[要旨]
経営コンサルタントの中村真一郎さんによれば、「自分は社長だから、営業などしなくていい」と考えている人がいるとしたら、すぐ改めるべきだということです。ただし、営業活動を難しく考えすぎず、例えば、経営者向けのゴルフコンペに参加して、一緒にコースを回っていると、他の参加者の経営する会社が直面している課題について話を聞くことができるので、それをきっかけに商談につながることがあるので、多くの人の話を聞けるように行動することが大切だということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの、中村真一郎さんのご著書、「悪いこと言わないから『起業』はやめておけ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中村さんによれば、日本の金融機関が中小企業に融資するときに、経営者の保証を求めますが、ほとんどの経営者は融資を焦げ付かせようと思ってビジネスをしているわけではないものの、日本の金融機関はどうにかして回収しようとし、経営者保証のひどい話と思えるものの、これが現状だということについて説明しました。
これに続いて、中村さんは、経営者が営業活動をすることは事業の発展のために欠かせないということについて述べておられます。「もし、『私は社長だから、営業などしなくていい』とか、『営業は営業担当に任せる』と考えている人がいるとしたら、その考え方は今すぐ改めるべきだ。あるいは、会社が暗礁に乗り上げるまで、その考え方を持ち続けてみるといい。厳しい言い方かもしれないが、営業ができないトップの下で事業が拡大する可能性は極めて低い。
もちろん、ある程度規模が大きい会社であれば別だが、こと中小企業のレベルであれば、社長自ら営業するのは当たり前である。このように言うと、『営業未経験だから、営業なんてできない』と思う人もいるだろう。技術職から起業された社長にありがちな考え方だが、少々難しく考えすぎているように思う。例えば、私の場合、一度ゴルフコンペに参加すると、だいたい、1~2件商談が決まる。これまでゴルフをきっかけに、総額で30億円近い商談を成立させてきたはずだ。
一緒にコースを回っている人の話を聞いていると、『実はこんなことで困っていて』とか、『こんなことがあって』という話になる。その時に『うちでは、こんなサービスがありますよ』と軽く言うだけ。そうすると、相手が興味を持って『今度提案してください!』となる。つまり、私にとってゴルフに行くことは、一種の営業活動なのだ。株式会社ユーグレナの出雲充社長も、営業力のある社長だと私は思っている。彼は緑色のネクタイを締めて、さまざまな会合などに顔を出して、自分の顔と名前を売り、『ユーグレナ』を知ってもらう努力をしてきた。
だからこそ、多くの人が『ユーグレナ=ミドリムシ』ということを知るきっかけになり、上場にもつながっていったのである。どんなにマーケティングを学ぼうと、営業を誰かに任せようと、社長が一人で会社にいて悶々とすることが売上につながるかと言えば、そんなことはない。やはり外に出て、できるだけ人に知ってもらうこと。これが事業を伸ばしていくためには必要不可欠だと、私は考えている。そう考えれば、人と会って話を聞くことも営業活動の一つになる。
営業に対する苦手意識を捨てて、人の話を聞くチャンスをいくつ作れるかが営業面で大事になってくる。行動なくしてチャンスなし。行動量とチャンスの量は比例する。私はそう思っている。もちろん、焦る必要はない。誰かに『売り込もう』としなくてもいい。ただ、行動しない限り、チャンスはやってこない。これから起業しようとしている人、あるいは会社の売上が上がらないという経営者の皆さんには『行動なくしてチャンスなし』という言葉を肝に銘じていただきたい」(116ページ)
営業活動というと、一般的には、社交的で話しが上手な人が成果を上げると考えられがちですが、中村さんが述べておられるように、「外に出て、できるだけ人に知ってもらうこと」も営業活動につながります。すなわち、派手な行動をしなくても、地味な行動をすることは欠かせないということです。しかし、これと同時に、中村さんは、経営者は日次資金繰表をもとに資金管理をすることが必須とも述べておられます。では、経営者は、営業(販売管理)と資金管理(財務管理)だけを行えばよいのでしょうか?もちろん、違います。
従業員の管理(労務管理)、製品の製造の管理(生産管理)、仕入れや在庫の管理(購買管理)など、事業活動の全般にわたって管理をしなければなりません。ただ、中小企業では、これらをすべて行うことができる経営者の方が少ないことも現実です。では、中小企業経営者の方はどうすればよいのでしょうか?実は、これに対する明確な回答はないと、私は考えています。そして、ちょっと大げさですが、これこそが、経営学の永遠の課題でもあると考えています。
少なくとも、中村さんがご指摘しておられるように、技術に詳しい経営者が製造だけに注力していたり、営業が得意な経営者が営業だけに注力していることは避けなければなりません。経営者の方は、事業活動にご自身のキャリアを活かすことは大切ですが、それと同時に、事業活動全体を俯瞰して、「マネジメント」する役割も担わなければならないことは間違いありません。このことは、ほとんどの方が当然と考えると思うのですが、「社長」の肩書を持ちつつも、自分の得意分野だけに注力してしまっている経営者の方は、現実には少なくないと、私は感じています。
2024/12/19 No.2927