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デジタル生命? Googleの研究者らが「自己複製するプログラム」の自然発生を確認【研究紹介】

2024年7月17日

山下 裕毅

先端テクノロジーの研究を論文ベースで記事にするWebメディア「Seamless/シームレス」を運営。最新の研究情報をX(@shiropen2)にて更新中。

米Googleと米シカゴ大学に所属する研究者らが発表した論文「Computational Life: How Well-formed, Self-replicating Programs Emerge from Simple Interaction」は、コンピュータ上で生命に似た振る舞いをするプログラムが自然に誕生する現象を発見した研究報告である。この研究は、生命の起源や本質に関する新たな洞察をもたらす可能性がある。

研究背景

生命の起源と人工生命の研究分野は、生命の本質とその発生過程を探求している。両分野とも、「非生命」の状態から「生命」がどのように生まれるかを問うている。生命が出現するほとんどの基質に共通する特徴の一つは、自己複製が始まると同時に、その系の動態が大きく変化することである。

しかし、自然界で自己複製体がどのように発生したかについていくつかの仮説はあるものの、自己複製体が出現するための必要条件については、まだほとんど解明されていない。

研究内容

研究チームは、単純なプログラミング言語や命令セットを用いて、計算環境における自己複製能力を持つプログラム(自己複製プログラム)が自然発生する過程を詳細に観察し分析した。この研究の中心となったのは、「Brainfuck」(BF)という極めて単純な言語を拡張した「Brainfuck Family」(BFF)と呼ばれる言語環境である。BFFでは、64バイトの長さを持つ131,072個のランダムなプログラムによって、「原始スープ」(Primordial-soup)と呼ばれる環境を形成する。これらのプログラムは互いに相互作用し、自己修正を行う。

驚くべきことに、このシンプルな設定だけで、自己複製プログラムが自然に出現した。研究者らは、この現象が背景のランダムな突然変異の有無に関わらず発生することを確認した。つまり、プログラム同士の相互作用と自己修正のみで、自己複製能力が獲得される可能性が示されたのである。

▲BFF環境における進化過程

実験結果によると、数千回の相互作用の後に自己複製プログラムが出現し、その後急速に環境全体に広がっていく様子が確認された。さらに興味深いことに、一度自己複製プログラムが支配的になった後も、異なるバリエーションの自己複製プログラムが競合し、進化していく過程が観察された。

▲BFF環境における自己複製プログラムの拡散過程

研究チームは、BFF以外の言語や環境でも同様の実験を行った。例えば、スタックベースの言語であるForthや、実際のコンピュータアーキテクチャであるZ80、Intel 8080の命令セットでも、自己複製プログラムの自然発生が確認された。特に、Z80を用いた2次元グリッド上の実験では、複数の自己複製プログラムが共生したり、競合したりする複雑な生態系のような振る舞いが観察された。

▲Z80を用いた自己複製プログラムの進化シミュレーション

一方で、SUBLEQという非常に単純な言語では、自己複製プログラムの自然発生は観察されなかった。研究者らは、この違いが最小の自己複製プログラムの長さに関係している可能性を指摘している。

研究者らは、これらの発見が生命の起源や人工生命の分野に新たな視点をもたらすと考えている。特に、自己複製プログラムの出現が「非生命」から「生命」への移行を示す重要な指標となり得ることを指摘している。

Source and Image Credits: Alakuijala, Jyrki, et al. “Computational Life: How Well-formed, Self-replicating Programs Emerge from Simple Interaction.” arXiv preprint arXiv:2406.19108 (2024).

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