町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカで異例の大ヒットを記録している映画『クレイジー・リッチ!』を紹介していました。
(町山智浩)今日は、じゃあ音楽を聞いてください。どうぞ!
(町山智浩)これ、ジャズみたいなんですけども、中国の1937年の有名なヒット曲ですね。『いつの日君帰る』っていう歌なんですけども。これはですね、アメリカでいま2週連続でナンバーワンヒットをしている『クレイジー・リッチ!』という映画の中でかかる曲なんですね。で、これがいま、アメリカで大変な話題になっているのは俳優、監督、原作、脚本、みんなアジア系の人ばっかりで固めたハリウッド映画なんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)それが2週連続でナンバーワンヒットということで、いままでのハリウッドの常識を変えたといわれております。で、『クレイジー・リッチ!』っていう日本語タイトルになっているんですけど、原題は『Crazy Rich Asians』という、はっきり言うと「頭がおかしくなるほど金持ちのアジア人たち」っていうタイトルですね。
(赤江珠緒)ああ、そういうことなんですね!
(山里亮太)この番組の前のジェーン・スーさんが「なんでこの原題から『Asians』がなくなっちゃったんだろう?」って言ってましたけども。
(町山智浩)ああ、まあ「エイジアンズ」っていう言葉が日本人にとっては難しいですよね。「エイジアン」っていう言い方がね。あと、ハリウッド映画のタイトルに聞こえないっていうのがあるんじゃないですか?
(赤江珠緒)ああー! なるほど。
(町山智浩)これ、完全にハリウッド映画なんですよ。で、出ている人たちはみんな世界中で活躍しているアジア人俳優ばっかりで、中国系の人ばかりじゃなくてマレーシア系の人とか韓国系の人、日系の人とかを全部集めてですね、現代のいまいちばん歌って踊れるような人たちを集めているわけですけども。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、この映画はまず主人公は30半ばすぎのニューヨーク大学の教授の女性なんですね。レイチェルという。この人はちょっと35をすぎているんですけども、すごく経済学を……ニューヨーク大学っていうのは一流の私立大学ですよね。そこで教えている人で、独身なんですけども。彼氏がいて。その彼氏が「友達が自分の故郷のシンガポールで結婚をするんで、その結婚式に行こう」って言うんですね。「ちょうどうちの家族にも会わせたいし」って言うんですけども。その彼がニックという名前なんですが、それまで全然自分の家族の話をしないんですよ。
(赤江珠緒)ふんふん。
(町山智浩)で、レイチェルが自分のお母さんに話をするわけですね。「彼のこと、好きなんだけど彼は全然家族のことを言わないんだけど……やっぱり、ものすごく貧乏なんじゃないかしら?」って言っていて(笑)。そのレイチェルっていう人も中国系のアメリカ人なんですけど、完全にアメリカで育っているのでアジアに対するイメージがすごくよくないわけですよ(笑)。
(赤江珠緒)ああ、ふんふん。
(町山智浩)古臭いアメリカ人のアジアに対する見方なんですよ。「アジアの人って貧乏なんじゃないかしら?」みたいなことを言っているんですよ。で、まあとにかく行こうっていうことになって空港に行くと、もう荷物をタクシーから降ろす時にパパパッと航空会社の人が荷物を取りに来るんですよ。「あとは全部やりますから!」って言うんですよね。で、「どうして?」って聞くと「ファーストクラスですから」って言われるんですよ。
(赤江珠緒)うん!
(町山智浩)で、そのファーストクラスっていうのがすごくて。これ、明らかにシンガポール航空のファーストクラスなんですけども。シンガポール航空っていう名前は出てこないんですが……ベッドがついているんですよ。で、映画の中ではチラッとしか出てこないんですが、シャワーもついているんですよね。ホテルみたいなんですよ。
(赤江珠緒)そこまで!
(町山智浩)そう。いまシンガポール航空にあるんですけど。それに乗って行くんですけど。で、「これはおかしいわ。これはもう大変な金額じゃないの? あなた、もしかして……」って聞くんですね。ずっと付き合っていたけど知らなかったけど。「ニック、あなたもしかして、ものすごいお金持ちなんじゃないの?」って聞くと、「いあ、まあ食うには困らない程度だよね」って言うんですね。いやらしい言い方だよね(笑)。
(赤江珠緒)いやらしい言い方ですな(笑)。
(町山智浩)「あなた、王子様ならちゃんと言ってよ!」って言うと、「えっ? 王子様なわけないじゃん」って言うんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)「王子様よりずっと金持ちだからね」って言うんですよ。
(赤江・山里)おおおーっ!
(町山智浩)それでこのニックという人、向こうに着くと……これね、ほとんどシンガポールの観光映画みたいな感じなんですよ。シンガポール、行かれたことはありますか?
(赤江・山里)ないです。
(町山智浩)ああ、そうなんですか。シンガポールってすごくちっちゃくて、都市しかないんですけど。はっきり言うと金持ちしか住んでいないところなんですよ。
(山里亮太)きれいなんですよね。
(町山智浩)そう。すごいきれいでゴミひとつないんですけど。ゴミを拾っているのは外国から来ている出稼ぎ労働者の人たちなんですけども。お金があれば誰でもシンガポール人になれるんですよ。だから日本からもいっぱい行っていますよね。お金を持った人たちがね。で、お金を国のファンドに預けると、あとはもう全部運用してくれて。で、住むところもシンガポールってすごく狭いので、高層コンドミニアムしかないんですけども。もう医療費や居住費であるとか、そういうのはすごく国が援助してくれるんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、お金の運用も全部してくれるんですよ。
(赤江珠緒)じゃあ、お金持ちが本当に集まる街だ。
(町山智浩)そう。お金持ちだけのためにある国なんですよ。で、そこに行くと最初は普通にフードコートで屋台料理を食べるんですけども……いきなり一泊目はラッフルズホテルなんですよ。ラッフルズホテルって伝統的なシンガポールの最高級ホテルですよ。
(赤江珠緒)一泊すごい値段のところじゃないですか?
(町山智浩)一泊100万円ですよ。
(山里亮太)えええーっ! すげえな(笑)。
(町山智浩)ところが、それはまだ序の口だったっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)えっ? ニック、何者?
(町山智浩)ニックはね、そのシンガポールで昔から不動産とか金融を仕切っているヤン一族の御曹司だったっていうことがわかってくるんですよ。
(山里亮太)このベタなストーリー、いいね(笑)。
(赤江珠緒)『ハーレクイン』みたいな感じですね(笑)。
シンデレラ・ストーリー
(町山智浩)そう。だから完全に『シンデレラ』。お姫様の話ですよ。だからアメリカでこれ、公開をするのにアジア人しか出てこない。それで有名人、大スターは出てこないんですよ。それで当たるのかな?って思ったら、大当たりで。まあ初日に映画館に行ったら、とにかくあらゆる人種がいましたね。黒人も白人もアジア人もラテン系の人も。みんなもう、家族で来ていて、楽しんでいて。これは当たるな!って思いましたね。やっぱり基本的に昔からある話じゃないですか。
(赤江珠緒)そうですよね。
(町山智浩)ねえ。庶民の女の子がある人を好きになったら王子様でしたっていう。まあ、王子様以上っていう(笑)。
(赤江珠緒)そう(笑)。石油王だったとか、結構そういうの、ありますよね。
(町山智浩)そうそう。そういう話なんです。でも、そこからが大変なんですよ。ニックにはお母さんがいるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そりゃあやっぱりね、良家っていう感じでね。付き物ですよね。
(町山智浩)そう。だから高嶺の花みたいな感じですけども。「あなた、アメリカからわけがわかんないのが来たけど、うちのヤン家にはふさわしくないわ」っていじめが始まるわけですけども。このお母さんを演じる人はこの映画の中でいちばん有名な女優さんで、ミシェエル・ヨーさんっていう人ですね。この人は元ミス・マレーシアの人で、その後にジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー3』ですごい女警官を演じていまして。この人、すごいのはスタントで暴走する貨物列車の屋根の上にバイクで飛び乗るっていうのをスタントマンなしでやっています。
(赤江珠緒)アハハハハッ! ああ、そうですか? でも体型を見ても引き締まっていててね。体を鍛えてらっしゃるというか。この人がお母さん?
(山里亮太)これ、強そうなお母さんだな!
(町山智浩)ものすごいですよ。『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』ではやっぱりバイクに乗ってヘリコプターと戦っていますしね。
(赤江珠緒)どうやってバイクでヘリコプターと?(笑)。
(町山智浩)すごいですよ。あとは『グリーン・デスティニー』ではカンフーをやりまくっているんですけど。とにかく格闘系の女優さんでは世界最高の強さなんですよ。ミシェエル・ヨーさんは。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)で、実生活では財閥の社長の奥さんになった人ですね。この人ね。実生活でも大富豪の奥さんになった人で。それでミス・マレーシアですから。美貌でも金でも……しかも俳優さんの私生活においても、誰も勝てない人なんですよ。
(赤江珠緒)ほー!
(町山智浩)しかもたぶんね、完全武装したSWATが10人ぐらいで突っ込んでも、素手で全員殺されちゃいますからね。そういうとんでもない宇宙最強の人がお母さんなんで、さあどうする?っていう話なんですよ。
(山里亮太)これはヤバいな。敵が強い!
(赤江珠緒)ねえ。
(町山智浩)それだけじゃなくて、ニックが帰ると今度は……その主人公のレイチェルっていう子はすごい美人とかっていう感じじゃないんですよ。普通のアジア系の女の人なんですね。で、スタイルもそんなにすごくはないし、背もちょっと低くておっぱいもないし、みたいな感じで言われるんですよ。っていうのが、そこに行ったらニックの周りにいるその花嫁候補っていうのがみんな、スーパーモデルみたいな感じなんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)おっぱいが大きくて。しかも、レイチェルはニューヨーク大学という超一流の名門大学の教授なんですけども、他のライバルの女の人たちはみんなケンブリッジとかオックスフォードとかで。もう子供の頃からそこに行って英才教育を受けていて、全然格が違うんですよ。もうなにもかも、格が違うんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)で、「あんたみたいなチンケなのが何しに来たのよ?」みたいな感じなんですね。そこでどう戦うのか?っていう話で。これ、もう昔からある話じゃないですか。『シンデレラ』ですからね。だからこれは当たるなって思いましたよ。で、後はね、それを助ける友達が出てくるんですけど、その友達の役をやっている女優さんがオークワフィナ(Awkwafina)っていう韓国系中国系アメリカ人のラッパーの人なんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)この人、最初にデビューした曲で大問題になって、それですごく有名になった人なんですけども。デビュー曲で……『My Vag』っていう歌だったんですよ。「Vag」っていうのは英語で「Vagina」で、それは女の人の性器のことなんですよ。
Awkwafina『My Vag』
(赤江珠緒)おおーっ!
(山里亮太)それを、歌に?
(町山智浩)そう。「あたしのアソコはね……」っていう歌を歌って出てきて。「この人、とんでもねえな!」ってことで有名になったんですよ。まあ、コメディアンみたいな人なんですけども。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)このオークワフィナが主人公のレイチェルを助けてくれるんですよ。だからこれは『シンデレラ』における魔法使いだったり、あのネズミさんたちですね。
(赤江珠緒)ああ、そういうことですね。
(町山智浩)彼女は要するにお金持ちのことをなにも知らないし、服もドレスの着方とかを知らないわけですよ。マナーも知らないし。それを全部みんなで教えて、シンデレラをメイクオーバーしてお姫様にしてくれるんですよ。友達が。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、結構いい話になっていて。そのお父さんを演じるのはケン・チョンさんっていう人で。この人は日本では結構おなじみの『ハングオーバー!』に出てくる謎のアジア人ですよ。
(赤江珠緒)あ、顔を見たら、なるほど。
(町山智浩)『ハングオーバー!』でいきなり車のトランクの中から全裸で飛び出してくるチンコのちいさいおじさんです(笑)。
(山里亮太)フハハハハハッ! 覚え方!
(赤江珠緒)フフフ(笑)。
(町山智浩)めちゃくちゃおかしいんですよ。この人、本当はお医者さんなんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)ものすごい秀才の韓国系の人なんですけども。どうしてもコメディアンになりたくて。医者になって成功してからコメディアンに転身した人ですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だからまあ、お笑いもすごいんですけど。だからね、この映画がアメリカで大ヒットしたことの意味っていうのがものすごく大きいんですよ。
(赤江珠緒)うん。