この企画は、芸人たちにあえて“見た目”のことばかりを聞くインタビュー連載。「今の衣装を選んだ理由は?」「イケていると思うほかの芸人は誰?」といった質問を通じてビジュアルに対するこだわりやルーツを探り、その個性を写真に収めていく。
第3回には、伝統芸能風のネタでおなじみの
取材・
賞レースはシックな色で、営業は明るい色で
──以前、お二人がインタビューで「狂言ネタをするようになってから最初に買った着物は上下セットで500円だった」と話されているのを見ました。そこまで安い着物をどこで入手したんですか?
三島達矢 当時は着物の知識が一切なかったので、とりあえずそれっぽい衣装を探していたら、ちょうど劇場近くの古着屋で激安の紋付羽織袴を見つけたんです。それを買って、あとは少しずつ小道具を揃えていきました。鼓はAmazonで買ったのを覚えています。
──扇子はどこで買ったんですか?
三島 今はお客さんにいただいたやつを使っているんですが、まだファンの方がいなかったときは基本的に祭り道具屋さんで買うことが多かったです。たまにAmazon。
──衣装や小道具を揃えるにあたって参考にしたモデルはいましたか?
南條庄助 いないですね。ただただ色合いだけで決めてました。最初は黒や紺色を選んでたんですけど、ロケではおめでたい雰囲気にしたほうがいいことに気付いて、そこからは明るい色を選ぶようになりました。
──現在はいくつかの着物をローテーションで着てますよね。あれは何パターンあるんですか?
三島 4つです。
南條 5パターンちゃうか?
三島 5つです。
南條 訂正早っ(笑)。基本的に新しい着物を入手したら1シーズンくらいはそれを中心に着るんですけど、たまに「グリーンバックなので緑色はダメです」みたいに色を指定されることがあって、そういうときにサブの着物を持っていきます。あとは、賞レースはうるさすぎないようにシックな色でいこうと決めています。「M-1グランプリ2019」で紺色の着物にしたのも衣装の派手さがネタの邪魔にならないようにしたかったからで、逆に営業みたいな場には明るい着物が適してると思います。
──なるほど。今年の全国ツアー「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」では、途中で衣装を着替えていましたよね。
南條 前半は前口上があるので紺色にして、途中で当時一番新しい衣装だった黄色と紫に着替えました。口上のような締めたいときはやっぱり渋い色が合うんです。
──初めてのツアーを開催した心境はいかがでしたか?
三島 夢みたいな感じです。
南條 全国ツアーができる芸人は限られているので、人気も実力もなかった僕たちがそれを10周年の節目でできたのがうれしかったです。劇場もNGKから始まって、全国の大きなところを押さえていただいて、こんな幸せなことはない。世間が大変な状況の中、たくさんのお客さんが来てくれたのも、ほんまにありがたいです。
──私も初日の大阪・なんばグランド花月公演の様子を見させていただいたのですが、“御TENGA様”のネタが始まった瞬間、客席から「待ってました!」というような大歓声が起こっていたのに笑ってしまいました。
三島 確かに大阪のときは異常に盛り上がってました。ツアーはより大がかりなバージョンになっていて、僕がワイヤーで吊るされているので、8月に出るDVDで見てほしいです。僕がやってきたことの集大成があれやと思ってます(笑)。「俺もTENGAを持ってNGKで吊るされるようになったか……」と感慨深かったです。
──着物で吊るされるのは痛くないんですか?
三島 めっちゃくちゃ痛いです! 股間が「ギューッ!」ってなってます。股間が刺激されることによってお腹も痛くなって……。痛さと同時に恥ずかしさもありました。吊るす専門の特殊部隊みたいな方々が15人くらい舞台袖にいたんです。TENGAのネタのために(笑)。ハーネスを付けられながら「痛くないですか?」「大丈夫です」みたいなやり取りをするのがめっちゃ恥ずかしいんですよ。
──「痛みに耐えているんだな」と思いながら、DVDでもう一度見てみます(笑)。
南條 ツアー初日の最初に幕が開いたときは、人生で経験したことないようなゾクゾク感や高揚感がありました。DVDにはその瞬間も収録されているので、ぜひ見てほしいです。2人ともいい顔してると思うので。あそこで万雷の拍手をもらった時点でこのツアーは成功やと思えるくらいの達成感がありました。幕が開いた瞬間にDVDを止めてもらっていいくらいです(笑)。
軽い気持ちでクリーニングに行けない
──自分たち以外で見た目がイケてると思う芸人さんはいますか?
南條 憧れるのは
三島 ほんまに同意見(笑)。まったく同じやわ。
南條 僕らが着物の前にアロハシャツを着ていたことを知ってくれてる方々はいると思うんですけど、さらにその前はジャケットとかカーディガンとか、いろいろ試してたんですよ。2人ともちんちくりんのずんぐりむっくりなのでスーツを着てもカッコよくならなくて、ただただおっさん臭かったんです。僕らを一番いい状態で見せられるのが和服なんやろなと思っています。
三島 スーツを着てたら売れてなかったやろなあ……。
──伝統芸能風の衣装にしてよかったことはなんですか?
三島 うーん……。ないですね。
南條 ないんかい! よかったことだらけやろ! 「僕たちはこういう芸風ですよ」という説明が省けるので、いろんな芸人に「衣装決まっててええなあ」と羨ましがられます。衣装がフリになっているので、和風ボケに説得力が出るんです。撮影でも様になるし。
三島 その通りです(笑)。
──逆に悪かったことは?
三島 利便性ですね。乾きにくさ、ハンガーへのかけにくさ……。すごく高い位置にかけないと下が擦っちゃうので、楽屋でハンガーを2つ使って文句言われたりしてます。
南條 あとは機能性。動きにくい、ひっかかりやすい、布が伸びない。
三島 お腹の上にすごくいろんな紐を巻くんです。襦袢、紐、よくわからないやつ、紐、帯、袴の紐……みたいな感じで。皆さんも腹の上に紐4本巻いてみてください。めちゃめちゃキツいです(笑)。
南條 そのくせ着崩れしやすいんです。なんでこんな服を何百年も着ていたんだという疑問が湧いてきます。もっと進歩させるべきだったのでは……。
マネージャー 「悪かったこと」の話になった途端、めちゃめちゃ饒舌に(笑)。
三島 軽い気持ちでクリーニングに行けないしな。
南條 袴のヒダヒダの意味もわからない。
──止まらないですね(笑)。それでも今後も着物を?
三島 そうですね。結局、僕らに合ってるのが着物だと思うので。今後はカッコいい刺繍が入っていたり、大きい柄が入っていたりする着物にチャレンジしてみたいです。細川たかしさんの着物とか、カッコええなあと思って。何百万円とかするんでしょうけど、いつか着てみたいです。
南條 原宿にジャージ素材のおしゃれな着物があって、それもロケのときに動きやすそうでいいなと思いました。実はちょうど今、新しい着物を作っているところなので楽しみにしていてください。
すゑひろがりず
南條庄助(ナンジョウショウスケ)
1982年6月3日生まれ。大阪府出身。
三島達矢(ミシマタツヤ)
1982年10月2日生まれ。大阪府出身。
NSC大阪校28期生の2人が2011年にコンビ結成。当初のコンビ名「みなみのしま」を2016年に「すゑひろがりず」へと改名した。ネタやトークに伝統芸能の要素を取り入れた独自の芸風が注目を集め、「M-1グランプリ」では2019年に初めて決勝進出。「R-1ぐらんぷり」(現「R-1グランプリ」)でも南條が2020年に初の決勝進出を果たした。埼玉・大宮ラクーンよしもと劇場を活動拠点とする芸人ユニット「大宮セブン」のメンバーでもある。YouTubeに自身の公式チャンネル「すゑひろがりず局番」を2019年に立ち上げ、ゲーム実況の動画が人気。自身初の単独DVD「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」を8月18日にリリースする。
DVD「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」収録内容
初回生産限定版
本編(「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」2021年4月8日 大阪・なんばグランド花月公演)
特典映像:マネージャーが密着撮影!赤裸々すゑひろがりず(大阪編)
特典ディスク:マネージャーが密着撮影!赤裸々すゑひろがりず(全国編) / 東京公演反省会IN観世能楽堂 / 結成十周年記念 すゑひろがりずの歩み
※特典ディスクは応募者に後日プレゼント。
通常版
本編(「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」2021年4月8日 大阪・なんばグランド花月公演)
特典映像:マネージャーが密着撮影!赤裸々すゑひろがりず(大阪編)
※記事初出時、本文およびプロフィールに誤りがありました。訂正し、お詫びいたします。
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