第7話 浮気夫の末路

 リナは明日の早朝の飛行機で、東京へ帰るそうで、撮影後はホテルに戻りました。


 僕は、るいを自宅まで送り届ける事になりました。

 後部座席に座ったるいは、元気はなかったですが、そこまで

 落ち込んでいる様子も少なく、普通に話ができる程度です。


 とは言っても、もちろん心の中の様子までは分かりませんけどね。


「これで真面目に婚活できるね!」

 僕は、そんな言葉をるいにかけました。


「婚活してる男とか、マジきもい」


「いや、うちは婚活する所だから、結婚するために努力してる人しかいないよ。不倫する男の方がよっぽどキモいだろ! 不倫してる上に、複数の女の子と浮気して、しかも教え子とか」


「そうだね」


「あれ? ちゃんと理解したんだ?」


「うん」


「なんで、あんな人がよかったの?」


「わかんない。意地になってたのかな? 初めての人だったし。先生を好きって子たくさんいて、その中の一番になれたと思ってた」


「みんなそう思ってるよ」


「ずっと撮影してたじゃん?」


「うん。してたよ」


「あれって本当にただの証拠?」


「あれはね、証拠だし、YouTubeになるよ。もちろん顔や声にモザイクはかけるんだけど」


「教えてよ。チャンネル」


「いいけど、どうするの?」


「先生が浮気してた女子たちに教える」


「それはいいアイデアだね」


 るいは、どうにかイケナイ恋愛に終止符を打つ模様でした。


 こういう場合、よく、浮気相手の女にザマァしろよ! って声が聞こえてくるんですけど、僕にとってはお客様なので、複雑でしたね。


 特別な思い入れがあるわけではないですが、まだ若いですし、在学中からの一途な想いを貫いてここまできたわけなので、どうしても僕は彼女を罪人扱いする事はできませんでした。


 奥さんに対しては心から、泣きながら謝ってましたし、しほさんも、彼女に対して断罪する気はないと言ってくれました。

 むしろ、「かわいそうに」という想いが強いようでした。


 夫の、るいに対する態度にも腹が立ち、離婚への想いが強まったと、話していました。


 女性とは、難しい物です。


 ここで、夫が浮気相手の肩を持てば、それはそれで頭にくるし、手のひら返してぞんざいに扱えば、こういう男だったのかと失望する。


 女性の皆さん、よく覚えててくださいね。

 どんなに優しく誠実そうな男も、別れ際に本性を見せる物ですよ。

 誰かの恋人を奪ったとして。

 その男が、恋人にした酷い仕打ちは、ゆくゆくは自分に返ってくると思ってください。

 それが男の本性なのですから。


「これでやっと、まじめに婚活できるね」


 少し無口になったるいにそんな言葉をかけました。


「うん。年上がいいなー。10歳以上離れてるおじさんがいい」


「そっちだったのか」


「余裕のある社長さんがいいな。あまり仕事しなくても余裕で暮らしていけるような人がいい。バツイチとかでもいいよ」


 いやらしい話、『ご成婚!』となれば、ドカンと大金が動くわけですよ。

 るいの希望通りの男性が現れれば、何もかもが盛大です。

 婚約指輪に結婚指輪、式に新婚旅行、新居準備まで、全てに紹介料というご褒美ももれなく付いてきます。


「いいね。そういうのもっと教えて」


「顔はそこまで良くなくていいから、浮気しない人がいい」


「それが一番難しいかもね。お金持ってる男は、見た目そこそこでもモテるからね。モテる男は浮気するからね。キムタクみたいなのは稀だよ。幻と言っていい」


「浮気は絶対に嫌だ」


「もし浮気したらどうするの?」


「コロすかも。相手の女もコロす!」


 おいおい! って思いました。


 ◆◆◆


 一方、しほさんです。


 後日、リナ伝手でその話を聞く事になります。

 ここからは、動画にはならない部分ですね。


『しほさんから電話もらいましたよ』

 リナはいつでも、冷静かつ事務的です。

 淡々とその事実だけを伝えます。

 まるで、物語の語りべのように。


『離婚と言った瞬間、義母の態度は急変したそうです。息子の不貞を聞いてもなお、信じたのは息子の方。あなたに落ち度があったんじゃないの? 夜の生活は上手く行ってたの? やはり子供が欲しかったのね。といった感じだったそうです』


「なんすかそれ? なんかムカつきますね」


『しほさんは、これで何も思い残す事はない。離婚に向けて弁護士を手配してほしいとの事でした』


「返ってふっきれたんですね。お義母さんの事を最後まで心配されてましたもんね」


『姑なんてそんな物ですよ。結局は息子が一番かわいいんです』


「リナさんて、もしかして過去に何かあったんですか?」


『そりゃあ、何もなく、ヘイヘイボンボンとここまで来てたら、こんな事してないですよ』


「ですよね」


『私の話は、追々、またゆっくりと』


「わかりました」


『それから、学校の屋上らしき場所での動画の件ですが、あれは自分ではないと言い張ってるそうです』


「そうなんですか?」


『認めれば、犯罪ですからね』


「そうですよね」


『けど、確認のしようがありません。確かに、素人撮影によるAVだと言われればそんな風に見えなくもないですし』


「まぁ、そうですね」


『しほさんはそこまで追求したいと思わないそうです。これ以上の現実は知りたくないようで』


「なるほど。離婚と慰謝料請求には十分すぎる証拠がありますからね」


『何より、相手がいる事なので、もし違法性があり自分以外の誰かが傷ついているような事があれば、ゆくゆく罰は受けるだろうと言う事でした』


「確かにそうですね。悪い事ってバレなかったとしても、なかった事にはなりませんからね。必ず自分に返ってきますよね」


『教師の職も、懲戒免職は免れないでしょう。今、世論は未成年淫行に対して厳しいですから、メディアだって動きます。疑惑という形であっても報道するでしょうし、もう教壇に立つ事は難しくなりますね。違法性のある動画なら、持ってるだけで犯罪ですし』


「しっかり償ってほしいですね。これだけ女性を傷つけて、やり逃げは許せないですからね」


『離婚と慰謝料、その後当面の生活費の約束を果たしてくれれば、しほさんから学校へ通告する事はしないと約束するそうです』


「別れてしまえば、払うもん払ってくれれば誰と何しようと勝手にやってくれって感じですしね」


『ええ、所詮、他人ですから。そういう事です』


 リナからの報告は以上でした。


 その後のこのご夫婦の事を、僕たちは知る由はありません。



 というところで、第二章最終話とさせていただきます。


 引き続き、次話をお楽しみください。

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NTRリアリティショー『現場は異常です』 神楽耶 夏輝 @mashironatsume

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