今回はドラマの監督を務めた
取材・
ホラー好きの2人だからこそ生まれた企画
──まずは本作の企画が立ち上がった経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。
綾田龍翼 僕はもともとバラエティ番組のディレクターをしていたのですが、ずっとホラーをやりたいという気持ちがありました。宮岡さんが監督されている「恐怖人形」という映画が大好きで、そういう発言を各所でしていたら、2022年の12月頃に会社の先輩から宮岡さんを紹介いただきました。
宮岡太郎 そのときは中京テレビの番組「あの界隈を恋愛ドラマにしたら…不覚にもキュンときた」のミニドラマを制作していて、当時の総合演出の方から紹介を受けて3人でごはんを食べたのが始まりでしたね。
綾田 宮岡さんとずっと「ホラーやりたいね」って話をしていたら、ちょうど社内で若手枠の企画募集がありまして。その際に応募をして、採択していただきました。中京テレビとしても、地上波や配信含めて「何か広がるようなものを1つやりたい」という気持ちはあったみたいです。ただ、ローカル局の単発ドラマであるために予算が相当に限られていて……。
宮岡 話題につながる企画をどう考えるかというところで、まずは低予算でも制作できることを前提に、テレビドラマであることを逆手にとったような、斬新なコンセプトを持つ作品を作りたいと思いました。僕はBSテレ東のバラエティ番組「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」(※)が大好きで、もうめちゃくちゃ怖い思いをしました。あの番組は何かの仕掛けを入れ込んだ“擬態型バラエティ”と呼ばれていたので、じゃあ“擬態型ドラマ”を作るとしたらどんな構造になるだろう?と考えたところから、ドラマの現場で何かトラブルが起きていて、その怨念がドラマに憑依するという作品を作れないかと。
※編集部注:「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」は、BSテレ東で2022年12月に放送されたバラエティ番組。事前に公開された番組内容は「視聴者から募集した、今や保存されていない貴重な番組録画テープを紹介する」というものだったが、その内容は徐々に違和感を与え、恐怖を生み出していくものに変化する。
綾田 最初からこのドラマの根幹は「呪われた恋愛ドラマ」と決まっていましたね。やっぱり新しいホラーを作らなきゃという思いもあって。予算も限られていますし、ホラー映画ほどのクオリティの作品を地上波で作る厳しさみたいなものもありました。でも、宮岡さんだったら絶対にいい作品が作れると思ったんです。
宮岡 お互いホラー好きだったのも大きかったですね。ホラー映画全般を観ているのもそうですけど、 特に「フェイクドキュメンタリー『Q』」などのドキュメンタリーを愛好しているところから出てくる発想なのかなと思います。ただ当初は「構造としてどう作り込むか」というところまでは詰めきれていなくて。そんな中で、打ち合わせに合流された、放送作家兼脚本を書いてくださった谷口マサヒトさんから「ハラスメントを題材にしたドラマを制作する現場で、もっと酷いハラスメントが起きていたら」という構造や、それを見せるために本編の前に事前番組を付けるというアイデアをいただいて、「これだ!」と。僕自身も業界に入ったときにハラスメントを受けた経験があって。その“怒り”みたいなものが反映されていますね。
綾田 テレビ業界はハラスメントが多いという印象もあるので、この題材をテレビでやるという意味も大きかったと思います。
企画を通すための根回しは深夜まで大変でした
──企画を通す過程でのハードルはございましたか?
綾田 かなりありましたね、本格的なホラー自体も中京テレビとしては初ですから。事前に編成担当やコンプライアンス部、法務部にも相談をしましたし、脚本段階や編集中にも都度確認をしました。
宮岡 撮り終わって編集をしているときにはかなり熱が入ってしまい、ありったけのノイズとかエフェクトを入れ込んでいて。やりながら「地上波でこんなに斬新なものを放送できるのだろうか……」という不安も感じていました。でも根回しとかをいろいろやっていただいたのかなと。
綾田 深夜まで大変でした……。でも中京テレビの社風として、新しいことへのチャレンジに積極的というか、皆さんにはとても助けていただきましたのでありがたかったです。熟練のチーフプロデューサーである浅田大道さんが「もしものときは俺がなんとかする」とサポートしてくれたのも大きな力になりましたね。
助監督役の星耕介さんはノリノリ(笑)
──主演の小宮璃央さん、吉田伶香さんは企画を聞いたときにどのような反応をされたのでしょうか。
宮岡 このドラマのメイキング部分では、実名で演じていただくということがマストになります。特に吉田さんが演じる夏希はハラスメントを行う役どころになるので、引き受けてもらうにはハードルがありました。なのでマネージャーさんには企画内容を真摯に説明して、宣伝でも丁寧にケアをすることを伝えました。数日後に「ぜひチャレンジさせてください」と言っていただけてありがたかったです。小宮さんについては、吉田さんと同じく恋愛ドラマの出演者としても魅力をすごく感じたのでオファーし、快諾いただきました。
綾田 助監督・菅沼役の
宮岡 もう楽しみでしょうがないっていう感じで、最高に朗らかな方です。王子様みたいな私服を着ていらっしゃるし、最寄りの駅も一緒で(笑)。異質な何かを抱えているようなビジュアルや、知名度があまりない方でないといけないという条件がありましたが、プロフィールを見たときに「この人だね」と。実績として、いろいろなホラー作品に出演されているのは存じ上げていましたから、現場でも基本的には本人にお任せした部分が多かったです。
菅沼の幽霊と夏希が横に並ぶシーンで「いける!」
──制作過程で「これはいける!」と思ったシーンがあればお聞かせください。
綾田 オフィスで菅沼の幽霊と夏希が横に並ぶシーンがありますが、あの場面を観たときに手応えを感じましたね。1枚の画の力強さがあって。
宮岡 そこでしたか!
綾田 「こんなの笑っちゃうじゃん!」と思えるほどの力を感じましたね。あとは夏希が営業先の社員からセクハラを受ける場面で、周りにいる幽霊が増えていくところとか。「面白いものになる」と確信しました。
宮岡 僕はアメリカンホラーが好きで。Jホラーらしいじわじわくるような恐怖よりは、ジェイソンとかフレディ、あるいはジョーズみたいに怪物が猪突猛進してガンガン画面に出てくるようなものに興味があります。その要素と、モキュメンタリーが入っている擬態型ドラマを組み合わせたらどんな感じになるだろう、と。終盤にかけて怪物がいっぱい出てきて、想像していないほど“あからさま”に見せてしまう手法って、ドラマでは誰もやっていないのかなと思っていました。ラブストーリーであるのを裏切ってホラーに。それをもう1つ裏切ってコメディに変化させていくという、もう訳がわからないような新しい作品にしたかったんです。
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放送から約2週間が経過しました。
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