「介護サービスは必ず崩壊する」 賃上げ格差が早める社会の危機
人口減少が進む中、人々の暮らしを支える介護や福祉といった職業で働き手不足が深刻だ。他の産業との給与格差があるためで、必要な人が介護サービスを受けられない「介護崩壊」の危機も叫ばれている。介護現場で何が起きているのか。そして危機は回避できるのか。ケアマネジャーとして介護現場の経験が豊富な淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)に聞いた。
大転換期を迎えるヒトとモノの「価格」の今をリポートする<¥サバイバル 令和の「値段」>。今回は、賃上げ格差が加速する地域の衰退に迫りました。
1回目 「もう少し給料上がらない?」妻の一言で決意 介護からの離職の現実
2回目 「若者半減」の街で進む介護崩壊 地域の衰退を加速させるのは
3回目 インフレが加速する都市と地方の「分断」 増田寛也氏
4回目 賃上げ格差で「介護サービスは必ず崩壊する」 淑徳大・結城康博氏
――結城さんは、介護崩壊の危機を訴えています。
◆このままでは、「団塊の世代」が全員85歳以上となる2035から、40年ごろにかけて、介護サービスが必ず崩壊します。85歳以上といえば44%が認知症を発症し、半分以上が要介護認定となる年齢です。今より2~3割多くの介護人材が必要となる予測を厚生労働省も示しています。
介護人材数の伸びはここ数年、外国人材を含めても頭打ちです。今でも介護の現場は人手不足ですが、近い将来、親が介護サービスを受けられるのは運の良い人か富裕層だけ、という時代になるでしょう。介護離職が多発し、経済活動や社会機能の維持にも影響します。
――介護業界の低賃金が問題とされています。
◆労働人口が減る中で、多くの業界は人材を確保するために賃上げを競っています。介護業界はもともと賃金が低く抑えられている上に、介護保険制度により賃上げが難しく、他の産業との給与格差が広がっています。
近年は国も介護報酬を改定して介護人材の賃上げを図り、22年度の平均年収は訪問介護員が339万円、ケアマネジャー(ケアマネ)は393万円になりました。しかし、全産業平均(458万円)との差は大きい。企業のベースアップや待遇改善は今後も続くため、格差は広がるでしょう。
――介護を志す学生も減っています。
◆00年ごろ、高齢化を見据えて大学や短大、高校で福祉系の学科が続々と誕生し、「手に職」をつけようと学生にも人気でした。ところが、10年代になると、介護現場の重労働と低賃金が周知され、定員割れやコースの廃止も相次ぎました。
高校…
この記事は有料記事です。
残り1327文字(全文2367文字)