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感染症は歴史を動かす フォロー

シャーロック・ホームズを滝つぼに落とした結核

濱田篤郎・東京医科大学客員教授
アーサー・コナン・ドイル=ゲッティ
アーサー・コナン・ドイル=ゲッティ

 産業革命とは18世紀中ごろから19世紀にかけて欧米諸国を中心に起きた工業化です。この過程で結核の大流行が発生しました。この流行はその後の社会に大きな変化を及ぼすとともに、文化の面でもさまざまな影響を起こしました。今回は結核の大流行が当時の社会文化に与えた影響、さらには新型コロナウイルス後に予想される「新たな産業革命」の行方について解説します。

ホームズの不自然な死

 コナン・ドイルの代表作「シャーロック・ホームズ」は、19世紀後半のイギリスを舞台にした探偵小説です。ドイルは1881年にイギリスのエディンバラ大学医学部を卒業後、医師として働くかたわらで小説を書き、1887年にホームズ・シリーズの第1作「緋色の研究」を発表します。このシリーズは1891年から雑誌にも連載され大好評を博しますが、1893年12月に連載が突然打ち切りになります。この最終回の題名が「最後の事件」で、主人公のホームズはスイスの山中の滝つぼに落ちて死んでしまったのです。当時のイギリス国民はホームズの死を悼み、ロンドンのビジネスマンは喪章を着けて出勤したそうです。

 その後、1903年にホームズは「空き家の冒険」で復活しますが、1893年時点で主人公が死ぬという展開は、この連載の流れからして不自然な点が多く、作者ドイルの「連載を中止したい」という意志が強く感じられました。その理由として、ドイルが探偵小説に飽き歴史小説を書きたかったからという説がよく知られますが、…

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東京医科大学客員教授

はまだ・あつお 1981年、東京慈恵会医科大学卒業。84~86年に米国Case Western Reserve大学に留学し、熱帯感染症学と渡航医学を修得する。帰国後、東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て、2005年9月~10年3月は労働者健康福祉機構・海外勤務健康管理センター所長代理を務めた。10年7月から東京医科大学教授、東京医科大学病院渡航者医療センター部長に就任。海外勤務者や海外旅行者の診療にあたりながら、国や東京都などの感染症対策事業に携わる。11年8月~16年7月には日本渡航医学会理事長を務めた。著書に「旅と病の三千年史」(文春新書)、「世界一病気に狙われている日本人」(講談社+α新書)、「歴史を変えた旅と病」(講談社+α文庫)、「新疫病流行記」(バジリコ)、「海外健康生活Q&A」(経団連出版)など。19年3月まで「旅と病の歴史地図」を執筆した。