人に動いてもらうためにはやはり「ストーリー」が最強ツール~新宿伊勢丹さんでの実例
今の時代、ものを買っていただくためには、ストーリーが必要だと言う。
いや、もう「ストーリー」は聞き飽きたという声もある。
僕はと言えば、いつの時代にも「ストーリー」は最高のツールだと思っている。それがものを買ってもらうにせよ、なにかの考えを知ってもらうにせよ、自分を知ってもらうにせよ、である。
そのいい実例を教えていただいたので、紹介したい。
僕の敬愛する高江雅人さんという竹職人で、先輩経営者の方の話だ。
高江さんの主力の商品は、冒頭の写真のような竹を精緻に編み上げた高級バッグだ。この作品には定評があり、テレビを含め数多くのメディアに取り上げられている。それだけでなく、海外のアーティストの目にとまることも多く、海外での展示会もされているし海外有名デザイナー(シビラさん)から直接声がかかったこともある。
さて竹細工の世界も大きな変化を余儀なくされてきた。作れば売れた高度成長期時代、高額なバッグが問屋さん経由でどんどん売れたバブル時代、そして今は、高江さんによると「作家は自分で作り、自分でお客さんをみつける」ことができなければ、生きていけない時代だそうだ。
高江さんのすごいところは、時代の変化に合わせて自分のやり方をどんどん変化させてきたことだ。
高江さんのブログを見ていると、その人柄の素晴らしさに魅せられるのだが、毎日毎日考えられて工夫を重ねていかれるさまが素晴らしい。そして、その試行錯誤やトライアルが、いつも地に足がついている。ちょこっと本で得た知識を試してみようか、というようなものではなく、お客様をリアルに見て、売上数字をチェックして、うまく商売されている仲間の話をじっくりと聞いて、それを自分のアタマで整理してから、あらたなトライアルに踏み出されるのだ。
高江さんのことは、僕の過去記事や高江さんのブログを見ていただくとして、本題、「ストーリーがいまでも最強のツールである実例」を高江さんの最近のブログ記事から紹介しよう。
高江さんは今日(8月11日)まで、新宿伊勢丹6階で開催されている「おとなの大九州展」に出店されており、そこで実演販売もされている。
新宿伊勢丹といえば、誰もが認めるNO1デパートであり、そのファッション性では比肩しうる百貨店はないとまで言われる。
そこでの展示会なので、高江さんも高級バッグの販売に、相当な気合をいれておられ、店のレイアウトも、高級バッグを前面に展開されてスタートされた。
この写真がスタート時点での前面の様子である。
高江さんは高級バッグのほかに、さまざまなアイテムも作られているのだが、手軽に買ってもらえてバッグ販売の入口になるようにと、お箸もつくられいる。
お箸は、「すべらないお箸」とか「名前を彫った進物用」のものとかのバラエティがあり、「彫る」とか「すべらない」ところを見せるなどの実演ができるので、百貨店などの店頭では、お客様に立ち止まってもらえるのに、必須のアイテムとおっしゃっていた。
ただし、今回の催事では、高江さんのバッグは催事のメインのひとつの位置づけで、売上もかなり期待されているらしく、高江さんも限定品のバッグを提供されるなど、高級バッグの販売にかける意欲がふつうではない。
結果、上の写真のように、バッグを前面に出し、箸などの小物は横面に配置するレイアウトでスタートされた。
しかし、伊勢丹の催事のマネージャーさんからの助言もあり、会期途中の金曜日の夜にレイアウトをがらっと変えられた。
写真のように、お箸と「高江さんの笑顔」を前面にし、バッグを側面にされたのである。
変更後の土曜日から、売上が飛躍的に伸びたそうだ。
お箸が売れるのはもちろんのこと、お箸から入ったお客様が「高江さん」に好意と興味をもたれ、高級バッグもたくさん買ってくださるようになったとのことである。
最初のレイアウトでは、たくさんのお客様に、高江さんの素晴らしいバッグがたくさん見える。しかも、それを見るお客様は、日本一のデパートにわざわざ買い物に出向いておられる方々である。もちろん、その方々たちは、高江さんのバッグの素晴らしさ、デザインの良さや信じられない手の仕事を見抜く審美眼をお持ちだ。
だが、お客様はそういったものに、見慣れてしまっている面もある。
修正後のレイアウトでは、バッグの前を通る人の数は何分の1かになってしまっている。しかし、高江さんのお箸に目を留めて、高江さんと言葉を交わしたお客様は、すでに「高江さんという人」、「高江さんという人が作るもの」に好意と興味をもっておられる。
お客様はバッグを見る前に、そのストーリーをたっぷりと味わっているのである。高江さんの裏表ない包容力のある笑顔、その太い指、まじめな眼差しと、誰をも敬意をもって扱うその真摯さ。
そして、お客様は、「高江さんという人の仕事」に、「高江さんという人とのつながり」に、喜んで、中国製の何倍もする金額をお支払いになる。
僕は何年も百貨店の催事の企画担当をしており、こういった話はよく知っているほうだ。
しかし、高江さんのこの話は、その意味が明らかでとても面白いと思う。
なんだかんだ言っても、やはり、ストーリーは人の心を動かすための、最強のツールなのである。
*高江さんのWebショップ 工房オンセ
PS 高江さん 勝手にブログ内容、写真拝借してすみません!