVinci Resolve」を自動操作して処理速度をスコア化する、「PugetBench for DaVinci Resolve」をテスト。「DaVinci Resolve」もシングルコアベースの処理が多いため、「Photoshop」の場合と同様の順でハイスコアがマークされた。ただ、「Photoshop」ほど伝統的なプログラムではなく、マルチコア性能もある程度反映されるため、各モデルの差はより大きくなっている。ここで特筆したいのは、全体的に「Photoshop」よりも成績がよいということ。同一環境という訳ではないが、以前「Ryzen 7000」シリーズを検証した際の結果と比べてもかなりよいスコアと言える。
「PugetBench for DaVinci Resolve」のベンチマーク結果も順当なものだが、全体的に伸びがよりよい。「Core i5-13600K」の1627というスコアも、1クラス上位にあたるライバルAMDの「Ryzen 7 7700X」を凌ぐほどのレベルだ
次に、レイトレーシングプログラム「POV-Ray」(v3.7)に付属するベンチマークで、3DCGのレンダリング性能をチェックした。前編でテストした、同じレンダリング系ベンチマークプログラム「CINEBENCH R23」の結果も非常に秀逸だったが、この「POV-Ray」でも圧倒的なスコアをマーク。特に注目したいのは、マルチコア処理を行う「All CPU」の結果。「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」ともにシングルコア処理だけでなく、ハイブリッド・アーキテクチャーが本来やや不得手とするマルチコア処理においても、高いパフォーマンスを安定して実現していることが確認できた。
このあたりはやはり、Eコアを倍増させた効果が大きく反映されているのだろう。そしてハイブリッド・アーキテクチャーでは、コントローラーの「スレッド・ディレクター」がこうしたコアにタスクを割り振るわけだが、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズではこの「スレッド・ディレクター」も効率的に機能するよう改良されている。こうした一見目立たない部分での改良の積み重ねも、マルチタスク性能の躍進を力強く支えているに違いない。
「POV-Ray」のベンチマーク結果。シングルコア性能を示す「One CPU」、マルチコア性能を示す「All CPU」のいずれもかなり優秀なスコアで、苦手部分の見えない、バランスに富んだCPUに仕上がっていることを示してみせた
「POV-Ray」では優秀な性能を示してくれた「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」だが、いっぽうで3DCGモデリングプログラム「Blender」を利用する「Blender Benchmark」(v3.1)では全体的には着実な伸びを示してはいるのの、「POV-Ray」ほどの勢いはなくなっていたことも報告しておきたい。「Blender Benchmark」もまた「POV-Ray」と同様にレンダリング性能をチェックするものだが、処理の種類によっては、パフォーマンスの伸びにばらつきがあるということだろう。
「Blender Benchmark」では、「Core i9-13900K」は「Ryzen 9 7950X」ほどは伸びなかった
クリエイティブ系テストで最も印象的だったのは、動画のエンコード性能を測る「x264 FHD Benchmark」(v1.0.1)。H.264形式のフルHD動画をエンコードして1秒あたりの処理フレーム数を計測するもので、シングルコアだけでなくマルチコアを活用する割合も多いタスクだが、このテストでも「第13世代Coreプロセッサー」シリーズのパフォーマンスのよさが際立った。これまでのベンチマーク結果もあわせて考えると、こうしたシングルコア性能とマルチコア性能がともに求められるタスクでは、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズのパフォーマンスが最も輝かしく開花すると言えそうだ。
「x264 FHD Benchmark」のベンチマーク結果。ハイパフォーマンスの目安となる100fpsを「Core i5-13600K」ですでに超え、「Core i9-13900K」に至っては136fpsにも達する
ここからは、実際のゲームを使用したベンチマーク結果を確認していこう。各ベンチマークを「1920×1080」「2560×1440」「3840×2160」の解像度でテストし、それぞれで計測された平均フレームレートを比較する。まずテストしたのは、中程度の負荷がかかる定番の「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(画質は「最高品質」に設定)だ。前編では、ゲーミング性能を測る「3DMark」のテストでモデル間にあまり大きな差が見られなかったが、今回は明確に性能差が示された。全体的には性能順の妥当な成績が示されたが、ここで注目したいのは、前世代の「Core i7-12700K」を「Core i5-13600K」が大きく突き放していること。これまでのクリエイティブ系ベンチマークではあまり見られなかったため、このあたりは大幅に強化されたキャッシュまわりが効果的に働いていると言えそうだ。
「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」では順当なfpsが示されたが、「Core i9-13900K」と「Core i5-13600K」の差よりも、「Core i7-12700K」と「Core i5-13600K」の差のほうが大きいため、キャッシュの増量がとりわけ効いていると見て取れる
次にチェックしたのは、重量級ゲーム「アサシンクリード ヴァルハラ」(画質は「Ultra High」に設定)のベンチマークテストだ。トップクラスの負荷がかかるゲームながら、やはり総じて高いフレームレートをマークし、ここでも凄みを感じさせてくれた。ただし、こちらは打って変わって、各モデルの性能差があまりはっきりとしない結果に。「2560×1440」では「Core i9-13900K」が頭ひとつ抜けているものの、「1920×1080」と「3840×2160」では横並びに近い。
このような場合、まず発熱によってサーマルスロットリングが発動している可能性を考えたい。実際、ライバルの「Ryzen 7000」シリーズでの検証では、上位モデルがゲーム時の発熱によって大きくパフォーマンスを落としがちであることが確認できた。しかし、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは、100%の高負荷時でもサーマルスロットリングがほぼ発動しないことは前編で確認済みであるし、明確なスコアの落差も見られない。そのため今回は、CPU側に大きな問題があるわけではなく、GPUの性能限界によって上限値が下がっているものと見たほうが妥当だろう。今回検証に使用している「GeForce RTX 3070」より高性能なGPUを使用すれば、より明確なパフォーマンスの差が出るのかもしれない。
「アサシンクリード ヴァルハラ」ではモデル間の性能差こそ明確には出なかったが、総じて高フレームレートをマークした
念のため、非常に大きな負荷がかかる「ウォッチドッグス レギオン」(画質は「最大」に設定)のベンチマークテストもチェック。こちらのほうがより各モデルの性能差が縮まって、いずれの解像度でもスコアはほぼ横並びになった。「アサシンクリード ヴァルハラ」よりさらに重いゲームであるため、GPUの性能限界がより明確になったと言えるだろう。ただし、全体的にこのクラスのGPUを使用したものとしては秀逸なパフォーマンスだ。
「ウォッチドッグス レギオン」では、各モデルのフレームレートは見事に横一線。100fpsを下回るレベルの高負荷状態だと、「GeForce RTX 3070」ではCPUの性能差が出にくいようだ
続いて、重い部類のゲームながら、「アサシンクリード ヴァルハラ」や「ウォッチドッグス レギオン」ほどの負荷は要しない、「ファークライ6」(画質は「最高」に設定)のベンチマークをチェック。するとやはり、処理が軽めの「1920×1080」では、しっかりと各モデルの性能差が表れた。ここでも「Core i7-12700K」と「Core i5-13600K」の差が比較的大きく、キャッシュを強化した効果が顕著に表れていることがよくわかる。また、それと同程度の差が「Core i5-13600K」と「Core i9-13900K」の間にもあり、GPUの性能限界に達しない範囲では「Core i9-13900K」の持ち味が十分に解き放たれていることも確認できた。
「ファークライ6」では、「1920×1080」で適正な性能差が表れた。「Core i9-13900K」は「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」の結果よりも伸びがよく、存分にパフォーマンスを発揮できていることが見て取れる
最後にチェックしたのは、「ファークライ6」と同程度の高負荷がかかる「ディビジョン2」(画質は「ウルトラ」に設定)だ。こちらも「1920×1080」において、「Core i7-12700K」を「Core i5-13600K」がはっきりと上回ってきた。ただし、今回は「Core i5-13600K」と「Core i9-13900K」の間に差が見られない。「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」や「ファークライ6」でも、最も顕著だったのは「Core i7-12700K」と「Core i5-13600K」の性能差だ。このことから、やはりこのCPUにおいては、動作クロックやコア数よりも、大幅に強化されたキャッシュのほうが、より大きくゲーミングパフォーマンスに貢献していると言えそうだ。
「ディビジョン2」の「1920×1080」では、キャッシュの改善が効いていると見え、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズ2モデルが「Core i7-12700K」に差をつけた
前編で検証した時点ですでに、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズが前世代から1クラス以上も進化していることは明らかだった。ただし、機械的なベンチマークが中心となった前編では、特にマルチコア性能に関わる指標で伸びきらない部分が見られたことも確か。ゲーミング性能についてもそこまで大きな成長が見られなかった。そういったあたりがより実践的なベンチマークでどう変わるかがこの後編の大きな注目ポイントだったが、やはり総じて前編よりもさらに伸びやかに、その輝かしいポテンシャルが開花していた印象だ。
クリエイティブ面は、ライバルの「Ryzen 7000」シリーズが比較的得意とする分野だが、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズも総じて優秀な結果を示してくれた。特にシングルコアとマルチコアが併用されやすいタスクで伸びがよく、単純な動作クロックの向上やEコアの倍増だけでなく、これらのコアに処理を割り振る「スレッド・ディレクター」の最適化も、今回の進化を大きく支えているのかもしれない。
ゲーミング用途においても、「第13世代Coreプロセッサー」シリーズで施されたキャッシュの増量やその通信経路であるリングバスの強化が大きく寄与しているのだろう。前世代との差がより明確に出でていた。高発熱による性能低下も限定的で、プロセスルール「Intel 7」の改良による省電力化も見て取れた。
このように「第13世代Coreプロセッサー」シリーズは、実践的タスクにおいて本領を発揮。シングルコア性能、マルチコア性能、ゲーミング性能の三拍子が揃った万能モデルに仕上がっていた。前世代から基本設計を踏襲しつつも、地道な改善の積み重ねでフルモデルチェンジ級の進化を果たし、死角といえる死角もほとんどなくなっており、これが成熟したハイブリッド・アーキテクチャーが示す実力なのだろう。今年1月にはPBPが最大65Wの無印モデルとPBP 35Wモデルが加わり、チップセットも拡充され、ユーザーの選択肢もグッと広がった「第13世代Coreプロセッサー」シリーズで、ぜひ自作PCライフを充実させてみてはいかがだろうか。