第18話
「すー、すー…」
「…」
夜更け。
彩音は砂浜に寝転がり、満点の星空を眺めていた。
ざー、ざーと聞こえてくる波の音に混じって、近くでは魚を分け合い、すっかり打ち解けた女子生徒……谷川淳子の規則正しい寝息が聞こえてくる。
「私たち…これからどうなっちゃうんだろ…」
彩音は綺麗な星空を眺めながら、不安げにそう呟いた。
この島に辿り着いてから、浜田はどんどん暴走していった。
力ある運動部の男子数名を取り巻きとして従え、クラスを掌握してから、どんどん好き勝手に振る舞うようになっている。
「佐藤さん……どこに行ったんだろ?大丈夫かな?」
毒味係を無理やりやらされていた佐藤の姿はあれ以来見当たらない。
まさか浜田たちの手によってどこかに捨てられたのだろうか。
「流石にそんなことないよね…?」
いくら暴走した浜田といえどそんなことまでするはずがない。
そう思いたいが、彩音には確信が持てなかった。
「国木田くんの怪我のことも気になる…」
なぜ国木田くんはあんな大怪我をすることになったのだろうか。
そして、浜田たち男子生徒は一体どうやって魚をとったのだろうか。
浜田が何かを隠しているのは確実のように思われた。
だが、それがなんなのか、わからない。
一度国木田から聞き出そうと試みたが、浜田に口止めされていたのか、何も聞くことは叶わなかった。
「クラスを分断させて……ますます自分の権力を固めようとしてるし…」
魚を食べられる人間、食べられない人間に分けてクラスを二分させたのも、浜田の権力をますます強めるための策略だろう。
今回魚を食べられた生徒たちは……浜田に自分たちが選ばれ続ける限りは、浜田の味方をするだろう。
逆に選ばれなかった生徒たちは、必死に浜田に取り入ろうとしてますます浜田に尽くすかもしれない。
もし、浜田に選ばれなかった残りの半数の生徒たちが反旗を翻したとしても、優勢なのは向こうだ。
浜田は、力のある運動部の男子たちをしっかりと取り込んでいる。
暴力では浜田たちの方が優勢なのだ。
「翔ちゃん…大丈夫かな…?」
追放された翔太は大丈夫だろうか。
大丈夫だと信じたい。
今この島において頼れる人物は非常に少なく、彩音にとって最も信頼できるのが翔太の存在だった。
「翔ちゃん…早く助けにきて…」
肌をなでつける冷たい夜風にブルリと身震いしながら、彩音は翔太の名前を呟くのだった。
「彩音ちゃん、起きて」
「淳子ちゃん…?」
翌朝、彩音は谷川淳子に起こされて目を覚ました。
「彩音ちゃん。もう朝だよ。食糧探しに参加しないと…浜田くんに見つかったら…」
「わ、かった…」
体を起こして辺りを見渡すと、すでに朝日は昇っていてほとんどの生徒は起きていた。
そしてすでに海に入ったり、森の中を歩いたりして今日の食糧を探している。
「今日こそ全員分の魚が見つかるといいね」
「うん、そうだね」
彩音は眠い目を擦りながら体を起こし、谷川と共に今日の食糧を探し始める。
「私は彩音ちゃんのおかげで魚を食べられたけど……そうじゃない人たちはもう限界が近いかも…」
谷川がそんなことを言いながら、昨日魚を食べることができなかった生徒たちに目を移した。
「腹へった…」
「魚…魚…」
「死んじまうよ…このままじゃ…」
昨日、浜田に選ばれて魚を食べられた生徒は今日も比較的元気だが、選ばれなかった生徒の状態はかなり深刻だった。
皆、空な瞳でゾンビのように歩いている。
この島に漂着した初日から今日までロクなものを口にできず、空腹で限界状態なのだろう。
「早く魚を捕まえないと…」
「う、うん…そうだね」
昨日のことですっかり打ち解けた彩音と谷川は、昨日魚を食べられなかった生徒たちのために、海の中に潜ってなんとか魚をとろうとする。
だがどう頑張っても道具なしじゃ魚を捕まえることはできなかった。
「だめだ…全然捕まえられない…」
「早すぎるよ…やっぱり道具なしじゃ海の中の魚を捕まえるなんてできっこないよ…」
しばらくして二人は結局一匹も魚を捕まえられずに呆然とする。
周りを見渡してみても、他の生徒たちもやはり魚を捕まえるのに苦戦しているようだった。
「昨日、浜田くんたちはどうやって魚を取ったんだろうね…?」
「…そうだね。それが気になるよね」
浜田がいかにして魚を取ったか。
それは彩音が昨日からずっと疑問に思っていたことだった。
なんとなく国木田くんが何かを知っているような気がする。
だが、国木田はどうやら浜田に口止めをされているようだった。
「まさか…魚を取る方法を隠して独占するつもり…?」
食糧となる魚を取る方法を独占できれば、それはさらに浜田の権力を強化することになる。
「でも私たちがいない間、浜辺には男子たちがいたはず…全員の目を掻い潜って秘密の方法で魚を取るのは不可能…だよね?」
こっそりと魚を捕まえようとしても誰かには
みられていたはずだ。
やはり浜田は魚を取る方法を自分一人で独占しようとしてるわけではないのか。
「だとしたら昨日使った方法をなんで今すぐにやらないんだろう…」
浜田が魚を捕まえる方法を知っているのなら、今すぐにでも実行するべきだ。
そうすれば今日こそは全員分の魚を捕まえられるかもしれない。
なのにそれをしない理由は…?
彩音は必死に考えを巡らせる。
「彩音ちゃん?」
「あっ、ううん。なんでもない」
気づけばずいぶん長い間ぼんやりとしてしまっていた。
谷川に名前を呼ばれ、我に帰った彩音は慌てて魚とりに戻ったのだった。
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