雨のスリランカ
コロンボのバンダラナイケ国際空港に降り立った瞬間、この地域の雨というのがバケツをひっくり返しただけでは足りないような大粒の激しい雨だということを思い出した。
英語では土砂降りを《It rains cats and dogs》と表すそうだが、犬猫がさわがしくしている様子がまさにしっくりくる状況。
スリランカは今雨季真っ最中である。
大雨の中タクシーで宿まで行き、翌日朝には晴れているものの夕方にはまたキャッツ•アンド•ドッグス。
翌日も同じ。
その翌日も同じ。
文字通り雲行きをみて夕方までに宿に戻ることが至上命題となった。
犬猫といえばトルコでは圧倒的に猫が多かったが、スリランカでは犬がそのへんにごろごろいる。
たいてい首輪をつけていないため飼い犬か野犬か判然とせず、皮膚病だったり脚を引きずっていたりすることも多い。
犬が近づいてくるたびに一瞬びくっとさせられるが、高い金を出して狂犬病のワクチンを打ってきたことを思い出しこう唱える。
大丈夫だ、噛まれてもすぐには死なない。
実際今のところ追いかけられることもないし、宿にも犬がいるのでこちらもだんだん慣れてきた。
あまり近づきたくはないけれども、大丈夫だすぐには死なない。
カレーを食べるための旅
もともとスリランカはわたしにとってはさして思い入れのない国であった。
というのもスリランカは世界一周旅行者にとって人気だと評判であり、ちょっと小慣れた旅人が
「普通の人は行かないとは思うけど、インドよりほっとできるし居心地がいいよ!」
などとインドも行ってることを暗にアピールしつつ勧めそうな場所だなあというイメージがわたしにはあり、ジョージアなどもそうだが、変に旅慣れた日本人がいそうで避けたくなるのである。
わたしは変に旅慣れた日本人が苦手だ。
人はそれを近親憎悪というのであろう。
それはともかく夫の方はスリランカに乗り気であった。
カレーのためである。
夫はカレーが好きで毎日食べてもよいくらいだと豪語しており、自分でもレシピ本を買って研究しスパイスカレーをよく作っていた。
夫のカレーの腕は約4年の結婚生活の間にどんどん上がり、それに比例して家にはスパイスが増えていった。
ターメリックやクミンやシナモンくらいは聞いたことあるが、フェネグリークとかタマリンドとか何なんだ。
わたしが用途を知らない未知のスパイスを夫は積極的に使っており、休日に作ってくれるカレーは心からおいしく、普段ゲームや漫画以外にあまり関心を示さない夫に尊敬の念を抱く数少ない機会であった。
そんなわけで冬の中央アジアからわたしが好きな東南アジアのどこかに飛ぼうと思っていたとき、ふとスリランカが頭に浮かんだ。
夫が喜ぶカレーがあり、セイロンティーは気になるし、調べてみると独自の文字も歴史も遺跡めぐりも面白そうである。
物価も安いであろう。
そしてラッキーなことに、今はちょうど日本人のビザ申請代が無料になっている。
そんなわけで急遽はさんだスリランカの旅。
第一部はお茶の産地の高原地帯、第二部は文化三角地帯と道筋を決めた。
カレーと遺跡めぐり、夫婦それぞれの欲望を満たす、ハゲとメガネのスリランカ紀行が始まる。
(スリランカ、シギリヤにて。
一番左の文字が豊満な女性の胸に見えると夫が喜んでいた)