第9話
集めたキノコの毒味をさせられた佐藤恵は、浜田の取り巻きの男子生徒たちによって森の中へ運ばれていった。
「嫌だ…やめて…離して…」
佐藤は泣きじゃくりながら男子生徒たちに懇願するが、浜田の命令を受けている男子生徒たちは聞く耳を持たない。
佐藤はそのまま森の奥へと運ばれて捨てられた。
「い、行くぞ…」
「すまんな佐藤」
「これもクラスのためだと思って諦めてくれ」
「じゃあな、佐藤。俺たちを恨むのはお門違いだからな」
男子生徒たちはまるで自分たちの罪悪感から目を逸らすようにそんなことを言って浜辺の方へ引き返して行った。
「嫌だ…置いていかないで…」
佐藤が泣いて懇願するが、男子生徒たちはそのまま去っていってしまった。
「うぅ…」
毒キノコを食べたせいで全身に力が入らない。
佐藤は一人森の中に取り残され、泣くことしかできなかった。
「うぅ…なんで私がこんな目に…」
どうして浜田が自分のことを標的にしたのか、佐藤にはわかっていた。
それは佐藤が、クラスに仲間のいない孤立した生徒だったからだ。
友人の少ない佐藤なら、犠牲にしてもクラス内に反発は生まれないと浜田は考えたのだろう。
「うぅ…誰か…助けて…」
日はだんだんと落ちて当たりは暗くなってくる。
だがいまだに毒キノコを食べた症状から回復できず、佐藤は横たわったまま少しも動くことができない。
自分はこのまま毒に体を侵されて死ぬのだろうか。
あるいは動けないところを獣に食われたりするのだろうか。
「うぅ…誰か…誰かお願い…見捨てないで…」
佐藤は一縷の望みをかけて、寝転んだまま助けを求めることしかできなかった。
明日起きたら罠を作ろう。
そして小動物を捕まえる。
そいつの骨で、釣り針を作って釣りをするのもいいな…
そんなことを考えながら、俺は昼間に作った簡易住居の中で眠りについた。
「ん…?」
真夜中。
俺はどこからか聞こえてきた鳴き声で目を覚ました。
「動物か…?いや、これは人だな」
最初は動物か何かかと思ったが、よく聞いてみるとどうやら人間の泣き声のようだ。
啜り泣きのような音が森の中から聞こえてくる。
「まさか、彩音か…」
嫌な予感がする。
俺が追放されたあと、まさか彩音までクラスから追放されたのか…?
「見に行ってみるか…」
流石に人の泣き声を無視することが出来ず、俺は起き上がって森の中へ確認しに行く。
草木をかき分けながら進んでいくと、啜り泣きの音はどんどん大きくなっていった。
「え…もしかして佐藤、か?」
「ふぇ…佐久間くん…?」
草木をかき分けて進んだその先に、一人の女子生徒が倒れていた。
佐藤恵。
失礼を承知で言うと、いわゆる地味系のボッチの生徒だ。
俺は佐藤が誰かと親しげに話している姿を見たことがない。
佐藤はいつも教室の隅で一人で本を読んでいる。
まともに会話した記憶は思い返してみてもなかった。
そんな佐藤が……どうしてここに一人で倒れているのだろうか。
「…どうしたんだ?何かあったのか?」
倒れている佐藤を一眼見てなんらかの異常をきたしていることはすぐにわかった。
全身に汗をかいているし、肌色が悪い。
瞳には覇気がなく、体は麻痺したようにだらりと脱力していた。
「たす、けて…」
佐藤が俺を見て助けを求めてくる。
「ひょっとして動けないのか?」
俺が尋ねると佐藤がゆっくりと首を縦に動かした。
「わ、わかった…とりあえず安全なところまで運ぶぞ?いいか?話はその後で聞く」
「…っ」
また頷く佐藤。
なぜ動けないのか、こんなところにいるのかは一旦保留だ。
今はとりあえず佐藤を安全であったかい俺の簡易住居の近くまで運ぶことにしよう。
「すまん、触れるぞ……よっと!」
俺は佐藤に断って体を抱き上げ、きたみちを引き返すのだった。
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