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特集 ノーベル賞

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ノーベル賞

「世界で最も権威のある賞」といわれるノーベル賞。今年はどんな研究・活動に贈られるでしょうか。

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ノーベル賞はどうやって選ばれるの?
 「世界で最も権威(けんい)ある賞」の一つとされるノーベル賞は1901年に最初の授賞式が開かれました。日本の受賞は自然科学3賞で多く、特に2000年以降は相次いでおり注目されています。受賞者はどのように選ばれるのでしょうか。担当記者に聞きました。
メダルと証書を受け取った山中伸弥氏

 Q 「ノーベル」というのは人の名前なんでしょ?

 A はい。ダイナマイトの開発で富を築いたスウェーデンの化学者、アルフレッド・ノーベル(1833~96年)の遺言に基づいて創設されました。遺言では「ノーベル財団」に託された3100万スウェーデンクローナ、現在の日本円だと約230億円相当の遺産の運用益を「人類のために、最大の利益をもたらした人たちに賞の形で毎年分配する」とされています。受賞者の国籍は問いません。

 Q 賞には、いろんな分野があるんだね。

 A ノーベルは遺言で「物理学」「化学」「医学または生理学」「文学」「平和」の五つの分野を記しました。

 受賞者にふさわしいのは、「物理学」では最も重要な発見または発明を行った人、「化学」は最も重要な化学物質の発見または改良を行った人、「医学または生理学」は最も重要な発見をした人としています。「文学」は理想主義的な傾向があり最も優れた作品を生み出した人、「平和」では、国家間の関係や軍備の廃止または削減、平和会議の設立などに最善を尽くした人です。

主なノーベル賞受賞者

 Q ノーベル賞って五つだっけ?

 A いいえ、経済学賞もあります。ノーベルの死後70年以上たってから加えられました。スウェーデン国立銀行が創立300周年を記念して、ノーベルをしのぶ形で設けたのです。1969年に最初の授賞式がありました。

 賞金は各賞1100万スウェーデンクローナ(約1億457万円)で、複数人で受賞した場合は貢献度に応じて分け合います。ただ、経済学賞だけ賞金の原資が銀行からの寄付になります。

 Q どうやって受賞者を選ぶの?

 A 賞によって選考委員会があり、受賞者を決めます。物理学賞と化学賞、経済学賞の選考委は、スウェーデン王立科学アカデミーが設けます。医学生理学賞はスウェーデン最大の医科大学で医学研究機関でもあるカロリンスカ研究所、文学賞はスウェーデン・アカデミー、平和賞は隣国ノルウェーの国会が任命したノーベル賞委員会です。

 どの賞も、選考は候補者の推薦から始まります。毎年9月、過去の受賞者や世界中の研究者ら数千人が、ノーベル賞にふさわしい人を推薦するよう依頼されます。それぞれの選考委は1年かけて推薦された候補者を絞り込み、翌年10月の発表当日に最終選考をします。どのような過程で選ばれたのかは全て秘密ですが、授賞の50年後に公表されることになっています。

 Q 日本もたくさん受賞しているんだよね。

 A これまでの日本の受賞者は、米国籍の3人を含めて28人です。このうち、自然科学系の3賞(物理学、化学、医学生理学)で25人に上ります。

 例えば、星が寿命を終える時に起きる超新星爆発により、物質を構成する最も基本的な単位である「素粒子」のニュートリノが生じます。2002年に物理学賞を受賞した小柴昌俊さんは、ニュートリノを観測する天文学の道を開いたことが評価されました。19年の化学賞に輝いた吉野彰・旭化成名誉フェローは、スマートフォンや電気自動車などに幅広く活用されているリチウムイオン電池の開発への貢献が認められました。

ノーベル賞授賞式の晩さん会の会場

日程・過去の受賞者

2024年の各賞の発表予定

日時(日本時間) 分野 2023年の受賞者
10月7日(月)午後6時半以降 生理学・医学賞 カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマン氏
10月8日(火)午後6時45分以降 物理学賞 「アト秒レーザー」技術開発の3氏
10月9日(水)午後6時45分以降 化学賞 「量子ドット」発見の3氏
10月10日(木)午後8時以降 文学賞 ノルウェーの劇作家ヨン・フォッセ氏
10月11日(金)午後6時 平和賞 イランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディ氏
10月14日(月)午後6時45分以降 経済学賞 クラウディア・ゴールディン氏

日本の受賞者(2021年まで、敬称略)

ノーベル物理学賞の受賞が決まり、記者会見で笑顔を見せる真鍋淑郎氏

■真鍋淑郎(物理学賞、2021年)

1958年に米国へ渡ると、コンピューターを使って、地球の気候を物理法則に基づいて再現する「気候モデル」研究の分野を開拓した。大気や海洋などのエネルギーのやり取りを計算して温度分布を再現する気候モデルによって、複雑な気候の仕組みの理解が進み、温暖化予測の基礎となった。

記者会見をする吉野彰・名城大大学院教授

■吉野彰(化学賞、2019年)

旭化成の研究員だった1985年、「負極」(マイナス極)にリチウムイオンをためることができる炭素素材を用い、商業生産に道を開くことになるリチウムイオン電池を初めて作った。充電すれば繰り返し使うことができ、スマートフォンや電気自動車などで活用されている。

本庶佑氏

■本庶佑(医学生理学賞、2018年)

免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質「PD-1」を発見し、このブレーキを取り除くことでがん細胞を攻撃する新しいタイプの「がん免疫療法」を実現。がん免疫治療薬「オプジーボ」の開発に携わった。

 

大隅良典氏

■大隅良典(医学生理学賞、2016年)

生物が細胞内でたんぱく質を分解して再利用する「オートファジー(自食作用)」を分子レベルで解明。生命活動を支える最も基本的な仕組みを突き止めた。がんやパーキンソン病にも関係していることが判明し、病気の原因解明や治療法開発などにつながると注目されている。

梶田隆章氏

■梶田隆章(物理学賞、2015年)

小柴昌俊の研究を引き継ぎ、1998年にニュートリノに質量があることを発表。宇宙の成り立ちの解明につながる成果として評価された。観測施設は、小柴が使った「カミオカンデ」の性能を高めた「スーパーカミオカンデ」(岐阜県飛騨市)を利用した。

大村智

■大村智(医学生理学賞、2015年)

静岡県伊東市のゴルフ場の土にいた新種の放線菌が出す物質から、抗生物質「エバーメクチン」を発見し、1979年に報告。これを利用した薬剤は、失明や視覚障害を起こす「オンコセルカ症(河川盲目症)」の特効薬として普及した。

左から中村修二氏、天野浩氏、赤崎勇氏

■中村修二、天野浩、赤崎勇(物理学賞、2014年、左から)

赤崎と天野は、窒化ガリウムを使った半導体結晶の加工技術を確立し、長年不可能だった青色発光ダイオード(LED)の開発に成功。中村(米国籍)は実用レベルの明るさと効率化を実現し、世界で初めて製品化した。青色LEDは屋外大型ディスプレーや携帯電話のバックライト、屋内照明や信号機などに広く応用され、省エネに大きく貢献。青色LEDを発展させた青色レーザーは大容量光ディスクや高速通信機器など今日の情報技術(IT)時代に不可欠なさまざまな技術を可能にした。

山中伸弥氏

■山中伸弥(医学生理学賞、2012年)

皮膚細胞に4種類の遺伝子を入れることで、あらゆる組織や臓器に分化する能力と高い増殖能力を持つ「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作り出した。再生医療などでの応用研究が進んでいる。最初の成果から6年余りという異例のスピード受賞だった。

左から鈴木章氏、根岸英一氏

■鈴木章、根岸英一(化学賞、2010年、左から)

鈴木氏と根岸氏は、従来は難しかった2種類の有機化合物を、金属のパラジウムを触媒に使い、効率よく結合させる化学反応「クロスカップリング」と呼ばれる手法を、それぞれ独自に開発した。医薬品開発やエレクトロニクス分野で、さまざまな新しい物質や素材を作ることが可能になり、抗がん剤や次世代照明として期待される有機EL(エレクトロルミネッセンス)などの開発に役立っている。これらの反応は「鈴木カップリング」「根岸カップリング」と、それぞれの名前を冠して呼ばれている。

下村脩氏

■下村脩(化学賞、2008年)

オワンクラゲから緑色に輝く「緑色蛍光たんぱく質(GFP)」を取り出し、その発光の仕組みを解明した。これを目印に創薬や生命科学研究に不可欠な、生きた細胞内で特定の物質を観察する技術に結びついた。

 

左から南部陽一郎氏、小林誠氏、益川敏英氏

■南部陽一郎、小林誠、益川敏英(物理学賞、2008年、左から)

南部(米国籍)は、極低温下で特定の物質の電気抵抗がゼロになる超電導現象にヒントを得て、「自発的対称性の破れ」という概念を構築。これを物質の最小単位である素粒子の世界に適用し、宇宙の始まりや物質が質量を獲得した理由などを説明した。小林、益川は、3種類しか存在が確認されていなかった素粒子クォークが「6種類以上必要」とする「6元クォーク模型」を考案した。2人の名字をアルファベット順に並べて「小林・益川理論」と呼んだ。予言通り、1977年までに4、5番目のクォークの存在が実証され、95年には6番目のトップクォークの存在が確定した。

田中耕一氏

■田中耕一(化学賞、2002年)

たんぱく質など巨大分子の質量を精密に測定する手法を開発した。新薬開発など生命科学の進展に大きく貢献し、食品検査やがん診断などへの応用も進んでいる。学士(大学学部卒業)での受賞は極めて珍しい。

 

小柴昌俊氏

■小柴昌俊(物理学賞、2002年)

星が滅ぶ際の超新星爆発で生まれた謎の素粒子「ニュートリノ」12個を、独自に考案し岐阜県内に設置した観測施設「カミオカンデ」で13秒間にわたってとらえた。超新星爆発の仕組み解明に貢献するなど、ニュートリノ天文学の扉を開いた。

野依良治氏

■野依良治(化学賞、2001年)

物質を化学的に合成する際、自然には存在しない、似た型の物質が同時にできてしまうのが難点だった。触媒を工夫することで、欲しい型だけを選んで作り出せる「不斉合成」を開発。香料やアミノ酸の大量生産を実現し、医薬・食品開発などに貢献した。

白川英樹氏

■白川英樹(化学賞、2000年)

絶縁体と考えられていたプラスチックに、電気を流す導電性をもたせることに成功。発光ダイオードや太陽光発電素子、携帯電話のディスプレーなど、現代生活を支える電子機器の開発に貢献した。触媒の量を間違うという実験の失敗が、大発見につながった。

大江健三郎氏

■大江健三郎(文学賞、1994年)

「現代の人間の置かれた苦悩を、揺れ動く一枚の絵として描き出した」と評価された。「個人的な体験」「万延元年のフットボール」「ヒロシマ・ノート」が代表作。反核運動にも積極的に取り組んだ。

 

利根川進氏

■利根川進(医学生理学賞、1987年)

病原体から体を守る免疫反応の主役である免疫グロブリン(抗体たんぱく質)をつくる遺伝子の働きの仕組みを世界で初めて解明した。ノーベル賞受賞以前から米マサチューセッツ工科大教授を務め、日本からの頭脳流出と話題を呼んだ。

福井謙一氏

■福井謙一(化学賞、1981年)

分子の中の「フロンティア電子」が化学反応に最も寄与するとの理論を打ち出した。量子力学の考えを化学反応に導入し、化学反応のほとんどをカバーできる画期的な理論と位置づけられた。初の化学賞受賞は、学界に大きな励みを与えた。

佐藤栄作氏

■佐藤栄作(平和賞、1974年)

首相在任中、核拡散防止条約に調印するなど、アジア地域の安定、さらには世界全体の平和に貢献。戦争放棄の日本国憲法を基に平和維持のための努力を重ね、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を表明した。

江崎玲於奈氏

■江崎玲於奈(物理学賞、1973年)

ソニーの研究員だった時、トンネル効果という極微の世界で見られる現象が半導体で起きることを発見した。この半導体はエサキダイオードと呼ばれる。増幅や発振などの回路で優れた性能を持ち、エレクトロニクス界の革命と言われた。

川端康成氏

■川端康成(文学賞、1968年)

「雪国」「千羽鶴」「眠れる美女」「古都」など、外国に翻訳・紹介された作品も数多く、その繊細な表現と叙情性豊かな作風は、東洋のエキゾチシズムと相まって高く評価された。国際ペンクラブ副会長としても活躍した。他の小説に「伊豆の踊子」「山の音」など。

朝永振一郎氏

■朝永振一郎(物理学賞、1965年)

1943年の論文「素粒子の運動方程式――超多時間理論」で、量子論と相対性理論の両立を実現させ、続く「くりこみ理論」で素粒子論の有効性を立証、現代物理学の基礎を開いた。湯川らとともに核使用に反対する世界平和への提言も活発に行った。

湯川秀樹氏

■湯川秀樹(物理学賞、1949年)

原子核の陽子や中性子などを一つに固めている「π(パイ)中間子」の存在を理論的に予測。敗戦で日本中がうちひしがれていた時期で、日本初のノーベル賞受賞は国民に大きな希望を与えた。在籍した京都大理学部は、その後、世界の理論物理学をリードする人材を輩出した。

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