不気味に地面を這う生物をこのほどダニシュ・ホーさんが撮影し、自分のフェイスブックページに投稿した。ホーさんはナショナル ジオグラフィックに対し、好天の日にマレーシアの山地をハイキングしていたと説明。「サル、ヒル、サソリ、ヘビ」を目にしたのに加え、この変わった生き物を見つけたが、何なのか分からなかったという。
ホーさんは、ヘビの1種かもしれないと思い動画に収めた。それを見たテリー・ショフナーさんが、不思議な見た目の生物の映像があると本誌に知らせてくれた。専門家によると、コウガイビル属の未知の種である可能性が高いという。先端の特徴的な形から、英語でハンマーヘッド・ワーム、ブロードヘッド・プラナリアと呼ばれる属だ。
このような動画は珍しい。米ニューヨーク州立大学コートランド校の生物学者ピーター・ドゥシー氏によると、通常こうした生物は地下にすみ、地表に出てくるのは暗く湿気の多い時だけだという。
だが、コウガイビルを間近で見られる機会があれば、彼らの奇妙な世界をのぞき見ることができる。
口と肛門が共通
まず、コウガイビル属に共通する特徴として、ひとつの穴で食事も排泄も行なう点がある。見た目からは意外なことに、頭のように見える扇形のところではなく、その穴は体の中ほどの腹側にある。(参考記事:「肛門の起源の定説白紙に、クシクラゲも「うんち」」)
食事の用意ができると、その穴から、体液の分泌腺がある膜状の「咽頭」という器官が出てくる。この膜が「餌となる生物の上にかぶさる」のだとドゥシー氏。餌食になるのはミミズが多いという。
咽頭から分泌される酵素が獲物を液状に変え、コウガイビルは肉でできたシェイクのようにそれを飲み込む。大きな「頭」には感覚器官が詰まっていると考えられ、交尾相手や獲物につながる化学物質の痕跡を感じ取る。(参考記事:「ヒトの体内に食い入る“ヒルの暴君”」)
循環器系を持たないため、養分は枝分かれした消化管によって全身に運ばれる。(参考記事:「【動画】ウミグモは「脚呼吸」、腸で酸素運ぶ」)
約1日後、コウガイビルは「食べた時と同じ穴から不要物を排出します」とドゥシー氏は話す。
有性でも無性でも繁殖可能
コウガイビル属の種は全て雌雄同体とされ、子の作り方も柔軟だ。
ドゥシー氏によると、自らの体内で授精し、卵のうを地中や地上に産み付ける種がいるという。(参考記事:「娘の体内で“父親”が受精させる昆虫」)
分裂によって無性生殖できるものも多い。
「コウガイビルは地を這うときに体の一部を切り離し、その切れ端から必要な部分が全て再生します」とドゥシー氏。みるみるうちに、もう1匹のコウガイビルが出来上がる。(参考記事:「再生能力を持つ生物、代表5種」)
さらに、両方の生殖方法が可能な種までいる。