Dellのノートパソコン「Inspiron」シリーズは、仕事からプライベートまで日常の幅広い用途に使えるノートパソコンです。13〜16型でサイズ展開されており、エントリーからハイエンドまでラインアップも豊富です。
その中でも、14型で、CPUにAI対応のAMD「Ryzen 7」を搭載した「Inspiron 14」は価格.com内のノートパソコン人気売れ筋ランキングでも上位をキープ。執筆時点(2024年8月7日)でも6位です。その人気の理由を探るべく実機を試してみました!
「Inspiron 14 Ryzen 7 8840U・16GBメモリー・1TB SSD搭載モデル」、 87,980円(税込。価格.com最安価格 2024年8月7日時点)
今回使用した機種のスペック
CPU:AMD Ryzen 7 8840U
メモリー:16 GB(8 GB×2)
ストレージ:1TB
ディスプレイ:14型 IPSパネル(1920×1200 フルHD+、60Hz)
接続:USB 3.2 Gen 1×2、USB 3.2 Gen 2 Type-C(DisplayPort Altモード1.4/Power Delivery対応)×1、ヘッドセット(ヘッドホン/マイクのコンボ)ポート×1、HDMI 1.4×1、電源アダプターポート×1
ネットワーク:Wi-Fi 6
本体サイズ:314(幅)×19.9(高さ)×226.15(奥行き)mm
重量:1.61kg
・Copilot対応でAI機能が使える
・Ryzen 7+16GBメモリーで処理能力も十分
・サイズは小さめだがやや重め
今回検証するDell「Inspiron 14」は、米国テキサス州に本社を置く世界最大級の多国籍コンピューターテクノロジー企業であるDell Technologies Inc.から、2024年3月に発売された個人向けノートパソコンです。現在、Dellでは6ブランドの製品を販売しており、「Inspiron」は個人向けのスタンダードモデルという位置づけになります。
Dellは個人向けPCとして4ブランドを展開しており、「Inspiron」は仕事やプライベートで使えるスタンダードモデルの位置づけです。このほか、プレミアムノートの「XPS」、ゲーミングの「Dell G」、ハイエンドゲーミングの「Alienware」の3ブランドが存在。これとは別に、ビジネスモデルの「Latitude」と「Precision」が展開されています
今回のDell「Inspiron 14」に搭載されているAMD「Ryzen 7 8840U」はAIに対応したプロセッサー。CPUやGPUをはじめ、AIの処理に使うNPUなどを含めたチップ群をひとまとめにした「SoC(システム・オン・チップの略)」と呼ばれるプロセッサーです。
通常はクラウド経由で行うAI処理の一部を、PC内のNPUで行えるのが大きなメリット。このようなパソコンはAI処理が高速で行えるため「AIパソコン」と呼ばれています。ちなみに、このAIパソコンのうち、マイクロソフトが定めた一定の条件をクリアしている製品に「Copilot+ PC」という名前が付けられています。
なお、勘違いしがちですが、“AIパソコンはすべてのAI処理が高速になるわけではない”のが実情です。現時点で高速処理できるのは「Windows Studio Effects」を使ったWebカメラのAI処理や、Adobe系ソフトの一部機能拡張など、対応しているAI機能だけです。ただし、AdobeやZoomをはじめ、多くのソフトメーカーがRyzen AI対応ソフトの開発を表明しているため、高速処理できるAI機能は今後どんどん増えていくでしょう。
クアルコム「Snapdragon X Plus」を搭載した「Copilot+ PC」が昨今話題となっていますが、本製品に搭載されているAMD「Ryzen 7 8840U」やインテルの「Core Ultra」シリーズもAI対応プロセッサーです
評価チャートについて
・実際に製品を使用して、価格.com「ノートパソコン」カテゴリーのユーザーレビューと同じ評価項目で点数を付けました。
評価項目:満足度、デザイン、処理速度、グラフィック性能、拡張性、使いやすさ、持ち運びやすさ、バッテリー、画面、コストパフォーマンス
点数:5点満点(標準点は3点)
・本記事を執筆した筆者による個人的な評価です。評価は個人によって変わりますので、あくまでも参考程度にとどめてください。
価格.com「ノートパソコン」カテゴリーのユーザーレビュー一覧
https://review.kakaku.com/review/newreview/CategoryCD=0020/
Dell「Inspiron 14」に搭載されているAMD「Ryzen 7 8840U」は、最新のAI対応プロセッサーです。「Ryzen 7」自体がシリーズ内でも上位のモデルなので、処理能力自体は非常にパワフル。ポータブルゲームPCにも採用されているプロセッサーなので、軽めのゲームなら十分プレイ可能です。
メモリーも16GBと十分な容量があるので、ネットでの調べ物やメールだけでなく、Officeドキュメントの作成などもストレスなく行えます。ただし、Office自体は付属していません。そういった意味では「Microsoft 365」を契約している人、あるいはOfficeのパッケージ版を持っている人にいいでしょう。
ディスプレイはIPSパネルなので有機ELほどの鮮やかさはありませんが、ネット動画の視聴などは十分楽しめます。スピーカーの音質も内蔵タイプとしては悪くはありません。簡単な写真編集やフルHD程度の動画編集なら快適にこなせるので、十分自宅用のメインマシンにしてもいい性能です。
14型モデルはA4サイズより若干大きい程度ですが、意外と重量があります。とはいえサイズ的には、十分持ち運べる大きさと重さです。バッテリー持続時間は公称で最大14時間以上ですが、実測では約9.5時間。使い方次第では途中で充電が必要かもしれません。
「Inspiron 14」のサイズは314(幅)mm×226.15(奥行き)mm。閉じた状態の高さは手前側が16.9mm、ヒンジ側が19.9mmです。
重量は1.61kgとやや重たいので、モバイルノートほどの持ち運びやすさはありません。このため、毎日カバンに入れて持ち運び、外で使うといった用途にはやや不向きです。とはいえ、持ち運べない大きさと重さではないので、家の中で移動しながら使ったり、たまに外出先に持ち運んで使ったりといった使い方なら十分快適です。
プラスチック製ボディはA4サイズよりも若干大きめですが、持ち歩きはしやすいサイズ。プラスチック製とはいえ持っただけでペコペコとへこむような心許なさはなく、適度な剛性があるのでカバンの中で割れるといった心配は少ないでしょう。また、カラーは「カーボン ブラック」と「アイスブルー」の2色から選べます
電源は左側面にある電源アダプターポートに接続します。電源が独立しているため、USBポートが常に電源に占有されるといった不便さはありません
付属しているACアダプターは65Wで、さほど大きくはありません。ただし、よくある2ユニットタイプなので、持ち運ぶのはやや面倒です。本体のUSB Type-CポートがPD充電に対応しているので、持ち運び用として小型の65W USB充電器とUSB Type-Cケーブルを別途用意したほうが快適でしょう
ディスプレイは14型のIPSパネルで、解像度はフルHD+(1920×1200)です。画面の比率は16:10なので、一般的な16:9の画面より若干縦に広くなっています。そのため、Webサイトの閲覧やOfficeアプリを使っての作業時に上下方向の表示範囲が広く便利です。リフレッシュレートは60Hzでタッチ操作には対応していません。
画面の比率が16:10と若干縦に広いため、解像度はフルHDよりもやや広いフルHD+(1920×1200)となっています。標準の表示設定は150%推奨ですが、やや拡大されすぎている感があるので、設定で125%に変えて使うのがよさそうです
IPSパネルなので有機ELほどの鮮やかさはありませんが、動画再生は十分楽しめる画質です。反射を抑えるノングレア仕様なので、映り込みは気になりません
こちらがディスプレイに表示している写真の元画像です。元画像と比べると、ディスプレイでは暗い部分がより見えやすくなっていますが、全体的にやや彩度が落ちているのがわかります。特に雲の表現はかなり薄れてしまっています
なお、スピーカーは底面に配置されており、2W×2 = 合計4Wのステレオスピーカー構成です。主観ですが、音質としては標準よりやや上といった印象。ちなみに、本製品はメモリーがスロット式なので、底面のフタを外せば自分で増設や換装が可能です
ここからは実際に「Inspiron 14」を使ってみて、操作性や使い勝手をレビューしていきます。
キーボードは日本語配列のファンクションキー付きで、キーピッチ(間隔)は横が19mm(実測)。縦の間隔が横よりもやや狭くなっています。キーストローク(沈み込み)は1.5mmほどで適度に確保されています。
配置はわりと一般的ですが、よく見ると一部のキーが一体化しているのがやや気になります。「delete」キーではなく、指紋認証センサー付きの電源ボタンが右上に配置されているので、うっかり押してしまいそうになります。ちなみに、Windows標準のAI機能をすぐに呼び出せる「Copilot」キーも搭載されています。
打ち心地はやわらかすぎず硬すぎずで、音も静かです。長文の入力でも打ち疲れしにくいのですが、キートップがフラットなため、若干丸みがあるともっと打ちやすい気がします。残念なのは、バックライトがないので暗い場所では打ちにくいことです。
タッチパッドはクリックボタンが一体化したタイプで、指の滑りもスムーズです。
ファンクションキー付き、テンキーなしの日本語配列キーボード。色は黒で、バックライトはありません。タッチパッドはクリックボタン一体型で、本体カラーに合わせて2色が用意されています
「カタカナひらがな」キーの右には、Windows標準のAIアシスタント、Copilotをキーひとつで呼び出せる「Copilot」キーが用意されています
キーボードの右上が「delete」キーではなく、電源ボタンなのでミスタッチには注意が必要です。電源ボタンには指紋センサーが内蔵されており、「Windows Hello」による指紋認証が利用できます。感度も読み取り精度もよく、一瞬触れただけですぐに認証されます
パッと見だと一般的な配列に見えますが、よく見ると一部のキーが一体化しています。「enter」や「shift」を使う際は視認性が高くて便利ですが、慣れないと一体化している通常キーを使う際にややとまどいそうです
「Inspiron 14」の外部インターフェイスは、電源アダプターポート、HDMI、USB Type-Aポート×2、USB Type-Cポート、コンボジャック、SDカードスロットと非常に豊富。
数的には不満はありませんが、できればUSB Type-Aポートではなく、USB Type-Cポートが2つ欲しかったところです。また、USBの規格も新しく高速なものだとうれしかったのですが、価格的にそこまで求めるのも酷な気はします。
左側面には電源アダプター、HDMI、USB Type-A、USB Type-Cの各ポートが並んでいます。USB Type-Aの規格は「3.2 Gen 1」なので転送速度は5Gbps、USB Type-Cは「3.2 Gen 2」なので10Gbpsです。なお、USB Type-CはDisplayPort Altモード1.4対応なので画面の外部出力が可能です。また、Power Deliveryでの充電にも対応しています
USB Type-AポートとUSB Type-Cポートが並んでいますが適度な間隔があるので、ケーブル&USBメモリーの組み合わせであれば干渉しませんでした
右側面にはUSB Type-Aポートとマイク&イヤホンのコンボジャック、SDカードスロットが並んでいます。USB Type-Aポートはこちらも「3.2 Gen 1」で転送速度は5Gbps。SDカードスロットも速度はあまり速くはありませんでした。このほか、ワイヤーロック用のスロットも用意されています
画面上部にはWebカメラが搭載されていますが、720p・30fpsのHDカメラで性能としては一般的。残念ながらプライバシーシャッターは非搭載で、Windows Hello顔認証にも非対応です。
Webカメラの映像は若干ザラザラ感が強く、高画質とは言えませんでした。逆光だと影の部分がかなり暗くなり、顔色もよく見えません。なお、「Windows Studio Effects」のAI処理で、自分の動きに合わせてフレームを移動したり、背景をぼかしたりできるのは便利です。しかし、ほかのビデオ通話ソフトではもう当たり前の機能だったりするので、そこまで「スゴい!」とはなりませんでした。
シングルデジタルマイクの音質もややこもり気味ですが、話している内容は把握できます。ひとまずビデオ会議は可能、といった感じでしょうか。
アルミ製シャーシのモデルはWebカメラの画素数が1080pにアップし、デュアルアレイマイクが搭載されるようですが、現時点ではプラスチック製シャーシのモデルしかないため、720p&シングルデジタルマイクの構成です
本機は4セル・54Whバッテリーを搭載しており、バッテリー持続時間は公称で最大14時間以上。ネット動画を連続再生した実測値では、約9.5時間の稼働時間でした。
ただし、この結果は電源モードを「最適なパフォーマンス」設定にして、「バッテリー節約機能」をオフにして測定したので、設定次第ではもっと長時間の稼働が可能なはずです。なお、負荷がかかる作業中はファンの音が結構気になりました。
画面の明るさと音量を50%に設定し、電源モードを「最適なパフォーマンス」に設定。Bluetoothと画面のスリープ、バッテリー節約機能をオフにして、Wi-Fi 6でインターネットに接続。この状態でフルHDのYouTube動画を連続再生したところ、約9.5時間でバッテリー残量がなくなりました
最後に、各種ベンチマークの結果をまとめておきます。
なお、ベンチマーク測定は電源を接続した状態で行い、電源モードは「最適なパフォーマンス」を選択しています。このため、バッテリー駆動時に「バランス」で使用する場合は、以下のスコアより低下します。
シングルコア:1731 pts
マルチコア:10588 pts
上記は電源接続時のスコアですが、バッテリー駆動時に電源モードを「バランス」にして測定したところ、シングルコア:1362、マルチコア:8880でした。電源接続時と比べてシングルコア性能、マルチコア性能ともにやや低下しています
Fire strike:5532
Time spy:2243
Steel Nomad Light:1891
Steel Nomad:376
Speed Way:315
プロセッサー内蔵グラフィックスなので、GPUスコアはグラボ搭載PCほど高くはありません。しかし、内蔵グラフィックスとしては悪くないスコアです。
5種類のベンチマークテストを行いましたが、内蔵グラフィックスのわりにはスコアが高めです
標準品質、1920×1080、フルスクリーン:2536(やや重い)
軽量品質、1920×1080、フルスクリーン:3577(普通)
解像度がフルHD+なので、FF15のベンチマークは「1920×1080」のフルHDで測定。標準品質では「やや重い」だったので、「軽量品質」に落としたところ「普通」に変わりました。
フルHDの解像度で標準品質ではやや重めですが、軽量品質に落とせば十分プレイできそうです
最高品質 1920×1080:3091(設定変更を推奨)
高品質(ノートPC)1920×1080:5283(普通)
FF14のベンチマークも同じく「1920×1080」のフルHDで測定。いちばんマシン負荷の大きい「最高品質」ではさすがに「設定変更を推奨」でしたが、高品質(ノートPC)では「普通」でした。
標準品質まで下げなくても、「高品質(ノートPC)」で「普通」という結果。こちらも十分プレイできます。設定項目を個別に見直せば、かなり快適にプレイできそうです
結論から言うと、Dell「Inspiron 14」はかなりコストパフォーマンスの高いノートパソコンでした。
8万円台ながら最新のRyzen 7を搭載しており、メモリーも16GB。ストレージは超高速とまではいきませんが、1TBと大容量です。しかも、搭載されているRyzen 7 8840UはAIに対応しているので、この先高速処理できる機能が確実に増えていくと考えられます。
ディスプレイの鮮やかさがやや低めで色再現も弱い印象なので、本格的なRAW写真の編集やグラフィック作業にはちょっと向かないかもしれませんが、簡単な写真レタッチやフルHD程度の動画編集には十分使えます。もちろん、ネット動画も十分楽しめます。
ネットでの調べ物やメール、Officeドキュメントの作成であれば、ストレスを感じることなく作業できるでしょう。ただし、Officeが付属しないことには注意しましょう。
一般的な作業は難なくこなせて、多少負荷の高い作業も可能。ネット動画も楽しめて、設定次第では重めのゲームもプレイできます。よほど専門的な作業以外ならマルチにこなせるので、自宅用のメインマシンに最適です。
ただし、14型と画面がやや小さいので、自宅のメインマシンとして使うなら外部ディスプレイをつなぐと快適です。ちなみに、持ち運びしやすいサイズですが1.61kgとやや重いので、毎日持ち運ぶというよりはたまに持ち歩く程度で考えておくとストレスもないでしょう。