信頼できるのはSNS(ネット交流サービス)か、それともマスメディアか。斎藤元彦知事が再選を果たした兵庫県知事選(11月17日投開票)をきっかけに、そんな議論が盛んになった。多くの有権者がSNSの情報を投票の参考にしたとされ、マスメディアは薄れる存在感をどう立て直すのかが問われている。ただ、大事なのはメディアの規模やツールの違いではない。発信の中身だろう。
そんな大切なことを離島の小さなメディアが教えてくれる。世界自然遺産の島・屋久島(鹿児島県屋久島町)の市民メディア「屋久島ポスト」だ。メンバーは6人の「島民記者」で、いずれもボランティアで活動する。驚くのは、調査報道によるスクープを連発。町役場や町議会、そして国も動かす記事を出し続けていることだ。
「最初は、自然豊かな島でのんびり過ごすはずだったんです」。苦笑いするのは2012年に東京から家族で移住した共同代表の武田剛さん(57)だ。元朝日新聞の写真記者。南極観測隊に同行したほか、イラクやアフガニスタンなどの紛争地で取材を重ねてきた。その後、本社で内勤業務が増えたことなどに飽き足らなくなり、退職と移住を決めた。
島に移った当初はフリーランスとして自然環境問題を中心にした取材していたが、やがてさまざまなうわさや情報が入ってくる。「町長が出張に行く際、航空券を毎回払い戻し、高齢者割引で買い直している。差額を着服しているのではないか」。放ってはおけず、目撃者を探し、証拠となる文書も入手して少しずつ裏付けを取った。
やがて鹿児島の地方紙・南日本新聞など地元メディアも追及に加わり、当初は疑惑を否定していた町長が謝罪に追い込まれた。
武田さんらは町の公文書を公開請求し、さらに精査すると、元副町長らによる旅費の不正請求疑惑が次々に浮かび上がった。ただ、海を隔てた鹿児島市の新聞社やテレビの記者は次第に関心を失い、島に来なくなった。
「これからが大事な局面なのに」。武田さんがそんなもどかしさを感じていたところ、住民団体から相談を受けた。「鹿児島のメディアが動かないなら、自分たちでメディアを作りましょう」。…
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