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電気工事会社のM&A動向は?買収や売却の事例を紹介

2024年8月27日

電気工事会社のM&A動向は?買収や売却の事例を紹介

このページのまとめ

  • 電気工事とは、一般用電気工作物または自家用電気工作物を設置、または変更する工事
  • 電気工事業界の市場は建設業界に大きく左右される傾向にあり、近年は右肩上がりに推移
  • 電気工事業界は「人手不足」「資金難」「5G対応」「IoT」「DX」の課題がある
  • 電気工事業界でM&Aが活発化している
  • 電気工事業界でのM&Aには内製化による事業領域拡大と人手不足の解消を目的としている

事業承継や経営戦略の観点から、近年電気工事業界でもM&Aが活発に行われています。この記事をご覧になっている方も、電気工事会社の経営者などM&Aを検討されているのではないでしょうか。

本コラムでは、電気工事業界が抱える課題やM&Aが行われる背景や目的、メリット・デメリットなどを網羅的に解説します。コラムの最後では、M&Aを進めるうえでのポイントにも触れました。M&Aを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

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電気工事業界とは?

電気工事は、一般用電気工作物または自家用電気工作物を設置または変更する工事(政令で定める軽微な工事を除く)と定義されます。

そして、電気工事は大きく分類して2つの種類があります。

電気設備工事コンセントや発電設備など電気に関する設備を設置する工事
電気通信工事アンテナや電気配線、LANなど通信に関する設備を設置する工事

電気工事を担う電気工事業者は、施工可能な電気工事の種類と建設業の許可の有無に基づいて、4つの事業者に区分されています。

登録電気工事業者一般用電気工作物・自家用電気工作物にかかる電気工事のみを施工する事業者のうち、建設業許可を取得していない事業者
みなし登録電気工事業者一般用電気工作物・自家用電気工作物にかかる電気工事のみを施工する事業者のうち、建設業許可を取得している事業者
通知電気工事業者一般用電気工作物にかかる電気工事のみを施工する事業者のうち、建設業許可を取得していない事業者
みなし通知電気工事業者一般用電気工作物にかかる電気工事のみを施工する事業者のうち、建設業許可を取得している事業者

これらの分類により、どの電気工事業者にどのような工事を依頼すべきか、また、業者が必要とする許可の種類が明確になります。

参照元:e-Gov「電気工事士法

総合工事業者と設備工事業者に分類

建設工事を担う業者は、総合工事業者と設備工事業者の2つに分類されます。

総合工事業者は建設工事における施工全体の管理業務を行う工事業者です。通称「ゼネコン(General Contractorの略称)」とも呼ばれます。

一方、設備工事業者は建設工程のでも特定領域を専門に担う専門工事業者が「サブコン(Sub Contractorの略称)」です。

空調工事や排給水工事、電気工事などの設備工事はサブコンに分類されます。簡単に言えば総合工事業者は「元請」で、設備工事業者は「下請」となります。

建設業界での発注方法は「一括発注」と「分離発注」と2つです。

一括発注

一括発注は、施主が複数の工事やサービスを1つの建設会社にまとめて発注する方法です。

施主にとってはコミュニケーションコストが抑えられ、負担が軽減されるメリットがあります。受注先の元請業者も、自社が中心となり工事計画や現場管理を実施可能です。

一括発注の場合、設計や工事の責任は元請業者に発生します。そのため、トラブルや変更が生じた場合に対応しやすいことが特徴です。

分離発注

分離発注は、施主がゼネコンとサブコンそれぞれに発注する方法です。

建設ではさまざまな種類の工事が行われます。代表的な工事の種類を挙げてみましょう。

  • 木工事
  • 家具工事
  • 板金工事
  • 空調設備工事
  • 塗装工事
  • 電気設備工事
  • 給排水設備工事

こうした工事にすべて対応できるノウハウや設備を備える建設会社は少なく、そのため複数の建設会社に依頼して案件を進めます。

分離発注では、ゼネコンを介さないことで外注コストを抑えられるメリットがあります。また、専門的な技能を持つ業者に依頼することで、質の高い施工が可能です。

しかし、多くの設計士や施工業者が工事に関わるため、管理が煩雑化する難点もあります。

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電気工事業界の動向

M&Aを検討する一つの材料として、電気工事業界の市場規模や需要への理解を深めましょう。

電気工事業界の市場規模

まずは、電気工事業界の市場規模について解説します。一般社団法人日本電設工業協会「電気工事受注調査(2024年7月8日更新)」によると、2023(令和5年度)の電気工事受注高は約3兆4107億円です。

また、「電気工事受注調査(平成25年度~令和4年度)」によると、以下のように電気工事受注高が推移しています。

電気工事受注高の推移のグラフ画像

引用元:一般社団法人日本電設工業協会「電気工事業の受注調査(年度別)

電気工事業の受注高は、2019年(令和元年)に3兆円を突破しましたが、2020年(令和2年度)から流行した新型コロナウイルスの影響で大きく下落しました。その後は回復の兆しを見せており、市場は堅調に推移しています。

電気工事業は、建設業界の市場動向に大きく左右される傾向にあり、震災等の災害やオリンピックなどのイベントがあった際に、需要が高まります。

また、今後の動向に関しても建設業界と密接な関係性があるため、建設業界の市場動向を参考にすることで、電気工事業界の動向を予測することができます。

今後も安定した需要が見込まれる

電気工事は建設工事の一部である設備工事です。そのため、先ほどお伝えしたように、電気工事業の工事高は建設業全体の動向に左右されます。そのため、建設投資の推移や動向を探ることである程度将来を予測可能です。

建設工事の国内需要は、中期的に人口減少を背景に減少傾向が継続すると予想されます。例えば株式会社野村総合研究所の「2040年度の新設住宅着工戸数は55万個に減少」では、2040年度の新設住宅着工戸数が約55万戸(2022年度比で約36%減)にまで落ち込む見通しとされています。

一方、国土交通省「インフラメンテナンス情報-社会資本の老朽化の現状と将来」によると、インフラの維持・更新や災害対策関連、リニア関連、そして再生可能エネルギー関連工事の需要拡大が今後の市場を底堅く支える要因になると予想されています。

参照元:
一般社団法人日本電設工業協会「電気工事業の受注調査(年度別)
株式会社野村総合研究所「2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少
国土交通省「インフラメンテナンス情報-社会資本の老朽化の現状と将来

東南アジアへの進出も増加

近年、東南アジアでは著しい経済成長が見られます。電力需要と産業・商業用地の需要が共に増加して市場成長が期待されるなか、社会インフラや都市開発への投資拡大が見込まれています。

そのため、業種や業態を問わず東南アジア市場に参入する日本企業が増加傾向です。電気工事会社もその1つで、東南アジアへ進出する企業が増えてきています。

例えば、電力供給設備や電気設備、空調設備や衛生設備、情報通信などの工事を手がける中部電力グループの総合設備企業株式会社トーエネックは、2020年1月3日にタイで電気設備工事などを手がけるトライエンへの出資を発表しました。

同時期の2020年1月9日には、総合設備企業として電気工事・情報通信工事・空調工事・リニューアル工事を手掛ける株式会社関電工が、フィリピンにおける電気設備、空調システム、衛生設備の工事を手がけるPHPC社への投資を公表しました。

参照元:
株式会社トーエネック「タイ国現地企業への出資について
電気新聞「電設工事会社、出資、買収を足掛かりに東南アジアへ進出加速

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電気工事業界が抱える5つの課題

電気工事業界が抱える代表的な課題について、理解を深めましょう。

  • 人手不足
  • 資材高騰や労働規制強化等による資金難
  • 5Gの基地局設備工事への対応
  • IoTへの対応
  • DXの推進

これら5つの課題について解説します。

人材不足

電気工事の仕事は高所作業が多く、感電など危険なイメージがあります。また、多くの事業者が日給制を採用しており収入が安定しません。そうした影響からか、電気工事業界では人材不足になる傾向にあり、近年人手不足がさらに深刻化しています。その背景としては、IT化による需要増や人材の高齢化です。

昨今、インターネットやスマートフォンなど情報通信の急速な発達により、電気工事の需要が増えています。特に電気設備の工事には、電気工事士の資格が必要で人材不足が深刻化しています。

経産省の「電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について」によると、電気工事士の有資格者は中長期的な想定需要に対して、人材不足となる見込みとなっています。

特に、入職者の減少等により第2種電気工事士(屋内の配線や照明など600V以下で受電する設備の電気工事に必要な資格)が2045年に想定需要約8.6万人に対して0.3万人程度不足する見込みです。

その他、従業員の高齢化も課題の一つです。一般社団法人日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック」の調査によれば、2022年には55歳以上が約36%、29歳以下が約12%となっています。

こうした人材不足や後継者問題を解消するために、M&Aを選択する電気工事会社も増加傾向です。

また、労働基準法の改正により労働時間の上限規制が以下のように設けられました。

項目条件
時間外労働の上限(原則)月45時間、年360時間
超過条件臨時的な特別の事情がなければ超えられない
特別の事情がある場合の条件・時間外労働:年720時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満
・「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」すべて月平均80時間以内
原則超過の許容期間年6か月まで

建設業界でも、2024年4月から対応が必要になりました。従業員一人当たりの労働時間が減るため、業務の効率化や従業員のさらなる採用が必要です。

参照元:
経済産業省 産業保安グループ電力安全課「電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について
一般社団法人日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック
厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説

資材高騰や労働規制強化等による資金難

新型コロナウイルスの影響、物価の高騰、そして国際紛争などさまざまな要因による半導体不足に伴う資材の高騰が、電気工事を担う業者に対して大きな影響を与えています。

そういった資金不足を打開するために「国土強靱化基本計画」に基づいて国から補助金が支給されています。ちなみに「国土強靱化」は、大規模自然災害に備えて強靱な国づくりや地域づくりを推進する取り組みです。

国土交通省では2020年から2025年度までの5年間で追加的に必要となる事業規模を定め、重点的・集中的に対策を講じている最中です。

防災・減災と迅速な復旧復興を支援する施策を柱に、まちづくり政策や産業政策も含めた総合的な取り組みが計画的に実施されています。

  • 激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
  • 予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策
  • 国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進

しかし、国土強靱化計画は2025年度に終了予定のため、その後は資金の供給が停止される見込みです。

また、2023年4月には月60時間超の時間外労働の割増賃金率が25%から50%に増額されています。こうした背景から、資金不足に悩む中小企業は大きな負担を強いられています。

参照元:
国土交通省「「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を閣議決定
一般社団法人日本建設業連合会「4. 建設労働 | 建設業の現状
内閣官房「国土強靭化とは

「5G」の基地局設備工事への対応

近年、5Gへの移行が急速に進行しています。5Gは従来の4Gに比べて大幅に高速で大量のデータをリアルタイムで送受信できる通信システムです。

ただし、5Gの電波は直進性が高く、建物や障害物があるエリアでは電波が届きにくいというデメリットがあります。

この問題を解決するためには、中継基地局の数を大幅に増やす必要があり、5Gの導入には新たな基地局の設置工事が欠かせません。

電気工事会社には、今後加速する5G基地局設備工事への対応が求められる技術やノウハウが求められるでしょう。

参照元:総務省「第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長

IoTへの対応

IT化が進むなか、電気工事業界もIoTへの対応が求められている状況です。

IoTとは「Internet of Things」の略称で、物理的なデバイスがインターネットを通じて相互に通信する概念を示しています。

現在、国家レベルで推進されているIoTは建設業界に波及しています。例えば、国土交通省では、労働災害の減少や人材不足の問題に対処する「i-Construction」を推進しています。

i-Constructionは、ICTを活用した土木工事を含む、建設現場におけるICTを活用した土木工事を含む、建設現場におけるICTの全面的な導入を通じて建設生産システムの生産性向上を目指す概念です。

i-Constructionの具体例は、以下の3つが挙げられます。

  • ドローンを活用した3次元での計測
  • ICT 建機やロボット技術を使った自動運転での施工
  • 3次元CAD 等の設計

その上で、IoTを電気工事の現場に導入することで得られる代表的なメリットは、以下が挙げられます。

  • 自動化による人件費削減
  • 業務効率化
  • 従業員の安全確保
  • 設備機器の保全の円滑化

一方で、IoTを電気工事現場に導入するためには「IoTデバイスの設置とメンテナンスに必要な専門知識を持つ技術者の確保」や「デバイス間の通信を確保するためのネットワークインフラの整備」が求められます。

加えて、これらのデバイスが生成する大量のデータを安全に管理し、プライバシーを保護するための対策も重要です。

参照元:引用元:国土交通省「i-Construction

DX化

近年、多くの分野で積極的に推進されている「DX」はDigital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)の略で、IT技術を用いたビジネスモデルやプロセス、サービスなどの変革を指します。

2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発出して以降、新型コロナウイルス流行の影響によりオンラインへの移行が進み、DXは今や多くの業界でDXの重要性が認識されるようになりました。電気工事業界もその1つです。

電気工事業界におけるDX導入は、以下のメリットが得られると考えられます。

  • 作業効率向上
  • 利益率向上
  • 品質の向上
  • ノウハウ継承促進

大手企業を中心に取り組みが増加するDXは、具体的には以下の分野で力を発揮すると考えられます。

分野概要具体的な活用方法
営業DXICTの力を借りて顧客の購買パターンを理解し、そのデータを活用して自社の営業手法を見直し、営業活動を効率化する動き。・CRM(顧客情報管理)
・SFA(営業支援システム)
・MA(マーケティングオートメーション)ツール
現場DXICTの活用により工場、データセンター、建設現場などさまざまな現場業務を最適化。・クラウドを使った工程管理
・原価管理ツールによる原価管理
・人材管理システム(労務管理、勤怠管理、給与管理、採用管理、人事評価)
・デジタル技術搭載のグラス装着による現場状況共有
・360度映像の遠隔地共有
・図面やマニュアル共有
管理DX現場業務と管理部門を連携させ、収支の管理や受発注管理、顧客管理などを行う。・電子帳簿保存法への対応
・インボイス制度への対応
・ ペーパーレス化による業務の効率化

こうしたDXへの対応は、中小企業にも今後求められていくでしょう。

引用元:経済産業省・中小企業庁「「デジタル・トランスフォーメーション」DXとは何か? IT化とはどこが違うのか?

電気工事業界のM&A動向

技術革新の加速と環境規制の厳格化を背景に、近年電気工事業界でも新技術や市場獲得を目的としたM&Aが活発です。

例えば、環境規制の強化において、世界的な環境問題への意識の高まりによるCO2排出削減が国家的に取り組まれています。

そのほか、高齢化による後継者問題や事業規模拡大を目指す中小企業間の統合も増加傾向にあり、M&Aによる事業の持続可能性向上を目指す動きを加速させています。

引用元:環境省「第4節チャレンジ25という将来世代への約束

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電気工事会社のM&Aの主な2つの目的

前述のように、電気工事業界でのM&Aには複数の目的があります。その上で、特に重要なポイントは以下の2つです。

  • 内製化による事業領域拡大
  • 人手不足の解消

2つの内容について詳しく解説します。

内製化による事業領域拡大

内製化による事業領域拡大を目的として、M&Aが実施される場合があります。例えば、電気工事会社がビルや施設管理を手がける企業を買収すれば、電気工事の内製化が可能です。

ビジネスチャンスの拡大という点から、電気工事会社にとって異業種とのM&Aは大きなメリットをもたらします。

また、電気工事はIT技術やエネルギー関連事業と密接に関わっているため、Wi-Fiなどの情報ネットワーク技術への対応も欠かせません。

例えば、近年「HEMS」と呼ばれるシステムが注目を集めています。HEMSは「Home Energy Management System(ホーム・ エネルギー・マネジメント・システム)」の略称です。

HEMSは家庭内で使用する電気機器の使用量や稼働状況を可視化し、電気使用状況を把握することで、消費者が自らエネルギーを管理するシステムです。

政府はHEMSを「これからの住宅の標準装備」と位置づけ、2030年までに全世帯にHEMSの普及を目指しています。

そのほか、世界ではカーボンニュートラル・脱炭素化の動きが推進中です。日本でも、2050年のカーボンニュートラルおよび2030年度の削減目標実現に向けたさまざまな政策が取り組まれています。

その1つとして、政府は2030年までに新築住宅の平均として「ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)」実現を目指しています。

ZEHは、建築物の一次エネルギー消費量を高断熱・高気密構造と高効率設備で減らし、太陽光発電などの再生可能エネルギーで年間消費エネルギーをゼロ以下にする住宅のことです。

現在、政府は戸建住宅やアパートなどの集合住宅に向けてさまざまな補助金制度を提供しています。

もう1点、再生可能エネルギーのニーズ増加により、特に太陽光発電関連の工事需要が高まっています。

しかし、太陽光発電事業を展開する際には、第一種または認定電気工事従事者の作業が必要で、電気事業法の規制を遵守しなければなりません。

第一種または認定電気工事従事者を有する電気工事会社は、太陽光発電事業の拡大を目指す事業者とM&Aを実施し、傘下に収める戦略も検討できます。

参照元:
国立研究開発法人 国立環境研究所「環境技術解説 – HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)
経済産業省 資源エネルギー庁「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
経済産業省「2030年度におけるエネルギー需給の見通し (関連資料)

人手不足の解消

電気工事を含む工事業は労働集約型で、他業種よりも人材の影響が大きく、人手不足は死活問題といえます。

また、施工や現場監督の担当者には電気工事施工管理技士、電気主任技術者など専門的な国家資格を持つ人材が必要です。

M&Aの実施により資格や経験を持つ人材を即戦力として取り込める可能性があります。後継者問題の解消にも役立つでしょう。

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電気工事会社のM&Aの3つの事例

電気工事業界では、実際にどのような背景でM&Aが行われているのか、具体的な事例をご紹介します。

JESCOホールディングスとPEICO Construction Joint Stock Company

電気工事分野で広範な実績を誇るJESCOホールディングス株式会社は、2020年12月25日にベトナム北部の首都ハノイで、PEICO Construction Joint Stock Companyという電気設備工事会社と業務提携を結びました。

JESCOホールディングスはグループ全体で以下のような事業を展開しています。

  • 再生可能エネルギー設備工事
  • 無線通信設備工事
  • 電気設備工事
  • 空調衛生設備工事
  • 不動産事業
  • 人材紹介事業

また、PEICO社は、ベトナム北部のハノイ地域で日系大手ゼネコンや企業からの工事受注実績を持つ電気工事会社です。ベトナム南部のホーチミンでは、空港の電気工事、防災無線の設置、高層コンドミニアムの電気工事も担っています。

JESCOホールディングスは、ベトナム国内で数多くの工事実績をもつ PEICO社との相乗効果をねらい、北部ハノイ地域でのEPC(Engineering・Procurement・Construction)事業を強化による事業拡大を目指しています。

参照元:
JESCOホールディングス株式会社「2023年8月期 決算短信[日本基準](連結)
JESCOホールディングス株式会社「PEICO Construction Joint Stock Companyとの株式譲渡契約および株主間契約締結に関するお知らせ
JESCOホールディングス株式会社「ベトナム国北部ハノイで実績のあるPEICO社との業務提携に関するお知らせ

北陸電気工事と蒲原設備工業

2022年11月25日、北陸電気工事株式会社は株式会社蒲原設備工業の全株式を取得し、子会社化しました。

1944年10月に設立した北陸電気工事は、電気工事、管工事、配電設備など電力供給設備に関する電気工事の請負施工を主たる事業として展開しています。

一方、株式会社蒲原設備工業は、1969年11月に設立された新潟県燕市にある管工事業者です。新潟県を代表する管工事業者として、管工事を中心に土木工事や消防施設工事など幅広い事業を展開しています。

北陸電気工事株式会社は、北陸エリアおよび関東方面での商圏拡大を目指し、蒲原設備工業の株式を取得しました。

参照元:北陸電気工事株式会社「株式取得(子会社化)に向けた株式譲渡契約締結のお知らせ(株式会社蒲原設備工業)

JESCOホールディングスと阿久澤電機

2022年9月、JESCOホールディングス株式会社は阿久澤電機株式会社を子会社としました。

1919年に設立された阿久澤電機は、電気および電気通信の施工を主事業とする老舗企業です。群馬県高崎市に拠点を構え、電気工事・電気通信工事の設計・施工や給排水衛生・空調設備の設計・施工、防犯カメラの賃貸借などを展開しています。

先ほどご紹介したJESCOホールディングスは、ベトナム企業とのM&Aをはじめ日本国内およびASEAN諸国にて、再生可能エネルギーの設備建設や電気通信設備の施工などを含むエンジニアリングや調達、建設(EPC)事業を展開中です。

JESCOホールディングスは阿久澤電機の完全子会社化を通じて、群馬県全域および近隣県での営業展開を強化するとともに、資格保有者との人材交流など、さまざまなシナジーを期待し子会社化を実現しました。

参照元:JESCOホールディングス株式会社「阿久澤電機株式会社の株式の取得(完全子会社化)に関するお知らせ

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電気工事会社のM&Aのメリット・デメリット

具体的なM&A事例に続き、電気工事会社におけるM&Aのメリット・デメリットについて解説します。

売却側のメリット・デメリット

まずは、M&Aにおける売却側の代表的なメリット・デメリットを見ていきましょう。

売却側の5つのメリット

売却側のメリットには、主に以下の5点が挙げられます。

  • 工事の安定受注
  • 事業拡大
  • 従業員の雇用維持
  • 後継者問題の解決
  • 売却益の獲得

売却により大手企業の傘下に入れば、電気工事案件の受注機会が増大します。その結果、安定した収益を得られます。

また、大手の傘下に入ると安定した営業基盤の下、自社の事業強化を図ることが可能です。買い手のノウハウや設備を活かすことで事業拡大も図れます。買収先企業のネットワークや顧客基盤の活用により、新たな市場や地域に進出するチャンスも広がるでしょう。

M&Aにより得た売却益は、経営に課題のある中小規模の電気工事会社にとって大きなメリットでしょう。売却益を元手に、新規事業に参入することも可能です。

従業員の雇用維持という点でもM&Aは有効手段です。買収先企業で従業員の雇用を維持できれば従業員の失職を防げます。新たな人材を迎えることで、後継者問題の解決にもつながるでしょう。

売却側の3つのデメリット

一方、売却側の主なデメリットは、以下3点が考えられます。

  • 希望どおりの条件で売却できるとは限らない
  • 経営統合の失敗リスク
  • 人材流出のリスク

買収に手をあげる企業が見つかったとしても、必ずしも希望の条件でM&Aがまとまるわけではありません。電気工事会社の売却価格を左右する要因はさまざまで、主に以下の要因から変動します。

  • 資格保有者の数
  • 事業の種類
  • 設備
  • 経営方針
  • ブランド力

まず、経営統合に伴うコストを考慮してM&Aを計画する必要があります。もし経営統合がうまくいかなければ、費やした時間が無駄になり、自社のパフォーマンスや競争力が低下するおそれがあります。

もし、希望する条件で譲渡できたとしても、異なる企業文化や経営方針をもつ両社の間で摩擦が生じ、想定通りにM&Aの効果を得られない場合も考えられます。

賃金や待遇、社風などの変化から従業員が退職し、競合他社に転職する場合もあります。特に有資格者や技術ある経験者の流出は、今後の事業継続や成長に大きな影響をおよぼすでしょう。

また、営業面を経営者に依存する企業は、経営者の引退と同時に売上の見通しが立たなくなると判断され、条件交渉が難航する場合があります。

買収側のメリット・デメリット

続いて、M&Aにおける買収側の代表的なメリット・デメリットを解説します。

買収側の4つのメリット

M&Aにおける買収側の主なメリットは、以下の4点が考えられます。

  • 人材確保
  • 工事の内製化
  • 事業統合化
  • シェア拡大

記事の前半でも紹介したとおり、電気工事業界は人材不足が深刻です。特にこれからの電気工事では専門的な技術や経験が求められるため、新たな人材の確保が急務と言えます。

例えば、ICTを全面的に導入する場合には、次のような技術や経験を持った人材が必要です。

  • ドローンなどの測量技術
  • 3次元CADなどの設計技術
  • ICT建機などに対応できる技術者
  • 技能労働者やICTの管理者
  • 工事全体を管理して生産性向上を導き出す技術者

自社でスタッフを育成するには、膨大な時間と手間がかかります。M&Aにより、新たに有資格者や技術者を迎えることで、人材育成や採用にかかるコストと時間を削減できます。

実際に、例え大手企業でも採用活動で優秀な人材を確保できるわけではありません。M&Aは、場合により採用よりも効率的に人材を確保できる場合も考えられます。優秀な人材を確保できれば、サービスの質や競争力の向上が期待できるでしょう。

また、新規事業への参入を検討している場合、M&Aにより事業を譲り受けることで、低コストで新規事業を立ち上げることも可能です。

例えば、電気機器のメーカーを買収することで、商品の据付やメンテナンスに関わる工事を内製化できます。空調設備・給排水設備などの設備工事会社・総合設備工事会社を買収すれば、事業統合による業務効率化が期待できるでしょう。

競争の激しい電気工事業界において、M&Aは他社の技術や設備、顧客基盤、事業ノウハウ、人材を確保して、スムーズに自社事業の拡大を目指せます。

買収側の2つのデメリット

一方で、M&Aでは売り手同様に買収側企業にもデメリットもあります。

  • 想定した効果が得られない
  • 売却側のリスクを引き継ぐおそれがある

多くの場合、相乗効果を狙ってM&Aを実施するものの、想定どおりの効果が得られない場合もあります。

M&A実行前に予期できない事象として、下記のリスクを認識しておくことが大切です。

  • 外部環境の変化(法規制の変化、技術進展、顧客ニーズの変化)
  • 社内の軋轢による業務効率低下
  • 従業員の離脱
  • 簿外債務の発覚

また、電気工事ではBtoB・BtoCの両市場で発電や送配電、内線工事など多岐にわたる分野に携わります。

その点、下記のような業務でのトラブルが発生する場合があります。

  • 工事中の労働災害による損害賠償請求
  • 工事後の故障や事故による損害賠償請求
  • 漏電によるトラブル
  • 工事不良や遅延による契約解除や損害賠償請求

高所での危険な作業を伴う電気工事では、施工中に従業員がケガを負う場合があります。後遺症が残るなど重い負傷の場合には、労働災害保険(労災)による給付では足りず、治療費の不足分を会社に請求される場合があります。

他方、工事に不備があった場合は「契約不適合責任」を問われることがあります。以前「瑕疵担保責任」と呼ばれ、2020年の民法改正で名称が変更された「契約不適合責任」は、改正時に売主の責任範囲が拡大し、トラブルが発生した場合には電気工事会社が不利になる傾向があります。

そもそも、電気工事は人々の暮らしに欠かせないインフラである電気設備の施工を担います。その点、工事後に故障や事故が発生した場合、大きな被害や影響が生じるでしょう。

損害を被った顧客から損害賠償を求められることを想定する必要があります。買収先企業がこうした損害賠償責任や訴訟リスクを抱えていた場合には、引き継ぐ必要があります。

そのほか、未払残業代などの簿外債務など想定外の負債が存在するリスクも踏まえて、慎重にデューデリジェンスを進めながらM&Aを検討しましょう。

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電気工事会社のM&Aで気をつけたい2つのポイント

最後に、電気工事会社のM&Aで成功するために意識すべき2つのポイントを解説します。

自社と同規模の案件を扱う仲介会社に相談する

電気工事業界のM&Aは企業規模によって目的が異なる場合があります。

例えば、中小規模の電気工事会社は後継者問題を抱えている場合が多く、廃業を避ける目的でM&Aを選択することが少なくありません。

また、中堅・大手の電気工事会社は競争力の強化を目指し、事業拡大を目的にしたM&Aが多くなっています。

目的が違えば戦略も異なるため、自社が目指すM&Aに近い成功実績を持つ仲介業者に依頼することが望ましいでしょう。

大手企業のグループ傘下に入ることを早めに検討する

大手企業のグループ傘下に入ることは、多くの企業にとって有効な戦略となり得ます。後継者不足や技術伝承の問題、慢性的な人材不足、そして多重下請け構造による利益の圧縮など、電気工事業界が直面する課題は少なくありません。

その点、大手企業とのM&Aにより多様な課題への対処だけでなく、新たな技術の獲得や新たな市場への参入がしやすく、安定した経営基盤の構築が可能です。

大手企業は一般にブランド力が高く、グループ傘下に入ることでその信頼感を享受できるようになります。さらに、技術支援や人材教育のサポートを受けることで、技術力の向上など人材育成の課題を解決できる可能性も高まるでしょう。

参照元:日本電設工業協会「電気工事業の現状と課題

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まとめ

電気工事業界に限らず、日本全体でのM&A件数は増加傾向にあります。その中で、電気工事の受注高は約3兆1115億円と今後の安定需要が見込まれており、事業拡大や後継者の獲得を目指す電気工事会社にとって、M&Aは有効な選択肢です。

一方で、M&Aは多くのメリットがある一方で、「希望どおりの条件で売却できるとは限らない」「経営統合が失敗に終わる」といったリスクもあります。

M&Aの失敗を避けるためにも、自社が目指すM&Aと同規模の案件を扱う仲介会社に相談したり、大手企業のグループ傘下に入ることを早めに検討したりと、スピーディに動いていく姿勢が欠かせません。

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