頭にツノが生えている少女・のこたんと、元ヤンであることを隠す優等生・こしたんを軸にしたコメディ「しかのこのこのここしたんたん」。おしおしおのマンガが原作で、2024年夏にTVアニメ化を果たすと、関連動画がSNSでバズるなど、独自の輝きを放つダークホース的な作品として、アニメファンの話題を集めた。そんな「しかのこ」のBlu-ray BOXが12月18日にリリースされる。コミックナタリーではそれに合わせ、のこたん役の潘めぐみ、こしたん役の藤田咲の対談を実施した。2024年夏、多くのアニメファンをざわつかせた「しかのこ」とは、いったいなんだったのか?
取材・文 / はるのおと
観たら何も考えられなくなるアニメ
──「しかのこのこのここしたんたん」のBlu-ray BOXが12月に発売されるということで、改めて同作との関わりから振り返ったうえで、「しかのこ」とはなんだったのか答えていただこうと思います。
潘めぐみ なんだったかと言われると……いったいなんだったんだろう。インタビューの40分でひねり出せないかも(笑)。
──おふたりが関わったのはオーディションからでしょうけど、その前後ではこんなはちゃめちゃな作品になると思っていましたか?
潘 こんなふうになるとは思ってもいませんでした。もちろんいい意味で、ですよ! 楽しい作品になるだろうとはオーディション前に原作を読んだときから確信していましたけど、想像以上のものが収録現場で生まれたし、アニメにも詰まっていたし。
藤田咲 最初、WIT STUDIOさんで制作すると聞いたときにギャグアニメのイメージがなかったので、「あのWIT STUDIOさんがギャグ?」と戸惑ったのを覚えています。オーディションの時点で、原作のエピソードが限られていたのでアニメオリジナルエピソードとかもあるのかな?とかふんわり思ってました。
潘 確かに。オーディション受けたときは原作も既刊は4巻ほどで、1話あたりのボリュームもショートアニメ向きというか。
藤田 原作だと、前半部分は特にのこたんこしたん2人しか出てないエピソードが多かったから、どんな感じになるのかなってワクワクしながら台本を開いたんですよ。そしたらめくってもめくってもこしたんが喋ってて、「うわ、私の責任重い」って思いました(笑)。
潘 第1話は特に、ずっとこしたんがしゃべっていましたもんね。
藤田 そう、だから「これ、私1人でしゃべり続けて大丈夫……?」って当時は他人事みたいに思っていました。
潘 いやあ、バッチリでしたよ。
藤田 視聴者の皆さんにも受け入れていただけたようで、安心しました。
──太田雅彦監督もバズった後の第1話放送前は怖かったとおっしゃっていました。「これほどみんなに注目されるとは思っていなかった」と。
藤田 私たちもそうでした。始まる前はみんなで「令和はシカだ!」なんて話をしていたけど、「本当に令和はシカなのかな?」と思うこともあり……。
潘 第1話の放送前に最終話まで収録は終わっていて、私たちなりに自信を持ってやりきったけど、「果たして大丈夫なのかな?」と急に不安になるというか。
藤田 放送前に潘ちゃんと少しすれ違ったとき、「どうする?」「どうしようもないよね」みたいなやり取りをしたよね(笑)。私たちはもうやれることは全部詰め込んだ後だし、もともと一部の人間とシカに刺さればいいと思っていたので、放送されて「期待してたものと違った」という人がいても仕方ないなって。
潘 結果的に、世界中のシカに刺さってくれてうれしい限りです。
藤田 それこそ放送前どころか、オープニングイントロ耐久動画が出る前に「海外で流行ってるぞ」という話を聞きました。
潘 Anime Trendingという海外メディアの投稿したPV付きのポストがバズったんですよ。国内より海外のほうがいいね数が多くって(笑)。
藤田 その後、放送中にたまたまカナダのアニメイベントに呼ばれたんですよ。カナダって、有名なヘラジカをはじめシカが親しまれている国ですが、現地の人たちと触れ合う中で「しかのこ」がすごく愛されているのを感じました。同時期に、潘ちゃんもカナダに行ってたんだよね。
潘 うん。英語でシカのことを「deer」と言いますが、向こうの人は日本語で「しか」って言ってくれるんですよ。私がステージに出たら空前の「シカ」コールが始まったりするし(笑)。「しかのこのこのここしたんたん」なんて早口言葉みたいで日本人でも難しいのに、キレイに発音してくださる方も多くて。シカ神様の恩恵に預かった作品だと感じました。
藤田 世代も国も違う人がこんなふうに一緒に楽しめるなんて、「しかのこ」は何か不思議な魅力を持ってるんでしょう。
潘 向こうで「このアニメを観るとその日は1日何も考えられなくなります」と伝えてくれた方がいて。観たら何がなんだかわかんなくなってきて「もう今日は何もしなくていいか」となるのがよかったのかもしれません。
「めざまし」でこしたんの黒歴史が真っ白に
──本作は内容ももちろんですが、動画やSNSの使い方も巧みでした。先ほど話に出たオープニングイントロ耐久1時間動画のバズもそうですが、放送開始後も何かと企画を仕掛け、それにおふたりをはじめとする声優さんも乗っかって話題を呼び続けます。
潘 すごく素敵でしたよね。公式アカウントの大暴れっぷりが作品そのものというか。そんな振る舞いをして、公式さんが先導してくれるから、私も付いていった感じでしたけど。
藤田 様子がおかしいというか……人とは違う感覚を持った方が宣伝担当なんですよ。
潘 (笑)。イントロ耐久動画がわかりやすいですが、ちょっと語弊があるかもしれないけど、一昔前の動画サイトみたいな芸風じゃないですか。でもそれが会議でポンっと出て、みんなで「やりましょう」とノッて、15分くらいで動画を作ったと伺いました。もちろん練りに練ったプロモーションもあったと思いますが、そういった気軽に作ったものがこれだけ世界に響くことがあるって素敵ですよ。しかも本来のオープニング映像とは全然違う映像をあてて。
──「めざましテレビ」で取り上げられたのも、オープニングではなくこちらでした。
潘 こちらのダンスのほうが誰でもできて簡単ですから。
藤田 ただ、こしたんにとっては黒歴史だから(笑)。
潘 でも「めざましテレビ」に出たんだし、あれは黒歴史が黒歴史じゃなくなった瞬間ですよ。
藤田 白くなった?
潘 もう真っ白、真っ白け。
──これは潘さんにお伺いしたいのですが、その様子がおかしいXの公式アカウントが「【推しの子】」のアカウントに絡んだときはどう思いました? 個人的には、あれが最も「しかのこ」アカウントの自由すぎる振る舞いとして印象に残っています。
潘 え、「いいのかな……?」って。あのポストがされた瞬間、ABEMAの最鹿(速)上映をキャストの皆さんとスタッフさん揃って観ていたんですけど、その場に隙を見てポストしていた様子のおかしい宣伝の方もいて(笑)。まあ物議は醸していたけど、「【推しの子】」側が寛大だったようだし、ファンの皆さんがうまく盛り上げてくれてありがたかったです。
──夏クールは、毎週ABEMAでの「しかのこ」最速放送と「【推しの子】」地上波放送が続いて“絆”を感じられました。
潘 確かに、今振り返るとおかしな水曜日でしたね。
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心配して1週間過ごした人たちに謝ってほしい