第8話:琥珀眼、暖かく迎え入れられる
人の多い場所を一通り回りきり、学校の人の多い場所に集まっていた現鬼を全滅させた頃にはもう夕方だった。太陽はすでにほぼ見えなくなっており、わずかに見える夕焼けの赤が点いたばかりの電灯の白と混ざりあう頃、俺と真雲は学校を出て帰路についた。
「ふぅ、本当にお疲れさん。真雲」
「うん、疲れたけどこれでしばらく学校は安全かな」
「そうかもな。……まあ、ちっこいのは湧くけど一々狩ってたらキリがねえ」
「ということは、明日は学校外?」
「トラブルとかなければそうなるな。範囲が広くなるから現鬼倒すよりも歩きで疲れそうだ」
「確かに、今日も疲れたから明日はもっと疲れそう」
その言葉の通り、真雲の歩く姿は少しけだるげだ。もしかして能力は高いがあまり燃費はよくなかったりするのだろうか。
「真雲って結構疲れやすかったりするのか?」
「疲れやすい……というより今までの妖魔狩りが私にとって簡単すぎて、こうやって駆け回るのに慣れてない」
「……そういえば、最近、妖魔が少なくなってるって話があったな」
「うん。だから強い私にとってはずっとただの雑魚狩りだった」
「おお、言うなあ。飽きたりしないのか」
「まさか、妖狩師としてやりがいとか持ってやってるし。……私が強いからお母様と私の今があるわけだし」
「……真雲が、強いから?」
その理由を聞こうとした時、俺のお腹がぐぅっと鳴った。どうやら思っていたよりおなかが空いていたようだ。少し恥ずかしくなって真雲の方を見てみると、少し口角を上げて微笑ましい様子で俺を見てきて……さらに恥ずかしい。
……一瞬、その眼が獲物を狙う獣のように光ったのは……多分、気のせいだろう。
「安心して博斗、私もお腹ぺこぺこだから。……そういえば、博斗って普段夕ご飯何食べてる?」
「……ん?ああ、基本カップ麵か冷凍食品だな。料理できねえし」
「……ふーん。ねえ、博斗」
「おう、どうした?真雲」
真雲は横断歩道を渡り切った先で振り返ってきた。この道は周りに車が少ないから、まあもう少しここで話をしていてもいいだろう。電灯の明かりに照らされた真雲は……何故かほんの少しだけ緊張しているように見える。
「……じゃあ博斗、私の家で夕ご飯、食べてく?」
「え?それは……」
「これは妖狩師勧誘とは関係なくて、カップ麵ばっかだと博斗の健康とか、そういうのが心配で……」
「……まだ何も言ってないんだが」
電灯にしか照らされていないせいで見づらいが、真雲は顔を薄く赤面させて妙に体をもじもじしているように思える。こんな真雲は初めて……ではなく、初めて真雲の家に訪れた時無意識のうちに真雲へ受け答えしていた時の真雲もこんな表情していた気がする。
正直俺としてもかなり好ましい提案なのだが、ちょっと気になる部分もある。……逆に言えばそこさえなくなれば断る理由は一つもない。
「ミコトさんは了承してますかね?」
「むしろお母様の発案」
「……なるほど、じゃあお言葉に甘えさせていただきますか」
「そっか。じゃあ行こう」
「うおぉっ!?」
真雲は急に表情を晴れさせると、俺の手を強引に引いて家へと駆けだした。真雲の身体能力に引っ張られているためか体感十秒ほどで真雲の家、豪華な和風邸宅へとたどり着く。途中俺の両足が地面から浮いていたような気がするが、……多分、気のせいだろう。
「ただいま」
「おお、お帰り真雲。……どうやら成功したようじゃのう」
「お邪魔します」
「よく来たのう、博斗殿。自分の家だと思ってゆったりくつろぐが良い」
「はい、全力でお言葉に甘えますね」
「からから、そう言ってくれるとこっちも遠慮なくもてなしができてありがたいのう」
玄関で迎え入れてくれたミコトさんに挨拶をしつつ、二人の後ろをついていく。たどり着いたのは前回と違う場所、畳の部屋に薄型テレビと座卓に座布団。座卓の上にはあらかじめミコトさんが淹れてくれたと思わしきお茶三つとせんべいが入ったお皿という……生活感の溢れる居間だった。
「では、わらわは夕食を作ってくるから自由に過ごしておるとよい」
「あ、わかりました……じゃあ、宿題でもやってるか」
「私はアニメ見るから」
「明日の数学の宿題終わってるか?そこそこ量あったと思うけど」
「…………博斗のを見せてもらう」
「おいおい……」
真雲は現実逃避するかのように速やかにテレビをつけ、録画画面を開き昨日の深夜放送していたと思わしきアニメを再生しだした。内容は異世界で奴隷とイチャイチャする、割とエロに寄った深夜アニメ。女の子の多い画面を横目で見ながら宿題を進めていると……お風呂シーンになった。
奴隷の中でも一番年上と思わしき女性が主人公の背中を流すついでに背中に豊満な胸を当てて主人公を照れさせている。そんな、恐らくこの回の見どころと思わしきシーンに、ついつい横目ではなく正面からテレビを見てしまう。
「……博斗」
「お、おぉ……!?」
宿題を忘れて画面に没頭していると……いつの間にか俺の後ろにいた真雲が俺の背中に胸を押し当ててきた!? 体重をこっちに傾けているからだろうか、胸の柔らかさが背中いっぱいに広がり、顔が見えないのに真雲の存在感が魂の奥底から感じられる。
「真雲!?何を……」
「アニメの真似」
テレビには女体に慣れていないためか風呂場から逃げ出す主人公が描かれている。正直俺も恥ずかしくて逃げ出してしまいたい気分だ。
「……じゃあ、あれも真似して俺もこの部屋から出てった方がいいか?」
「それはダメ」
「そうか、ダメか」
真雲はさらに背中に胸を押し付けながら俺の肩に顔を乗せ、だらしない様子で俺にもたれかかってきた。
「んぅ……。私たちの空間に博斗がいる。……嬉しい」
「前来たあそこは……」
「あそこは、あくまで妖狩師協会の部屋。ここが私たちの家……どう?」
「こっちの方が落ち着くな、生活感があって」
「……ならよかった」
真雲は家だと思ったよりあまえんぼなようだ。普段見ることができない真雲の隠された姿を俺だけが見られているという高揚感が俺の胸をノックし、心臓の鼓動がどんどんと高まっていく。だが、流石にこの状況をミコトさんに見られたら何と言われるか分からない。そろそろ離れなくては。
「真雲、そろそろ……」
「くぅ……すぅ……」
「おーい、真雲?」
「んぅ……」
「おわっ!?」
真雲はどうやらおねむなようで、体の主導権を完全に手放し俺にもたれかかってきた。真雲はそのままだとバランスを崩して座卓に頭をぶつけてしまいそうなので、体を使って受け止める。
「くぅ……すぅ……」
真雲は俺へ完全にもたれこみ、かわいい寝息をたてながら俺の胸板を枕にして幸せそうに眠っている。……一応俺は健全な男子高校生で、真雲は可憐で体つきの良い少女なのだが、そんなことはお構いなしに真雲は無防備な姿をさらしている。
「……どうすればいいんだ」
目の前で美少女が眠ってるなんて初めてのためどうすればいいか分からない。理性と煩悩のはざまで揺れ動きながら目の前で眠っている美少女の寝顔をただ眺めているしかなかった。
「……そんな無防備に寝るなよ。心の底から信用されてるみたいじゃねえか」
どれくらいこんな停滞した幸せな時間が続いていただろうか。廊下から聞こえてくる足音。恐らくミコトさんがこっちに来ているのだろう。……今から真雲をどける気にもなれないし、もうこのままでいいか。
「そういえば聞き忘れておった。博斗殿、アレルギーなどは……ほう?」
「……なんか、真雲が寝てしまいました」
「からからから。仕方ない、許してやってくれ。真雲は今日の早朝ごろまで起きておって寝不足でのう」
「寝不足?どうして……」
「『これからどうするか』を考えておったんじゃ、一晩中な。まったく、強く想われておるのう、幸せな誰かさんは。子離れできん母親としては寂しい限りじゃ」
「……?何の話ですか?」
「からから!真雲が大変って話じゃ!」
ミコトさんは楽しそうに、そして愛おしそうに真雲の顔を眺めている。包容力のある母親の顔だ。だが、俺はミコトさんの言っていることの意味が分からず、少し動揺してしまっていた。
「はぁ……。あっ、目立ったアレルギーはないです」
「んむ、承知したぞ。ご飯前には真雲を緩く起こしてやってくれ。左頬を軽く叩けば次第に覚醒していくからおすすめじゃ」
「……女の子の顔を叩くというのは、ちょっと」
「からから、紳士じゃのう。ならば頭でも撫でてやるが良い」
「それなら……分かりました」
「……ちなみに、逢引を始めたら夕食の時間をずらす程度の配慮はできるから、もし、したくなったら遠慮なくイチャイチャするがよい!」
「……えっ!?いや、そんな……」
「ではな!」
「待っ……!」
ミコトさんは足早に去っていった。何を期待しているかは察しがついているが、するつもりはない。……本当に。
「おーい、真雲……」
「ん……う……」
……真雲の頭を撫でてみる。藍色の髪の毛は手入れが行き届いており、まるで絹でも触っているかのように手触りが良い。十数秒頭を撫でていると、真雲はわずかに身をよじりながらかわいいうめき声共に薄く目を開けた。
「おはよう、真雲」
「んむゅ……まだ、夢見てる?」
「いや夢じゃねえけど……なんでそう思った」
「目覚めたら博斗がいるなんて、夢みたい」
「そ、そうか……お茶飲むか?」
「うん」
真雲は寝ぼけているのか、真っすぐな好意を伝えてきて……正直かなりドキッとした。しかし、寝ぼけている状態で言ったことなので真に受けるだけよくないということは分かっている、自制しなくては。
起きた真雲は眼が半開きの状態でぽけーっとしている。……真雲は寝起きが弱いタイプなのか。真雲と一緒にこくこくとお茶を飲んでいると、足音が廊下から響き、次の瞬間には元気よくドアが開かれた。
「さあ、待たせたの!今日の夕ご飯はわらわ特製の特盛り唐揚げじゃ!当然、ご飯のおかわりも山のようにあるからの!」
「……うぉ、すっげえ山」
「いっぱいだ」
ミコトさんはお盆をうまく手に持ちながら部屋に入ってきて、慣れた手つきで座卓に料理を配膳し始めた。炊き立てのご飯と豆腐とネギが見える味噌汁、そしてキャベツとプチトマトのサラダに……山盛りですら例えとして不適切な量の特大特盛唐揚げ。
揚げたてなおかげか肉汁と油がはじけるジュウウウという音が部屋中に鳴り響き、香味と肉の油が混ざったその匂いと共に俺の脳髄の奥深くにまで突き刺さる。そのせいだろうか、どれだけ飲みこもうとしても唾液が止まらない、体が、脳が、魂が、これを食べたいと叫んでいる。残った僅かな理性が今すぐ手でつかんでかぶりつきに行くのを阻止しているが、これでは時間の問題だろう。
「からから、喜んでくれたようでなによりじゃ」
「い、いいんすか。こんな……」
「よいよい、報酬のようなものじゃ!」
「報酬……?」
「ああ、本日お主は外部協力者として妖狩師の仕事を手伝った。故にこういった形で報酬を支払う。簡単な話じゃろう?」
「外部、協力者……」
「ああ、お主は外部協力者じゃ。それなら問題なかろう。さ!料理が冷める前に食べようではないか!」
「うん、食べよ、博斗」
「あ、ああ……!」
外部協力者というところに少し思うところはあったが、唐揚げの匂いの前に思考が欲望にかき消されてしまう。足早やにそれぞれの席に着き、手を合わせる。
「では……いたたこうかのう!」
「いただきます」
「いただきますっ!」
食前の挨拶を終えた瞬間、箸を取り、巨大な唐揚げを掴み……かぶりつく!まず、口に広がったのは唐揚げの衣のザクっとした食感とニンニクと醬油の下味。その味は次の瞬間には揚げたての肉と混ざりあい、味の付いた肉というこの世界で最も男を魅了していると言っても過言ではない味へと変化をしていく。
嚙むたびに奥深い下味と肉の油が口の中で飛び散り更なる食欲を促してくるが、胃に何かを入れろという要求もだんだんと強まってしまう。胃の要求に逆らえず惜しくもその唐揚げの破片を飲みこんだ後も舌に残る衣と肉の味。味が消えてしまう前にと炊き立ての白米を口の中にかき込むと――!
「――あづっ!?」
「大丈夫?」
「……そりゃ炊き立ての米をその勢いで口へ放り込んだらそうもなろう」
炊き立ての白米の熱さを舐めていた。……唐揚げが美味しすぎるのが悪いということにしておこう。……熱さも飲みこんでしっかりと白米を味わう。嚙むたびに唾液と混ざりあって出てくる甘さが口の中に残った油と塩分を持ち去って喉を通る。……美味しい。月並みだが最大の賛辞が魂の底から湧き出してくる。
次は何を食べようか、またから揚げに戻ってもいいし、恐らく合わせ味噌の味噌汁を啜ってもいい。いや、ここであえてサラダを食べることで口の中をリフレッシュさせて――。
「……楽しそうだね、博斗」
「そんなに美味しそうに食べられると作った側冥利に尽きるのう」
「あっ!?いや、その……美味しいです」
そんな食事を楽しむ俺の内心は真雲達に駄々洩れだったようで、微笑ましそうな顔でこっちを見ている。口の中より顔や耳の方が熱くなってしまう。そんな俺に真雲は……サラダの中のプチトマトを渡そうとしてきた。
「あげる、もっと食べたいでしょ」
「これ!嫌いなものも食わんか!」
「悪い、俺もトマト好きじゃねえ」
「むぅ……残念」
「目論見は外れたのう」
真雲はトマトがそこまで好きではないようだ、俺もだが。そして、真雲は少しなにかを考えたかと思うと……いきなり服をはだけさせた!?
「……女体盛りにすれば食べてくれたり」
「に、にょたいもり……!?」
「食事中に止めんか!」
「んぐっ!?」
ミコトさんの手刀が真雲の頭を捉える。スパァン!という滅茶苦茶いい音がした。
「……痛い」
「やっぱ食ってやるよ、真雲」
「本当?ありがとう」
「まったく、お主は真雲に甘すぎじゃぞ」
「ははは……。……あれ?」
「……博斗、泣いてる?」
どうして、だろうか?頬に目から出た水滴が垂れている。トマトが嫌というわけではない。ただ何故か普通にご飯を食べているだけなのに胸の中に言語化できないくらいぐちゃぐちゃな感情が溜まっていってしまって、なぜか涙が止まらない。
「……お主、大丈夫か?」
「やっぱりトマトは自分で食べる」
「多分そういう問題ではないぞ」
「……そうなの? 博斗」
……ああ、そういうことか。真雲とミコトさん、二人の顔を見てすぐにわかった。俺は……。
「すいません、あまり気にしないでください。ただ、誰かと一緒に笑いながらご飯を食べるっていうち暖かい食卓が久しぶりだっただけなので」
「……そんななの?親戚とか……」
「親戚は変なものが見える俺を気味悪がって冷や飯食らいだったし、高校生になって他の親戚のところ住んでからはずっと一人だったから……十年ぶりですね」
「……そうか。……唐揚げ、一つやろうか?」
「あ、いいんですか?」
「よいよい、そろそろ油ものが受け付けん年齢になってきてしまったからのう」
「お母様、私にも」
「……仕方ないのう」
ミコトさんから受け取った唐揚げにかぶりつく。タルタルソースが掛かっているからか、唐揚げの油にまろやかな酸味が加わって新たな味が作り出され、白米がさらに進んでしまう。
「美味しいね」
「ああ、美味しいな」
「……博斗」
「どうした?」
「……大切なのは今までよりこれから。いっぱい一緒に食べようね」
「からから、そうじゃのう。遠慮せず食べに来るがよい!」
「……ありがとうございます」
暖かい空間に温かい食事。もはや記憶にも残っていないほど久しぶりで幸せなその時間を限界まで楽しんだ。その結果……。
「食いすぎた……!」
「そりゃ、ご飯三杯もおかわりしておったらそうもなろう」
明らかに食べ過ぎた、腹が痛い……!少しでも楽になろうと座布団の上で寝転んでしまう。絶対に健康に悪いが若いから許してほしい。洗い物を終えたミコトさんが部屋でくつろいでいるが真雲の姿は見えない。
「真雲は……」
「お風呂じゃ。この家のお風呂は凄いぞ!ガラス張りにして庭園が見えるようにすることで擬似的な露天風呂になっておる。……無論、外から見えないよう対策もしてあるがな」
「……おお、すごいですね」
「せっかくだし真雲と共に入ればよかったのにのう」
「いや、流石に……」
「心配しなくても脱衣所に妖力でできた水着があるぞ! お湯につかると溶ける仕様じゃがの!」
「それだと風呂には入れませんね!」
「からからから! そう言われるとそうじゃのう! まあ、実験作じゃから仕方ない!」
ミコトさんは上品に、かつ楽しそうに笑ったまま、俺の頭を膝の上に乗せ……膝枕の体勢になる。お香のようで少し違う、程よく甘い大人な女性の匂い。真雲の面影を感じるがまた違う、大人びた魅力を持った和風美人のその顔と真雲以上の迫力を持つ胸が目の前に迫ってきたことによって、心臓の鼓動が速くなってしまう。
「……改めて、感謝を伝えんとな。真雲と仲良くしてくれることに」
「そんな、感謝だなんていりませんよ」
「そうかのう。……で、お主から見た真雲はどうじゃ?あの子には言わんから正直に言うてみるとよい」
俺から見た真雲、か。改めて真雲のことを思い返してみると……。
「思ったよりお茶目ですね。隣の席にいた時はあんな感じじゃなかったんで……あっちが素なんですか?」
「まあ、そうなるのう。……わらわに助平な絵を描くようせがんでくることもあるし、女体の神秘に興味を持つのは悪いこととは言わんがもう少し度を考えてほしいのう」
「……描いたんですか?」
「お主も興味を持っとるんかい! 描くわけなかろう未成年に!」
……𠮟られてしまった。あの絵柄のR18な絵が見たくないと言えば噓になってしまうから仕方がない。
「……そうじゃ! 博斗殿が妖狩師になってくれたら描いてやってもよいがのう? 流石に未成年に見せられるレベルじゃがどうだ?」
「え、そ、それは……」
……急にいたずらっ子のような笑顔をしたミコトさんがさらに俺の顔に迫ってくる。あと少しでも調整すればキスができてしまいそうだ。そんな状況に照れて答えあぐねていると……再びミコトさんがからからと笑い出した。
「からから、冗談じゃ。……そもそも、わらわはお主が外部協力者のままでよいと思っとるからな」
「え、そうなんですか?前来たときは熱心に勧誘された気が……」
「あれはなんとしても博斗殿に協力してほしくて、その一番手っ取り早い方法が妖狩師になってもらうことだったからのう。個人的に協力してくれるのならそれはそれでよいと思っておる。真雲もな」
「……え?真雲は俺に妖狩師になってほしいって」
「それは……また、別の理由じゃ。……真雲もいじらしいのう」
何かを誤魔化すように微笑むミコトさんの姿には何か憂いのようなものが見え隠れして……大人の色気が溢れ出ていてセクシーだ、以上の感想が抱けなかった。
「別の理由……ですか?教えてくれたりは……」
「これは本当に妖狩師になるか本人に聞きだすかしてほしいのう。強いてヒントを言うのなら……妖狩師はあくまで裏の世界の存在で、裏の世界にも表と同じような相応のしがらみがあるということかのう」
「しがらみ、ですか」
「ああ、しがらみじゃ。わらわも昔はそのしがらみのせいで大変じゃった。それが今は支部長なんて地位につけているのじゃから……人生とは分からんもんじゃのう」
ミコトさんの眼にほんのわずかだが闇が宿る。ミコトさんの、しがらみ。真雲の「強いから今がある」発言と何か関係があるのだろうか。
「もしかしてそれって……」
「博斗、お風呂あがったよ」
「……おう?……ぐっ!?」
風呂上がりの真雲は黒いベビードールランジェリーを着て……要するにほぼ下着の状態! 風呂の水分を吸って上気した豊満な谷間は普段とはまた違った艶めかしさを帯びていて……正直に言おう、エロすぎて今まで何を考えていたのかがぶっ飛んでしまった!
「……博斗、私に釘付けになってる。悩殺、しちゃったね」
「風呂、入らせていただきます!」
「からからから! 遠慮なく入ってくるが良い!」
「残り湯飲まないでね」
「誰が飲むか!」
……今の真雲と一緒の空間にいると俺が何をしでかすか自分ですら分からない! ここはもう、逃げるしかない!
「……あっ!」
「……え?」
寝ころんでいた状態から急に立ち上がったせいか足元がおぼつかなくなってしまい……真雲に向かって転んでしまった!
「……わ、悪い。ちょっと、急ぎすぎた……え?」
「……ん、んう……ん?」
体勢を立て直してみると……右手の先にやわらかく肉厚なぽよぽよとした感触。見ると、俺の右手が真雲のランジェリーの中に入り込んでいる。ということは、これは真雲の生の……。
「……あう……えっち!」
「ご、ごめんぶっ!」
「……寝る!」
真雲の顔が耳まで真っ赤に染まる。そのまま頭突きをして俺をノックバックさせ、廊下へ駆けだしてしまった。
「いてて……」
「からから……我が娘は相変わらず攻められるのに弱いのう。今回はあの子も若干無理しておったから余計にな」
「……無理してたんですか?」
「お主はお乳ばかり見ておったから気づけなかったろう。真雲は初めの時点でかなり朱に染まっておった。あれは調子乗って着てみたのは良いが、いざ見せてみたら思ったより恥ずかしいって顔じゃ。そもそも真雲は普段あんなの着んからのう」
「じゃあ、どういうの着てるんですか?」
「夏ならTシャツじゃの」
真雲の胸のボリュームでTシャツ……?
「……お主今妄想したじゃろ」
「え!?……はい、しました」
ギラリと怪しげな光を放つミコトさんの藍色の眼に嘘がつけなくなってしまう。……俺ってそんなに頭の中のことが外に出やすいのか!?
「まったく、お主たち二人はある意味これ以上ないほどお似合いじゃのう。まあよい。ほれ、もうかなり遅い時間じゃ。風呂入っとる間に布団の準備もしといてやるから泊まっていくが良い」
「あ、すいません。俺今日家に洗濯物溜めてるんで風呂入ったら帰ります」
「む、そうか。ならば明日は泊っていくが良い」
「……え?明日もあるんですか?」
「あるに決まっておろう。これは報酬でもあるのだからな。お主が現鬼狩りに協力してくれるのならば対価として幸福を与えよう。……それとも、嫌か?」
「い、いえ!そんなわけないです!」
「ならばよい」
そうか、明日もあるのか……。こんな幸せが、明日も……。
「ま、現鬼狩りをしてなくても友の家へ来るのに遠慮はいらん。いつでも来るが良い」
「あ、はい、ありがとうございます!」
風呂に入り、マンションに帰った後も、変わり始める自分の日常へのわくわくと……右手に残った真雲の豊満な胸の感覚に悶々として眠れなかった。
そして翌朝、珍しく真雲より先に学校へたどり着いた俺は……。
「孤村博斗って奴、この教室にいるって聞いたけどいる?」
「あ……お、俺ですけど。……!?」
「ちょっと体育館裏来て。話したいことがある」
「ギャギャギャギャ!」
「わ、わかった……」
何故か、白餓鬼を連れた金髪のギャル……カノンと呼ばれていたあの子に呼び出されてしまった。
_______________
フォロー・評価(☆☆☆を★★★に)をして頂けると、とても嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます