学研全訳古語辞典 |
ゆ
《接続》体言、活用語の連体形に付く。
①
〔起点〕…から。…以来。
出典万葉集 三一七
「天地(あめつち)の分かれし時ゆ神(かむ)さびて高く貴き駿河(するが)なる富士の高嶺(たかね)を」
[訳] ⇒あめつちの…。
②
〔経由点〕…を通って。…を。
出典万葉集 三一八
「田子(たご)の浦ゆうち出(い)でて見れば真白(ましろ)にそ」
[訳] ⇒たごのうらゆ…。
③
〔動作の手段〕…で。…によって。
出典万葉集 三三九六
「目ゆか汝(な)を見むさ寝ざらなくに」
[訳] 目でおまえを見るだけなのだろうか、共寝しなかったわけでもないのに。
④
〔比較の基準〕…より。
出典万葉集 二四三八
「綱手(つなで)引く海ゆまさりて深くし思ふを」
[訳] (私は)綱手を引く海よりも(あなたを)いっそう深く思っているよ。
参考
上代の歌語。類義語に「ゆり」「よ」「より」があったが、中古に入ると「より」に統一された。
ゆ
《接続》四段・ナ変・ラ変の動詞の未然形に付く。⇒語法(2)
①
〔受身〕…れる。…られる。
出典万葉集 一六四一
「沫雪(あわゆき)に降らえて咲ける梅の花君がりやらばよそへてむかも」
[訳] あわ雪に降られて咲いた梅の花をあなたのもとに届けたならば、(あなたはそれを)あわ雪と思ってしまうだろうか。
②
〔可能〕…できる。
出典万葉集 八五三
「見るに知らえぬうまひとの子と」
[訳] 一目見て知ることができました、(あなたが)良い家柄の娘であると。
③
〔自発〕自然と…するようになる。…れる。
出典万葉集 八九八
「慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音(ね)のみし泣かゆ」
[訳] 心を慰めることもなくて、雲に隠れて鳴いて行く鳥のように自然と泣けてくることだ。
語法
(1)上代に限って用いられ、助動詞「る」の発達に伴って衰退した。⇒らゆ(2)「射ゆ」「見ゆ」という語のあることから、古くは上一段活用の未然形にも接続した。
注意
助動詞「る」に対応するが尊敬の意はない。
参考
(1)「おもほゆ」「おぼゆ」「聞こゆ」「見ゆ」などの「ゆ」も、もと、この助動詞であったが、これらは「ゆ」と複合した一語の動詞と考えられる。(2)現代語の連体詞「あらゆる」「いわゆる」は、「あり」「言ふ」の未然形に、連体形の「ゆる」が接続して固定化したものである。
ゆ 【揺】
琴の奏法の一つ。弦を押さえた左手の指先で弦を揺り動かして、音の余韻にうねりをつける手法。また、その音。
ゆ 【柚】
ゆず(=木の名)。また、ゆずの実。
ゆ 【湯】
①
湯。
②
湯浴(ゆあ)み。入浴。湯殿。
出典源氏物語 帚木
「下屋(しもや)にゆにおりて」
[訳] 下屋(=身分の低い者のいる建物)に湯浴みをしにおりて。
③
温泉。
出典万葉集 三三六八
「足柄(あしがり)の土肥(とひ)の河内(かふち)に出(い)づるゆの」
[訳] 足柄の土肥の河内に出る温泉の。
④
煎(せん)じ薬。薬湯(やくとう)。
出典源氏物語 手習
「しばしゆを飲ませなどして、助け試みむ」
[訳] しばらく薬湯を飲ませるなどして、助けてみよう。
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