冥王ハデスが豊穣神デーメーテールの娘・コレー(ペルセポネー)をさらい、地上に季節が生まれるかの神話を、バッキバキにキャラが立った神々でポップに組み上げた最高のオリンポスラブコメ。
ハデスは神話の中でも出番が少なく、偉いんだけれど影が薄いというか、情報が少ない神さま。そのぶん謎めいてミステリアスな所もあり、色々解釈の余地があります。実は私の推しオリンポス神でもあります。
ハデスはディズニーの映画など悪役扱いされることも多いのですが、本作はフラットな真面目でちょっと陰気で物静かな男性という描写なのが嬉しい。
一方、コレー/ペルセポネーのキャラクター解釈が斬新です。
さらわれる良家のお嬢さま……というか弱い姿が、私のこれまでペルセポネーに抱いていたイメージですが、本作はまるで真逆。
自分の可愛さに自信満々で、花が咲いていないことを生意気! と言い出すいっそ傲慢な娘。でもニュンペーたちが不当に罰されそうになったらちゃんとかばうという善良さもある……かなり愉快な女子です。
過保護な母親にうんざりし、誘拐された先で冥界生活をエンジョイする様は見ていて微笑ましいのですが、同時に「過保護な母親から〝自分は自分、母は母〟と独立していく少女」の姿でもあるのが物語に深みを与えています。
あと伏見さんは百合もけっこう書かれている方なんですが、本作はがっちりハデペルという男女カップルで、そのへんもしっかり力を入れておられましたね。
最初はあんなお転婆娘(古語)だったコレーが、こんな……こんな風にペルセポネーとしてハデスに愛を囁くなんて、「胸ズギャア!」でしたよズギャア! 私あんまり男女ラブコメ主体の作品って食べないんですが、これはやられました。ザクロの演出……いい……。
話の筋自体は原典をしっかりなぞりながら、ヘラの話は絶対やめてほしいアルテミス、恐るべき女主人ヘラ、クソ野郎度の高いゼウス、悪友コンビのヘルメスとアポロンと、神々のキャラ付けも楽しい作品。あと犬可愛いですね。
ステュクス川の誓いなど、細かな所までギリシャ要素で固められており、大変面白く読ませていただきました! 大っ好き!