2024年10月23日
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英オックスフォード大学などに所属する研究者らが発表した論文「Statistical Patterns in the Equations of Physics and the Emergence of a Meta-Law of Nature」は、物理学の方程式に使われている演算子の出現パターンを詳しく調査した研究報告である。
この研究は、物理学の方程式に現れる演算子の統計的パターンを分析し、自然言語で見られる「ジップの法則」のような規則性が物理法則にも存在するかを調査したものである。
ジップの法則とは、言語において最も使用頻度の高い単語は2番目に使用頻度の高い単語の2倍、3番目の3倍の頻度で出現するという法則である。例えば英語では、“the”という単語は長い文章の中で約7%を占め、次に頻出する“of”は、約3.5%を占める、との具合だ。
研究チームは、物理法則を構築する演算子にも同様の規則性が存在するのかを調べた。分析対象として、「ファインマン物理学」から100個の方程式、Wikipediaの科学方程式リストから41個の方程式、そして初期宇宙のインフレーション理論について記述する71個の方程式という、3つの方程式群をコーパスとして分析した。
これらの方程式内で使用される演算子を分析し、その出現頻度をランク付けして調査を行った。
分析の結果、物理方程式における演算子の分布は、ジップの法則には従ってはいなかった。しかし、3つの方程式群すべてで指数関数的な減衰パターンを示すことが明らかになった。
ファインマン物理学講義では、最も頻繁に使用されるのは変数(x)で全体の約30%を占め、次いで乗算演算子(約22%)、除算演算子(約12%)という順であった。同様のパターンはWikipediaのコーパスでも確認され、変数(1位、約31%)、乗算演算子(2位、約17%)、除算演算子(4位、約12%)という分布を示した。さらに、インフレーション理論のコーパスにおいても、変数(1位、約26%)、乗算演算子(2位、約16%)、除算演算子(4位、約12%)という類似の階層構造が示された。
これら3つの方程式群において、演算子の出現頻度はおおよそ指数関数的な減少を示すことが統計的分析から明らかになった。つまり、順位が下がるにつれて、使用頻度が規則的に減少していく傾向が存在した。
ただし、インフレーション理論だけは、他の2つの方程式群と比べてやや異なるパターンが見られた。この違いについて研究者たちは、ファインマンやWikipediaの方程式群が実験で確かめられた物理現象を表しているのに対し、インフレーション理論の方程式群は仮説的な内容を含んでいることが理由かもしれないと考えている。
この発見の統計的有意性を確認するため、研究チームは21の比較用コーパスをランダムに生成した。これらのランダムコーパスは、元のデータと同じサイズと複雑さの分布を持つように設計された。比較の結果、ランダムに生成された方程式群では演算子の出現頻度がほぼ一様な分布を示し、実際の物理方程式で観察された指数関数的な減衰パターンとは大きく異なることが判明した。
今回の結果においては、プランクの黒体放射などの重要な物理方程式も同様の規則性を示している。また、このパターンはまだ完全に解明はされていない、宇宙に関する方程式にも当てはまっており、何かを解き明かす新たな視点を提供するかもしれない。
Source and Image Credits: Constantin, Andrei, et al. “Statistical Patterns in the Equations of Physics and the Emergence of a Meta-Law of Nature.” arXiv preprint arXiv:2408.11065 (2024).
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