第33話 このビッチめええええええええええええ!!!!!
言うまでもなく、立花瑠璃先輩の弟様だ。
先輩調べでは、現在進行形で友人がいないらしい。
最優先で新入生歓迎会への参加を承諾させたい生徒だ。
「なぁ、そういえばさ。先輩の弟の顔分かるか?」
「は? そんなの知るわけないじゃないですかー」
「まぁそうだよな」
せめて外見の特徴でも聞いておくべきだった。
あたしたちって、ほんとバカ。
「せんぱい、そんなのべつに大丈夫ですよ」
「あ?」
最愛はニヤリと笑うと、そこらの一年生男子へ向かって歩いてゆく。
「あの〜、ちょっといいですか〜?」
「え? さ、最愛さん!? ど、どうしたのかな……!?」
「立花藍という人を探しているのですが……どこにいるか知りません?」
「立花藍……? えーっと、分からないけど……す、すぐ探してくるから! 任せて!」
「ありがとうございますー」
全力疾走で探しにゆく男子生徒にひらひらと手を振る最愛。
それからこちらへ得意気にウィンクする。
「ね?」
「お、おう……」
すげぇ……頼んでもいないのに探しに行かせてしまった。
これが幼女さまへ語った男を支配するということか……。
そして使い倒されボロ雑巾になった挙句捨てられるんですねわかります。
まもなく、哀れな男子生徒が立花藍と思われる人物を引きずって帰ってきた。
役目を終えた男子生徒くんにはすぐさまお帰り願う最愛。
しょんぼりしてる。可哀想。
「ではではせんぱい。後のことも私にお任せください。良いところ、見せちゃいますよ?」
「あーうん。よろしく」
たしかに、今のを見た後だと男相手なら最愛にかかればお茶の子さいさいかもしれない。
「あ、でもぉ、嫉妬しないでくださいね? これからすることはぜんぶ、お仕事なので♪」
「はいはい。さっさと行ってこい」
「ぶー。わかりましたー」
お仕事で何する気なのコイツ。余計えっちな香りがするのは気のせいだほうか。
立花少年貞操の危機????
やべえよ助けないと……。
「あのぉ、立花藍くんですかぁ?」
「は、はい。僕が立花だけど……」
最愛が媚び媚びで近づいてゆくと、立花少年は少し警戒した様子で返事をした。
小柄で童顔な少年だ。
体格はまだ中学生という感じ。姉である先輩はあんなにたわわなゲフンゲフン————女性にしては背が高いので少年もきっとこれから成長期が来るのだろう。
あまり溌剌とした様子はなく、気弱そうな印象だ。
「よかったぁ。ずっと探してたんですよぉ。会えて嬉しいです♪」
「は、はぁ」
「ちょっとお話があるんですが、いいですか? あちらの空き教室へ行きましょう。もちろん、2人きりで♡」
・
・
・
最愛の誘いの通り、近くの教室へ移動する。
俺は外から隠れて様子を見守ることに。
自分が何をやっているのか分からなくなってきたが、気にしてはいけない。
「それで、話ってなに?」
「えっとぉ実はですねぇ、来週の新入生歓迎会に一緒に参加したいなぁって思いましてぇ♪」
引き続き媚び全開ながらも、さっそく本題へ入っていく最愛。
「……新入生歓迎会? そんなの、あったっけ?」
「それについては後々分かると思うのでお気になさらず〜。パーティーみたいなものですよぉ。それより、ね、いいですよね? 私と一緒に、参加しましょ?」
最愛は完璧な笑みを貼り付けて、一歩、上目遣いで近づく。
怪しい。あまりにも怪しい。街でこの類の誘いに乗ったら財布の中身はまず残らないだろう。
しかし実際、あの銀髪美少女にこんなことをされたら、クラッときてしまう。
色仕掛けが思春期男子を狂わせるというのは残念ながら事実だ。
まぁ、こんなのにホイホイ付いていく男がいると思うと悲しくなるけどね。
なんせ俺は耐えたからね(付いて行きました)。
「い、いや、僕は……」
身の危険を感じたのだろう。
少なくとも頭の悪い男代表ではないらしい立花少年は一歩後退。身を退け反らせる。
しかしここで引いてしまう最愛(ビッチ)でもない。
「えー? ダメなんですかぁ? 参加してくれたらぁ〜、私が、立花くんのして欲しいこと、なんでも……」
うるうると湿らせた視線で立花少年を見つめながら甘い言葉を囁き、その距離を一歩一歩と縮めゆく。
可哀想だが、さすがの少年の理性も限界だろう。
南無。
「ね、いいですよね……?」
ついに最愛が立花少年の手を包むように両手を伸ばす。
可愛い女の子に手なんて握られた日には、高校生男子はひとたまりもない。
色仕掛けは思春期男子を狂わせる。
俺のような鋼の意志がなければ、どうしようもないのだ。
「……わるな」
「「え?」」
最愛の手が少年の手に触れた瞬間、その手が勢いよく振り払われた。
さすがに驚いたのか、一瞬、最愛の手が止まる。
「触るな」
「え? なになに? ど、どうしたんですか〜?」
再度手を伸ばすが……パシリと、またしても払われる。
そして、叫んだ。
「汚い手で僕に触るな! このビッチめええええええええええええ!!!!!」
「え!? えええええええええ!?!??」
「僕……僕には心に決めた人がいるんだ! オマエみたいなビッチより、ずっと清純で、美しくて、可愛くて、天使のような人だ! だ、だから、だから僕は……」
少年は迷いを振り払うように頭を振りながら、再度叫び声を上げる。
「僕は、ビッチの甘言に惑わされたりしないんだあああああああああ!!!!!!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください————」
「うわあああああああああああ!!」
止める声も届かず、立花少年が教室から走り去っていく。
教室には最愛だけが残された。
あまりの展開に思考が追いつかないらしく、最愛はその場にぺたりと崩れ落ちた。
「あー、えっと、その……」
「私、さすがにちょっと、ショックかもしれないです……」
まぁ、うん。そうねぇ。
しかし俺はこう言いたい。
立花少年、君は漢だ。
よくぞ耐えた。
悪魔の囁きに葛藤しながらも、自らの恋を選んだその姿、称賛に値する。
この学園にも、俺ほどの傑物がいるとは……。
将来的に彼と義兄弟になれるなんて、誇らしい限りではないか。
やっぱり男だって捨てたものではいのだ。
そう簡単にビッチに流されたりしない。
貫くべき信念を持っているのだ。
落ち込んだ様子のビッチはそれを心に刻み込むように。
「せんぱぁい私もうヤダー……プライドがズタズタですよぉ……」
「そうだな」
「……せんぱぁい?」
泣く泣く抱きついてこようとする最愛の頭をさらりと撫でる。
そして、ニッコリと笑ってみせた。
「十分だ。オマエはもういらない」
「……え?」
「チェーーーーーーーーーーンジ!!!!」
「ええええええ!? せんぱい!?!?!」
選手交代。
ビッチがダメなら、他の手を使うとしよう。
「せんぱぁい私を捨てないでー! なんでもしますからぁ!! せんぱい好みの女の子になりますからぁ!」
「ええいうるさい触るなこのビッチ! 役立たず! 何が良いとこ見せるだボケ!」
「うわーん! せんぱいは見てただけのくせにー!」
そこを言われると痛い。
痴話喧嘩と思われたのか、廊下からはギャラリーの視線が集まっていた。
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