青崎有吾さんの『早朝始発の殺風景』を読みました。
先日、MRC(メフィスト・リーダーズ・クラブ)の会員限定企画で有栖川有栖さんと対談されているなかで、この本と『地雷グリコ』がお話に出てきました。
お恥ずかしながらどちらも未読だったので、まずは『早朝始発の殺風景』を拝読。
またも……、ドラマ化されていました。
本当にこのパターンが多くて、自分のアンテナの感度の悪さを痛感します。(つまり、話題になって世間でも盛り上がって、やっと落ち着いてきたころにそれを知る、という。時流を読めない、王道を外す、旬を外す…)
とある街に息づく高校生たちの日常でありながら、もう少し突っ込んだミステリで、ボンヤリ生きてたらあかんでと言われているよう(笑)
面白かったです。
ちなみに文庫化もされています。
青春は、気まずさでできた密室だ。今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。始発の電車で遭遇したのは普段あまり話さない女子。二人は互いに早起きの理由を探り始め……(表題作)。部活の引退日、男同士で観覧車に乗り込んだ先輩と後輩。後輩には何か目的があるようだが(「夢の国には観覧車がない」)。不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を通じて少しずつ変わってゆく。ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇。登場人物総出演、読んでのお楽しみのエピローグ付き。
しまった…また学園ものだったか…と、あまり期待せずに読み始めました(失礼)。
千葉県のとある街が舞台で、読んでいるうちに、その街のディテールまで鮮明になっていきます。
そんな高校生たちが経験する日常ミステリ短篇が5編。
「早朝始発の殺風景」
早朝始発電車で乗り合わせた加藤木と殺風景(苗字)。お互いにあまりよく知らない間柄ではあるが、何故、この時間にこの電車のこの車両に乗っているのか?
浮かんだ疑問をきっかけに、思惑を探り合う。
「メロンソーダ・ファクトリー」
女子高校生3人は学園祭で着るクラスTシャツの発注係。いつものファミレスでTシャツデザインを選考中。なぜか真田の案を拒否する詩子。それには理由があった。
「夢の国には観覧車がない」
部活の引退記念で遊園地ソレイユランドにやってきた寺脇は、後輩の伊鳥と男二人で観覧車に乗ることに。何故こんな展開になってしまったのか。
「捨て猫と兄妹喧嘩」
捨て猫を拾ってしまったあたしは、親の離婚で別所帯になってしまった兄に連絡を取る。猫好きなはずの兄は飼えないという。それにはわけがあって…。
「三月四日、午後二時半の密室」
卒業式を欠席した煤木戸に証書とアルバムを届けに来たクラス委員の草間は、気まずい密室の空気を取り繕うように会話を重ねるうちに、ある真相に気づく。
「エピローグ」
各話のつながりが見えてくる締めのお話。そして冒頭の殺風景と加藤木のその後も語られます。
最初は、自分には合わないタイプのミステリかもと思いつつ読んでいったのですが、登場人物たちも、隣にいる子みたいでだんだんその街が好きになりました。
きっと、ぼーっと生きてたら華麗にスルーしてしまうかもしれないポイントに気づく彼らはスゴイ(笑)。
そしてそんな日常の謎を拾い上げて青春物語にしてしまう青崎先生もスゴイ。
殺風景ちゃんと加藤木くんの目的は達せられたようですが、その捜査過程も知りたかったです。
舞台がキッチリ出来上がっているのって(書いているうちに「まちつく」みたいに出来上がっていったのかもしれませんが)、面白いなと思いました。
わたしとしては、千葉にある夢の国が会話に出てくる「夢の国には観覧車がない」と表題作「早朝始発の殺風景」が特に面白かったです。
とくに「夢の国…」は、エピローグで二人がちゃんと夢の国にも行ったんだと分かり、なんだか微笑ましくて。
とにかく軽快なタッチで、重苦しくなく楽しめて、著者の他の作品も読んでみたくなりました。
ちなみにドラマのほうは円盤化もされているようです。