大企業を優遇してきた税制を転換し、負担を求める動きが各国に広がっている。新型コロナウイルス禍で所得格差や財政難が深刻化したためだ。適切な判断である。
英国は半世紀ぶりとなる法人税増税を決めた。米国のバイデン政権も、トランプ前政権が大幅に下げた法人税率を上げる意向を示している。欧州連合(EU)も大企業の負担を増す案を検討中だ。
各国はこれまで自国産業を強化しようと法人税の減税競争を繰り広げてきた。安倍前政権もアベノミクスの目玉として実行した。先進国でかつて40~50%に上った税率は20%前後と大幅に低下した。
だが、減税の効果には疑問が多い。推進派は経済を成長させて税収を増やすと主張したが、日本は減税後も成長率は低く、賃上げにも結びついていない。
むしろ企業利益を優先してきた結果、社会的不公平が拡大した。
先進国は高齢化で社会保障費が増加し、財源確保が課題となっている。大企業が払う税が減った分、消費税などが増税されて、国民の負担が重くなっている。
さらにコロナ禍で減税競争を見直す必要性は高まっている。
営業が規制された飲食店や小売店では職を失った人が多い。各国は雇用対策などで巨額の財政出動を余儀なくされている。
その一方でネット通販などが活発化し、IT関連の大企業は巨額の利益を得ている。こうした企業が払う税金が増えれば、生活支援の財源に充てられる。所得再分配の観点から理にかなう。
法人税増税で政府の借金膨張に歯止めが掛かれば、財政への不安が和らぎ、経済の安定に資する。
増税を実施する際は、各国が足並みをそろえやすい制度が求められる。一国では自国企業の反発もあって増税しにくい。世界共通の最低税率を設けるべきだ。税率の低い国を大企業が課税逃れに使う「抜け道」も防げる。
日米欧などが議論してきたが、結論は先送りされてきた。協調重視のバイデン政権は前向きな姿勢を示しており合意を急ぐべきだ。
アベノミクスを継承した菅政権は増税を検討していない。だが格差や借金財政はコロナ前より一段と深刻になっている。大企業に偏ってきた政策を再考する時だ。