国木田独歩はストレート。愚直なくらいストレートに書いてゆく方。忘れえぬ人々というタイトルで、正に忘れえぬ人々について書いている。さりながら、工夫もあり、それを旅で出会った秋山に語るというかたちをとる。が、その秋山は忘れえぬ人々には入らぬという落ち。そこがおもしろくもあり。逆に、秋山ひとり、となったら、それもまたおもしろくもあるが。
大津にとって忘れえぬ人々とは「これらの人々を見た時の周囲の光景のうちに立つこれらの人々である」。原稿最後に書き加えたのが,秋山でなく,亀屋の主人であったのも,よそから来た旅客より,溝口の自然や環境に溶けこみ土地と共生する「周囲の光景のうちに立つ」人が油然として心に浮かんできたからである。#カクヨム近代文学館