東京スカパラダイスオーケストラが、3月19日にベストアルバム「NO BORDER HITS 2025→2001 ~ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ~」をリリースした。
スカパラのデビュー35周年記念作として発表されたこのベスト盤はCD3枚で構成され、茂木欣一(Dr)による責任選曲のもと、歌モノ楽曲を中心としたスカパラの楽曲が全51曲というボリュームで収録されている。
音楽ナタリーではスカパラのアニバーサリーを記念した特集を展開。NARGO(Tp)、谷中敦(Baritone Sax)、加藤隆志(G)、茂木がベスト盤を語るインタビューに加え、後半には昨年11月に兵庫・阪神甲子園球場で行われたスタジアムライブ「スカパラ甲子園」に登場したゲスト陣から奥田民生、aiko、さかなクン、菅田将暉、TAKUMA(10-FEET)、ムロツヨシ、安田章大(SUPER EIGHT)によるプレイリスト・コメント企画を掲載する。
取材・文 / 大山卓也撮影 / 須田卓馬構成 / 三橋あずみ
スカは参加したくなる音楽
──今回のベストアルバムは1曲目に「Paradise Has No Border」の新バージョンが収録されています。10名のゲストアーティストが管楽器で参加していますね。
加藤隆志(G) そうなんです。去年の「スカパラ甲子園」でこの曲を演奏したときには、石原慎也(Saucy Dog)くん、さかなクン、横山裕(SUPER EIGHT)くんはもちろん、桜井(和寿)さんや(奥田)民生さんにも吹いてもらったりして、普段は披露してないんだけど実は管楽器を愛してるっていう人は意外と多いんですよね。それで今回管楽器が吹ける方にたくさん集まってもらって、管楽器版の「We Are The World」がやれたらいいなというアイデアで(笑)。
──特に俳優の渡辺謙さんの参加が意外だったんですが、これはどういう経緯で?
加藤 渡辺謙さんがトランペットを吹いてらっしゃるのをテレビで観たことがあったんです。それでスカパラのことを知ってるかどうかもわからないままお声がけして。
NARGO(Tp) すごく上手で、ちゃんとやってる人の音だったんですよね。お会いしたこともないし声をかけていいものか迷ったけど、ダメ元でお願いしてみたらご快諾いただけました。
──言ってみるもんですね。
NARGO そうですね(笑)。でもスカパラって「言ってみる」「やってみる」の連続なんですよ。今回のベストアルバムはその記録だと思ってて、特にコラボレーションは言ってみなくちゃ始まんないし。
茂木欣一(Dr) 渡辺謙さんもスカパラ35周年の祭りを祝ってやろうと思ってくれたのかもしれない。
NARGO しかもめちゃくちゃ忙しいスケジュールの中で、最初はトランペットだけの予定だったのが声も入れてくださって。
谷中敦(Baritone Sax) レコーディング当日に僕がお願いをしました(笑)。いろんなセリフを考えて提案したら「自然なほうがいいよね」ってことで「Paradise Has No Border」になって。最後に曲タイトルでビシッと締めていただきました。
──「Paradise Has No Border」という曲自体、間口が広くてゲストが参加しやすい曲なんでしょうね。
茂木 ここまで来ると“曲”って発想もないかも。みんなが集まる場所みたいな?
谷中 最初に参加してくれたさかなクンが大きかったよね。志村けんさんのおかげもあるし。
NARGO そうですね。さかなクンや志村さんと共演させてもらったCMは相当インパクトがあったし、そのおかげでいろんな人に参加したいと思ってもらえてるのかも。どんどんそういう曲になっていったんですよね。
谷中 もともとスカってもの自体が参加したくなる音楽だと思うんです。スカパラやThe Specialsは「ステージに上がって自分も一緒にやりたいな」と思える。スカという音楽自体が持ってる親近感があるんですよね。
リマスタリングで涙腺崩壊
──スカが参加したくなる音楽とはいえ、スカパラほど多くのアーティストとコラボしてきたバンドはいませんよね。スカパラにはあらゆる人を受け入れるポジティブなムードがあるように思います。
加藤 うん、スカパラの音色って明るいんですよね。「Paradise Has No Border」も実はキー的にはマイナーなんだけど、スカパラが演奏するとめちゃくちゃ明るい曲になる。ホーン4管が鳴ったときの音色とかね。欣ちゃんのドラムも太陽みたいだし。
茂木 ありがとう。この9人は奇跡のメンバーだからね。
谷中 音に人柄が出てるっていうのは重要ですよね。
加藤 “明るい”って特にコロナ後の今すごく大事なキーワードだし、俺らが年齢を重ねてきたっていうのもある。若い頃は明るいのが恥ずかしいみたいなところもあったけど。
谷中 ちょっと暗いもの、悲しいもののほうがカッコいいんだって思ってたかもね。
加藤 でも35年続けてきたことで、スカパラにしかない明るさというか、明るさのグラデーションを表現できるようになったんじゃないかな。今回リマスタリングの作業をしていくうちにいろんな情景を思い出したんですよ。やっぱりめちゃくちゃつらいこともあったから。でもその当時の音源を聴くと、それでも明るい音を奏でてる。
谷中 必死で照らそうとしてきたからね。
加藤 一発録りの演奏にそのときの空気感が閉じ込められてて、特に今回気付いたのは川上(つよし)さんのベース。川上さん普段あんまりしゃべんないんですよ。でも音から伝わる川上さんの気合いみたいなのが特に初期の時代に近付いていくにつれてすごくって。マスタリング作業中に「美しく燃える森」のイントロのベースがドーンと鳴って、その瞬間に自分はもう涙腺が崩壊した。あと沖(祐市)さんの裏打ちとかも本当に鬼気迫る感じ。今のマスタリング技術ってすごく進化してて、そういうライブ感まで再現できるんですよね。
NARGO 音って不思議だよね。今同じことをやってもたぶん同じようにはできない。そのときの感情が1音1音に入ってるんですよ。
加藤 いろんなこと思い出しましたね。ヨーロッパツアーをがんばって回りながら、J-POPのシーンでどう戦っていくのかって話を毎日のようにしてた頃のこととか。だから今回のベスト盤はスカパラの歴史書を紐解いてるような、校庭に埋めたタイムカプセルを掘り返すような感覚がある。
──今はサブスクでプレイリストを作ればベスト盤と同じ曲順で聴くこともできますが、今のお話を伺うとやっぱりCDの音で聴きたくなりますね。
茂木 うん、本当にそう。リマスタリングってそういうことだと思うし、生演奏って正直だよね。その人の心の中まで見えてくるような感じがする。
──今回リマスターするにあたってのテーマみたいなものはありましたか?
加藤 前回、5年前のベストアルバムのときはサブスクというか、スマホやパソコンのスピーカーで聴く場面を意識して、ボーカルに焦点を当てたリマスタリングをしたんです。でもここ最近はアナログレコードが復活してきたり、本当にいい音で聴きたいという方がだんだん増えてきたんで、僕らの演奏のライブ感とか生演奏のよさをはっきり伝える音を目指しました。その作業が思った以上にうまくいって、自分自身もスピーカー買い直そうかなって思ってるくらい。「音楽ってこうだったな」って気付かされた、自分たちの音楽に励まされた感じもありますね。
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