生々しい文章とダークな物語が溶け合い、不穏な空気が全編を包んでいる作品でした。
キャラクターや物語を、やや遠視的に淡々と綴りながらも、匂い立つような妖気漂う文章によって、何かが起こりそうな気配がずっと貼り付いてはなれません。
読んでいてゾクゾクしてきます。
欲望の函、というタイトルも相まって、美しい、では収まらないような艶めかしさがありました。
その文章が物語と呼応して行きます。
謎に充ちた画家の作業部屋、妖しい女の存在、そしてその女の誘惑――足を踏み入れてはいけない所へ入って行っているのだというそのことが、ザワザワと肌に感じられました。
そして、その先に待ち受けているものがラストで判明した時の、ゾクリとする感じ。
なぜそうなったのか、理屈で説明はつかなくとも、理にかなわない何かがそうさせたこと、存在しないはずのものがそれを引き起こしたことを、主人公は悟ります。
そのラストまで妖艶な文章で誘われた読み手は、その時の恐怖を追体験できることでしょう。