二人三脚の芸術
あなたは美術に興味がありますか? 絵画の価値を推し量る自信はありますか?
これは十年前以上前に、某TV番組で現実にあったことです。
とある著名人のN氏が一枚の絵を描きました。お世辞にも達者とはいえないその絵の価格を、ひとりの美術品鑑定士に査定してもらったそうです。鑑定士はその微妙な出来栄えの絵の価格を●千円と切って捨てました。その後、テレビ局がその絵の作者が著名人のN氏であると伝えたところ、鑑定士は「ああ、そうだったんですか」と手のひらを返し、絵の価格を●十万円にまで引き上げました。なんと最初の鑑定の100倍の価格です。
絵とは、どれほどの技量で描かれているかだけでなく、だれが描いたかによっても市場価格が変動するのですよね──絵そのものの美しさ、素晴らしさとは関係なく。まあ、当然といえば当然でしょう。その作者のファンにしてみれば、●●氏が描いた絵、というだけでコレクションに加えたがるはずですし、そうなれば市場価値は上昇するでしょうからね。
ところで、絵画の市場価値が急激に上昇するきっかけがあることをご存知でしょうか。
それは、作者の死です。
作者が死ぬことによって、もう次作が発表されなくなってしまう──現存する作品のみが、作者の遺した忘れ形見であるとなったとたん、その作者の作品の値段が跳ね上がるのです。希少価値が高まるわけですからね。
さて、これは日本ではなくアジアの某国に関するうわさです。
その国の芸術をこよなく愛するマフィアの一族がいるそうです。そのマフィアは100年以上むかしから才能ある若手の芸術家たちのパトロンとなり、彼らの生活の面倒を見るとともに、創作されていく絵画や彫刻を展覧して知名度を高めてから美術商へと卸していきます。厚遇され、機会に恵まれた芸術家たちはメキメキと頭角を現して、世に羽ばたいていきます。芸術家たちは才能を伸ばして成功を収め、マフィアもたくさんの高価な美術品を無料で入手することができるという、いわば共生関係にあるそうです。
そうしてマフィアの元から芸術家たちが飛び立って十年以上が経過し、芸術家たちの名声がさらに広まった頃合いに、芸術家たちに不幸な出来事が訪れます──所有している自動車のブレーキが故障していたり、不審火によって自宅が全焼したり、アレルギー食品をありえないタイミングで口にしてしまったり。
芸術家たちの死によって遺作の価値が跳ね上がると、マフィアたちはそれを予期していたかのようなタイミングで、所有している美術品を売り払うそうです──ふふふ。ブタは太らせてから食え、という世の習いを、そのマフィアたちも実践しているようですね。
ちなみに、こんなうわさが流れているにもかかわらず、そのマフィアへ援助を請う芸術家たちは後を絶たないそうですよ。
美術の技量を磨ける最高の環境と、世界に名を売り作品を販促するチャンスがあるのなら命など惜しくないという芸術家たちの野心のあらわれなのかもしれません。
マフィアは金のために。芸術家は夢のために──素敵な二人三脚だと思いませんか?
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